新世紀エヴァンゲリオン for Children ~全ての子供たちのために~   作:朝陽晴空

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第二十三話 レイの涙(2022/07/16 0:00)

<第三新東京市 第壱小学校>

 

 使徒を倒して大はしゃぎの宴会を終えた翌日、シンジ達は日常の学校生活へと戻った。

 第壱中学校の再建はまだ先なので、第壱小学校の校舎を間借りしての授業だった。

 直ぐ近くの教室で授業を受けている事もあって、トウジの妹のサクラやヒカリの妹のノゾミもシンジ達の所へ顔を出していた。

 

「なあレイ姉ちゃん、元気が無いようだけどどうしたん? シンジ兄ちゃんとケンカでもしたんか?」

 

 好奇心旺盛な子供は目敏いもので、サクラはレイの変化を見逃さなかった。

 

「別にケンカはしていないわ。少しすれ違いがあったの」

 

 レイは自分を心配してくれているサクラに優しく微笑みかけながらも、楽しそうに話しているアスカとシンジから距離を置いていた。

 そのサクラ以上にレイの事を心配していたのは、レイの保護者でありクラスの担任教師でもあるミサトだった。

 1人目のレイ、精神的にも幼かったレイが起こした感情の暴走による事件はリツコから聞かされていた。

 ゲンドウと親しくしているリツコの母親のナオコの姿を見て、レイは嫉妬に似た感情を爆発させたのだ。

 今の2人目のレイは14歳、思春期ではあるが心の成長も遂げていて、ゲンドウもレイを他人から遠ざける教育方針は誤っていたと認めた。

 しかし恋は人を狂わせてしまう事もある。

 ミサトはシンジとアスカ、レイの三角関係が崩れてしまうの時がこんなにも早く来てしまうとは思わなかった。

 進路相談でレイはシンジとアスカと別の学校に進学すると言い出した。

 レイの話す表向きの理由は、音大に行きたいと言う事だったが、ミサトはシンジの心がかなりアスカへと傾いているのをレイが感じ取ったからだと思った。

 

「学校が別になってもアタシ達はずっとあの家で一緒よね?」

 

 そのアスカと問い掛けに、レイは笑顔で答えたが、その事が引け目になって、アスカがシンジに正直な気持ちを打ち明けるのを遠慮してしまうかもしれないともミサトは思った。

 せっかく第壱中学校で友達が多く出来たのに、またレイは孤独への道を選んでしまうのか。

 ミサトにとって少しだけ慰めになったのは、渚カヲルもレイと同じ学校への進学を選んだ事だ。

 そして同じ志望校を選択した生徒同士で自習をするようにとミサトは方針を打ち出した。

 トウジもスポーツが盛んな学校への進学を考えるようになり、ヒカリは付いていくか迷っているようだった。

 

「こうしてみんなバラバラになって行くんだね」

 

 ポケットに手を入れたカヲルがそう呟くのをミサトは聞いていた。

 高校を卒業して、大学生にもなれば、加持家を巣立っていくチルドレンも居るだろう。

 いや、大人になれば全員あの家を出る事になるのだ。

 だからこそ、子供達には今を大切に生きて欲しい。

 もちろん、それは自分もだとミサトは思うのだった。

 

 

 

<第三新東京市郊外 洞木家 ヒカリの部屋>

 

 放課後、レイは深刻な悩みがあるので相談に乗って欲しいとヒカリに持ち掛けた。

 ヒカリは相談内容がシンジとアスカに関係する事だと察した。

 レイに頼られるのはヒカリにとって嬉しいことだった。

 トウジの言葉を借りて言えば「恩を返す」と言うことだからだ。

 きっとアスカとシンジには聞かれたくない話なのだろうと、ヒカリは周囲から自然に見える感じを装って自分の部屋へレイを招いた。

 

「綾波さん、大事な話って何?」

「洞木さんに教えて欲しい事があるの」

 

 ダイレクトにアスカとシンジの事を聞かれると思っていたヒカリは、これは予想外だと首を傾げた。

 

「私に答えられる事なら何でも聞いて!」

 

 それでもヒカリはどんと胸を張ってレイに宣言した。

 

「洞木さんは、鈴原君と付き合ってる」

「ええ、そうよ」

 

 レイの言葉をヒカリは少し照れながらも肯定した。

 

「男の子と付き合うって、普段はどんな事をしているの?」

「お話したり、お弁当を食べたり……特別な事は何もしていないわ」

 

 ヒカリがレイの質問に正直に答えると、レイは少し落胆した様子で尋ねる。

 

