新世紀エヴァンゲリオン for Children ~全ての子供たちのために~   作:朝陽晴空

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第二十一話 ミサト校長、誕生(2022/07/03 0:55)

<第三新東京市郊外 加持邸>

 

 根府川先生から新しい第壱中学校の校長先生になるように打診されたミサトは、夕食の席でも憂鬱な顔をしていた。

 

「おいおい、そんなに悩む事か?」

「わたしが落ち込んでいるのが、そんなに意外?」

 

 リョウジに尋ねられたミサトはそう聞き返した。

 

「へたっているミサトは珍しいわね」

 

 アスカもリョウジの意見に同調した。

 

「今までミサトさん、僕達のクラスの担任の先生をしていたじゃないですか」

「それはリツコや根府川先生が支えてくれていたから、ズボラな私でも務まったのよ」

 

 シンジの言葉にミサトはそう答えた。

 

「ミサト先生が校長先生になったら、学園祭の日程が増えたり、楽しそうだけどな」

「面倒な中間・期末テストも辞めちゃうとか?」

 

 マナの言葉に悪乗りしたミサトがそう言うと、エプロン姿のヨシアキが黙って両腕でバッテンの文字を作った。

 

「オイラは、ミサト先生が校長先生になるのは賛成だな」

「でも加持先生が校長先生になると、2-Aの担任が出来なくなるわ」

 

 ケイタが明るい表情で言うと、レイは寂しそうな表情でそう言った。

 

「そんなの関係無いわ、全部のクラスを1つにしちゃえばいいのよ!」

 

 アスカが提案すると、シンジたちから「おおーっ」と声が上がった。

 第壱中学校に残った生徒はほとんどがシンジたちの友達だ。

 マユミやヒカリも疎開を勧められたが自分の意思で第壱中学校に残りたいと話した。

 逆に第壱中学校に小学生も集めた方が避難がしやすいと言う案まで出た。

 

「分かったわ、わたしの負け。小学校からも先生を集めて貰えば何とかなりそうだわ」

 

 ミサトが校長先生の職を引き受けると、同級生の死で落ち込んでいたヒカリ達の表情も明るくなり、祝賀会を開けるムードになった。

 小学校と合併する事になれば、中学校の再建まで小学校の校舎を使う事が出来る。

 一石二鳥の素晴らしいアイディアだと賛成の声が上がった。

 

 

 

<第三新東京市 第壱小学校>

 

 それほど間も置かず、学校の授業は再開された。

 小学校の机と椅子はシンジ達には少し小さかったので、ネルフ本部から机と椅子を教室に運び入れての授業だった。

 小学校の生徒達も人数が減っていたので、第壱中学校の生徒を受け入れる事は大歓迎だった。

 トウジの妹のサクラやヒカリの妹のノゾミも、同じ学校に通う事が出来るようになって大喜びだった。

 そしてカフェで働いていたヒカリの姉のコダマや、市外の高校に通っていたヨシアキも合流する事になった。

 凄腕のアサシンであるヨシュアは、給食室の調理を担当する事になり、学校の給食のレベルが格段に上がった。

 もう生徒達は以前の給食には戻れなくなるかもしれない……。

 コダマは大学に通っていた事もあり、スーツを着た新米教師となった。

 ミサトと双璧を成すパツンパツンになったボタンがはち切れそうな胸元は小学校の少年達には刺激が強すぎた。

 コダマが小学生のクラスの担任になり身を屈めると、小学生は顔を真っ赤にして凝視していた。

 

「ヒカリも将来、姐さんみたいになるんかな」

「そうかもしれないな」

 

 トウジの言葉に相槌を打ちながらも、ケンスケはコダマの方を見ないようにしていた。

 さらに今までの行動から考えられない事に、カメラでの撮影も控えめだった。

 

「何やケンスケ、お前さんなら姐さんの胸強調写真を撮りまくって、売るんやないか? 体育の時のミサト先生なんか追いかけていたやないか」

「その事は言わないでくれないか?」

 

 トウジとケンスケの話を聞きつけたアスカはニヤリと笑った。

 

「ハハーン、相田、アンタはマユミに恋してるわね?」

「くっ」

 

