新世紀エヴァンゲリオン for Children ~全ての子供たちのために~   作:朝陽晴空

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第二十二話 せめて、人間らしい生き方を(2022/07/10 7:34)

<ネルフ本部 司令室>

 

 使徒と化したヒデアキ博士を殲滅し、シンジ達には新しい学校での日常生活が戻って来た。

 第壱小学校と事実上合併する形となり、校長としての仕事は第壱小学校の校長が肩代わりしてくれたため、象徴としての校長となったミサト。

 しかしミサトは校長となるための勉強は手を抜かなかった。

 第壱中学校が再建された場合には、ミサトは校長として独り立ちしなければならないのだ。

 

「それまであたしが生きていられるか、分からないけどね」

 

 そんな心境を吐露したミサトの独り言を、隣に立っていた夫であるリョウジは聞き逃さなかった。

 

「俺は最後までミサトを助ける方法を探してあがいてみせるさ。お前自身が希望を失ってどうする」

 

 そう言ってリョウジは背中からミサトを抱き締めた。

 

「そろそろ始めて良いかしら」

 

 リツコにそう言われた2人はパッと身体を離す。

 こうして司令室に顔を合わせたのは、今後のネルフの活動について話し合うためだ。

 

「いくつかのイレギュラーはあるが、シナリオは死海文書の通りに進んでいる。このまま使徒を倒して行けば、人類補完計画の遂行も見えて来た」

 

 コウゾウがそう言うと、リョウジが手を挙げて意見を主張する。

 

「副司令、人類補完計画は爆発的な人口増加により不足する食料・資源に関する問題を解決する方策の1つではありませんでしたか? セカンドインパクトによる人口の減少、葛城博士の提唱した無限エネルギー機関であるS2機関の実用化が進んでいるこの状況では、無理に遂行する必要は無いのではないでしょうか」

 

 リョウジにしては珍しく饒舌で強い口調でそう言うと、コウゾウは深い溜息を吐き出した。

 

「愛するものを救いたいと言う君の気持ちは全くの私情だ。人類補完計画は食糧問題を解決するためだけに行うのではない。さらに言えば、セカンドインパクトで異常気象となったこの世界の農地はわずかだ。その農地を巡って争いも起きている。君は未来のチルドレン達に人工肉でも食べて生きて行けと言うのかね」

「バレンタイン停戦条約が結ばれるまで、第3次世界大戦は収まりませんでしたね」

 

 コウゾウのその言葉に答えたのはミサトだった。

 大国同士の大規模な争いは表面上は収まったが、貧しい地域では紛争が絶えない。

 

「今日ここで話しておきたいのは、神話となる人選の事だ。今まではキール所長から死海文書を託され、ネルフ総司令となった私が生贄となるつもりだったが……」

「まさか、シンジ君を生贄に!?」

 

 ゲンドウの言葉を聞いたミサトは驚いた顔で聞き返した。

 シンジにとって父親であるゲンドウが人を捨てて神になってしまう事は悲しい事だ。

 しかしシンジ自身が神になる事は憎むべきあってはならない事態だ。

 

「こんなもの! こうしてやる!」

 

 ミサトはリツコが持っていた『碇シンジ育成計画』と書かれた書類が挟まれたファイルを取り上げると、ライターを点けてバインダーごと燃やした。

 

「ミサト、いくら燃やしても、データはMAGIにバックアップしてあるわ」

「ならこのデザートイーグルでMAGIをぶっ壊してやる」

 

 ミサトはそう言うと、興奮した様子でホルスターから銃を取り出しゲンドウに向けた。

 

「加持三佐、シンジの成長は私の予想以上だった。親は無くとも子は育つとは良く言ったものだな。シンジ達に家を与えてくれて、感謝している」

「あたしは、あんた達の補完計画の為に動いていたわけじゃない!」

 

 自分に向かって頭を下げるゲンドウに向かって、ミサトは拳を振り回した。

 2人の距離は離れているので、当たる事は無い。

 

「まだシンジが神の子となる事は決定事項ではない。しかし加持三佐には心して置いてほしい」

 