「洞木さんが鈴原君としている事は、私達としている事に変わりないように思えるわ」

「綾波さん、それは違うわ。付き合うようになってから、鈴原と見つめ合うだけで胸がキュンとときめくようになったの」

「それって、胸がポカポカするって事?」

「そう! まさにそう言う事よ!」

 

 レイの言葉を聞いたヒカリは、興奮気味にそう答えた。

 

「私は碇君の顔を見ると、心がポカポカする。碇君にも、私の顔を見てポカポカして欲しい。でも……」

 

 そう言ってレイは落ち込んだ様子で下を向いた。

 ヒカリにもここ最近で特にシンジとアスカの距離が近づいているように感じ取れた。

 

「前に碇君は、私と一緒に居ると心が安らぐって言ってくれた」

「良かったじゃない」

「でも私は、お母さんみたいだって」

「あっ……」

 

 レイの言葉を聞いて、ヒカリは息を飲んだ。

 自分だってトウジの世話を甲斐甲斐しく焼いて、お袋のようやなと言われたら自分は恋愛対象外なのだとショックを受けるだろう。

 レイに何と言葉を掛けて良いのだろうかと悩んだヒカリは、慎重に話を切り出した。

 

「綾波さんは、最近は渚君と一緒に居るようだけど、渚君と一緒に居て楽しい気分にはならないの?」

「渚君の事は嫌いじゃない。でも好きになったら碇君を裏切る事になる」

「どうして綾波さんは碇君以外の人を好きになっちゃいけないの?」

「えっ!?」

 

 ヒカリの言葉を聞いて今度はレイが驚いて息を飲んだ。

 シンジはレイに優しく接しているし、レイもシンジの優しさは心地の良いものだった。

 自分がシンジの母親のクローン体だからシンジに特別な感情を抱くようになったのか。

 それならば自分はシンジの事を息子か弟のように思うはず。

 何か別の因子が働いているとレイは感じた。

 それに自分がシンジと付き合いたいと言う気持ちは本物だと思った。

 

「私は今は鈴原の事が一番大好きだけど、この気持ちがずっと続くかは分からないわ」

 

 真面目で一途だと思っていたヒカリからそのような言葉が出て、レイは心の底から驚いた。

 

「それなら洞木さんが碇君を好きになるって事もあるの?」

「可能性としてはあるわね。でも、今の私は碇君はお友達としてしか見れないけど」

「私は……」

「碇君の心が変わるのを待ち続けるのも、他の人と出会ってその人を好きになるのも綾波さん次第。でも、自分の気持ちに正直に生きる事と、誰かをわざと傷つける事は別だと思うの」

 

 ヒカリはまるでレイの心がシンジとカヲルの間で揺れ動いているのを見抜いているかのようだった。

 レイも最初はカヲルに同族嫌悪のようなものを抱いていた。

 半分幽閉されるような形で、接触する人間もネルフの職員達に限られていたと言う生い立ち。

 過去の暗い人生を送っていた自分を見ている感じで嫌な感じだった。

 でも同じような半生を送って来たからこそ、カヲルの生への執着心が弱い気持ちがレイには理解できた。

 シンジ達が教えてくれたように、カヲルにも生きる事の楽しさを伝えたいとレイは思うようになった。

 その気持ちがレイとカヲルの距離を少しずつ縮めて行った。

 

「洞木さん、今日は私の話を聞いてくれてありがとう。それで、まだ洞木さんに聞きたい大事な事があるの」

「な、何かな?」

 

 真剣な表情になって尋ねるレイの気迫に、ヒカリは圧され気味だった。

 

「洞木さんと鈴原君は〇〇〇スしたの?」

「あ、綾波さん! そんな不潔な言葉どこで覚えたの!?」

「加持三佐が、セ〇〇〇は愛の証だって言っていたわ」

「全く、ミサト先生ってば!」

 

 ヒカリはフランク過ぎる担任教師のニヤケ顔を思い浮かべて毒づいた。

 

「その……綾波さん、私たちはまだ中学生だし、手を繋ぐくらいで良いと思う」

「〇スはした事あるの?」

「告白した時、1回だけ……」

 

 顔を真っ赤にしてヒカリは答えた。

 

「加持三佐は、初めてのキスはカレーの味がしたって言っていたけど、洞木さんもそうだったの?」

「うん、まさにその通りよ!」

 

 不意を突かれて驚いたヒカリは思い切り肯定してしまった。

 そんなにメジャーなのかしら、カレーを食べた後のキスって、とヒカリは思った。

 

