新世紀エヴァンゲリオン for Children ~全ての子供たちのために~ 作:朝陽晴空
<ネルフ本部 司令室>
ネルフの司令室ではミサトとリョウジ、コウゾウとゲンドウの4人が顔を合わせていた。
4人の表情からは今までの厳しさのようなものよりも、寂寥感の方が強かった。
「使徒の殲滅からシンジ達の保護者役まで……今までご苦労だったな、加持三佐」
「ネルフの中で、君の功績に並ぶものは居ないだろう」
「そこまで御褒めに預かり至極光栄でございます」
冬月とゲンドウのねぎらいの言葉に、ミサトは凛とした表情で答えた。
「加持三佐の功績に対して、私達ネルフには報いるだけのものは無くて申し訳ないと思っている」
「いえ、私は十分すぎるほどの報奨を頂きました。子供達と過ごした日々はかけがえのないものです」
ミサトの言葉を聞いて、リョウジは感慨深い溜息を吐き出した。
「そんな子供達を想う君にとっては辛い事を話さなければならないが……」
「碇司令、我々人類に敵対する使徒は全て殲滅されました。その上で、どうしても人類補完計画を行わなければならないのですか?」
残った使徒は第1使徒アダムの魂、第2使徒リリス、第17使徒タブリス。
3人とも加持ミサト、綾波レイ、渚カヲルとして人間達の社会に溶け込んでいる。
ミサトからは言い出しにくい話を、リョウジは切り出した。
「我々ネルフは人類補完計画……それにより引き起こされるサードインパクトを起こすために、使途を倒し、今もなお支部ではエヴァが建造され、パイロットの選定が行われている。ネルフは敵対する使徒を殲滅させるためにゲヒルンから移行したが、人類補完計画を行うキール所長やネルフ支部長達の考えは変わっていない」
「今まで積み上げて来た人類補完計画の準備を否定する事になれば、キール元所長を含め、ネルフ支部の反乱もあり得る。みな人類補完計画の遂行と言う悲願があってこそ、ネルフ本部に従属しているのだよ」
ゲンドウとコウゾウは口をそろえて、リョウジの提案に対して2倍以上の勢いで反論した。
「良いのよリョウジ。本来私達使徒は目覚めてはいけない存在だった。人の手によって目覚めさせられてしまったけど、サードインパクトを起こして地球をあるべき姿に戻さなければならないわ」
「しかしセカンドインパクトのトリガーを引いたのは俺達人間だ。君達使徒全員を殲滅してまでする事じゃない」
ミサトはリョウジの言葉に首を振った後、厳しい表情でゲンドウを見つめた。
「しかし碇司令、あなたは自らが神の器となって人類補完計画を遂行するはずだったのでは? 奥様との再会を果たすためにシンジ君を犠牲にするつもりですか?」
「私は私情でシンジを神にするわけではない。しかし成長したシンジならば、私以上の素晴らしい世界を創造できると思ったのだよ」
ゲンドウとミサトの視線が激しくぶつかり合う。
ミサトは子供達自身の幸せを願い、ゲンドウは世界にとっての幸せを願う。
「御子息にそれだけ期待を懸けているという訳ですか……」
両者の気持ちが痛いほどわかるリョウジはそう言ってため息を吐き出した。
この場に4人以外の人間が居たら、喧々諤々の大論争となるだろう。
ネルフスタッフの間で意見が分かれ、分断が起きるかもしれない。
話の流れを変えようとコウゾウが、ミサトに質問を投げかける。
「加持三佐、君はチルドレン達を指揮して、使徒をせん滅して来た。それは、葛城ミサトの人格としての父親である葛城博士の敵討ちによる復讐か?」
「確かに、葛城ミサトの中に生まれた新たな人格としてその動機もあったのかもしれません」
この場に居るミサトは、2人のうちの1人のミサトとしてそれを認めた。
そこで言葉を止めたミサトは、今度は新たに生まれた別人格の視点から話を始めた。
「しかし私は、人間は我々使徒に座して滅ぼされるべきではない素晴らしい種族だと感じたのです」
「人間が素晴らしい種族だと? 加持三佐、君は14歳の頃から戦略自衛隊として世界に派兵され、争いを続ける人間の愚かな面を見てきたはずだ」
口を挟んだゲンドウの言葉に、ミサトは首を大きく横に振った。
「私が戦場で目にしたのは、人は誰かを守るために戦う言う姿です。これは私たち使徒には無い、人間の素晴らしい長所です」
「それがアダムの魂を持つ君が、葛城ミサトとして使徒リリスと共に私達人間に力を貸し、裏切り者と言われようとも同族である使徒をせん滅させ続けて来た理由か」
ミサトの言葉を聞いたコウゾウは改めて感心したようにため息を漏らした。
「私は人間が叡智を合わせ、リリスの身体からエヴァを建造できれば使徒をせん滅出来る、その可能性に賭けたのです。今の子供たちが最強の使徒をせん滅する力だけのを持っているのならば、私は喜んで討たれましょう」
ミサトが宣言すると、司令室の中は静まり返った。
「加持三佐の覚悟は分かった、それでは猶予を与えよう。建造中のエヴァ量産機が完成し、約束の地に終結する時までだ。ネルフの支部長達の突き上げを抑えられるのもそれが限界だからな」
「温情をかけて頂き、誠にありがとうございます」
ミサトはゲンドウに深々と頭を下げた。
「それでは零号機のコアのサルベージの準備と、使徒アダム用の武装の用意をお願いします。今まで奪った同胞の命の重みを考えると、あたしも子供達に温情を掛けて簡単に負けを認めるわけにはいきませんので」
ミサトはゲンドウにウインクをすると、陽気な表情でリョウジと共に司令室を出て行った。
「強く美しい女性だったな。出来ることなら死なせたくないものだ」
「私はアダムの意志を持った力強い男性に思える」
コウゾウに対して、ゲンドウはそう答えた。