 一番バレて欲しくない相手にバレてしまった事をケンスケは悔しがった。

 以前はアスカを高嶺の花と見ていた事もあるケンスケ。

 アスカがシンジの事をどれだけ愛しているか思い知らされて諦めた。

 そのアスカにマユミがケンスケに対して憧れを抱き始め、それを悪くなっていないと思っている自分をからかわれるのが恥ずかしかった。

 

「スイカバーのアイスで勘弁してあげるわ」

 

 アスカの要求がその程度だった事に、ケンスケは安心した。

 しかしそれが中学校を卒業するまでと言う条件付きだった事をケンスケは後で知った。

 今までアスカやレイ、プールの授業の女子生徒、疾走するミサトの写真の販売などで荒稼ぎしていたケンスケを、アスカは易々と許すはずも無く、レイやマナにもアイスを驕る事になってしまった。

 過去の写真販売の事は絶対にマユミに知られたくないケンスケはサイトも閉鎖し、ミサトにも反省文を提出した。

 ミサトの根回しのお陰で、男子生徒達もケンスケの写真の話をしなくなった。

 

「委員長、もう姐さんの写真は売らないから許してくれよ」

「うん、それは分かっているんだけど……」

 

 ケンスケはカフェの制服を着て働くコダマの写真も撮っていた。

 その事をヒカリに謝ったのだが、なぜかヒカリの態度がぎこちない。

 3人は気心の知れた幼馴染にのはずなのに、微妙な距離が開いていた。

 そうした事からヒカリはトウジと、ケンスケはマユミと良く話すようになった。

 

「相田君も山岸さんに恋をし始めたのね」

「山岸さんの方も、相田君に憧れの気持ちを示していたからね」

 

 マユミは以前とは違い、サバイバルやミリタリーに関係する本を読むようになっていた事をレイも分かっていた。

 小学校の図書室にサバイバルやミリタリー関係の本は皆無に近い。

 あったとしても正確なデータが書かれているのではなくおとぎ話に近い物だろう。

 

「鈴原君と洞木さん、相田君と山岸さんはお互いに好きみたいだけど、愛されるのと愛するのと、どっちが幸せなんだろうね」

「渚君、あなたには愛というものが分かるの?」

 

 レイが敏感に反応して鋭い目つきでカヲルをにらみつけた。

 

「僕は沢山の恋愛小説を読んだけど、まだ分からない。ヨシアキさんを見た時、美しい人だと思って胸のときめきを感じたけど、彼には完全にフラれてしまったみたいだからね」

 

 カヲルはエプロン姿のヨシアキに告白して、即座に氷のような冷たい目で見つめられてフラれてしまっている。

 

「渚君は女の子を好きにはなれないの?」

「そういうわけじゃないけど、惣流さんより碇君に色気を感じるのは確かだね」

 

 カヲルがそう言うと、レイはクスリと笑った。

 

「おや、綾波さんもそんな笑い方が出来るんだね」

 

 そうカヲルに指摘されて、自分はシンジ以外の男性に微笑みを向けてしまった事に気が付いた。

 

「別に表情を引き締める必要は無いよ。自分以外の男に笑顔を見せるなと、亭主関白のような事をシンジ君が言ったのかい?」

「碇君はそんな事を言わないわ」

 

 カヲルの言葉をレイは強い口調で否定した。

 

「それなら綾波さんの方がシンジ君に義理立てしているんだ」

 

 そのカヲルの言葉を聞いたレイは、カヲルの頬を思い切り平手打ちした。

 

「ちょっと綾波さん!? どうしたの?」

 

 レイがカヲルを殴るのを見てヒカリが声をあげた。

 

「……ごめんなさい」

 

 レイはそう言ってカヲルに謝るが、目は怒っていた。

 どうして怒りがこんなにこみ上げて来るのか。

 レイはこれも愛の形の1つだと思った。

 

「みなさん、これより朝礼を始めます」

 

 ミサトの号令により、新生第壱中学校の朝礼が始まった。

 第壱小学校との合同朝礼だ。

 校長先生の話と言えば、長いのが常識だ。

 

「今日もみんな、頑張りましょう!」

 