「ありがとう。誰かと付き合う事になったら、話をして、見つめ合って、手を握る事にするわ」

「うん、それが良いわよ」

 

 こうしてヒカリによるレイへの恋愛指南は終わったのだった。

 

 

 

<ネルフ本部 赤木博士研究室>

 

 ダミープラグを開発する赤木博士のプロジェクトは俄然忙しさを増した。

 今までシンジ、アスカ、レイ、マナ、ムサシ、ケイタの6人のダミープラグに加えて、さらに倍となる6本の新規のダミープラグの開発が始まり、初めから開発チームに加わっているアオイ、カエデ、サツキの3人はもちろん、伊吹マヤの技術班の人間、惣流研究室のヒトミとマリまでダミープラグの開発の仕事に参加させられているのだ。

 ネルフの外国支部でもエヴァの建造が急ピッチで進んでいるとの話だった。

 6本の『量産型ダミープラグ』は汎用性の高いカヲルのデータをベースに作られた。

 何しろエヴァパイロットの選定よりダミープラグの開発が先行すると言う異例の事態だ。

 惣流研究室の一員としてダミープラグの開発に参加したアスカは、エヴァパイロットの候補者は自分の周りに居るヒカリやケンスケ、マユミなのでは? と疑念を抱いていた。

 しかし3人ともエヴァのパイロットの訓練は受けていない。

 さらにそれでもパイロットの数が足りないところを考えると、また外国支部からパイロットがやって来るのかとアスカは考えた。

 ここに来て急激に進められるダミープラグの開発とエヴァの建造。

 大人達は秘して語らないが、使徒との戦いは終わりに近づいているのではないかと子供達は感じていた。

 

「アスカ、最近は忙しそうだね」

「忙しいってレベルじゃないわよ、もうデスマーチ状態!」

 

 差し入れのお弁当を持って来たシンジにアスカは、そうぼやいた。

 最低限エヴァが動けば良いと言うゲンドウの要求をトリアージしているが、それでも合計12本のダミープラグの開発はネルフ本部の総力を挙げて行われていた。

 アスカもしばらく学校に通えなくなるほどだ。

 

「僕もアスカ達を手伝えれば良いのに」

「アンタみたいな学校のプログラミングの授業も出来ないのが参加しても足手まとい。船頭多くして船山に上るってヤツよ」

「そっか、僕と綾波達だけ学校に通うのは何か申し訳ない気がしてさ」

「だったら、アタシに毎日元気が出る味噌汁を作る事、良いわね!」

「それならお安い御用だよ!」

 

 アスカの言葉を聞いたシンジは顔を輝かせた。

 

「アスカ、シンジ君にプロポーズしてのろけているのもそれぐらいにして、作業に取り掛かってくれる?」

「アタシは別にそんなつもりじゃ……」

 

 リツコは不機嫌そうな顔でアスカにそう告げた。

 マヤもいつもの明るく穏やかな感じでは無く、眉間にしわを寄せて、

 

「これだから新人は使えないのよ」

 

 とつぶやいて、研究室はギスギスした空気に包まれていた。

 シンジはその空気から逃げるように研究室を出た後、毎日お味噌汁を作ると言うアスカの言葉の意味に気が付いて顔を赤くするのだった。

 

 

 

<ネルフ本部 惣流博士研究室>

 

 元々、アスカの珍兵器開発のために再稼働された惣流博士研究室だが、その自由度の高さから、組織のしがらみにとらわれずに人材を採用する事が出来た。

 

「マリイ・ビンセンスちゃんと、涼波コトネちゃんよ」

「ちょっとマリ、何勝手に人を増やしているのよ! この研究室の所長はアタシよ、アタシ!」

「えーっ、マリイちゃんもコトネちゃんも役に立つと思うんだけどなぁ」

 

 マリの話によれば、マリイもコトネもネルフ支部のエヴァパイロット候補生なのだと言う。

 マリイはロシア支部、コトネはフランス支部のパイロット候補生なので、惣流研究室に留学と言う形になった。

 

「まあ、ワタクシもアナタの妙ちくりんな研究に協力してよろしくてよ!」

「私も活躍して、人気者になるんです!」

 

 一癖も二癖も性格に難がありそうな2人だが、今は猫の手も借りたいほど人手不足だ。

 ダミープラグの開発の開発に大忙しで、兵器の開発などやっていられる余裕が無いほどだ。

 マリイもコトネもアスカと年齢が近いと言う事で、短い間だが第壱中学校に通う事になった。

 アスカはマリイの高飛車な性格と、コトネの空回りするドジっ子振りに、上司としての大変さを実感した。

 