 ゲンドウはそう言って会議を打ち切った。

 

 

 

<第三新東京市郊外 加持邸 シンジの部屋>

 

「シンジ、アタシとレイ、どちらと付き合うかいい加減に決めなさいよ!」

「お願い、碇君」

 

 シンジは学校で制服姿のアスカとレイに詰め寄られていた。

 しかし何かがおかしい。

 現実離れしている。

 

「はっ、夢か……」

 

 シンジは最近、アスカとレイに決断を迫られる夢をよく見るようになった。

 夢は自分の深層意識が見せる物。

 自分でもアスカとレイの両方とこのままズルズルと友達では居られないと考えている事をまざまざと自覚させられる夢だ。

 

「おはよう、シンジ!」

「おはよう碇君」

 

 そんな夢を見た朝は、アスカとレイの顔をまともに見る事が出来ず、お弁当作りに夢中になっている振りで誤魔化して来たのだが、最近は2人も早起きしてお弁当作りに参加するようになったので、心の準備をする時間が無い。

 

「考え事をしながら料理をしていると、怪我をするよ」

 

 ヨシアキに指摘されたシンジはハッと気が付いた。

 

「シンジの味には曇が生じている。何か悩み事があるようだね」

 

 まるで剣術の達人が言うようなセリフで、ヨシアキはシンジの心を見抜いた。

 

「悩みがあるなら、アタシが相談に乗るわよ!」

「碇君、私も聞いてあげる」

「3人寄れば文殊の知恵って言うじゃない!」

 

 悩み事の種であるアスカとレイにそう励まされても、シンジが相談できるはずも無い。

 シンジのお弁当はアスカとレイの合作、シンジはアスカとレイのお弁当の具材を作る。

 そんな三角関係がこれからもずっと続くとはシンジも思っていなかった。

 この猶予期間はいつか必ず終わる。

 今は目の前の使徒と戦う事で精一杯なだけだ。

 シンジは比べてはいけないと思いつつも、レイとアスカの事を考えた。

 レイは最初の使徒との戦いで零号機に乗って武力偵察に出て負傷、入院していたためシンジがネルフに慣れて来た頃にやっと学校で会う事が出来た。

 

(そう言えば、あの時の綾波は、委員長に顎で使われていたんだっけ。それを見た僕は綾波がいじめられてると同情してミサトさんに助けてくれるように訴えた)

 

 ヒカリが自分の落ち度に気が付いた後は、恩返しをするようにヒカリはレイの世話を焼き、級友から本当の意味での友達となった。

 その後、使徒のラミエルのビーム攻撃の直撃を受けて大きなダメージを受けてしまった初号機に代わり、レイが射手を担当する事になった。

 

(あの時の綾波は、スプーンでお粥を食べさせてくれてお母さんみたいだったな。僕は母さんの顔も声も思い出せないけど)

 

 どうしてシンジは自分が母親の事を思い出せないで居るのかは分からなかった。

 父親のゲンドウが母親のユイの写真をひた隠しにしている理由も知らない。

 もし、シンジがレイを急に自分の母親とクローンだと知ってしまったら、それを理由にシンジに拒絶されてしまった2人目の今のレイは、1人目のレイと同じように暴走事件を起こし、大規模なアンチATフィールドを発生させるかもしれない。

 レイもシンジを好きになったその日から、自分の秘密を知るミサト達に、シンジに正体を明かさないように懇願していた。

 

(綾波が食事会を企画して、僕と父さんを仲直りさせようとてくれた事も感謝している。やっぱり綾波は僕の母さん、いや、何で僕は綾波にこんなに母さんのイメージを重ねるんだろう)

 

 レイの事を一通り考えて疲れを感じたシンジは、アスカの事を思い返す。

 

(アスカとの再会は最悪だったな。僕がミサトさんや綾波、それにヨシアキ兄さんと浮気していると思われちゃったし)

 

 押しかけ女房のようにやって来たアスカ。

 ヒカリまで巻き込んで、登校初日から公認カップルとなってしまった。

 アスカはシンジの婚約者だと公言したが、流されるような形で恋人になるのは良くないとシンジは思っていた。

 シンジは他の女の子と話しているだけでヤキモチを焼くアスカにうんざりする時もあった。

 しかしレイの事を気遣って、正々堂々とシンジを巡ってフェアな勝負をする、優しい一面もあるとシンジは感じていた。

 