 新校長ミサトの話はそれだけで終わった。

 ミサトが言わなくても、上級生は下級生の面倒を見て、自主的に勉強をする。

 洞木コダマという大人気の先生の言う事を、小学生の子達は大人しく聞くだろう。

 多感な小学生の子は〇っぱいデケーと連呼していたが、サクラもヒカリのように委員長としてクラスを仕切っていた。

 根府川先生もミサトの授業を手伝ってくれる。

 そしてヨシアキの作る給食は生徒達に活力を与えていた。

 上級生も下級生も関係なく、校庭で遊びに熱中する。

 裏山でサバイバルゲームをして、トラップなどを作るケンスケとマユミの遊び方は変わっているとミサトは思ったが、学校は上手く行きそうだ。

 

 

 

<ネルフ本部 司令室>

 

 ミサト校長が初日の業務を行っている頃、ネルフ本部の司令室では支部長を交えた会議が行われていた。

 セカンドインパクトの重要参考人・葛城ヒデアキ博士に話を聞くためである。

 ヒデアキ博士はセカンドインパクトの爆心地にある南極に残留していたL.C.L.からゼーレと言う少女と同じ方法で“生成”された。

 ヒデアキ博士のL.C.L.のうち、いくらかは海流に流されたり、空気中に霧散などしてしまっていたが、他の葛城調査隊のL.C.L.で補完する形でヒデアキ博士は人として蘇った。

 

「葛城博士、我々も酔狂で貴殿を生成した訳ではない。それは分かっているな?」

「分かっております」

 

 キール元所長の言葉に、ヒデアキ博士はそう答えた。

 

「葛城先生、あなたの覚えている事を話して頂きたい」

「セカンドインパクトが起きる直前の事は覚えています。アダムが暴走し、ロンギヌスの槍で殲滅させようとした私を、一部の隊員が反乱を起こして阻止して、失敗に終わった」

 

 ゲンドウの質問にヒデアキ博士はそう話した。

 

「それでは、自分がセカンドインパクトの主犯ではないと主張するつもりかね!」

「部下の不届きは私の責任だと承知しております」

「今は葛城博士の罪を糺す時ではない。彼の話を聞こう」

 

 そう言ってゲンドウは糾弾しようとするアメリカ支部長を押えた。

 

「爆発が起こった後、目の前が真っ白になって、それからとても温かい場所に居ました。まるで母親の胎内にでもいるような……そして気が付いたら、碇司令と冬月副司令の目の前に居たのです」

 

 ヒデアキ博士の話を聞いた支部長達から大きなため息が漏れた。

 セカンドインパクトの秘密に迫れるような情報が聞けるかもしれないと大きな期待を寄せていただけに、失望は大きかった。

 

「目の前が真っ白だったと言ったが、何か物陰の1つも目撃しなかったのかね?」

「はい、私にとっては永遠とも思える時間でしたが、白い世界は全く変わりませんでした」

 

 中国支部長の言葉に、ヒデアキ博士はそう答えた。

 アダムの魂がどうなったかは知っている。

 そしてアダムの肉体が閃光のように輝いて地球を揺るがすセカンドインパクトを起こした事も分かっている。

 ヒデアキ博士が爆発の内側で見たのは永遠に続く白い世界。

 

「葛城先生が目撃したのはマイナス宇宙の姿なのではありませんか?」

「私はスーパーソレノイド機関の提唱者に過ぎません。冬月教授の方が詳しいかと」

 

 ゲンドウの質問に対してヒデアキ博士は首を横に振ってそう答えた。

 

「葛城君が母親の胎内にいるような安らぎを感じていたと言うのは、他の葛城調査隊の隊員達のL.C.L.と混じって、心の補完が起きていたからなのではないかね?」

「確かに冬月教授の言う通り、私は先ほど母親の胎内に居るようだと例えましたが、その通りかも知れません」

 