 

 

<第三新東京市郊外 加持邸>

 

 「何だ何だ? 今回は使徒を倒す前に打ち上げパーティをやるのか?」

 

 家の主人であるリョウジは、明るい表情でミサトに尋ねた。

 

「マリイちゃんとコトネちゃんの歓迎パーティをやる事になったのよ」

 

 リョウジにそう答えたミサトは声を潜めてリョウジに尋ねる。

 

「ネルフ支部のパイロット候補生だって話だけど、支部には他にもパイロットを隠しているのかしら?」

「それはあり得る話だが、俺が探った限り他のパイロットは見つからなかった。ヨシアキにはシンジ君の友人達を探らせている」

「まさかヒカリちゃんや相田君たちがパイロットだとは思いたくないわね」

 

 ゲンドウなら非情の手段を取るかもしれないとミサトは危惧していた。

 まさか拉致して強引に洗脳まではあり得ないと思うが、ミサトに説得させてエヴァに乗せようとするかもしれない。

 

「使徒に対するエヴァの戦力は十分に足りている。これ以上使徒と戦うためのパイロットが招集されるとは思えないが……」

 

 使徒を倒した後に行われようとしている人類補完計画。

 リョウジはその事を思うと顔が曇った。

 

「ねえミサト、マリイとコトネに第三新東京市を案内しようと思うんだけど」

「良いわよ、行ってらっしゃい。美味しいご飯を作って待っているから」

 

 アスカの言葉に、ミサトは快くOKした。

 どうやら集団デートを楽しみたいヒカリの提案のようだ。

 ミサトはシンジとアスカ、レイとカヲルの関係を確かめる良い機会だと思った。

 

「俺に浮気調査のような事をさせるのか」

「だって、ヨシアキが料理を作らなかったら尾行がバレちゃうじゃない」

「はぁ、仕方ないな」

 

 リョウジはため息をついてぞろぞろと街を歩く子供達の後を追いかけて行った。

 この時期にマリイとコトネが来日した事にも個人的に興味があったからだ。

 

「もしあのゼーレが生きていれば、一緒に居たのかもしれないな」

 

 リョウジの脳裏にはもう1人の少女、ゼーレの姿が思い浮かぶのだった。

 

 

 

<第三新東京市 市街地>

 

 規格の発案者であるヒカリの通りに、シンジ達は街に出ていた屋台でクレープを食べ、洋品店を周り、映画を観た後、ボーリング場で遊ぶと言うデートの定番コースを回っていた。

 

「第三新東京市は将来の日本の首都だと言われているのに、随分と寂しいですわね」

 

 人通りはそれなりにあるものの、半数以上の店がシャッターを下ろしているいまいち活気の無い街並みにマリイはそうつぶやいた。

 第三新東京市の郊外には使徒ゼルエルの空けた大きな穴が埋められずに残っている。

 多くの住民が第三新東京市から疎開しているのだ。

 使徒との戦いが長期化すれば、第三村となってしまうかもしれない。

 

「えっ、じゃあここで活躍しても、有名になれないんですか?」

「エヴァとネルフの戦いは全世界が注目しているから、そんな事は無いと思うぜ」

 

 コトネの言葉にケンスケがそう答える。

 ケンスケは自称戦場カメラマンのチューバーとして、第三新東京市の様子を撮影し、再生回数を稼いでいた。

 マユミはケンスケが第三新東京市の苦しい現状を疎開せずに残って世界に伝えているのだと勝手に憧れている。

 

「アタシはここが第三村になっても残るわ。私達の大事な家がある街だもん」

 

 アスカの言葉にシンジとレイも頷いた。

 

「それに、まだ通販の配達禁止区域にはなっていないしね」

 

 それでも配達員に危険手当が付くのか無料だった送料は5千円となっていた。

 念願適ったヒカリはトウジと手を繋ぎながら歩き、マナ達3人も相変わらずの距離感だった。

 アスカは…シンジと手を繋ごうとするが、レイの方を見るとシンジへと伸ばした手を引っ込める。

 

「アスカはマリイさんの事、嫌いじゃなさそうだね」

「あら、アタシはハッキリと物を言うマリイを気に入っているわ。どちらかと言うと、猫を被っているコトネの方がいけ好けないわね」

「えっ、涼波さんが?」

 

 アスカの言葉にシンジはキョトンとした顔になる。

 

「可愛い振りして、エヴァに乗って有名になりたいだなんて言ってるでしょ。アンタなんか、コロッと騙されそうだからアタシが注意しているの!」

「あ、ありがとう」

 