(アスカは自信たっぷりに僕の婚約者を公言していたけど、記憶を失った僕を試すような事をして、僕が小さい頃の思い出が無くても、僕がアスカが好きになってくれるのか不安になっていたんだよね)

 

 レイとアスカの事を思い返したシンジは、今の3人の関係を壊したくないと思っていた。

 しかしシンジに決断を迫る使者の足音は直ぐ近くまでに来ていた。

 

 

 

<ネルフ本部 第一発令所>

 

 巨大な羽を広げた光る鳥のような姿をした使徒は、以前の戦いで投擲されたロンギヌスの槍が漂う月軌道上に姿を現した。

 

「やはりあの場所に現れたか」

「まずいぞ碇、AAAヴンダーの宇宙戦艦換装作業は終わって居ないぞ」

 

 ロンギヌスの槍の投下により落下しようとしてきた使徒サハクィエルを撃破した後、宇宙開発に強いネルフアメリカ支部とロシア支部が先導する形で南極を航行した戦艦AAAウンダーの宇宙対応可が進められていた。

 人類補完計画に必要なロンギヌスの槍を回収するためだった。

 しかしアメリカ支部とロシア支部の主導権争いにより、スケジュールに遅れが生じていた。

 

「こうなってはエヴァを宇宙に飛ばすしかありません」

「奇想天外な発想だが、実現可能なのか?」

 

 リツコの言葉を聞いたコウゾウが、怪訝な顔で尋ねた。

 エヴァンゲリオンはロボットではなく人造人間、生身では宇宙に行けない。

 

「アスカが研究していたエヴァ用の宇宙服があります」

「何だと?」

 

 リツコの話を聞いて、コウゾウは驚きの声を上げた。

 開発の動機はシンジと宇宙で織姫と彦星ごっこをしたいと言うアスカの妄想からだったが。

 

「残念ながら、弐号機用と初号機用のものしかありません」

 

 そのリツコの言葉を聞いたレイは悔しそうな顔をした。

 アスカを憎んでいる気持ちは全く無いとは言えなかったが、シンジを守るのは自分の役目だと思っていたレイには辛かった。

 

「初号機と弐号機はロケットで宇宙に射出、ロンギヌスの槍を回収して宇宙空間に居る使徒を撃破します」

「ちょっと待って、前の使徒みたいに落下して来る事も考えられない?」

 

 ポンポンと作戦を決めていくリツコに、ミサトが反対意見を述べた。

 

「もちろんその場合に備えて、零号機及び紫電・雷電・震電の3機及びジェット・アローンは地上で待機」

「今度こそ、オイラ達の出番かな」

 

 リツコの言葉にケイタはそうつぶやいた。

 使徒サハクィエルの時に比べ、第三新東京市の人口は半減している。

 それでも市民達の被害はゼロではない。

 緊急避難警報が発令され、ケンスケやヒカリの家族たちも急いでジオフロント深くのシェルターに避難した。

 2度目なので前よりも誘導はスムーズだった。

 

「碇君、アスカ、必ず帰って来て」

「もちろんよ!」

 

 レイの言葉にアスカはそう答えて、初号機と弐号機を括り付けたロケットは飛び立って行った。

 

 

 

<宇宙空間 ラグランジュ・ポイント>

 

 月と地球の重力で安定する場所、ラグランジュ・ポイント付近に光り輝く使徒の姿はあった。

 ロンギヌスの槍は月の軌道上を高速で公転している。

 初号機と弐号機のどちらかがロンギヌスの槍をキャッチして、使徒のコアに向かって投げる。

 またロンギヌスの槍を再回収する手間が掛かるが、それが確実性の高い作戦だった。

 

「2人とも、タイミングが難しいと思うけど、頼んだわ」

「オーケー、ミサト! 任せといて!」

 

 発令所からのミサトの通信に、アスカは明るい調子で答える。

 2人の健康面からも長く宇宙空間に居て欲しくなかったし、いつ使徒が落ちて来るのか読めない。

 

「よし、このタイミングなら行ける!」

 

 アスカの乗る弐号機がロンギヌスの槍を掴もうとすると、使徒から突然、まばゆい光線のようなものが弐号機に向かって降り注いだ!

