新世紀エヴァンゲリオン for Children ~全ての子供たちのために~   作:朝陽晴空

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第二十話 人のかたち 愛のかたち(2022/06/29 7:30)

<ネルフ本部 司令室>

 

 使徒ゼルエル戦いの表向きの反省会兼打ち上げ会が終わってから数日後。

 司令室では機密情報に触れる会議が行われていた。

 

「参号機のシンクロ率に問題が無い事は証明されました」

 

 リツコはトウジがエヴァを自在に動かし、アスカとの協力技『エヴァ・ホームラン』まで編み出した結果を勘案してそう言った。

 あの技は参号機が正確に球を投げないと実行不可能な技だった。

 

「L.C.L.に溶けてしまった人間の魂は、なおもその場に留まり続けると言うのかね?」

「確証を持って言い切る事は出来ません。魂とは科学でも解明できない謎ばかりです。リリスも魂の断片をユイ博士のクローンに注入しようとした結果、1人目の綾波レイは暴走を起こしました」

 

 コウゾウの質問にリツコが唇を噛み締めながら辛そうな顔で答えた。

 1人目の綾波レイの暴走はリツコの母親の赤木ナオコ博士に無関係とは思えなかったからだ。

 その1人目の綾波レイは使徒襲来まで時間があった事と、周囲からシンジの妹だとして不審がられないように、幼児体型の綾波レイを用いて作られた。

 しかし碇ゲンドウと親しくしている赤木ナオコ博士に、ユイの嫉妬心が反応し、さらに幼い子供であったために感情が押さえきれなかったのだろうか、「みんな消えちゃえ!」とアンチA.T.フィールドを発生させて自分を含めた周囲の人間をL.C.L.化させた。

 偶然近くに居て巻き込まれたトウジの母親も、L.C.L.化して随分と時が経っていた。

 ドイツ支部で行われていた、L.C.L.から人間を再構成する実験。

 ゼーレと言う少女の件は失敗してしまったが、参号機の運用には間に合った。

 

「母親は子供を見守っている、そうは思わないかね、碇、赤木博士?」

 

 コウゾウがそう言うと、ゲンドウとリツコは思案顔で俯いた。

 

「肆号機の件は?」

「彼はエヴァに乗るために生まれて来た申し子としか言い様がありません」

 

 ゲンドウの質問に、リツコはそう答えた。

 零号機のレイと同じように、必ずしもエヴァのコアとパイロットは親子関係である必要は無い。

 肆号機のコアは人の手によってデジタル化された魂、どちらかと言えばダミープラグに近い。

 ダミープラグの発信機と受信機のような関係だ。

 カヲルの場合はパイロットがエヴァの支配権を持っている感じだった。

 本当の人の魂を持つ零号機から参号機までは、エヴァのコアが反発するかもしれないが、カヲルが押さえつけて動かせる可能性もある。

 

「第1使徒アダム、第2使徒リリスの魂については把握している。彼は使徒では無いのか?」

 

 ゲンドウはストレートな疑問をリツコにぶつけた。

 

「現時点では使徒では無いと思われます」

 

 リツコの言い方だと後に使徒となる可能性があるとも取れる。

 危険を感じたキールがカヲルの存在をひた隠しにしていた気持ちも分かる。

 しかしカヲルは籠の中の鳥ではない、過保護に守っていてもいけないのだ。

 

 

 

<第三新東京市 第壱中学校 2-A>

 

「このクラスも、随分と人が減ったよね……」

 

 クラスの半数近くを占める空席を見て、マナは悲しそうにつぶやいた。

 

「使徒が攻めて来て大変な被害が起きたから」

 

 レイは表面上は冷静な口調でそう言っていた。

 

「私もせっかくお友達が出来たのに悲しいです……」

 

 マユミもせっかく話せるようになったクラスメイトが転校して行った事に寂しさを感じていた。

 使徒ゼルエルは国連軍や戦略自衛隊、初号機に大きな被害を与えただけではなく、第三新東京市の市街の各地に爪痕を残していた。

 初号機は弐号機と参号機の連携攻撃の時間稼ぎをするために、両腕を切り落とされた後も囮となって使徒の注意を引き付けた。

 初号機は使徒のビームの直撃を避け続ける事は出来た。

 しかしその代償は大きかった。

 ネルフ技術部の誇る特殊装甲板を1発で18枚突き破るほどの強烈なビームが第三新東京市に何発も降り注ぎ、その穴は奈落の底とも言えるほど深く、ビームが直撃したシェルターに避難していた人たちの運命は筆舌に尽くしがたい。

 第三新東京市に初めて多数の死傷者を出した戦いだけあって、住民たちは先を争うように他の街へ『疎開』して行った。

 それはネルフで働く階級の低い職員とその家族も含まれていた。

 シンジとミサトの同居を手配してくれた総務課の職員も。

 

「さあ、今日もみんなそろっているわね、ホームルームを始めるわよ!」

 

 以前より大きく張り上げたミサトの声も、痛々しい空元気に聞こえる。

 

「ミサト先生、このままだと学校、無くなってしまうんですか?」

 

 ヒカリが心細い表情で不安を口にする。

 