 コウゾウの言葉にヒデアキ博士がそう答えると、支部長達から大きな歓声が上がった。

 ネルフは人類の敵である使徒を倒して生き残るために研究機関のゲヒルンから移行した特務機関だ。

 研究機関ゲヒルンでは使徒を倒す手段がない以上、滅ぼされる前に人類補完計画を遂行するべきだと主張されていた。

 ヒデアキ博士の話で、人類補完計画の実効性が大きく増したと支部長達は色めきだった。

 人類補完計画により人類は使徒を凌駕する大きな力を手にする事が出来る、人がL.C.L.化して液体人間になれば強い精神力を得られるのはその一端ではないかと支部長達は興奮を抑えきれない様子だった。

 

「皆さん、葛城先生に対する質問はもうよろしいでしょうか」

 

 その流れを遮るようにゲンドウが口を開いた。

 これ以上ヒデアキ博士から得られる話は無いと判断した支部長達は揃って賛成の意を示した。

 

「葛城先生、あなたは死海文書に記されたシナリオの通り、は間違った運命を求めた罪人として処刑される事になります」

「処刑……ですか。確かに部下を止められなかった私はそれだけの大罪を犯したのかもしれません」

 

 ヒデアキ博士は大きく肩を落としてそう答えた。

 ゲンドウもヒデアキ博士の他に罪を背負わせる事の出来る人物が居ればそのような事はしたくなかった。

 しかし葛城調査隊のL.C.L.をかき集めるようにして生成したヒデアキ博士の他に、罪人となれる人物は居なかった。

 反乱を起こした葛城調査隊の隊員も、生成されたヒデアキ博士の一部となっている。

 死海文書は預言書、最後の使徒を倒すまで私情を挟んで行動を変えるわけにはいかない。

 

「それでは碇司令、私を処断してください」

「残念ですが、先生をL.C.L.に還元するだけでは処刑とはなりません」

 

 覚悟を決めたヒデアキ博士に対してゲンドウはそう答えた。

 

「葛城君、その前に成長した娘の姿を見たくはないかね?」

「娘に、ミサトに会わせて頂けるのですか!?」

 

 コウゾウの言葉を聞いてヒデアキ博士は驚きの声を上げた。

 

「葛城三佐の今までの功績に免じての報奨です」

 

 ゲンドウはそう言うとミサトに零号機ケージに来るように命じ、コウゾウと連れ立ってヒデアキ博士と共に司令室を出た。

 

「ああ、そうだ。あの2人も呼んでおかないとな」

 

 部屋の出たコウゾウは思い出したように連絡を取り、さらに2人の人物を零号機ケージへと呼び出した。

 

 

 

<ネルフ本部 零号機ケージ>

 

 ゲンドウの命令で一番最初に人払いをされていた零号機ケージに到着したのはミサトだった。

 誰も居ない零号機のケージでミサトは静かにたたずんでいた。

 

「今日はあたしの誕生日か、あたしもついに30歳になったのね。あなたは14歳のまま眠っている。ごめんね……」

 

 ミサトはそう言って零号機に向かって話し掛けた。

 零号機はミサトに対して何も答えない。

 しかし零号機がミサトに対して強い憎しみを持っているのならば、暴走して拘束具を引き千切ってでもミサトに危害を加えようとするだろう。

 

「加持三佐も碇司令に呼ばれたのですか?」

 

 ミサトが零号機を見つめて立ち尽くしていると、レイが姿を現した。

 慌ててミサトは目頭に浮かんでいた涙を指で拭った。

 

「零号機を見て、どうして悲しいのですか?」

「ちょっと、あの子の事を思っていたの」

「零号機の中に居る子の事を、加持三佐は知っていたのですね」

「ええ、長い間黙っていてごめんなさい」

 

 ミサトとレイの間に、気まずい空気が流れた。

 しかし司令であるゲンドウに零号機ケージで待つように言われている以上、離れる事は出来ない。

 

「……あの子とは、また仲良くやれそう?」

 

 相互起動実験では、レイは零号機より初号機の方がシンクロ率が高かった。

 レイは初号機に乗りたがっていると零号機のコアも感じたのだろう。

 人に心があるように、エヴァにも魂がある。

 

「私、初号機は自分を包み込んでくれる優しいお母さんのような存在だから、シンクロ率が高いのだと勘違いをしていました。本当は、自分の分身そのものだから、シンクロ率が高かったんですね」