 

「使徒のレーザー攻撃!?」

「いえ、エネルギー反応はありません!」

 

 ミサトの質問にマヤがそう答えた。

 

「どういう事?」

 

 ミサトが頭を捻っている目の前で、使徒の光線を浴びた弐号機が苦しみ出した!

 

「弐号機パイロットの心理グラフが乱れています!」

 

 マヤの悲鳴に似た報告の声が上がる。

 

「アスカ!」

 

 シンジは初号機で宇宙遊泳をして弐号機を助けようとするが、平泳ぎなので直ぐには駆け付けられない。

 

「まさか、使徒は人の心を攻撃する戦術を採り始めたと言うの?」

 

 リツコは叫ぶようにそう言った。

 今までの使徒はATフィールドで力押しするタイプが多かった。

 

「弐号機パイロット、精神汚染区域に入ります! お願いシンジ君、アスカを助けてあげて!」

 

 宇宙空間では素早く使徒から逃げるのは難しい。

 マヤは報告しながら懇願するようにシンジに言った。

 

「アスカ、シンジ君が付くまで持ちこたえて!」

「来ちゃダメ! シンジまで巻き込まれる!」

 

 ミサトの言葉にアスカはそう答えて、シンジの救援を拒否した。

 しかしシンジは引き下がるわけにはいかない。

 発令所のスタッフは祈りを捧げることしか出来なかった。

 

 

 

<アスカの精神世界>

 

 使徒の攻撃を受けて胸が苦しい思いをしていたアスカは、周りの宇宙空間から星々が消えた真っ暗な空間にプラグスーツ姿で立っている事に気が付いた。

 自分は弐号機のエントリープラグの中に居るはずなのに、ミサト達の声も全く聞こえない。

 

「何なのよ、ここは? また使徒の体内なの?」

 

 以前にも使徒レリエルに飲み込まれた経験のあるアスカはそう独り言を言った。

 真っ暗な空間のはずなのに、遠くに灯りが見える。

 アスカは見えない地面を蹴って、その灯りに向かって歩き出した。

 ほんのりと光る灯りの中心には、古びた教会が立っていた。

 

「この中に入れって言うの?」

 

 使徒の罠かもしれないと思いつつ、他にこの真っ暗な空間に何も手掛かりが無いと思ったアスカは、虎穴に飛び込む事にした。

 古びた教会の入口のドアが軋む音を上げながら開いた。

 無人と思われた静かな教会に、2人の人影が浮かび上がる。

 アスカの目の前に立っていたのはタキシードを着こなしたシンジと、純白のウェディングドレスに身を包んだレイだった。

 

「ウソよ、シンジとレイがこんな所に居るはずがない!」

 

 使徒の見せる幻だと判っていながらも、アスカは精神的なダメージを受けた。

 

「今日は僕とレイの結婚式に来てくれてありがとう」

「他に招待客は居ないけど、アスカが見届けてくれるだけで嬉しいわ」

 

 シンジとレイは満ち足りたような笑顔をアスカに向けた。

 2人は手を取り合って教会の教壇の方へゆっくりと歩き始めた。

 

「ちょっと2人とも、待ちなさいってば!」

 

 アスカはシンジとレイの正面に立って、身体を張って押し止めようとするが、シンジとレイは無表情のまま、ロボットのように力強く前へと前進を続けた。

 アスカが触れるシンジとレイの肩は石像のように固く、冷たかった。

 力負けしているアスカは2人を押した体勢のままズルズルと後退りをして行く。

 ドンっと踏ん張っているアスカの左足のかかとが何かにぶつかる感覚があった。

 振り返ると祭壇があり、そこには禍々しい表紙の本を持ち暗い色の神父の服を着たゲンドウが立っていた。

 アスカが小さい頃見たゲンドウと同じ普通の眼鏡を掛けたゲンドウだったが、アスカを一瞥する瞳は冷たかった。

 ゲンドウはアスカなど眼中に無いかのように言葉を発する。

 