<旧東京都多摩地区 八王子音楽大学付属高等学校>
レイとカヲルの2人は、ミサトの運転する車で音楽大学付属の高等学校へと行った。
表向きの理由はこれから2人が通う事になる音楽大学付属の高等学校が普通の高校とどう違うのかを見せるためだった。
しかしこれはレイとカヲルだけをシンジ達から離れた場所から呼び出すのための口実だった。
「レイ、渚君、ごめんなさい。あなた達の為にも人類補完計画は何としてでも止めたかったけど、碇司令達の考えを変える事は出来なかったわ」
人類補完計画が遂行されなければ、レイとカヲルも高校へ進学する事も出来たはず。
ミサトは2人に対する申し訳ない気持ちで一杯だった。
「加持三佐、頭を上げてください」
「それよりも、音楽大学付属高等学校はどんな場所か案内して欲しいな。家に戻って碇君たちにどんな場所だったか聞かれて、何も見ていないじゃ格好が付かないからね」
「あなた達……!」
レイとカヲルの言葉を聞いて、ミサトは溢れ出しそうになる涙をグッとこらえた。
これから音楽大学付属高等学校を見学するのだ、泣き腫らした顔で行くわけにはいかない。
3人は学校の許可を貰って見学者の腕章を付けて、音楽大学付属高等学校の中を見て回った。
決して叶うはずのない夢。
それでも3人はそんな様子は少しも見せずに、教師や生徒達に案内を受けたのだった。
<第三新東京市 第壱小学校>
碇ゲンドウに与えられた猶予は各支部で建造されたエヴァが完成し、日本に集結する時まで。
約束の時まで、ミサトは出来る限り長く今までの日常を続けたいと思っていた。
しかしこの後、最強の使徒と戦う事になるシンジ達のエヴァの訓練も疎かにするわけにもいかない。
末永く生きる希望を断たれてしまったミサトは、自暴自棄になっても良いはずだった。
だが自分達の人生が残り少ない事を、シンジ達に勘づかれたくない一心でミサトは校長になるための勉強を続け、レイとカヲルは将来の夢を語った。
「まだシンジ兄ちゃん達は中2やから、1年以上自分らと一緒に居られるんやろ?」
「そうだね」
「まあ、その前に第壱中学校の校舎が再建されるかもしれないけどね」
サクラに対してそう答えるシンジとアスカ。
ミサトとレイとカヲルは、共に居られる期間がもっと短い事を知っていた。
リョウジがエヴァの建造の妨害工作を行えば猶予を伸ばす事は出来るだろうが、それは利敵行為だとして後にリョウジが罪に問われる可能性がある。
ミサトが居なくなった後の加持家はリョウジに守ってほしい。
幸い家事万能のヨシアキと言う息子も居る。
「それにしても、わたくし達がダミープラグの開発に参加しなくて良くなったとは、どういう風の吹き回しでございましょう? その為に呼ばれたのではなくって?」
「それなのに支部に帰らなくて良いってどういう事なのかな?」
シンジ達と一緒に学校に通う事になったマリイとコトネは疑問の声を上げる。
今まで12本ものダミープラグの開発にチルドレン達も巻き込んで全力で取り組んでいたネルフだが、技術部以外の人間は通常生活に戻って良い事になった。
これもきっとミサト達に与える猶予を長くするためのゲンドウの苦肉の策だろう。
エヴァが建造されても、コア入りの新型ダミープラグが完成しなければ12機全てのエヴァンゲリオンは動かせないからだ。
「でもこうして学校生活を送れるんだから良いんじゃない? ねえシンジ」
「そうだね」
レイとカヲルが何となく付き合っている素振りを見せてから、アスカとシンジも大っぴらにイチャイチャするようになった。
お弁当もアスカがシンジの分を、レイがカヲルの分を作るまでになっていた。
「でもエヴァの戦闘訓練が終わってないって事は、まだ使徒が攻めて来るかもしれないって事だろう?」
ケンスケの質問にトウジは胸を張って答える。
「そんなん、ワシらが束になって掛かれば倒せるさかい」
「トウジ、無理はしないでね」
「兄ちゃん、怪我だけはせんといてな」
ヒカリとサクラは心配そうな表情でトウジに声を掛けた。
「でもせっかく使徒を倒しても来年の春には受験生になってしまうんですね」
マユミがそう言うと、シンジ達は盛大なため息を吐き出した。
「す、すみません、空気を重くするような事を言ってしまって」
「その前に、クリスマスがあるじゃん! 楽しみだなあ」
オロオロするマユミに、マナがすかさずフォローを入れる。
クリスマスの話題が出ると、アスカは顔を赤くしてモジモジしながらシンジに告げる。
「あのね、アタシの誕生日って12月4日だったのよ」
「そんな! もう過ぎちゃったじゃないか、何で言ってくれなかったんだよ!」
「レイとの間にはシンジとは付き合っちゃいけないって協定があったのよ。でも今のレイと渚を見ていると、もう大丈夫かなって」
確かにここ最近は特にレイはカヲルとベッタリだ。
シンジが入り込む余地が無いほど2人だけの世界を作っているようにも見える。
「だから、アタシだけ誕生日を祝ってもらうのはフェアじゃないと思ったのよ」
再会してから、アスカは自分はシンジの婚約者だと言いながらも、レイとシンジの仲を取り持つような事もあった。
アスカはシンジの事を独り占めしたいと思っているのではないのかとシンジは疑問に思っていたが、レイに気遣う優しいアスカの一面を知ったシンジはますますアスカの事が好きになった。
協定は2人目のレイを暴走させないためにも、ネルフにとって好都合な約束だった。
「うん、クリスマスにはアスカの誕生日の分も加えた特別なプレゼントを用意するよ!」
シンジはアスカに向かって堂々と宣言すると、アスカはプレゼントを貰っていないのにシンジに飛び付いて喜んだ。