「レイ……」

「だから私、零号機の子と話してみようと思います。私が一番好きなのは、あなただって」

「ありがとう」

 

 レイの真っ直ぐな言葉に、ミサトは手で顔を覆って涙を流した。

 これは先ほどの悲しい涙ではなく、嬉しさの涙だった。

 

「加持三佐、どうかしたのかね?」

 

 零号機ケージにやって来たコウゾウに声を掛けられたミサトは、慌てて襟を正した。

 

「これは御見苦しい所をお見せして済みません」

「さらに見苦しい所を私達に見せる事になるぞ、加持三佐」

 

 ゲンドウはいつもミサトにしてやられてる仕返しのチャンスとばかりに、ニヤリ笑った。

 

「すっかりと大きくなったな……ミサト」

 

 大柄で背の高いゲンドウの陰から姿を現したのは、葛城調査隊の白衣を着たヒデアキ博士だった。

 

「お父さん……? お父さんなの……?」

 

 ミサトは昔と同じ姿のヒデアキ博士を見て戸惑った。

 セカンドインパクトの爆発に巻き込まれて生きていたとは思えない。

 生きていたとすればあれから10年、歳を重ねているはず……。

 

「私はこうしてここに立っているのは、ネルフの技術力の賜物だ」

 

 ヒデアキ博士の言葉を聞いて、ミサトは事態を理解した。

 ゼーレと言う少女の件、そしてトウジの母親と参号機のコアの件。

 L.C.L.から完全な人を作る事も不可能ではない。

 

「お父さん、お父さん、会いたかった……!」

 

 ミサトは14歳の少女に戻って、ヒデアキ博士に抱き付いてワンワンと泣いた。

 レイは零号機の瞳が鋭い光を放ったのを見逃さなかった。

 

「お父様、御挨拶が遅れてすいません。娘さんのハートを盗んでしまった男、加持リョウジです」

「リョウジ! こんな大事な時に遅刻だなんて……んぐっ」

 

 リョウジはミサトの涙と鼻水をキスで拭った。

 その滑稽な姿に耐え切れず、ゲンドウが大笑いした。

 ゲンドウの笑いはコウゾウやヒデアキ博士にも伝染し、零号機ケージに笑い声に包まれた。

 

「君の様な男ならば、娘を幸せにしてくれているだろう。今のやり取りを見ていれば分かる」

 

 ヒデアキ博士はそう言うと、零号機と側に立つレイの方に顔を向けた。

 

「葛城博士、あなたのもう1人の娘さんは、私が必ず幸せにしてみせます」

 

 レイが真面目な顔でそう言うと、ヒデアキ博士は再び笑い出した。

 

「そうか、それは心強い!」

 

 真剣に言ったのに笑われるとは、レイにとってみれば心外である。

 

「済まなかった。これで私は心残りなく再び眠りに就く事が出来る」

「まさか、お父さん!?」

 

 ミサトはヒデアキ博士が再びL.C.L.に戻されるのではないかと不安な声を上げた。

 しかし現実はもっと残酷な物だった。

 

 

 

<ネルフ本部 第一発令所>

 

 新たな使徒が出現すると指令を受けたシンジ達はネルフ本部へと集合した。

 エヴァだけでなく、紫電・雷電・震電、さらにジェット・アローンとN2爆弾を搭載した戦闘機まで駆り出されるのを見て、アスカは疑問の声を上げた。

 

「今度の使徒は、そんなに強いわけ!?」

 

 両腕が治ったばかりの初号機や、実の父親を殺める事になる零号機は作戦から外したい心境だった。

 

「今回の戦いは総力戦になるわ。出現してから3分で倒さないと大爆発を起こすとMAGIは分析している。同士討ちを起こさないように注意して」

 

 シンジ達は使徒との決戦のバトル・フィールドを、第壱中学校の跡地にするように指示された。

 街を壊さずに済むのは良い事だが、どうしてそこに使徒が出現するのかシンジ達は疑問に思った。

 

「ここが、ミサトが教師を取っていた学校か……」

「はい、先日使徒に破壊されて今は見る影もありませんが……」

「ミサトは心の優しい子だ。戦略自衛隊に戻って平和の為にその戦闘訓練の成果を役立てるのも良い。でも私は戦争の無い世界になって、ミサトが教師になってくれる事を願っているぞ」