「それはないわ、生徒たちが居る限り学校は続いて行く。クラスを合併するって話も持ち上がっているし」

 

 第三新東京市はネルフを中心とした企業城下町で、将来的には世界戦争に備えた要塞都市となると宣伝されていた。

 第二新東京市は今の日本政府や国連の本部がある暫定的な首都だが、山岳地帯で海に面していないので発展が望めない。

 だから希望を持って第三新東京市に人々が集まっていた。

 5割近くの人が疎開しても都市機能には問題が無いのだ。

 元々市政はMAGIが行っている。

 

「それでも部活動の人数が減る事は悲しい事だね」

「うん…」

 

 シンジとカヲルが所属する管弦楽部も吹奏楽部と合併し、軽音楽部もジャズ研と合併した。

 文芸部もレイとマユミだけになり、転入生のマユミが図書委員をするまでになってしまった。

 カバディ部も解散となりトウジは野球部へと入った。

 アスカもエヴァンゲリオン・ホームランの腕を買われて、マネージャーでは無く選手(!)として勧誘された。

 

「みなさん、今日は大事な話があります」

 

 ホームルームを始めたミサトが真剣な表情でそう言うと、教室の空気は引き締まった。

 そしてミサトが居る時は学校に姿を見せないリツコまでもが教室に入って来た。

 

「第三新東京市で変身型使徒による猟奇的な事件が起きています。被害者の話によると、変身型使徒は人の腕に噛みついて血を吸い、その血を吸われた人間そっくりに姿を変えてしまうそうです。しかも変身型使徒は次々と別の人間に姿を変えてしまい、ネルフでも足取りが掴めていません」

 

 ミサトがそう話すと、教室の空気が凍り付いた。

 知っている人間が外見だけが同じである変身型使徒となる。

 それは想像するだけで背筋が寒くなる話だった。

 

「その変身型使徒は被害者のDNA情報を盗み取って変身していると思われます。過去に採取した人間のDNAデータも保存している可能性もあり、直前に接触した被害者の姿をしているとは限りません」

 

 リツコがそう言って解説を付け加える。

 変身型使徒が変身する瞬間だけパターン青を検出する事が出来るのだと話した。

 

「だから知り合いでも油断はしないように。不審な点を感じたら直ぐに私かリツコに報告するのよ」

 

 知り合いでも変身型使徒かもしれないと疑いながら生活しなければいけない。

 それはシンジたちにとってとても辛い事だった。

 

「特にエバーのパイロットであるあなた達が変身使徒に狙われる可能性が高いわ。だからこれを」

 

 ミサトはそう言うと、シンジ達に拳銃を渡した。

 シンジ達はエヴァでパレットガンを撃った事はある。

 しかしこうして拳銃を渡されるのは初めてだった。

 

「エバーのパレットガンと似た形をしているけど、弾はタングステン弾じゃないから安心して。22LR弾は使徒の足止め程度にしかならないけど、殺傷力が押さえられているから、万が一誤射をした場合も即死はしないわ」

「でもそれって、当たったらすごく痛くて大怪我するって事じゃないですか!」

 

 人を傷付けたくないシンジはミサトに対して大声で反論した。

 

「ごめんなさい、ネルフの諜報部もいつその変身と入れ替わるか分からない状態では、自分の身は自分で守ってもらうしかないの。使徒を倒すまでの辛抱だからお願い」

 

 ミサトも本当はこんな事をしたくなかった。

 早く使徒を殲滅させて、シンジとアスカとレイの三角関係を微笑ましく見守る生活に戻りたかった。

 警察や戦略自衛隊が事件を解決してくれる事を期待したいが、警察官も使徒の被害に遭っている以上、早期解決は難しいとミサトは考えていた。

 初期捜査が遅れた警察やネルフ諜報部にも原因はある。

 市民に紛れる前にパターン青を察知して殲滅すれば解決したのだが、使徒はずる賢く、人に化けている間はパターン青を検出させない。

 そうなると監視カメラや目撃証言に頼るしかない。

 

 

 

<第三新東京市 第壱中学校 屋上>

 

 とりあえず第壱中学校には使徒が潜入していないと判断したミサト達は通常の学校の授業を続けた。

 昼休み、シンジ達は第三新東京市の街並みを見下ろせる屋上でお弁当を食べていた。

 吸血鬼のような変身型使徒の騒ぎなど無いような、爽やかな晴空だった。

 道を歩く人がほとんどいない事を除いては。

 

「ケンスケは第三新東京市に使徒が出現したって噂は聞いていたの?」

 

 情報通であるケンスケがミサトのホームルーム前に話題にしなかったのを、シンジは不思議に思っていた。

 

「吸血鬼の噂は聞いていたけどさ、都市伝説の類だと思って相手にしていなかったんだよ」

 

 ケンスケはネットでもその噂は広まっていたと話した。

 

「ニンニクをぎょうさん食べれば使徒も寄って来ないんとちゃうか?」

「本物の吸血鬼だとしても効き目はないわ」

 

 トウジがそう言うと、レイがピシャリと否定した。

 第壱中学校は厳戒態勢が敷かれ、使徒に対する備えは万全のはずだった。

 

「シンジ君、あそこに居るのは僕達の学校の生徒じゃないかな?」

 

 屋上から街を見下ろしていたカヲルが指差す方を見ると、ネルフの制服を着た女性が、第壱中学校の女子生徒を襲っている!