「碇シンジ、汝はレイを妻として、一生守り続けると誓うか?」

「誓います」

「綾波レイ、汝はシンジを夫として、生涯愛し続けると誓うか?」

「誓います」

「それでは指輪の交換を」

 

 アスカはシンジとレイが結婚の宣誓をして、指輪を交換する場面を石像のように硬直して見つめていた。

 これは幻だ、ドラマだ、現実では無いと、ガラスのファインダー越しでシンジとレイの唇が重なろうとした瞬間。

 

「イヤっ!」

 

 アスカは思わず目を閉じた。

 するとアスカは自分の体が宙を浮き、空を飛んでいるような感覚を覚えた。

 気が付くと熱く眩しい太陽の日差しを浴び、蠟で出来た翼が溶けて落ちたイカロスのように、急降下をした。

 

 

 

 アスカが墜落したのは柔らかい草むらの上だった。

 そして自分が芦ノ湖のほとりに立って居る事に気が付いた。

 正面のベンチには仲良く腰掛けるカップルの姿があった。

 アスカが目を凝らすと輪郭がぼやけていたカップルの姿が鮮明になる。

 それはアスカの知っているシンジではあり得ないほどしゃれ込んだ色付きサングラスを掛けてアロハシャツを着ているシンジと、麦わら帽子にノースリーブの服を着た霧島マナの2人だとアスカには分かった。

 

「私、海とか湖とか、水のある所が大好き。だからシンジ、ネルフを離れた後は海か湖の近くで暮らそ?」

「うん、マナの作ったお弁当を食べて、1日中釣りをして過ごすのも悪くないなあ」

 

 明らかにおかしい。

 自分の見ている夢であるのなら、シンジのイメージ像はアスカの想像の範疇を超えないはずだ。

 これは使徒が自分の精神世界に関与している証拠だ。

 使徒は自分がシンジとは結ばれない事のない並行世界の世界線を見せているのだとアスカは思った。

 

「私からシンジへのプレゼント」

 

 そう言うと、マナはシンジに青い宝石の付いたペンダントを差し出した。

 ハート形に交差する2匹のイルカがモチーフになっている。

 

「ありがとう、マナ。君のは赤い宝石のペンダントなんだね」

「イルカはお魚さんじゃないけど」

「そんな細かい事は気にしてないよ」

「ねえ、お互いに首に掛け合いっこしようか?」

 

 マナからペンダントを受け取ったシンジは、嬉しそうにマナの首にペンダントを掛けた。

 そしてマナは持っていたペンダントをシンジに掛ける。

 

「あれ? これだと僕が赤いペンダントで、マナが青いペンダントになっちゃうけど?」

「それで良いの。お互いにペンダントが相手だと思えば大切にできるでしょ」

「そうだね」

 

 マナの言葉にシンジは頷いた。

 

「シンジ君、霧島さん、君達2人をネルフから脱出させる手配が整ったよ」

 

 そう言って姿を現したのはリョウジだった。

 

「待ってください、まだやる事が」

 

 シンジはそう言って、アスカやレイ、第三新東京市の友達や、ミサト達ネルフのスタッフと一緒に映っている写真を撮り出した。

 シンジはその写真をどうしようと言うのか。

 アスカは嫌な予感がした。

 シンジはライターを取り出すと、その写真に火を付けて燃やし始めた。

 

「さようならエヴァンゲリオン、……さようなら、アスカ」

「イヤッ! 聞きたくない!」

 

 アスカは目を閉じて両手で耳を押えて激しく首を横に振った。

 すると今度は聞き慣れた第壱中学校のチャイムの音が鳴り響いた。

 

 

 