 

 ヒデアキ博士とミサトは電話を使って話していた。

 積もる話はまだまだあるが、シンジ達に使徒の正体がミサトの父親だと知られると、手加減をされてしまう。

 これから生まれる使徒は、圧倒的な火力を持って殲滅させなければならないのだ。

 第壱中学校の跡地の中心に立ったヒデアキ博士は凶悪な使徒を演じなければならなかった。

 

「えっ? 私達が倒さなければならないのはあのおじさんなの?」

 

 紫電に乗ったマナが疑問の声をあげた。

 最初から使徒の姿で姿を表せばシンジ達も戦いやすくなるが、3分という制限時間がさらに短くなるというジレンマがあった。

 それにミサトは一秒でも長く自分の父親には生きていて欲しかった。

 

「目標は人間に化けた使徒よ! ネルフにスパイとして潜入して、私達の作戦を妨害していたの!」

 

 ミサトは心苦しい嘘を並べてシンジ達に殲滅命令を出した。

 

「バレてしまっては仕方がない、お前達を1人でも多く地獄への道連れにしてやる!」

 

 ヒデアキ博士はわざと狂気に満ちた目をすると巨大化し、ウ〇トラマンのような使徒に変化した!

 

「各自、味方に被弾しないように気を払いながら全力攻撃!」

「ふふふ、このアスカ博士の新兵器第2弾の出番が来たようね」

 

 アスカはそう言うと、初号機に車輪状の兵器に乗り込むように指示した。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「なんか、イヤな予感がするんだけど……」

「ブツブツ言わない! 両腕が完治していない初号機にピッタリの兵器よ!」

 

 アスカはそのミシンのボビンのような、一輪車の車輪型の兵器を『エヴァンジャンドラム』と命名した。

 

「コイツでA.T.フィールド全開で突撃すれば、どんな使徒もぶっ飛ばせるわ!」

「そっか、それは心強いね」

 

 ケイタはアスカの言葉を素直に受け止めて感心していた。

 しかしシンジ達はイヤな予感をひしひしと感じている。

 

「ロケットに点火! さあ、使徒に向かって一直線よ!」

 

 初号機の乗ったエヴァンジャンドラムは使徒に向かって勢いよく走り出したが、散乱する瓦礫にぶつかると方向を変えた。

 それも別の瓦礫に当たる度に何度も方向を変えて予測不可能になっていた。

 

「アスカ、使徒とは明後日の方向に行っちゃっているわよ!」

「おかしいわね……」

 

 マナに指摘されたアスカは気に食わない口調でそうつぶやいた。

 

 使徒である葛城マンも、自分からエヴァンジャンドラムに当たりに行くのはさすがに不自然過ぎる事この上ないし、博士の頭脳でも進行方向は予測不能だった。

 

「見ろよ、使徒も呆れて動きが止まっている! 今が攻撃のチャンスだ!」

 

 ムサシの指摘に我に返ったレイ達は、一斉放火の構えを取る。

 悲鳴を上げながら転がっている初号機は後回しだ。

 

「お、おい、碇、こっちに来んなや!」

 

 トウジの怯えた声にレイやマナ達が振り返ると、ゴロゴロとエヴァンジャンドラムに乗っている初号機が自分たちの方へと突っ込んで来るではないか!

 

「うわああっ! 逃げろ!」

 

 ケイタ達は蜘蛛の子を散らすようにバラバラに逃げた。

 

「碇、なんとかせんかい!」

「僕にもコントロールが効かないんだよ…オエエエッ」

 

 三半規管の限界に来たシンジは遂にエントリープラグの中で嘔吐してしまった。

 アスカやレイの作った料理も吐き出したが、勿体ないなんて言ってられない。

 

「シンジ! アタシの弐号機を追い掛けて来てくれるなんて、やっぱりアタシの事が好きなのね!」

「アスカ、そんな事を言っている場合では無いわ!」

 

 レイが目を吊り上げてモニター通信でアスカに怒鳴った。

 

「加持三佐、戦略自衛隊のN2爆弾で初号機の動きを止めますか?」

 