 アスカはコトネは本部の技術を盗みに来たスパイかもしれないとシンジに告げた。

 だからエヴァの事を甘えるように聞かれても答えないようにしなさいと釘を刺した。

 まだシンジはコトネにマナの時のような積極的なアプローチを受けていない。

 コトネから見るとシンジに対するアスカのガードは固く、アスカは形式的にはコトネの上司だった。

 だからアスカの不興を買う事は避けたいのだろう。

 アスカにはコトネが自分に媚びを売っているのは見え見えだった。

 ハッキリと本音をぶつけて来るマリイの方がアスカとしては付き合いやすい。

 

「惣流とマリイって、同族嫌悪かと思ったけど意外だな」

 

 ケンスケがそっとシンジに耳打ちする。

 

「それよりも涼波さんに気を付けろと言われたよ」

「ああ、何か腹の中で抱えているかもしれないな」

 

 ケンスケは嫌われたくないマユミの居る手前、カメラで女子を撮影する事は止めたが、新しくやって来た女子を観察するクセは抜け切って居ないようだ。

 シンジ達はその後も集団デートの定番コース巡りをした。

 途中で楽器店に寄った時は、レイとカヲルは目を輝かせて店員に質問を浴びせていた。

 ネルフに軟禁された期間が長かった2人の目には、外の世界の楽器は新鮮に映ったのだ。

 

「やっぱりレイは音楽に興味を持ったみたいね」

「どうしよう、僕達も音大を目指そうか?」

 

 シンジがそう言うと、アスカは真剣な表情でシンジを見つめた。

 

「シンジはレイと付き合う事に決めたの?」

「いや、僕は……」

「別にこれはアタシが意地悪で言っているんじゃない、シンジが本気で音楽の道に進みたいのなら音大行を応援するけど、軽々しい気持ちで自分の可能性を狭めないで。進学は自分の可能性を見つけるためでもあるのよ」

「うん……分かったよ」

「それはレイにも言える事だけどね」

 

 アスカは最後にポツリとそうつぶやいた。

 レイがシンジから逃げるために音大コースを選択するのならば、アスカは止めようと思った。

 でも今のレイとカヲルを見ている限り、本当に音楽が好きなようだった。

 読書好き同士でレイと友達となっていたマユミは寂しく思っていたが、その心の隙間を埋めるようにケンスケと接近していた。

 

「かつての第三新東京市の栄光が見れなかったのは残念だったけど、まぁまぁ楽しめたわ」

「私はすっごい楽しかったです! 先輩たち、ありがとうございました!」

 

 加持家での夕食会が終わった後、マリイとコトネはお礼を言ってネルフの独身寮へと戻って行った。

 アスカ達が警戒して距離を取っていたコトネの方はともかく、マリイは誰にも心を開いていないようにミサトは感じた。

 何か親しくしてはいけない事情があり、マリイの方から心の壁を作って我慢しているようにミサトには思えた。

 

 

 

<ネルフ本部 第一発令所>

 

 それからしばらくして、新たな使徒が出現した。

 使徒の侵攻ルートがかつての駿河湾上陸ルートではなく、富士山から御殿場市を通る真逆のルートであったため、ミサトは不穏なものを感じていた。

 もちろん360度どのルートからでも使徒に対応する態勢は取っている。

 しかし大涌谷のような山岳地帯にエヴァを出撃させるのは初めての事だった。

 空中に浮かぶ使徒はひも状で二重らせん構造、体を発光させていた。

 輪のようにグルグルと回転を繰り返すだけで、侵攻スピードは非常に遅いものだった。

 

「御殿場市を通過したって事は、戦略自衛隊による砲撃は行われたって事よね?」

 

 御殿場には厚木に次ぐ大きさの規模の戦略自衛隊の基地がある。

 接近して来る使徒に向けて、黙って指をくわえて見ていないはずだ。

 

「はい、N2爆弾こそ使われはしなかったものの、火力兵器による集中砲火はされています」

「その結果は?」

「A.T.フィールドの展開も、使徒による反撃も無し。そのまま大涌谷方面へと抜けて行ったと記録されています」

 

 シゲルとマコトの報告を聞いたミサトは考え込む仕草をした。

 とりあえず、マナ達の紫電・雷電・震電による威力偵察の必要は無い。

 

「ミサトさん、敵の動きは鈍そうやし、ワシと渚の2人にやらせては貰えへんやろか?」

「何よ、アタシ達の手柄を横取りする気?」

 