 目を開いたアスカは自分が通い慣れた第壱中学校の校舎裏に居る事に気が付いた。

 驚く事に目の前にはもう一人のアスカが居た。

 自分の姿は幽霊のように透けていて、この世界の人間からは見えていないようだ。

 過去の世界の様であって、実は並行世界。

 目の前ではもう1人のアスカが泣き真似をした後、舌をぺろりと出してイタズラ笑いを浮かべている。

 アスカはシンジをからかって笑うもう1人の自分をぶん殴ってでも止めたかったが、透けている自分の拳は空しくすり抜けた。

 

「もう碇君ってば見損なったわ!」

「シンジってば酷いわ!」 

 

 アスカの目の前でヒカリともう1人のアスカは別々の方向へと歩き出した。

 そしてアスカの願いも空しく、シンジはアスカを追いかけることなくヒカリの手をつかんだ。

 

「待ってよヒカリさん!」

「碇君、どうして私を? アスカとキスして付き合っているんじゃなかったの?」

「記憶が無くなった僕には断言はできないけど、あのアスカって子は嘘を付いている気がするんだ」

「そうなの?」

 

 シンジの話を聞いたヒカリは驚いた表情になった。

 

「そんなアスカのウソを真面目に受け止めているヒカリさんの事を、僕は放っては置けないよ」

「碇君……記憶を無くしてから変わったね。とってもかっこ良くなった」

 

 ヒカリの顔が真っ赤に染まる。

 

「実はトウジとケンスケから、バンドのボーカルを探すように頼まれたんだ。歌の上手い女の子が良いんだって。もしヒカリさんが良かったらだけど……ボーカルをしてくれないかな?」

「そのバンド演奏って、碇君も参加するの?」

「うん、僕はキーボードを弾く事になっているんだ」

「じゃあ、やってみようかな」

 

 顔を真っ赤にしたヒカリと、シンジは2人で仲良く音楽室へと向かう。

 姿が透けているアスカは幽霊のように後を追いかけるしかなかった。

 音楽室でヒカリがボーカルとなり、シンジ達3人のバンド演奏の練習の時も、ヒカリはチラチラとシンジの方を見ていた。

 アスカが過去に体験した世界では、使徒の襲来を告げる緊急避難警報が発令され、練習は中断、シンジはヒカリ達と別れてネルフへと行く事になるはずだ。

 しかしいくら待っても緊急避難警報は発令されず、ヒカリは『喫茶ライブ』という店へシンジを寄り道デートへと誘う。

 

「そろそろ帰らないと、家族の人が心配するよ」

「私ってば、家事を任されてばかり。本当は家事なんて好きじゃないのに」

「僕だってミサトさんやアスカに無理やり家事をさせられているよ」

 

 ヒカリとシンジは声を上げて笑った。

 やっぱりアタシはシンジに無理やり家事をさせている最低な世界もあるのかと落ち込んでから、ハッとなった。

 少し遅れてヒカリも気が付いたようだった。

 

「もしかして、碇君、記憶が戻ったの?」

「えっ!?」

 

 ヒカリに指摘されて、シンジも気が付いたようだった。

 

「うん……でも記憶が完全には戻っていないみたいだ。だけど僕は頑張り屋さんのヒカリさんの事が好きになったみたいだ」

 

 この世界のアタシと居るより、ヒカリと結ばれた方が幸せだ。

 アスカはそう思うと、目から滝のように涙があふれて風景がぼやけて見えなくなった。

 

 

 

 しかしアスカの耳に届いた銃声が、アスカの意識を呼び覚ました。

 自分はさっきまで第三新東京市の『喫茶ライブ』の店の中に居たはず。

 それが今は、床が真っ赤な血の川で染まっていて、こと切れたネルフの職員達が折り重なって倒れている凄惨なネルフ本部の通路に立っていた。

 周囲では銃声と悲鳴、爆発音が鳴り響いている。

 驚いたアスカが角から顔を出すと、戦略自衛隊の隊員たちが文字通りネルフの職員達を虐殺していた。

 ネルフの職員達がやっとの事で部屋のドアを閉めて籠城すると、戦略自衛隊の隊員は躊躇いもなく火炎放射器をドアに向かって噴射した。

 あれでは部屋の中に居る人間は黒焦げになってしまうだろう。

 戦略自衛隊は少なくとも表向きはネルフと協力関係にあったはずだ。

 それがどうしてこうなった?