 マヤに聞かれて、ミサトは頭を抱えた。

 今回の使徒戦は何と言う様だ。

 使徒は攻撃して来ないのに、味方に足を引っ張られている。

 しばらくすると、使徒の胸にあるコアはピコンピコンと音を立てて点滅を始めた。

 

「使徒が大爆発を起こすまで残り30秒です!」

 

 マコトが発令所でそう報告すると、シンジ達にも緊張が走った。

 そこにN2爆弾を持って使徒に突撃しようとする零号機の姿が発令所のディスプレイに大写しになった。

 

「まさか、自爆する気!? レイ、止めなさい!」

 

 ミサトは叫ぶような声で零号機の特攻を止めようとする。

 しかし、零号機と暴走するエヴァンジャンドラムの間に割って入ったのは使徒だった。

 

「使徒がエヴァを守った……と言うのかい?」

 

 これにはさすがにカヲルも驚きの声を上げた。

 エヴァンジャンドラムの回転を全力で受け止めた使徒は殲滅された。

 

「父さんはあたしだけでなく、もう一人の娘も命懸けで守ったのね」

 

 親子愛を目にしたミサトから涙が流れ出た。

 しかしエヴァのパイロットや発令所のメンバーはミサトの涙に気が付かなった。

 みんなに平謝りするアスカに気を取られていたからだった。

 

「本当にゴメン! アタシのせいで特にレイには迷惑を掛けたわ!」

「設計図だけ見ていると、とても良さそうな兵器に思えてしまうんですけどね」

 

 ヒトミは企画の段階でアスカを止められなかった事を後悔していた。

 

「姫はジョンブル魂もたくましいね♪」

 

 マリはエヴァンジャンドラムの構造的な弱点を知っていながら面白がって賛成していた。

 父が身体を張って娘を守る。

 その結末を知っていたからだった。

 

 

 

<ネルフ本部 司令室>

 

 使徒を殲滅したものの、ミサトの表情は晴れなかった。

 父と再会できたのも束の間、永遠の別れ。

 真実を知らないシンジ達は今までネルフで働いていた人がスパイで使徒だった事にショックを受けているのだと思っていた。

 

「碇司令、この度は父の件で寛大な処置をして頂きありがとうございました」

 

 ミサトとリョウジが揃ってゲンドウに頭を下げると、ゲンドウはまんざらでもない様子だった。

 

「加持君の校長への昇進祝いと誕生日プレゼントだ」

 

 ミサトはゲンドウの言葉を聞いて、ネルフでの階級の昇進は無いのかと思った。

 

「ミサトを昇進させると、それだけ基本給を上げないといけなくなるだろう?」

 

 リョウジの話を聞いて、ミサトはゲンドウが戦国時代に生まれていたら俸禄をケチるバカ殿に違いないと思った。

 

「それに今回は君の泣き顔をたっぷりと拝ませてもらったからな」

「調子に乗るな、おでこハゲ!」

 

 ミサトがゲンドウに言い返すと、ゲンドウは口角を上げた。

 

「その元気があるのならば、子供達の所へ行っても大丈夫だな」

「私も回らない寿司を食べたくなったな」

 

 ゲンドウとコウゾウは、加持家での打ち上げ会に期待しているようだ。

 ミサトはため息をついてヨシアキに電話を掛けるのだった。

 

「あーヨシアキ、急な話で悪いんだけどさ」

「もう用意は出来ているから、早く帰って来なよ」

 

 ヨシアキの返事を聞いたミサトは用意周到な息子だなと、改めて感心するのだった。

 

 

 

<第三新東京市郊外 加持邸>

 

 ミサトが運転する車でリョウジとゲンドウ、コウゾウらと共に家に帰ると、『ミサトさん30歳の誕生日おめでとう』の横断幕が掲げられていた。

 

「30歳を強調しているのは間違いなくリツコかアスカの仕業ね……」

「ミサト、20代卒業おめでとう!」

「女は30から色気が増すものよ、そうとは思わない?」

 

 アスカとリツコの手厳しい皮肉を受け、ミサトは引きつった笑いを浮かべた。

 