 

「何で、何でエリカお姉ちゃんが!」

「襲われているのは、香椎さんだわ」

 

 レイは図書室に通う間に、図書委員の香椎ユキと知り合いになってた。

 泣きながら通学路を走るユキを助ける人の姿は無い。

 姉の香椎エリカはネルフの鑑識課の職員だったとレイは記憶していた。

 ネルフの鑑識課は使徒が出現した場所や使徒の検視を行う部署だった。

 今回の連続吸血変身事件も、鑑識課の職員が現場していた。

 

「早く助けに行かないと!」

「待てよ碇、相手は使徒だ。俺たちが行ってもやられるだけだ」

 

 ケンスケはシンジの肩を掴んでを引き留めた。

 

「だからって、じっとしては居られないよ!」

「こういう時は、ミサト先生に知らせるんだろう?」

「きゃっ!?」

 

 前のめりに転んだユキはついにエリカに捕まり、エリカはユキの手に噛みついた!

 

「あいつ、血ぃ吸うとるで!」

「本当に吸血鬼みたいだな」

 

 トウジとムサシがその場面を見て声を上げた。

 マナは戦略自衛隊の少年兵だった自分達がライフルを撃てばユキを助けられたのではと歯がゆい思いをした。

 しかし渡された拳銃は護身用、50m先も狙えない。

 それに使徒ならばA.T.フィールドを持っている、生身の人間とは違う。

 目の前で起きた惨劇に、マユミやヒカリは手で顔を覆った。

 ユキの血を吸ったエリカの姿が、ユキそっくりに変化したのだ。

 27歳の女性が14歳の少女になった事で、着ていたネルフの鑑識課の職員の制服はサイズが合わなくなった。

 するとユキに変身した使徒は平然と服を下着まで脱ぎ捨て、倒れているユキの制服を下着まで剥いた。

 

「うわっ!」

「シンジ! 見てんじゃないわよ!」

 

 素早くアスカとレイがシンジ達の視界を遮った。

 マナもムサシの前に立ちはだかったが、離れていた場所に居たケイタは鼻血を出して倒れてしまった。

 屋上からだと言っても、2人の女性の全裸を見てしまったのだ。

 カヲルは裸は芸術だと涼しい顔で見ていた。

 シンジたちは慌てて屋上から降りて職員室へと向かい、ミサトとリツコの指示を仰ぎに行くのだった。

 

 

 

<ネルフ本部 第一発令所>

 

 使徒がユキを襲った瞬間に発生したパターン青は、ネルフ本部の発令所でも確認できた。

 

「また使徒の反応が出たのか?」

「パターン青からオレンジへ変化、使徒の反応消失!」

「全く厄介な使徒だな」

 

 マコトの報告を聞いたコウゾウはため息をついた。

 

「最後にパターン青が確認されたポイントはどこだ?」

「仙石原981付近です」

 

 コウゾウに尋ねられたシゲルはそう答えた。

 

「シンジ君たちの通う学校の近くですね、大丈夫かな……」

 

 リツコが居ないため、さらに不安を募らせているマヤはそうつぶやいた。

 

「加持三佐や根府川教諭も居る、心配はあるまい」

 

 コウゾウは自分にも言い聞かせるようにそうつぶやいた。

 

「再びパターン青が検出されました!」

「何っ!? また入れ替わったのか! 場所はどこだ!」

「第壱中学校の校舎内です!」

 

 シゲルが悲鳴にも上げた声で叫んだ。

 既に使徒はシンジたちの間近に迫っていたのだ。

 

 

 

<第三新東京市 第壱中学校 職員室>

 

 その頃、シンジたちは屋上で目撃した使徒がユキを襲った場面を職員室でミサト達に報告した。

 

「そう…自分のお姉さんが使徒の犠牲者になった上に、自分もだなんて、香椎さんも辛いわね…」

「ミサト、ネルフから連絡よ。校内でさらに犠牲者が出たそうよ」

 

 リツコの言葉に、職員室に衝撃が走った。

 使徒の姿を香椎ユキと特定できなくなってしまったのだ。

 

「使徒は校内に侵入したって事? シャッターを完全封鎖!」

 

 仮設伍号機を侵食した使徒戦の時と同じシャッターを、再び自分達を閉じ込めるために使う事になるとはミサトも思ってもみなかった。

 これで、使徒が人外の能力を発動しない限り、学校に閉じ込めた事になる。

 

「監視カメラには使徒が誰かを襲った痕跡は残っていないわ。きっとカメラの死角を突いたのね」

 

 第壱中学校に監視カメラがある事を知ったシンジたちは少しショックを受けたが、今はミサト達に不満を言っている場合ではない。

 監視カメラも全ての場所を網羅しているわけではなく、生徒相談室や女子トイレ、プールなどプライバシーに配慮して設置していない場所もある。

 