「加持三佐、クリスマスとはイエスキリストに関する行事を執り行う日では無いのですか?」
「うーんレイの言っている事は間違いじゃないんだけどね、日本では家族や恋人と楽しく過ごして、プレゼントをあげる日と思われているの」
レイの質問にミサトはそう答えた。
「そうだ、レイと渚君もお互いにプレゼントをしなさいよ!」
「……それは命令ですか?」
「いいえ、お姉さんのアドバイス。今のレイなら、命令以外にも自分のやりたい事はするわよね?」
「冥途の土産と言う事かな?」
「こらこら渚君、縁起でもない事を言わないの」
ミサトは言って悪い冗談があると冷たい目でカヲルをにらみつけた。
<第三新東京市郊外 加持邸>
そして迎えたクリスマス・イヴの日。
エヴァンゲリオンの建造やダミープラグの開発も煮詰まって来たところで、信仰心の熱いキール達もこの日ばかりは仕事をしろとは言わず、ネルフはMAGIに任せて休業日となった。
「ごめんね、母さんだけ働かせて」
そう呟いてリツコも加持邸へと向かう。
加持邸ではシロウ博士からのプレゼントとして、完成したばかりの『JA・V』が人工雪を作って降らせていた。
『JA・V』は以前の歩行型ロボットとは方針を変えて、5体のメカが合体して巨大ロボットとなるシロウ博士の欲望丸出しのロボットだった。
JAの献身の活躍により多額の予算が出た結果だった。
日本育ちのパイロット達は雪は映像では見た事があるが、触った事は無い。
セカンドインパクトによる気温の上昇により富士山の山頂に雪が降る事も無くなった。
「全く、雪程度ではしゃいでどうするんですの?」
ロシア支部所属のマリイが覚めた様子でそう呟くが、雪合戦を始めたチルドレン達の耳には届かず。
何個もの雪だるまが作られていた。
「明日を待たずに溶けてしまうなんて、短い命ね」
レイにしては珍しく感情をあらわにしてそう呟いた。
庭遊びを堪能したシンジ達は加持家の中へと入る。
窓の外に広がる雪景色、薪が燃え盛る暖炉。
これが全て作り物による演出だと言うのだから恐ろしい。
史上初のネルフ一斉休業だと言う事で、加持家のリビングダイニングには今までにない人数が集まった。
ヨシアキだけでは行き届かないところは、アスカが発明した『ロボットメイドシンジ』が配膳をしている。
どうして僕が長い髪のかつらを被って女装したメイド服姿がモデルになっているのかとシンジはアスカに抗議したが、変更は聞き入れて貰えなかった。
自分の顔をしたメイドロボットに配膳されるのは落ち着かないシンジだったが、コウゾウは何故か上機嫌な様子だった。
ヨシアキの作った美味しい料理でクリスマスパーティは盛り上がる。
キッチンから出る事の出来ないヨシアキに、皆一様に感謝していた。
ミサトも客をもてなすホストとして手伝う事を申し出たが、事情を知っているヨシアキはチルドレン達を肴に美味しいお酒を飲める最後の機会だろうとミサトを説得した。
ミサトはリョウジの肩に抱かれて満ち足りた表情でシンジ達を見ていた。
ゲンドウ達もお酒の勢いでうっかり秘密を漏らしたりしないように気を付けていた。
「それでシンジはどんなプレゼントを用意してくれたの?」
目を輝かせて機体の視線を向けるアスカに、シンジはタジタジとなった。
ヒカリやレイに相談しようかとも考えたが、ミサトに自分の頭で考える事が大切よと諭され、アスカの瞳のような青いサファイアのネックレスを渡した。
ぬいぐるみのプレゼントも考えたが、既にアスカは熊の縫いぐるみを持っていた。
「パパ、シンジからネックレスを貰ったわ。まあ朴念仁のシンジにしては頑張った方よね」
アスカは照れ隠しにぬいぐるみにそう話しかけて、シンジの方を直視できなかった。
シンジの方もアスカに真っ直ぐ素直に褒められるとは思っていなかった。
突き返されないだけ良かったと安心した。
「アタシからはこれ! バームクーヘン! ドイツから空輸で送ってもらったのよ!」
アスカは薄く切られたバームクーヘンを両手に持つと、眼鏡のように目の前にかざした。
シンジはそのアスカの仕草が可愛いと思った。
「何や、碇だけええ思いしよって」
「ドイツのお菓子だなんて美味しそう」
「そう? じゃあヒカリ達にも御裾分け」
「えっ!?」
アスカはそう言うと、持っていたバームクーヘンや、箱に入っていたバームクーヘンを振舞った。
「あれ、僕へのプレゼントじゃないの?」
「慌てない、慌てない」
そう言うとアスカは、別の箱から長く輪切りにされていないバームクーヘンを取り出した。
「じゃーん、ロングバームクーヘン! これをアタシとシンジで両端から食べるのよ!」
「えっ、それってつまり……」
終着点にはお互いの唇がぶつかる……つまりキスをする事になる。
アスカはシンジとのファーストキスは甘い物にしたかった。
「こんなに長いの、食べきれるわけ無いよ」
「アタシは長くても、シンジとするためなら咥え込んでやるわよ」
ポッキーゲームと言うものがあるが、アスカはロングバームクーヘンでそれをやってみせようと言うのだ。
パーティーの余興としては大いに盛り上がるものだった。
ポッキーゲームならば直ぐに決着が着くがバームクーヘンではそうはいかない。
恵方巻なら米の含む水分で食べやすいかもしれない。
しかし水分量の少ないバームクーヘンは自分の唾液で補って食べ進めるしかないのだ。
キスの為にどれだけの脳内興奮物質を充満させて中枢神経に働きかけ唾液を大量分泌させるか。
バームクーヘンを食べる量によって愛の強さが判る。
「口がすぐにパサパサになって、食べ進められないよ!」