(そう言えば、あの子は誕生日を祝ってもらえないのよね……)

 

 永遠の14歳と聞けば羨ましがる人も居るかもしれないが、やはり時計の針が止まったまま、誕生日を誰にも祝ってもらえないのは可哀想なものだ。

 

「ごめんミサト、言い過ぎちゃった?」

 

 アスカは前よりも素直に相手の気持ちを気遣って謝る事が多くなった。

 でもエヴァンジャンドラムの件で責められている事は無さそうだった。

 

「ううん、アスカが悪いんじゃないのよ。誕生日を祝ってもらえない子がいるって思い出しただけよ」

「戦争や貧困で苦しんでいる地域の子供達は、誕生日どころじゃないですからね」

 

 ミサトの言葉を聞いたシンジは深刻な顔でそう言った。

 シンジに言われてみればそうなのだが、ミサトは身近な零号機にも居るのだとは言えなかった。

 

「じゃあ、その子に聞こえるように『Happy Birthday to You』をアレンジして連弾して弾いてあげようか、シンジ君?」

「上手く弾けるかな?」

 

 カヲルに誘われて、シンジは慣れた手つきでピアノを弾いた。

 

「へえ、シンジってチェロだけでなくピアノも弾けたんだ」

 

 拍手が起こると、シンジは照れくさそうにした。

 

「ゲンドウ君のピアノも凄いんだよ。ねえ、リストの曲を弾いてみてよ」

「わ、私が弾くのか?」

 

 マリの眼力にはゲンドウも逆らえない。

 ゲンドウはユイにもミサトにもマリにも頭が上がらない、悲しい総司令だった。

 プロでも弾く事が難しいとされるリストの曲を弾きこなしたゲンドウは、みんなが尊敬の眼差しで自分を見つめている事に気が付いて、悪い気分はしなかった。

 

「ゲンドウ君はネルフの司令なんかやめてピアニート王になるべきだよ!」

「それを言うな」

 

 ゲンドウは顔を隠してピアノ演奏動画を上げているが、本当の職業であるネルフ総司令を言う事が出来ないので職業欄をニートとしていた。

 ガテン系など適当に誤魔化して行けばいいのに、それが出来ない不器用な男だ。

 

「父さん、本当に凄いや!」

「僕を弟子にしてください!」

 

 特にリストの曲を演奏する事の難しさを知っているシンジとカヲルはゲンドウに強い尊敬の念を抱いていた。

 ネルフ総司令として恐れられ、疎まれていたのにこの差は何だ。

 ミサトに総司令を任せて本当にピアニストになってしまおうかとも思ってしまうゲンドウだった。

 

「レイ、ちょっと話があるの」

 

 盛り上がる夕食会の最中、アスカは真剣な表情でレイを呼び出した。

 アスカに呼ばれたレイは素直にアスカについて庭へと出て行く。

 

「あのエヴァンジャンドラムのせいで、レイが自爆しそうになった時、レイが居なくなればアタシがシンジを独占出来ると思ってしまった醜い自分の心があったの。それをレイに謝りたくて」

「アスカが私に謝る必要は無いわ」

 

 レイがそう言うと、アスカは伏せていた顔を上げた。

 

「私も自爆して死んでしまうか、エヴァンジャンドラムのせいで大怪我をすれば、碇君の心の中にずっと居られるって考えてしまっていたから。私も悪い女よ」

 

 そう言うとレイはアスカを抱き締めた。

 この程度の事で2人の友情は壊れたりしないという証だった。

 アスカとレイの様子が気になって後をつけていたミサトはそんな2人の姿を見て心が安らぐ気がした。

 今日は再会して直ぐに父親を失う最悪の一日だった、でも子供達に誕生日を祝ってもらう最高の一日でもあったとミサトは思うのだった。

文章量少なめのハイペースで進めた連載ですが、補完した方が良いでしょうか? 最終話だけ別のアンケート(続編について)になります。

  • 本文は今の量が読みやすいので外伝形式で
  • 本文の量が増えても加筆修正が良い
  • 外伝で活躍させたいキャラ(メッセージで)
  • 第〇話の修正希望(メッセージで)
  • こんなifストーリーどう?(メッセージ)
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