「これ以上犠牲者を出さないためにも、直ぐに使徒を探し出して殲滅させなければいけないわ」

「でも使徒を見つけたとしても、どうやって使徒を倒すのかな? 学校に閉じ込められたら、僕達もエヴァに乗れないよ」

 

 ミサトの言葉にカヲルが疑問を投げ掛けた。

 シンジたちはパイロット、エヴァに乗らないと使徒のA.T.フィールドは破れない。

 するとミサトはロッカーからデザートイーグルと言うシンジたちが護身用に渡された22LR弾の約2倍の50AE弾を発射できるゴツイ拳銃を取り出した。

 

「この拳銃の中にはね、『塩の弾』が入っているのよ。撃たれた生物が塩の柱になってしまうと言う恐ろしい武器よ」

「そんなものが!?」

 

 ミサトの言葉を聞いて、ヒカリが驚きの声を上げた。

 

「死海の近くにあるノーザンブリーアと言う町が突然出現した巨大な塩の柱に飲み込まれたのよ。住んでいた町の人も塩の柱になってね。塩の柱になってしまった家族に触れた人も、塩の柱になってしまったそうよ」

 

 リツコの説明を聞いて、ヒカリは原因不明のめまいを感じた。

 ふらついたヒカリをアスカとレイが支えた。

 

「あなた達にも使徒の捜索を手伝ってもらいます。2人1組で行動するのは万が一の時に目撃者を作るためよ」

 

 1人で居るところを不意打ちで使徒に襲われ、誰にも目撃されなかったら使徒の完全犯罪となってしまう。

 シンジはアスカと、レイはカヲルと、マナはムサシと、トウジはヒカリと、そしてマユミとケンスケ、ミサトとケイタ、根府川先生とリツコが組む事になった。

 使徒を倒す力を持つのは、塩の弾の銃を持つミサトとリツコと、拳法の達人である根府川先生だけ。

 シンジたちがパニックになって塩の弾を関係の無い人間に当ててしまったら大変な事になるからだ。

 アスカとマナ、ムサシやケンスケは不満そうだったが、彼らも14歳の少年だ。

 

 

 

<第三新東京市 第壱中学校 保健室>

 

 トウジとヒカリは廊下ですれ違う生徒に聞き込みをしながら、保健室へと向かった。

 使徒が学校に侵入した事がバレてしまえば、大パニックになってしまう。

 ミサトは学校の外側の周辺に使徒が居ると言う詭弁を使って、シャッターを閉じた理由を校内放送で説明した。

 使徒を捜索する2人は、いつもと様子がおかしい友達が居なかったかどうかさり気なく聞いて回った。

 他には単独行動をする怪しげな生徒を尾行して生徒を襲わないか見張って居た。

 

「ヒカリ、もう大丈夫か?」

「心配かけてごめんね」

 

 トウジはめまいを起こしたヒカリを心配して保健室の捜査を立候補した。

 

「私、変な夢を見たから」

「どんな夢や?」

「家族で海外旅行に行くんだけど、私の目の前で、コダマお姉ちゃんが塩の石像になって、バラバラに崩れちゃうの。そんな事、現実に起こるはずないのにね」

 

 話を聞いたトウジは励ますようにヒカリの手を握った。

 

「そんなん、悪い夢や。気になるんやったら、海外旅行なんていかんでも、日本にはええところがぎょうさんあるで。鬼の洗濯岩なんて、オトンとオカンがプロポーズした場所や」

「そんなトウジ……プロポーズだなんて……」

 

 ヒカリは顔を赤くして俯いた。

 トウジは絶対にコイツを使徒になんかさせへんと気合いを入れる。

 

「トウジ、突拍子も無い事を言わないでよね。使徒だと思っちゃうから」

「そ、そうやな」

 

 トウジとヒカリは保健室で休憩をとった後、聞き込みを続けるがとりあえず使徒の手掛かりは無かった。

 

 

 

<第三新東京市 第壱中学校 図書室>

 

 静まり返った図書室の入口で、ケンスケとマユミは中の気配をうかがっていた。

 

「山岸さん、クリアリングのやり方は分かったよね?」

「はい、相田君がやっているのを見ましたから」

 

 ケンスケの言葉にマユミはそう答えた。

 クリアリングとはサバイバルゲームの用語の1つで、敵が居ないか確かめる事だ。

 曲がり角の先に敵が潜んでいないか、ケンスケは『カッティングパイ』と言うテクニックを使って確かめていた。

 

「クリアー!」

 

 と言って、マユミを誘導するケンスケの姿は勇ましいとマユミは憧れを抱いた。

 マユミは転校生で学校に来て日も浅く、ケンスケが盗撮魔だと言う偏見を持っていなかった。

 

「山岸さん、こっちはクリアーだ。山岸さんの方は?」

「はい、敵影は見えません」

 

 自分に自信を付けるための自己啓発本や、乙女チックな物語の本などを読んでいたマユミにとって、ケンスケの軍事関係の知識は新鮮な驚きを持ったものだった。

 ケンスケが使徒をおびき出すためにファイヤースターターを使って煙を上げるのを見たマユミは、今までの自分の本の知識がサバイバル生活において何の役にも立たないと思い知った。