「シンジ、アンタ男でしょう! アタシとキスしたくないの!?」
「僕だって、アスカとキスしたいさ!」
アスカの言葉を聞いて、シンジの瞳は燃え上がった。
シンジのバームクーヘンの食べる速度が上がる。
ゴールであるアスカの柔らかく甘い唇を求めて。
「今までアスカの方が押していたけど、シンジ君も巻き返して来たわね」
「シンジ君をかわいい弟の様に思ってたけど、やっぱり男はみんな性欲で生きているのね。不潔」
興味深そうに見つめるリツコと、シンジに軽い失望感を覚えるマヤ。
ケンスケはシンジとアスカとの大勝負を真剣な表情で撮影していた。
「相田君はこの楽しい思い出を残してあげようと、真剣なんですね」
マユミはまた誤解してケンスケへの憧れを深めた。
ロングバームクーヘン勝負は、肉食系女子のアスカが勝つと思われたが、スピードを上げたシンジの逆転勝利だった。
「痛たっ! 歯がぶつかったわよ! ゴール近くになったらスピードを落としなさいよ! それに鼻息も荒くてこそばゆかった!」
「ご、ごめんアスカ!」
パロディの1コマのようになってしまったアスカとシンジのファーストキスは、その場に居たみんなの笑いを誘った。
でもシンジとアスカは、こんなにもたくさんの人達に祝福されるキスも悪くないと思った。
「あたしもやってみよう!」
マナがそう言うと、ポッキーゲームもどきの遊びはチルドレン達の間で瞬く間に広まった。
あの内気なマユミですら、ポッキーを口に咥えてケンスケを誘っていた。
ミサトとリョウジは、酒のつまみだった裂きイカで楽しんでいた。
「渚君、少し外を散歩しない?」
「どうしてかな?」
「あなたに渡したいプレゼントがあるの。でもみんなの前じゃ恥ずかしいから……」
「そうか、分かったよ」
レイとカヲルは加持邸の庭へと出て行く。
防音がしっかりとした加持邸では庭で話すレイとカヲルの声は聞こえないだろうと2人だけは思っていた。
「私、カヲル君の為に歌を作って来たの。聞いてくれる?」
「もちろんさ」
『クローゼットの上で
くちづけを しましょう
いつまでも このままで
契約はしましょう
愛するのは恋人
返してよ恋人よ
パジャマットの上で
寄り添い歩くあなた
忘れてしまいそうで
パーティはいらないわ
そのままでもいいから
約束はしましょう
宛名のない手紙は
読書のように過ぎ
忘れてしまいそうで
何もなくていいから
顔をあげましょうか
憧れの恋人よ』
カヲルは黙って澄み渡った声のレイの歌を聞いていた。
「歌は良いねえ。僕もレイ君と同じ事を考えていたよ」
「えっ?」
カヲルの言葉を聞いたレイは驚いた顔になった。
「今度は僕が歌う番だ。聞いてくれるかい?」
「ええ」
レイは期待に満ちた表情でカヲルに答えた。
『願っても叶わない
怒っても叶わない
なんて叶わないから
やめても無駄にしない
ばら撒いていたいんだ
見えなくたっていいよ
飲み込んでいたいんだ
壊れなくたっていい』
「レイ君の歌には長さも質も及ばないけどね」
「ううん、渚君の想いは伝わって来た」
「それは良かったわね、おめでとう!」
加持家のスピーカーから発せされたアスカの声に、レイとカヲルは思わず身体を離して飛び退いた。
「盗み聞きとは趣味が悪いね」
「アタシとシンジだけ、パーティの余興にされるのはシャクよ!」
カヲルの言葉にアスカはそう答えた。
加持邸に防犯カメラなどのシステムが無いはずがないと言う事を2人はすっかりと忘れて油断していた。
「でも綾波さん、綺麗な歌声だったよ。歌詞も良かったわ」
「ありがとう、洞木さん」
「渚君の歌も良かったわよ」
「ありがとうございます、赤木博士」
もうネルフの誰もが忘れかけていたが、リツコは学生時代にバンドをするために髪を染めたのだった。
「ほら2人とも、戻っていらっしゃい! 今度は碇司令がリアルサイズ『黒ひげ危機一髪ゲーム』をするわよ」
「何だと加持三佐、私は聞いてないぞ?」
スピーカーの向こうでやり取りされるミサトとゲンドウのやり取りに、レイとカヲルは顔を見合わせて笑い、手を繋いで加持邸の中へと戻った。
「はい注目~! 樽の中に入って顔だけを出した碇司令が居ます。みんなは1本ずつ剣を持って樽の側面にある穴に剣を刺してもらいます。あっ、もちろん剣は本物じゃなくて、AR画像だから、遠慮なくぶっ刺してOKよ! それで当たりの穴に剣が刺さると、碇司令は電気ショックを受けます!」
「待て! それでは私は確実に電気ショックを受けると言う事では無いか!」
ゲンドウはミサトに抗議するが、ミサトはアルカニックスマイルを崩さない。
人類補完計画をゲンドウがシンジを使って行おうとしているのだ。
仕返しの1つでもしてやりたい気分だった。
「それじゃあ、アタシ達が一番乗りね!」
アスカとシンジは結婚式のケーキ入刀の様に、1本の剣を2人で握っていた。
「えいっ! 何だハズレか……」
「アタックチャーンス! アスカ・シンジペア、2回目をどうぞ♪」
「加持三佐、それはルール違反では無いのか!?」
「1人1本と言うルールからは外れていません♪」
このアタックチャンス方式が受けたのか、ペアになって剣を刺していくパーティの参加者たち。
特にミサトとリョウジ、レイとカヲルは憎しみを込めて樽に剣を刺した。
「私とマヤのペアの2本目が最後の穴ね」
「赤木博士、謀ったな!」
「こういう仕掛けは製作者側が圧倒的に有利なんですよ」
リツコはどの穴に剣が刺さっても反応しないようにプログラミングをしていた。
そして最後に自分の番になった時に電流が流れるようにセットする。
リツコもゲンドウに恨みに思う所があるみたいだ。