 アスカの頭では理解不能だった。

 自分は並行世界の人間だから大丈夫だと思いながらも、アスカは人気の無い通路を進んで行った。

 するとアスカがたどり着いた先では、シンジとミサトが向かい合わせに立って居た。

 シンジは壁に背中を預け、ミサトは壁に手を突いた「壁ドン」状態である。

 戦略自衛隊からシンジを守って来ていたのだろう、ミサトの体には銃弾によって出来たと思われる傷があった。

 

「シンジ君……私はずっとあなたの母親、あるいは姉役を続けたかった。でも、もう無理みたい」

 

 ミサトはそう言うと、シンジの顔を両手でつかんで、シンジに無理やりディープキスをした。

 

「これが大人のキスよ……アスカとは出来なかったでしょう……続きをしましょう」

 

 シンジから口を離したミサトは、服を脱ぎ出した。

 黒いブラジャーとパンティが露になる。

 

「イヤ……これ以上見たくない……」

 

 アスカはそうつぶやいて背中を向けると、自分が駅のホームに立っている事に気が付いた。

 その駅のホームでは、恐らくミサトと同じ歳ぐらいに成長したアスカが、駅のベンチに座って向かい側のホームを眺めているのに気が付いた。

 

「誰ーだ?」

「豊満なバストのイケてる女」

 

 同じように大人になったシンジは、どこかで見た覚えのあるような赤い眼鏡の女性と一緒に手を繋いでホームの階段を駆け上がって行く。

 

「こらアタシ! 泣いていないで呼び止めなさいよ! 線路なんか飛び越えて追いかけなさいよ!」

 

 そう叫んだアスカは、力無く座り込んだ。

 アスカの心は今にも折れようとしていた。

 

 

 

<シンジの精神世界>

 

 初号機で弐号機を助けに行こうとしたシンジも、使徒の放つ光線が発生させた世界に巻き込まれていた。

 

「どうやアスカ、ワイの作ったスペシャルカレーは?」

「凄い! シンジの作る下手な料理より美味しい!」

 

 アスカを料理で満足させる事においては自分の右に出る者はいないと思っていたシンジにとってはショックな言葉だった。

 実際、トウジの作るスペシャルカレーは美味しかった。

 ヒカリが夢中になるのも分かる気がした。

 トウジの話では、恋人のヒカリにだけは秘伝中の秘伝のレシピを使ったスペシャルカレー3を食べさせて居るようだった。

 ヒカリも食べた全てのインド人を右に向かせてしまうほどだと話していた。

 体育館で行われた他の学校とのバスケットボールの試合で大活躍するトウジを応援するアスカの姿も、ベンチスタートのシンジには辛いものがあった。

 シンジがいくら声を掛けても、アスカは反応を示さない。

 やっとシンジも目の前に居るアスカが、リツコの話していたヘーコー世界のアスカだと気が付いた。

 じゃあ本当のアスカはどこに居る?

 弐号機のエントリープラグの中に居るのか?

 世界の壁を超えてシンジがアスカを探していると、膝を抱えてうずくまっているプラグスーツ姿のアスカを見つけた。

 

「アスカ、やっと見つけた!」

「シンジ!? 本物のシンジなの!?」

 

 アスカはシンジの胸の中でひとしきり泣いた後、自分にとって最悪の並行世界を何個も見せられた事をシンジに話した。

 間に合って本当に良かったとシンジはアスカを抱き締めながら思った。

 同時に、僕にとって必要な恋人はアスカだとシンジの心が固まった。

 

「アスカ、あの使徒に閉じ込められていた時の事を思い出すんだ。僕達が強い心の壁を作れば、この使徒が創り出したマイナス宇宙から出れるはず」

「うん、アタシはもう怖くない、シンジが側に居るから!」

 

 シンジとアスカが手を繋いで力を込めると、真っ暗だった空間は、光に満ちて消え去った。

 そして初号機と弐号機は元のラグランジュ・ポイントの宇宙空間へと戻った。

 

 

 

<ネルフ本部 第一発令所>

 