 

「OK、それじゃあ中に入ろうか」

 

 ケンスケはそう言ってマユミを図書室へと誘導した。

 

「でも、どうして相田君は図書室を調べようと立候補されたんですか?」

「綾波から聞いたけど被害に遭った香椎って図書委員だったんだろう? それならば彼女の指紋やDNAを採取すれば、使徒が香椎に変身してから、他の生徒を襲うまでの足取りが掴めるかもしれないって思ってさ」

 

 そう言いながら、ケンスケは趣味で持っている鑑識セットを取り出して指紋の採取を始めた。

 

「山岸さんは、床に落ちている髪の毛とかを集めてくれるかな?」

「はい!」

 

 相田君は何て頭の良い人なんだろうとマユミはさらに敬意を深めた。

 本来ならば香椎エリカが所属していたネルフ鑑識課の仕事なのだろうが、学校は封鎖されている。

 さらにリツコは使徒と戦うのが手一杯で余裕がない。

 だからケンスケは図書室の調査役に立候補したのだった。

 ここで香椎ユキの指紋やDNAを採取したら、ケンスケは昇降口へと向かうつもりだ。

 窓から校舎に侵入したら、さすがに怪しまれる。

 香椎ユキの姿になりきっていたのだから、堂々と昇降口から靴を履き換えて校内へと入ったはずだ。

 

 

 

<第三新東京市 第壱中学校 音楽室>

 

 シンジたちは使徒の捜索をしていると言うのに、カヲルは音楽室でピアノを弾いていた。

 レイはそんなカヲルに向かって大きなため息をついた。

 

「渚君、あなたは何をしているの?」

「見ての通り、ピアノを弾いているのさ」

「そういう意味じゃない」

 

 レイの口調は穏やかだが、カヲルを睨みつける赤い瞳は怒りに燃えていた。

 

「みんな、使徒を捜してる。あなたも真面目に使徒を探して」

「僕が捜さなくても碇君たちが見つけるよ」

「あなただけ命令を拒否するのは許されない」

 

 ピアノを弾くのを止めようとしないカヲルの態度に、レイの口調も苛立って来た。

 

「僕なんか放って置いて、碇君と一緒に捜査をすればいいじゃないか」

「それはダメ。私はあなたと一緒に使徒を探すように命令を受けている」

「さっきから命令だからって、君は命令に従う人形なのかい?」

「私は人形なんかじゃない!」

 

 レイの地雷をカヲルが踏んでしまうと、レイは怒った表情で吠えた。

 

「僕が悪かった。君を人形だと言った事は撤回して謝るよ」

 

 カヲルはピアノを弾く手を止めて椅子から立ち上がった。

 

「君は自分の意思で僕と一緒に使徒を探したいんだね。好意に値するよ」

「勘違いしないで」

 

 レイは自分に向かって差し出されたカヲルの手を取らなかった。

 

「そうか、君は惣流さんと2人きりでいる碇君が心配で仕方ないんだね」

「本当は私が碇君を守りたかった」

 

 レイがそう言うと、カヲルは驚いた顔をした。

 

「守りたい? 君は逆に守ってもらいたいとは思わないのかい? それはおかしいね」

「……どうして?」

 

 今度はレイが驚いた顔になってカヲルに尋ね返した。

 

「鈴原君から聞いた洞木さんへの愛のかたちと違うからだよ」

「渚君は鈴原君と洞木さんが付き合っている事を知っているのね」

「僕は鈴原君を命を懸けて守りたいと言ったら、それは愛とは違うと言うんだ」

「それはその通りよ。多分、友情とか、仲間意識と言うものじゃないかしら」

 

 レイは長い時間をカヲルとの恋愛議論に費やす事になってしまった。

 

「君は僕と鈴原君が同性だから愛じゃないと言うのかな?」

「そういうわけじゃない。女の人同士でも愛し合っている人は居る。赤木博士と伊吹二尉みたいに」

「あの2人はそういう関係だったのか。僕も恋愛小説を読んだ事はあるけど分からない事があるんだね」

 

 キールはカヲルを軟禁している部屋にG〇小説やB〇小説を置くのは流石にマズいと思ったのだろう。

 恋愛小説を読んで耳年増になっていたのはカヲルとレイも同じだった。

 

「僕が思うに、君が強く守りたいと思うのは母性愛から来るものじゃないのかな?」

「……私が碇君のお母さんの身体を借りているからと言って、そうとは限らないわ」

 

 レイはそう言いながら、目から涙を流し始めた。

 そのレイの涙を見て、さすがに言い過ぎたと察したカヲルはハンカチをポケットから取り出してレイに渡した。

 

「涙と鼻水を拭きなよ。そんな顔じゃ碇君の前に出れないだろう?」

「ありがとう」

 

 レイはカヲルのハンカチを汚してしまう事に後ろめたさを感じながらも、ハンカチを受け取って顔を拭いた。

 

「じゃあ僕達も使徒を探しに行こうか」

「ええ」

 

 今度はレイはカヲルの手をしっかりと握って返事をした。

 

「使徒は僕達2人に化ける事は出来ないから、他のみんなよりも時間を稼ぐ事が出来るよね」

 