「ぐあああっ、私の痔が痛む!」
さらにリツコは電極をゲンドウのいぼ痔に着けていた。
女は炎、怒らせると怖い。
その後は平和的に『カタン』や『ディクジット』、小学生のサクラ達は『ウボンゴ』や『ブロックス』などのボードゲームを楽しんで、壮大なクリスマス会は幕を閉じた。
「来年もまたこんな楽しいクリスマスパーティが出来ると良いわね!」
「多分できるよ。受験生にも息抜きは必要だってミサトさんも許してくれますよね?」
「えっ、うん、そうね」
ミサトはアスカとシンジに曖昧な笑顔を向ける事しか出来なかった。
<ネルフ本部 作戦会議室>
クリスマスパーティの次の日は、学校は終業式。
いよいよ楽しい冬休みの到来だとサクラ達は喜んでいた。
しかし終業式の後、ミサトは大事な話があるとシンジ達をネルフ本部の作戦会議室へと呼び出した。
エヴァやトライデントのパイロットではないヒカリやマユミ、留学生のマリイやコトネまで招集された。
使徒と戦うための作戦にしてはおかしいとシンジ達は感じていた。
「今日はみんなに重大な話があるの」
ミサトはシンジ達に着席するように促すと、自分は教壇に立って大型スクリーンに『人類補完計画』と書かれた文字を映し出した。
シンジ達は初めて聞く言葉に疑問を募らせた。
「みんな静かに! これから説明するから!」
ミサトがそう言うと、シンジ達は私語を止めて前を向いた。
まるで学校のホームルームと変わらない雰囲気だった。
「まず最初にあなた達に謝らなくてはならないわ。ネルフは使徒を倒して世界を平和にする組織だとあなた達に話していたけど、それとは別の目的があるの。それが人類補完計画。今まであなた達に話さずにいてごめんなさい」
ミサトはそう言うと、教壇から降りてシンジ達に向かって直角に身体を折り曲げて深く深くお辞儀をした。
騙されていたシンジ達は怒っても良い立場だったが、ミサトに謝られてしまうと怒る気持ちはすっかりと削がれてしまった。
「ミサト先生、顔を上げてください。先生が悪かたて反省しているのはよう分かりましたさかい」
「ありがとう」
ミサトは身体を起こすと人類補完計画の内容について話し始めた。
ここからは上手い順番で話さないとシンジ達が混乱を起こしてしまう。
「今から15年前、私の父が起こしてしまったセカンドインパクトによって、南極の氷が溶けるだけでは無くて、地球の地軸まで傾いて、世界中で異常気象が起こったの。この日本も、春・夏・秋・冬と4つの季節があったのよ」
南極の氷解によって海面が上昇し多くの島や沿岸地帯が沈み、農作物が育てられる農地も減ってしまった。
その結果起こったのが第3次世界大戦だ。
「あまり長く話すと、学校の歴史の授業のようになるから省略するわ。そこでサードインパクトを起こして地球の地軸を戻して、世界を元の姿に戻そうとするのが人類補完計画よ」
キールが掲げる理念など色々あったが、ミサトはその説明も省略した。
「そして人類補完計画を行うには、全ての使徒を殲滅させる必要があるの。使徒の方も補完を行う必要があった。だから使徒はこのネルフ本部を狙って攻めて来ていたの。人類と使徒との戦いに、あなた達を巻き込んで、本当にごめんなさい」
そこまで言うとミサトは教壇に両手の手のひらをついて身体を曲げて謝った。
余りの衝撃と知らなかった情報量の多さに、シンジ達は怒るよりも先にポカンとしてしまった。
「もうネルフを襲って来る使徒は居ないわ。でもまだ殲滅すべき使徒は残って居る。私と、レイと、渚君よ」
畳みかけるようにミサトがそう言うと、シンジ達は完全に質問を浴びせる機会を失った。
<第三新東京市郊外 加持邸>
作戦会議室でのミサトは、シンジ達に一方的に大量の情報を与えるだけで、シンジ達に質問をする時間を与えなかった。
そして最後の使徒との決戦の時刻は明日の朝、決戦の場所はネルフ本部のセントラルドグマ、と告げると、シンジ達には今夜は家で待機するようにと命令し、自分達は準備があるからと言ってレイとカヲルを連れて去って行った。
「ヒカリがエヴァに乗らなあかんと言うのは、ワシらみたいな思いをさせるっちゅう事やろ?」
「俺はエヴァに乗りたくてたまらなかったけど、山岸さんに強要するって言うのはどうかと思うぜ?」
加持家のリビングでトウジとケンスケは、お互いのパートナーを想ってそう呟いた。
エヴァ量産機に乗るパイロットして急に決定したチルドレン達は、加持家に泊まる事になった。
あまりの事にショックを受けて言葉も出ないヒカリとマユミには、アスカとマナが側について慰めていた。
まだトウジもケンスケも、自然にヒカリとマユミを抱き締め続けるまでには至っていない。
シンジ達が家に戻った時、ミサトとレイ、カヲルの部屋だった場所はすっかりとヨシアキによって片付けられていた。
シンジの部屋にはトウジとケンスケが寝るためのベッドが用意され、アスカの部屋にはヒカリとマユミのベッドが用意された。
ミサトの部屋だった場所には、マリイとコトネが夜を過ごす部屋が用意されていた。
だからと言って誰1人も部屋に閉じこもる事は無く、ヨシアキの作る夕食後も子供達はリビングに集まって過ごして居た。
「ヨシアキ兄さん、人類補完計画を止めることは出来ないんですか? 今の世界で、ミサトさんや綾波やカヲル君達と一緒に仲良く暮らし続けたいです」
「それはもう無理なんだよ、シンジ。君のお父さんは計画を中止できない所まで踏み込んでいる。何よりもキールさんやネルフの支部長達がそれを許さない。明日の決闘が許されただけでもキールさんの温情なんだ」
シンジの言葉に、ヨシアキは落ち着いた表情でそう答えた。