 トウジの提案に反発したのはアスカだった。

 

「別に誰が使徒を倒したかなんて関係無いと思うよ」

「さすがレコードホルダーのシンジは余裕ね」

 

 仲裁に入ったシンジの言葉にもアスカは反発した。

 使徒の数が残り少ないと感じ取っていたアスカは、シンジに使徒の撃破数で負けて居る事に悔しさのようなものを感じていたのだ。

 前の使徒の戦いも、シンジとの力を合わせての撃破だった。

 

「惣流さんの弐号機は、秘密兵器としてどっしりと構えていてよ。もし僕達が苦戦する様だったら参戦してくれないかな」

 

 カヲルがそう言うと、アスカは苛立った様子でモニター通信越しに発令所のミサトに強い視線を送った。

 

『分かったわ、今回は参号機と肆号機、零号機にオフェンスを任せます。初号機と弐号機はバックアップとして待機』

「何ですって!?」

 

 ミサトから下された命令に、アスカは驚きの声を上げた。

 

「ごめんねアスカ、鈴原君達にも戦いの経験を積ませてあげたいのよ。これからの使徒との戦いに備えてね」

 

 もう使徒なんかほとんど残って居ないくせに、と言いかけたアスカは言葉を飲み込んだ。

 

「アスカと碇君は前に使徒を倒したわ。今度は私達が頑張る番」

 

 レイにまでそう言われてしまっては、アスカも引き下がるしかなかった。

 

「加持三佐、作戦行動を開始しろ」

 

 ゲンドウの一声で発令所の空気が引き締まった。

 

「使徒の能力は不可解だけど、このままネルフ本部へと近づけさせるワケには行かないわ。参号機と肆号機はポジトロンライフルで使徒を攻撃。零号機もポジトロンスナイパーライフルで使徒を狙撃。3機の攻撃の射線が交わるようにして。そうすれば、威力は倍増だわ」

 

 浮遊した使徒の動きは非常に遅かったため、参号機と肆号機、零号機の3機で遠距離攻撃をする陣形を組む事が出来た。

 

【図解】

    

  (アルミサエル)

    使〇徒

     *

    /I\

   / I \

  参  I  肆

     I

     I

     零

     Ⅰ

    J■A      

(ジェット・アローン)

 

 

 参号機と肆号機は通常のポジトロン・ライフル。

 零号機はジェット・アローンから電源を供給したポジトロン・スナイパー・ライフル。

 

「レイのスナイパーライフルは距離は遠いけど、高出力でその分弾速も速いわ。タイミングをうまく合わせなさい!」

「よっしゃいくで、綾波、渚!」

「了解」

 

 ミサトの作戦を聞いたトウジはレイとカヲルに声を掛け、2人も返事を返した。

 

 3人のポジトロンライフルの着弾点が集中すると、円環だった使徒のその部分が焼き切れるように溶けて切れた。

 

「よっしゃ!」

 

 トウジが喜びの声をあげるのも束の間、ひも状の形になった使徒は、零号機に向かってその光る体を伸ばした。

 しかし肆号機が零号機をかばうように立ち塞がった!

 

「渚君!」

 

 使徒は肆号機のA.T.フィールドを貫き、肆号機の体へと突き刺さった!

 肆号機が身体を張って止めたお陰で、零号機まで使徒の体は届かなかった。

 

「使徒が肆号機と融合していきます!」

「浸食タイプか、厄介だな」

 

 マヤの報告を聞いて、コウゾウはそうつぶやいた。

 ゲンドウならば肆号機ごと使徒を殲滅させろと言いかねない。

 しかしカヲルはキール元所長が孫のように大切に育てて来た存在だ。

 直ぐにゲンドウも殲滅命令を出せなかった。

 

「肆号機パイロット、エントリープラグを射出して直ぐに脱出しろ!」

「それは出来ません。僕が使徒を抑え込まなくなったら、使徒は他のエヴァに襲い掛かります」

 

 カヲルはゲンドウの命令を拒絶した。

 

「渚君!」

「綾波君、君は近づいてはいけない、君まで使徒に侵食される」

 

 カヲルはそう言うと、ためらいもなくエントリープラグの座席にある、普段は隠されているレバーを引いた。

 

「大変です、肆号機のA.T.フィールドが反転しています!」

「まさか、使徒を巻き込んで自爆する気!?」

 

 マヤの報告を聞いたリツコが驚きの声を上げる。

 

「止めなさい、渚君!」

 