 カヲルにそう声を掛けられたレイは、返事を返せなかった。

 レイの心の中に迷いのようなものがグルグルと渦巻いて、それが気になって上の空だったからだ。

 返事をしないレイの姿にため息をついたカヲルは、レイの手を引いて音楽室を出る。

 今のレイは浮ついた様子で戦力にはならないが、使徒にやられる事は無いとカヲルには分かっていた。

 シンジたちに怪しまれない程度に使徒を探そうかとレイの手を引いて廊下を歩いている所を、マナとムサシのペアに目撃されてしまうのだった。

 

 

 

<第三新東京市 第壱中学校 生徒相談室>

 

 アスカとシンジは生徒相談室の方を調べる事にした。

 使徒の標的がエヴァのパイロットだとしたら、2-Aの教室が狙われるはずだとミサト達は警戒していた。

 しかしアスカは使徒がミサト達が警戒している事に気が付けば、使徒は人気の無い場所に身を隠すだろうと考えた。

 ケンスケは図書室に行って手掛かりを集めて香椎ユキの足跡を追い掛けると息巻いていたが、既に使徒が第壱中学校の制服を着ているので、他の生徒に変身しても服を着替える必要が無い。

 裸の女子生徒が倒れていると言う目立つ痕跡を残す必要が無いのだ。

 血を吸われて気を失った女子生徒の体を物陰に隠すだけで良い。

 アスカとシンジは生徒相談室に使徒の姿が無い事を確認すると、特に1人で居る生徒を中心に、不審な人物が居ないか聞いて回った。

 

「えっと、加古ナツコさんだっけ。話を聞かせて欲しいんだけど」

 

 廊下でアスカに呼び止められたナツコは振り返った。

 ナツコはマナに似たショートカットで肌の白い活発な感じの生徒だった。

 

「うーん、あなたは……?」

 

 他のクラスの生徒であるアスカに話しかけられて、ナツコは不思議に思っているようだった。

 

「2-Aの惣流・アスカ・ラングレーよ」

「そうそう、惣流さん! 私に何か用?」

「使徒が学校の外に居るのは校内放送で聞いたわね?」

「うん、怖いよね。でもきっとエヴァが倒してくれるんでしょう?」

 

 ナツコはあまり怖がっていない様子でそう答えた。

 他の生徒達も、エヴァが何とかしてくれると事態を深刻に受け止めていない様子だった。

 

「それで、加古さんは使徒を目撃したかどうか聞きたくて」

「うーん、校内放送で学校の中に避難するように言われて、シャッターが閉じる前まで私は校庭に居たけど、使徒っぽいのは見なかったよ?」

「そう、ありがとう、加古さん」

「じゃあね!」

 

 ナツコはそう言うと、屋上への階段を上がって行った。

 

「チャーンス! ミサト、使徒は屋上へと上がって行ったわ。いざと言う時は完全に封鎖されていない屋上から逃げようって考えかもしれないわね」

 

 アスカは確信を持ってミサトに携帯電話で報告した。

 

「アスカ、どうしてさっき話した加古さんが使徒だと分ったの?」

「フッフッフ、後でこの女子中学生名探偵、惣流・アスカ・ラングレーの名推理を聞かせてあげるわ」

 

 

 

<第三新東京市 第壱中学校 屋上>

 

 ミサトの招集を受けたシンジたちは屋上前の階段に集まり、使徒が待ち受けているであろう屋上のドアを開けた。

 屋上にナツコの姿しか見当たらなかったのは幸運だった。

 誰かが先に屋上に居て、入れ替わりが起きていたら、名探偵アスカはナツコを論破できなくなる。

 

「加古さん、どうしてこんな寂しい所に1人で居るの?」

「惣流さん達こそ、そんなにぞろぞろと集まって、殺気立っていて怖いんだけど」

 

 大人数で一気に取り押さえると言うのはサスペンスドラマでの警察役で、名探偵のする事ではない。

 ミサトもアスカの名推理とやらを聞いてみたかったので、ナツコが逃げる仕草を見せない限り、じっと見守る事にした。

 

「ナツコ、いいえ、今のアンタは加古ナツコに化けた使徒ね!」

 

 アスカが自信満々にナツコを人差し指で指差して宣言すると、ナツコは声を上げて笑い出した。

 

「私が使徒である証拠がどこにあるの? 他の場所で加古ナツコさんが見つかった?」

「いいえ、本物のナツコを見つける必要なんて無いのは一目瞭然よ!」

「どうして? 私が惣流さんの事を覚えていなかったから?」

 

 ナツコは不敵な笑みを浮かべて、アスカに質問を投げ掛けた。

 アスカはナツコにしつこく陸上部に入らないかと勧誘を受けていたので、ナツコが自分の事を知っているはずだと確信していたのだ。

 

「それもあるけど、ナツコは陸上部員で、ほとんど毎日校庭に居た。そう言えば、鈍感なバカシンジでも解るわよね?」

 

 アスカは腰に手を当てた余裕を持った態度で宣言した。

 