「そんな! ミサトさんはとってもいい人じゃないか! 僕たちに温かい居場所をくれた! 居なくなる必要なんて無いよ!」
「シンジ、それは君達が母さんに特別な感情を持っているから言えるワガママだ。新世紀を生き残るのは人間か使徒、どちらか片方だけだと決まっている。母さんは人間にも生き残る権利がある、そう思ってシンジ達と力を合わせて使徒を殲滅して来たんだよ」
ヨシアキは重い口調でシンジの感情を抑え込む。
シンジだけでは無くリビング居る全員に言い聞かせているかのようだった。
「俺達3人もエヴァに乗って掛かって来いだなんて、ミサトさんは勝負に負ける気で居るのか?」
「ムサシ、母さんは自分の命を簡単に捨てるつもりはないよ。ただ人間にも使徒にも生きるチャンスは平等に与えられるべきだと考えている。だから、君達がもし負けた時は……使徒の数が足りなくても使徒の為のサードインパクトを起こすつもりだよ。油断しない事だね」
ヨシアキはクールを装って話していたが、遂に感情が止められなくなったのか、堰を切ったように涙を流した。
「ダメだな、僕は君達の兄としてしっかりと役目を果たさなければならないのに」
シンジ達はヨシアキの近くへと駆け寄った。
「母さんと別れるなんて僕も嫌だよ!」
「そうよ、アタシもミサトと話したい事がまだまだたくさんあるんだから!」
「ミサト先生のお陰でわたし達も戦略自衛隊からネルフに来られたんだから、これからも居て欲しいよ!」
「ワシもまだミサト先生に恩を返し切れておらんで!」
「私も短い間ですが加持先生には大切な事を教わりました。もっと教えて欲しいです」
「みんなありがとう。洗面所で顔を洗って来るよ」
鼻水まで出て来たヨシアキはリビングから洗面所へと駆け込んだ。
マリイとコトネはミサトはこんなにも慕われているのかと驚いた様子で見ていた。
<ネルフ本部 零号機ケージ>
作戦会議室を出たミサトとレイとカヲルの3人は、零号機のコアのサルベージ実験に参加する。
葛城ミサトがこの世界に2人存在してはいけないため、もう1人の葛城ミサトの時間をエヴァの呪縛により封じ込めていたのだ。
「ごめんねミサ、今まであなたを閉じ込めたままにして。でもレイと心を通わせたあなたなら、外の世界に出て来れるわよね」
ミサトはもう1人のミサトにそう呼び掛けた。
アダム乗った事によりそれまで1人だったミサトには『ミサ』と『サトコ』の2つの人格が生まれてしまった。
その人格を切り離すため、そして零号機にコアを与えるための実験で、ミサは零号機のコアとなり、サトコはエヴァ零号機のパイロットとなった。
初めはサトコと呼ばれていたが、戸籍謄本は葛城ミサトとなっているため、ミサトと呼ばれる事が定着してしまった。
「ミサト、アダム用の武器も完成しているわ」
「ありがとうリツコ、あなたにシンジ君達を傷付けるような武器を作らせてしまって」
「今まで人間に力を貸してくれたアダムへの恩返しよ」
ミサトは1対6と言う不利な状況を覆すにはどのような武器が効果的かと考え、リツコに巨大な鎌状の武器を作らせていた。
大鎌は持っているだけで相手を威圧させる効果もある。
「それで、サルベージされた子は、何と呼べばいいのかしら?」
「最初から存在していた、正真正銘の葛城ミサトよ」
「分かったわ、でも私にとってあなたもミサトであることは変わらないから」
「ありがとう。それじゃあ行きましょう、レイ、渚君」
レイとカヲルはミサトとリツコの間に口を挟む余地が無かった。
3人はプラグスーツに着替えるためにロッカールームへと向かうが、レイは足を止めて振り返った。
「ありがとうお姉さん、お母さん」
レイに笑顔でそう言われたリツコは目頭を指で押さえた。
プラグスーツに着替えたミサトとレイ、カヲルが零号機のエントリープラグに一直線に乗り込む。
「なんか、ジェットストリームアタックを仕掛けるみたいな並び方ね」
真ん中のシートに乗り込んだミサトが茶化すようにそう言うが、レイとカヲル、発令所のリツコ達からは何の反応も返って来なかった。
「渚君、これで私達は1つになれるのね」
「混ざったL.C.L.がどんな反応を起こすか解らないけど、きっとそうさ」
みんなミサトのギャグよりもレイとカヲルの恋人同士の甘い言葉に涙腺崩壊させられているようだった。
「マヤ、零号機の起動開始!」
「はい……分かりました」
「あなたが号泣していてどうするの、しっかりしなさい!」
そう命令を下すリツコも冷静ではいられずに涙を流していた。
「ミサトさん……」
オペレータのマコトはミサトに憧れを抱いていた。
加持リョウジと言う伴侶が居るのにも関わらずその気持ちは消えなかった。
だから戦略自衛隊からネルフに舞い戻ったミサトが結婚して子供まで居ると聞いた時はショックで無断欠勤したほどだった。
使徒サキエルが襲来して来た頃には何とか立ち直った。
「シンクロ率、100%、200%、300%、400%」
3人のA.T.フィールドの消滅のカウントダウンである数値を読み上げるオペレータは、シゲルしか居なかった。
「エントリープラグ内、メインモニターに映します」
零号機のエントリープラグに人影は無くL.C.L.だけがエントリープラグを満たしていた。
「このL.C.L.に零号機のコアに封じられている魂を移し返して、14歳の葛城ミサトの肉体を再構成させるのよ。この濃度なら十分。ドイツ支部の時のように失敗は無いわ」
「しかしこれは、今まで加持三佐や、綾波レイ、渚カヲルを構成していたL.C.L.では?」
「そう、これで3人の肉体は完全に消える事になるわね。ただ魂は零号機のコアに宿る事になるわ」