「初号機と弐号機のパイロットの心理グラフ、安定しました! 汚染による後遺症も認められません!」

 

 マヤが明るい声で報告すると、発令所は歓声に包まれた。

 レイもアスカとシンジの無事を心から喜んだ。

 しかし疎外感から一抹の寂しさが心をよぎった。

 

「アスカ、ロンギヌスの槍をキャッチして、それを使徒のコアにぶつけるのよ!」

「ミサト、アタシに槍なんか要らないわ!」

 

 アスカは発令所のミサトにそう答えると、トウジが参号機でやったように、右手にA.T.フィールドの槍を出現させた。

 

「やっぱりアタシにも出来た!」

「やるやないか、惣流のヤツ」

 

 自分の専売特許を奪われたが、トウジは余裕の表情だった。

 

「惣流さんに必要なのはシンジ君の槍だけだね」

 

 カヲルどさくさに紛れてがそう言うと、レイに後頭部を思い切りハリセンで殴られた。

 

「綾波さん、いつの間にハリセンなんて持ってたの?」

「マリさんから貰った。馬鹿な事を言う人が居たら叩けって」

 

 マナの質問に、レイは涼しい顔で答えた。

 弐号機は生成したA.T.フィールドの槍を使徒のコアに向かって投げると、使徒は眩い光を放ち殲滅された。

 ロンギヌスの槍は初号機によって回収され、作戦は全て成功に終わった。

 

「さあゲンドウ君、いつものように打ち上げの許可を出したまえ、ロケットの打ち上げも成功したんだしね、にゃは!」

 

 空気を読んでいない感じを装って、発令所に入って来たのはマリだった。

 ミサトに続いて、いや、ミサト以上にゲンドウに対して偉そうな態度をとるこの白衣の女性は何者だろう? と発令所に居るメンバー達は疑問を持ち始めていた。

 マリは戦略自衛隊から惣流・アスカ・ラングレー博士研究室に移籍した研究員に過ぎない存在だ。

 

「そうだな、今夜は初号機及び弐号機パイロット、そして惣流研究室の功績を称えよう」

 

 エヴァ用の宇宙服を研究していたのは惣流研究室なので、マリ達の成果も認められて然るべきである。

 ゲンドウの許可が出るとネルフのスタッフ達はミサトの元に一斉に料理のリクエストに詰めかけた。

 

「碇君、アスカ、お疲れ様」

「ありがとう、綾波」

 

 任務を終えたシンジとアスカを、レイは笑顔で迎えた。

 

「あのさ、レイ、アタシ達、使徒を倒してもまた同じ学校に通ったり出来るし、まだしばらく友達で居られると思うの」

 

 アスカにしては歯切れの悪い言い訳だった。

 それだけ今回の件で2人の距離は縮んでしまったのだとレイは感じ取った。

 だからアスカはレイに対して後ろめたさを覚えているのだ。

 シンジの瞳もアスカかレイか選ぶ迷いがスッキリ晴れているかのようにレイは察した。

 おそらくどのタイミングで話を切り出せばいいか迷っているのだろう。

 

「そうね、これからもよろしくね」

 

 レイの心は曇っていたが、それを隠すようにレイはアスカに微笑み返した。

 でもそれよりもレイが気になっていたのは、ミサトがシンジに向けている悲し気な視線の方だった。

 シンジの方はミサトの特別な視線には気が付いていない様子だった。

 もう使徒を倒して楽しい打ち上げパーティをする、そんな機会は残り僅かなのではないか。

 それはレイ以外にもこの場に居る全員がうっすらと感じ取っていた。

 残る使徒の数を知っているゲンドウはなおさらそうなのだろう。

 レイは前回より高級な酒をミサトに頼むゲンドウを見てそう確信した。

文章量少なめのハイペースで進めた連載ですが、補完した方が良いでしょうか? 最終話だけ別のアンケート(続編について)になります。

  • 本文は今の量が読みやすいので外伝形式で
  • 本文の量が増えても加筆修正が良い
  • 外伝で活躍させたいキャラ(メッセージで)
  • 第〇話の修正希望(メッセージで)
  • こんなifストーリーどう?(メッセージ)
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