「そうか! 本物のナツコさんなら日焼けをしているはず!」

「そう! 今のアンタの肌は日焼けしていない。つまりDNA情報を盗んで変身した事はまるっとお見通しよ! じっちゃんの名に懸けて! 真実はいつも一つ!」

 

 アスカに畳みかけるように言われたナツコは人間とは思えない呻き声を上げて身体が大きくなっていく。

 着ていた制服がビリビリに避けてしまう頃には全身毛むくじゃらのゴリラのような姿になっていた。

 ケンスケが心の中で裸になるナツコの写真を撮れなかった事を残念がっていた事を知れば、マユミのケンスケに対する好感度は急降下だっただろう。

 

「せっかく相田さんと調査をしたのに、残念でしたね」

「俺も加古さんの写真は(黙って)撮影した事があるから、変だとは思っていたよ」

 

 ケンスケは体育祭でカメラマンを任せられるほどの腕前だったのだろうと、マユミは素直に感動した。

 実際には腕は確かだが、イヤらしい写真を撮って販売するのではないかと入念にチェックをされるほど信用がなかった。

 

「巨大なゴリラ!?」

「パターン青、使徒に間違いないわ!」

 

 ミサトがそう叫ぶと、リツコがそう断定した。

 巨大化した使徒に踏み潰されてはたまらない。

 ミサトは使徒が巨大化を完全に終える前に、学校に残っていた生徒達に呼び掛け、シンジたちと一緒に第壱中学校の地下にあるシェルターに避難した。

 

「このままじゃ、わたしたちの学校が使徒に潰されちゃうよ!」

 

 頭上で地響きを起こすほど暴れ始めた使徒に、マナが悲鳴を上げた。

 

「あんな雑魚、アタシの弐号機で倒してやるわ」

「分かったわ。じゃあアスカ、頼むわね」

 

 初号機は前の使徒ゼルエル戦で両腕を切り落とされ、修理中だ。

 しかし出撃しようとシェルターの出口に向かおうとしたアスカの前に、カヲルが立ちはだかった。

 

「ちょっとアンタどういうつもり? どきなさいよ!」

「加持三佐、僕の肆号機に出撃の機会を与えてくれないかな? この前の使徒との戦いでは何も出来なかったし」

 

 カヲルの言葉を聞いて、ミサトは考え込む仕草をした。

 確かにカヲルと肆号機に実戦経験を積ませるのは大事である。

 しかし肆号機だけに任せるには荷が重すぎる。

 

「加持三佐、私の零号機も出撃させてください」

「ちょっとレイ、アンタまで何を言い出すのよ」

「アスカは前の使徒との戦いで、大活躍をした。さっきも使徒の正体を推理して見破った。私にも碇君に良い所を見せるチャンスが欲しい」

 

 レイがこれほど強く自己主張をするのは珍しい事だった。

 アスカも自分が手柄を上げて調子に乗り過ぎていたと自覚した。

 これ以上目立とうとすればシンジにも出しゃばりな女だと誤解されるかもしれないとアスカは思った。

 

「仕方ないわね、今回はアンタ達のバックアップに回るわ。それでいい?」

 

 アスカがそう言うと、レイは納得して頷いた。

 3人の話がまとまったのを見て、ミサトは改めて命令を出した。 

 

「肆号機が武力偵察及び先鋒を担当、零号機は中堅に位置して弐号機が大将としてバックアップ。これでどうかしら?」

「好意に値しますよ加持先生」

「ありがとうございます、加持三佐」

 

 ミサトの采配にカヲルとレイはお礼を言った。

 

「危ないと判断したら、アタシも出るからね。無茶はしないでよ」

 

 シンジとトウジとヒカリ、ケンスケとマユミ、マナ達3人は他の生徒と一緒にシェルターに残る事になった。

 使徒の事をよく知らない生徒達がパニックを起こして逃げようと地上に出たら大変な事になる。

 ネルフ本部への地下通路は、ネルフのIDを持つ人間しか通れない。

 

 

 

<ネルフ本部 第一発令所>

 

 ネルフ本部に戻ったミサトは、作戦部長の席で、いつものように指揮を執る事となった。

 肆号機と零号機、弐号機がネルフ本部の近くにある学校で暴れている使徒を倒すために出撃する。

 ネルフ本部と第壱中学校は、同じ箱根町仙石原に住所があるのだ。

 巨大なゴリラのような姿をした使徒は、肆号機に向かってパンチやキックを繰り出すが、肆号機は透明な盾でその攻撃を受け止めた。

 

「このアンノ・シールドは最高だね」

 

 カヲルは余裕を持った表情でレイに向かってモニター通信でそう告げるが、レイは嬉しそうでは無かった。

 

「また私は、誰かに守られている立場に居るのね」

 

 レイは使徒ラミエル戦の時の事を思い出して、そうつぶやいた。

 あの時シンジは使徒のビーム攻撃を身体を張って守ってくれた。

 今のカヲルも涼しげな表情をしているが、盾が持たなくなった場合、使徒にやられてしまう恐れがあった。

 レイの手に握られていたのは、中距離用のエヴァ用ライフル、通称パレットガンだ。

 シンジが使徒シャムシェルと戦った時は、有害物質を撒き散らすだけの劣化ウラン弾だったが、あれから時間が経ち、タングステン弾に改良されていた。

 中国やロシアからの大量のタングステン合金の材料の提供があってこそ実現したのだ。

 そしてもうレイ達は使用する武器にA.T.フィールドの力を込める方法を知っている。

 