マコトの質問にリツコはそう答えた。
「その魂は一体誰なんでしょう? レイちゃんと渚君は1つになれたんでしょうか?」
「それは私にも分からないわ。ミサトの意思が消えた途端に零号機が牙を剥いて襲い掛かって来る危険も考えられるわ。シンクロするパイロットが居なければエヴァは動かないけど、油断はしないで」
マヤの質問に答えたリツコは、万一に備えて初号機達を前もってセントラルドグマに待機させる事にした。
慎重に行われているこの実験は、開始から10時間以上が経過していた。
シンジ達も加持家で一夜を明かして、ネルフへとやって来ている頃だろう。
もうシンジ達はミサトと最後の言葉を交わす事は出来ない。
人がL.C.L.化するのはそれほど時間が掛からないが、その逆は難しい。
ましてや3人のL.C.L.が混ざり合っている状態だ。
零号機のコアに魂が宿ったのが確認出来た。
「さあ、ここからが正念場よ」
リツコはそう言って息を飲んだ。
パイロットがL.C.L.化するまでシンクロ率が高まった状態でエヴァが暴走状態になる事は予想された。その場合はネルフの施設を破壊される前に即座にサルベージ作戦を中断し、使徒殲滅作戦に切り替えなければいけなくなる。
コアが使徒の魂であり、エントリープラグ内はL.C.L.で満たされている。
この状況は使徒が仮設伍号機を乗っ取って暴走した時と同じなのだ。
「ダミープラグの用意は出来ているわね」
「はい」
リツコの質問に、最上アオイはそう答えた。
「これから14歳の葛城ミサトの肉体をL.C.L.から再構成する作業を開始するわ」
<零号機 マイナス宇宙空間>
零号機のエントリープラグの中でL.C.L.のスープと化したミサトとレイとカヲルの魂は、直ぐに混ざり合う事は無かった。
3人の魂は銀色に光る人型の精神体となって、零号機の中に発生したマイナス宇宙、いわゆる精神世界へと飛ばされた。
「少し寒いわ」
「こうすれば、寒さも和らぐんじゃないかな」
そう呟いたレイの身体をカヲルが抱き締めた。
「精神体だから体温は感じない」
「…そうかい」
「でも心はポカポカする」
レイはそうつぶやくと、カヲルの手をギュッと握った。
「多分、このマイナス宇宙空間は南極のイメージが強いんだわ」
側に居たミサトが言うように、自分達が居る場所は南極の遺跡の側に作られた建物の様に2人は感じた。
ミサトは葛城調査隊のベースキャンプであると確信していた。
彼女は大きな後悔を抱えているはず。
自分が南極へ行かなければ。
父親に褒められたい一心でアダムに乗らなければ。
セカンドインパクトは起こらなかった。
一番悪いのはロンギヌスの槍の使用を私欲のために妨害した調査隊のメンバーだと分かっている。
それでも自責の念は止まる事は無い。
無理やり叩き起こされたアダムも自分の暴走には後悔していた。
使徒はずっと永久凍土の中で眠るか、人類が滅亡してから地球を護る存在としてアトランティス人に生み出された存在。
自分の暴走のせいで使徒のプログラミングが狂って人類を襲う存在となってしまった。
「今まで寂しい思いをさせてごめんなさい、ミサ」
30歳になったミサトは、膝を抱えて座り込んでいる14歳の少女に声を掛けた。
「サトコ!」
ミサトに気が付いた少女は勢い良く飛び付いた。
どうやらミサに恨んでいる気持ちは無いようだった。
「やっとあなたに会えた」
レイがミサに声を掛けると、ミサは銀色に光る身体をレイの方に向けた。
表情は分からなかったが、レイにはミサが微笑んでいるように見えた。
だからレイはミサに向かって手を差し出すと、ミサもレイの手を握った。
直後に空間が大きく揺れ、南極の基地を形作っていたイメージもぼやけて行く。
マイナス宇宙空間の崩壊が始まったのだ。
「もしまた会えたなら、友達になって」
レイは消えゆく世界で最後にミサにそう声を掛けた。
ミサからに返事は聞こえなかったが、レイにはミサが頷いたように感じた…。
<ネルフ本部 零号機ケージ>
リツコの指示により、14歳の葛城ミサトの肉体の形成が始まった。
すると零号機の外見に変化が起こり始める。
黄色かった機体の色は黒く染まり、頭部も初号機を思わせる鋭い形へと変化した。
「先輩、これは……」
「零号機はリリスから作られた他のエヴァと違ってアダムから作られた唯一のエヴァ。今、アダムの魂と器が揃ったのね」
サルベージの成功を確信したリツコだが、零号機の形状変化が予想以上に早い事に強い不安を覚えた。
しかし、サルベージを中断するわけにはいかない。
14歳の葛城ミサトを復活させる事は一番の親友の望みなのだから。
「零号機、起動!」
「彼女とシンクロする気!?」
「赤木博士、直ちにエントリープラグを排出しましょう、そうすればアダムの覚醒も防げるはずです!」
マコトの意見は、事態を穏やかに解決する真っ当な正論だった。
エントリープラグを抜けば、アダムも動きを止める。
その後ダミープラグに差し替えれば、シンジ達も全力でアダムと戦える。
しかしリツコはサルベージの中止命令を出せなかった。
このまま中止しなければ、何もしなくても14歳の葛城ミサトの肉体は再構成されるだろう。
「赤木博士!」
再度マコトが決断を促す。
リツコは腹を決めた、こうなったらシンジ達に辛い思いをさせるが、希望を託すしかないと。
「零号機をセントラルドグマへと下降させなさい!」
「はいっ!」
リツコの下した決断にマヤは躊躇う事無く従った。
セントラルドグマに下降してしまえば、ダミープラグとの差し替えは不可能になる。
「こうなったら!」
ドンッ!