 カヲルの決死の覚悟に、発令所は騒然となった。

 自分が使徒に侵食されるリスクがあってもカヲルの自爆を止めようと、零号機を含めた全機が足場の悪い山岳地帯を駆ける。

 

「来てはいけない、僕が自爆する意味が無くなってしまうだろう!」

 

 カヲルは大声で近づく零号機達を制止しようとする。

 

『そうだ、君が自爆する必要なんて無いぞ!』

 

 シロウ博士の声が発令所に響き渡った。

 ダンゴムシのように転がって来た巨大なロボット、ジェット・アローンが零号機に体当たりをし、零号機は仰向けに倒れ込んだ。

 ジェット・アローンは零号機を足止めすると、でんぐり返しを続けて肆号機へと接近した。

 そして肆号機と融合しようとしている使徒アルミサエルの体を掴み、強い力で肆号機の腹部からアルミサエルを引き抜いた!

 

「ぐっ!」

 

 融合していた部分を引き抜かれた肆号機に乗るカヲルがうめき声を上げた。

 

『パイロットの乗ってない、遠隔操作で動いているジェット・アローンは使徒の浸食を受けないのだよ!』 

 

 シロウ博士は堂々と言い放つと、倒れている肆号機を思いっきり蹴り飛ばして、やっと立ち上がった零号機にぶつけてさらに跳ね飛ばした!

 

『N2リアクターの出力を最大限まで上げろ! 使徒を道連れにするんだ!』

 

 蛇の様にニョロニョロと動いて逃げようとする使徒を、ジェット・アローンは離さなかった。

 

『さあみんな、ジェット・アローンから離れるんだ!』

「ありがとうございます、時田博士!」

 

 シロウ博士がそう言うと、零号機も肆号機を抱えて転がるように逃げ出した。

 

『さらば、ジェット・アロォォォォォンン!』

 

 そして大きな轟音と大爆発が起こりシロウ博士は涙を流して可愛い我が子の名前を叫んだ。

 ジェット・アローンの自爆により、使徒は殲滅され大涌谷周辺は地形が変わるほどの大きな穴が開いた。

 

「ありがとうございます、ジェット・アローン、時田博士」

 

 そう言ってレイは自分も頭を下げつつ隣に立つカヲルの頭を下げさせた。

 ジェット・アローンが居なかったら確実に犠牲者が出た。

 発令所からも万雷の拍手が起こり、ゲンドウは司令席から立ち上がった。

 

「時田博士。今回の使徒殲滅の功績により、次世代兵器の開発を命じる」

「身に余る光栄に存じます」

 

 これはゲンドウがシロウ博士に、ネルフの予算で『ジェット・アローン2』を作っても良いと許可が出たと言う事だった。

 シロウ博士にとってはこの上ない御褒美だった。

 

「おめでとう、シロウさん!」

 

 同じネルフロボットチームに所属するパイロットのマナ達も再びシロウに拍手を送る。

 そんなお祝いムードの中で、レイはこっそり発令所から姿を消していた。

 

 

 

<ネルフ本部 カヲルの病室>

 

 使徒との戦いが終わった後、カヲルは精神汚染の危険や腹部のダメージもあり、入院する事になった。

 誰よりも真っ先に病室に駆け付けたのはレイだった。

 

「どうして、私を守ってくれたの? あそこで死ぬのは私だったはずなのに」

「僕にとって、生きる事と死ぬ事は同じ事何だよ。だから僕は死んでも構わなかったんだ」

「バカッ!」

 

 カヲルの言葉を聞いたレイは感情を剥き出しにしてカヲルを平手打ちした。

 

「生きていれば辛い事もあるかもしれないけど、楽しい事もたくさんあるのよ。それを渚君にこれから教えてあげようと思ったのに……」

 

 感情の高まったレイはそこで涙を流してしまった。

 

「ありがとう綾波君、あのまま自爆してしまっていたら僕はきっと後悔していたかもしれない。さらに綾波君や他のみんなに悲しい思いをさせていたかもしれないね」

 

 カヲルは腹部の痛みをこらえながらレイを自分の胸に抱き、優しくレイの頭を撫でた。

 

「あれ……渚君に頭を撫でられると、心がポカポカする」

「それは、どういう事かな?」

「うまく言葉に出来ないけど……渚君の事が好きになったみたい……」

「僕も君を抱いている間、身体が温かくなった気がするけど、これがポカポカ……なのかい?」

「いいえ、それは私の体温のせいだと思う」

 

 泣き終わったレイは冷静な顔に戻ってそうツッコミを入れた。

 