「この距離なら、外せない!」

 

 レイはそう言うと、巨大な使徒ゴリラの両目をパレットガンで撃ち抜いた。

 すると使徒は目を両手で押えて苦しみ出した。

 

「レイ君が作り出した絶好の機会、逃しはしないよ」

 

 カヲルがそう言うと、片手用の槍を盾を持っている手とは反対の手で握った。

 

「ロンギヌスの槍!?」

 

 その槍を見たミサトは驚きの声を上げた。

 

「いえ、レプリカの偽槍ロソギヌスよ。本物のロンギヌスの槍に比べて小さいけど、伸縮させる事が出来るわ」

「またアスカが作った珍兵器?」

「ミサト、聞こえているわよ!」

「いえ、アレを作ったのはマヤなのよ。どうもアスカに触発されたみたいね」

 

 リツコはそう言ってため息を吐き出した。

 整備班の班長と言うのは縁の下の力持ち、マヤも毎日の激務で疲れているはずだ。

 それでもリツコに目に見える形の貢献をしたくて、兵器の開発をしたのだろう。

 肆号機の持つ槍が使徒のコアを貫いて使徒を殲滅させると、マヤは自分の手柄の様に喜んだ。

 勝利の喜びに沸く発令所。

 しかしそこへ冷や水を浴びせるような悲報が飛び込んで来た。

 

「大変です! 昏睡状態にあった香椎エリカ二尉が亡くなったそうです!」

「エリカが!?」

 

 マコトの報告を聞いたミサトは持っていたコーヒーカップを床に落とし、コーヒーカップは砕け散った。

 ミサトの2歳年下と年齢が近い事もあって、エリカとは友達とも言える関係だった。

 さらに各地の報告から、今まで使徒に血を吸われて眠っていた犠牲者たちも息を引き取ったと聞かされた。

 使徒は血を吸うだけでなく、犠牲者の体に自分の細胞を送り込んでいた。

 その使徒が殲滅された事により、使徒に侵食されていた細胞は機能を失い、それが重要な臓器だったら人間は死に至る……恐ろしいも悲しい事実だった。

 

 

 

<第三新東京市 第壱中学校 跡地>

 

 香椎ユキと加古ナツコの死を知ったレイとマユミ、アスカと第壱中学校の生徒達は涙を流した。

 さらにショックだったのは、自分達の思い出が詰まった学び舎が使徒によって破壊されてしまった事だった。

 瓦礫を取り除く作業は、紫電・雷電・震電に乗るマナ達3人や、修理の終わったジェット・アローンが率先して行っていた。

 

「建物は壊れても立て直す事が出来ます。しかし、失われた命は戻っては来ません」

 

 根府川先生はそう言って深い溜息を吐き出した。

 この学校の校長先生や副校長も、使徒ゼルエル戦いの直後に他の教師と一緒に疎開してしまっていた。

 生徒の数が半減したこの学校を回していたのは、ミサトと根府川先生の2人だった。

 

「この第壱中学校に通っていた生徒達も、市外の学校に行ってもらうしかありませんな」

 

 根府川先生の悲しそうな声を聞いて、ミサトは考え込んだ表情になった。

 自分が赴任するよりもずっと前から第壱中学校に居た根府川先生。

 長く続いた第壱中学校の歴史がこのような形で幕を下ろすとは無念に違いない。

 

「根府川先生、学校を再建しましょう!」

「何を言われます、この老いぼれの為にそこまでして頂けなくても……」

 

 ミサトがそう宣言すると、根府川先生はそう言ってたしなめた。

 

「生徒が残っていれば、第壱中学校は死んでいません!」

「そうよ! アタシも転校生だけど、第壱中学校が気に入ったわ。一緒に卒業したいわよね、シンジ?」

「うん」

 

 ミサトの言葉にアスカも同調し、シンジもアスカの言葉に力強く返事をした。

 吸血鬼使徒事件で残った生徒のうち大部分は第三新東京市を離れたが、シンジたちは第三新東京市に残る。

 

「そこで根府川先生に校長先生をやって頂きたいのですが……」

 

 ミサトがそう話を切り出すと、根府川先生は首を横に振った。

 

「加持先生、あなたに校長先生をやって頂きたい。これからは若い力が必要です」

「そうよミサト、アンタには校長の器があるわ!」

「ミサトさん!」

 

 根府川先生に続いてアスカとシンジも期待を込めた視線でミサトを見つめた。

文章量少なめのハイペースで進めた連載ですが、補完した方が良いでしょうか? 最終話だけ別のアンケート(続編について)になります。

  • 本文は今の量が読みやすいので外伝形式で
  • 本文の量が増えても加筆修正が良い
  • 外伝で活躍させたいキャラ(メッセージで)
  • 第〇話の修正希望(メッセージで)
  • こんなifストーリーどう?(メッセージ)
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