エントリープラグの射出信号を送ろうとしたマコトに向かって、リツコは拳銃で威嚇射撃をした。
「赤木博士!? 何を!?」
「日向二尉、あなたの決断は正しいわ。でも私はあなたを全力で止める。2度目は無くってよ」
銃を構えるリツコと、壁に埋まった弾を見て、マコトは身体を石像の様に硬直させた。
あなたの判断は間違っている、とリツコをにらみつける事しか出来なかった。
同じ発令所に居たゲンドウやコウゾウも、リツコのその行動を黙認している。
2人がマコトの行動に賛成ならば、リツコが拘束されるはずだ。
「お前さんの正義感は素晴らしいけどよ、ここはアイツの気持ちを汲んでくれないか?」
そんなマコトに声を掛けられる男はリョウジしか居なかった。
マコトは強い憤りを感じながらも、リツコから視線を反抗的な視線を反らした。
「シンジ、今から使徒がセントラルドグマに向かって下降する。戦闘準備」
ミサト不在の今、戦闘の指揮を執るのはゲンドウだった。
<ネルフ本部 セントラルドグマ>
ネルフの最深部、セントラルドグマ。
そこは薄暗く広い空間が広がり、第2使徒リリスが磔にされた十字架のオブジェクトがある。
初号機は前に1度だけロンギヌスの槍を取りにやって来た事があるが、落ち着いて見回すと不気味でおどろおどろしい空間だとシンジは思った。
「ネルフにこんな気持ち悪い場所があるなんて!」
「夢に出て来そうな場所やな」
「私もこんな場所には長居したくないな、やっぱり青い水が好き」
「俺も同感だ」
「おいら、今夜は眠れそうにないよ」
アスカの乗る弐号機、トウジの参号機、マナの伍号機、ムサシの陸号機、ケイタの七号機と、合計6体のエヴァが参戦する事になる。
マナ達3人はシンクロ率はそんなに高くはないが、ロボットを操縦していた経験もあって、即戦力として期待された。
ヒカリやケンスケ、マユミやマリイ、コトネもエヴァ量産機に乗せられる予定だったがパイロットの経験が無いため、ひとまずネルフ本部の施設で待機する事になった。
使徒が倒された後、慎重にエヴァパイロットの訓練を行えば良いと考えたのだ。
リツコの指示により、サルベージの途中であるにもかかわらず早めにエヴァ6機は戦場であるセントラルドグマで待機させられた。
しばらくしてゲンドウから通信が入る。
『シンジ、今から使徒がセントラルドグマに向かって下降する。戦闘準備』
シンジ達は気を引き締めて使徒の到着を待った。
そして下降して来たのは……色と形が変化した零号機だった。
「父さん、使徒って……エヴァじゃないか!?」
シンジはエヴァが使徒に乗っ取られると言う事件を思い出して声を荒げた。
あの時はエントリープラグにパイロットが乗っていると騙されて、実はダミープラグがエヴァを動かしていたと言う結末だった。
『良く聞いて、シンジ君達。しばらくの間、使徒に対して攻撃を仕掛けてはダメよ』
「はぁ!?」
リツコからの通信を聞いて、大きな疑問の声を上げたのはアスカだった。
『そのエヴァのエントリープラグの中では、L.C.L.から14歳のミサトの肉体の生成が始まっているの。完全に肉体が生成されるまで、エントリープラグから1滴もL.C.L.を漏らしてはいけないわ』
「ほならワシらは防戦一方って事ですがな?」
『鈴原君の言う通りよ。MAGIが計算した生成が完了するまでの時間は1時間。多少の誤差があるかもしれないから2時間は耐えて』
降下して来た零号機……今はアダムとなってしまったエヴァは、固まっているシンジ達を見つけると、攻撃する素振りを見せた。
「うわぁ! 鬼ごっこみたいだよ」
アダムの大鎌の攻撃を交わした七号機のケイタが声を上げた。
シンジ達は2時間も使徒と直接戦闘をした経験はない。
S2機関が搭載されているエヴァはエネルギー切れの心配は無いが、パイロットの体力と気力が持つかどうかの方が不安材料だった。
『2時間後に零号機のエントリープラグを引き抜いて、パイロットの安全を確保して……えっ、何ですって!?』
発令所の方で何かがあったらしく、リツコからの通信を通してざわざわと声が聞こえる。
『大変です! マリイ・ビンセントが肆号機に乗り込み、ネルフ施設の破壊行為を始めました!』
「何ですって!?」
マコトの報告の声を聞いたアスカが驚きの声を上げる。
「マリイ、アンタこんな時に何をやってるのよ!」
アスカがモニター通信を通してマリイに呼び掛ける。
『ごめんあそばせ。わたくし、大統領に家族の命を人質に取られているんですの。大統領の命令に従わなければ、家族が殺されてしまいますわ』
大統領?
どこの国の大統領なのだろうと考えている余裕はシンジ達には無かった。
セントラルドグマで使徒アダムとなった元零号機と鬼ごっこの最中だからだ。
『伍号機、陸号機、七号機は地上に出て肆号機の無力化、及び侵攻部隊の迎撃に当たれ』
新たなゲンドウの命令が下る。
初号機と弐号機、参号機だけでアダムの相手をしろと言うのだ。
肆号機が暴れている他に、地上ではいったい何が起きているのか?
その答えはマヤがシンジ達に教えた。
『大変よ! ロシアの軍隊が日本に攻め込んで来たの!』
ロシアの大統領が、人類補完計画を自分の物にしようと、大軍を率いて攻め込んで来たのだった……。
文章量少なめのハイペースで進めた連載ですが、補完した方が良いでしょうか? 最終話だけ別のアンケート(続編について)になります。
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本文は今の量が読みやすいので外伝形式で
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本文の量が増えても加筆修正が良い
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