「退院したらまず、この前行った楽器屋に行きたいな」

「どうして?」

「綾波君とセッションが出来る楽器を探したい。構わないかな?」

「うん、私も渚君とセッションしたい」

 

 カヲルの言葉を聞いて、レイはそう答えた。

 そしてカヲルの目を見つめて顔を赤くして、

 

「命懸けで零号機を守ってくれてありがとう。渚君が居なかったら、私が零号機の自爆スイッチを押していたと……思う」

「実際に使徒を殲滅させたのはあの博士の作ったロボットだよ」

「それでもお礼を言わせて。碇君にも使徒のビーム攻撃から守ってもらった事があるけど、加持三佐の命令無しで命を懸けて私を守ってくれたのは渚君が初めて」

「僕はとっさに身体が動いてしまっただけだよ。僕にとって生きる事と死ぬ事は等価値だったんだ」

「今は、どう思うの?」

 

 レイの真っ直ぐな瞳に見つめられて、カヲルは初めて自分の抱いた事の無い感情を知った。

 

「何だろう、綾波レイ君を……失いたくない、側に居て守りたい、愛おしい、そんな気持ちが芽生えて来たんだ」

「えっ!?」

 

 カヲルの言葉に、レイは衝撃を受けた。

 シンジには友達として、パイロットの同僚として守り守られたいと言う感情は持って居たが、カヲルが自分に向けて来た感情はそれ以上のもの……愛を感じたのだ。

 

「カヲル君……」

 

 レイは思い切ってカヲルの手を握った。

 カヲルは一次的な接触を拒もうとはせず、レイの白い手を優しく握り返した。

 

「ああ……」

「どうしたんだレイ君、嫌だったのかい?」

 

 涙を流したレイを見て、放そうとしたカヲルの手を、レイはギュッと握って引き留めた。

 

「違うの、これは嬉し涙。洞木さんが流している所を見たけど、ついに私にも流す事が出来たのね」

 

 レイは鼻声でそう言うと、カヲルに素早く顔を近づけてキスした。

 唇が触れたのが1秒未満のライトキスだった。

 

「ポテトチップスの塩味がしたね」

 

 余りにも陳腐なカヲルの例えに、ファーストキスを捧げたレイはカヲルを平手打ちしたくなった。

 しかし既に1回この病室でカヲルを平手打ちにしている。

 レイはグッと感情を抑えた。

 そう言えば、アスカとシンジはキスをしたのかレイは聞いていない。

 もししていないのであれば、自分が一歩リードした事になる。

 レイはそう思うと愉快な気持ちになって笑みを浮かべた。

 

「あら2人とも、仲が良さそうじゃない」

 

 そのタイミングでアスカ達がカヲルのお見舞いに病室へと入って来た。

 

「2人ともファーストキスまで行っちゃった?」

 

 ミサトがからかうようにそう言うと、レイは顔を真っ赤にした。

 これはしてしまったと自白するようなものだった。

 しかしここはカヲルの病室、ミサトはそれ以上からかうのは自重した。

 

「渚君の怪我が治って退院したら、改めてあたしの家に集まりましょう」

「そうですね、渚君抜きで打ち上げパーティをしたら可哀想ですもんね」

「……そうじゃないけどね」

 

 マユミの言葉に、ミサトは少し沈んだ小声でそう呟いた。

 カヲルの見舞いを終えたミサトはゲンドウに電話で報告をする。

 

「はい、見立てではレイが暴走する様な事は無さそうです。むしろ渚君が側に居る事で、心が強くなっている感じがします。あの『真実』を公表しても大丈夫でしょう」

 

 カヲルの病室を出て行くアスカとシンジはしっかりと手を握っていた。

 しかしカヲルを手を握って病室に残る事を決めたレイは、その2人の姿を見ても深く傷ついたりしなかった。

 碇君とアスカが付き合って、自分が完全にフラれたと分った時は、滝のような涙を流して号泣すると思ったのに、不思議な物だとレイは思った。

 だからと言ってまだ、アスカとシンジがキスをする場面は目撃はしたくない。

 シンジ達が病室を出た後も、レイとカヲルはお互いの空白を埋めるように饒舌に話をするのだった。

文章量少なめのハイペースで進めた連載ですが、補完した方が良いでしょうか? 最終話だけ別のアンケート(続編について)になります。

  • 本文は今の量が読みやすいので外伝形式で
  • 本文の量が増えても加筆修正が良い
  • 外伝で活躍させたいキャラ(メッセージで)
  • 第〇話の修正希望(メッセージで)
  • こんなifストーリーどう?(メッセージ)
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