新世紀エヴァンゲリオン for Children ~全ての子供たちのために~   作:朝陽晴空

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第二十五話 終わる世界/少年は神話になる(2022/07/22 17:30)

<ネルフ本部 司令室>

 

 ロシア軍による日本への突然の侵攻。

 その正当性をロシア支部長はゲンドウや他の国の支部長に向かって主張していた。

 

「聞く所によると、碇司令。あなたは自分の息子に人類補完計画を委ねるそうでは無いですか」

「まだ決まったわけではありません。私はシンジの成長した姿を目にして、私よりも素晴らしい世界を創造できるかもしれないと思ったまでです」

 

 ロシア支部長に対して、ゲンドウはそう答えた。

 

「我々の人生の半分も生きていない子供に、世界の運命を左右させるとは正気の沙汰とは思えませんね。貴方の部下の中にも、補完計画に最後まで反対していた者達が居たそうでは無いですか。もしや補完計画を潰そうとしてそのような事を言い出したのではないですか?」

「確かに加持リョウジ三佐やシンジは使徒との共存を主張し、補完計画の遂行に反対した。しかし最終的には補完計画の遂行を了承した。補完計画の妨害をしているのは貴国の軍隊では無いのか?」

 

 ゲンドウの正直な物言いに、各国の支部長の支持もゲンドウに集まるかに思えた。

 ロシアが日本に攻め入る大義名分が全く無い。

 

「これで中国と韓国がロシア軍の足止めをしてくれれば心強いのだが」

「そうだな」

 

 コウゾウのささやきにゲンドウは頷いた。

 

「だが肝心の司令の息子は、人類補完計画の生贄となる事を受け入れたのですか?」

 

 ロシア支部長のこの問い掛けについて、ゲンドウはYESと即答できなかった。

 ゲンドウは時間を掛けて慎重にシンジと話をするつもりだったからである。

 

「それでは司令が人類補完計画を遂行しようとしているのか、判断が出来かねますな」

「左様」

 

 韓国と中国の支部長が中立的な態度をとったのだ。

 

「韓国と中国は日和ったな。これでロシア軍は両国の領土を通る事が出来てしまうぞ」

 

 ドイツ支部のキールやフランス支部など欧米諸国はロシアを非難したが、どうしても距離が遠い。

 ウクライナ方面からロシアの領土に攻め込むなどしたら、第4次世界大戦も起きかねない。

 ヨーロッパ諸国も今のところロシアに攻め入る大義名分が無い。

 さらにロシアは拒否権を発動し、国連軍の介入も不可能にした。

 

「日本は我が国の大切な同盟国だ。米軍は日本に協力する!」

 

 アメリカ支部長の言葉は心強いが、アメリカ本土もロシアから相当離れている。

 こうなれば戦略自衛隊と在日米軍がロシア軍を食い止めている間に人類補完計画を一刻も早く遂行するしかない。

 そうすればロシアも日本を攻める意味が無くなり、軍は引き揚げるだろう。

 

「これ以上の話し合いは無駄のようです」

 

 現場指揮官であるミサトが居なくなった穴は大きい。

 ゲンドウとコウゾウはリモート会議を強引に打ち切って司令室を出て、前線で指揮を執るために発令所へと向かった。

 

 

 

<ネルフ本部 発令所>

 

 ゲンドウとコウゾウが司令室へ戻ると、発令所は怒号が飛び交うほどの大混乱が起きていた。

 

「碇司令、ロシアとの交渉は上手く行かなかったようですね」

 

 玉のような汗をかいたリツコがゲンドウにそう尋ねた。

 ロシア軍の侵攻が止まない事から、リツコは外交ルートでの解決は失敗したと悟ったのだろう。

 2人が不在の間、リツコはセントラルドグマでアダムと戦うシンジ達への指示と、ネルフ本部で破壊活動を始めたマリイの乗る肆号機の対処に追われていた。

 特にマリイは必死の形相で涙を流しながら暴走を続けていた。

 人質に取られている彼女の家族は1人ではない。

 マリイが手加減をしたら見せしめとして危害を加える事もあり得るのだ。

 地上で暴れているマリイの肆号機を止めようと立ち上がったのは、今日初めてエヴァに乗ったばかりのケンスケ、ヒカリ、マユミの3人のエヴァ量産機だった。

 セントラルドグマに居るマナ、ムサシ、ケイタの乗る3機がエレベータに乗って地上に着くまで、肆号機がネルフの重要施設を破壊するのを文字通り身体を張って防いでいた。

 ロボットの操縦経験が無い素人の3人は、ダミープラグの補助を受けてやっと動ける状態だった。

 

「碇司令、大変です! エレベータへの電源施設が肆号機によって破壊されました!」

「何だと!? それでは伍号機、陸号機、七号機の地上への到達が遅れると言う事では無いか」

 

 シゲルの報告を聞いて、コウゾウが声を荒げた。

 

「エレベータの電気復旧を急げ。そのままではシンジ達も地上へと上がって来れなくなる」

 

 ゲンドウはセントラルドグマと地上を結ぶエレベータの復旧を最優先として命令を出した。

 

「そう言えば、鈴波コトネ君は? 彼女もエヴァのテストパイロットをやっていたはず。肆号機と対等に渡り合えるかもしれないのに」

 

 マコトの呟きを聞いたシゲルは直ぐに館内カメラでネルフの施設内を探した。

 そしてネルフの非戦闘員用シェルターで座り込んでいるコトネの姿を見つけると、連れ戻しに行くと告げた。

 しかしそのシゲルを止めたのはマヤだった。

 

「日向君や青葉さんが正論でコトネちゃんを追い詰めると、彼女はますます心を閉ざしてしまうかもしれないわ。コトネちゃんの説得は私に任せて、青葉さんはセントラルドグマで戦っているシンジ君達のサポートをお願い」

「分かった、俺が君の代わりを果たしてみせるよ」

 

 シゲルとマヤは見つめ合ってから、マヤは発令所を飛び出して行った。

 

 

 

<ネルフ本部 避難用シェルター>

 

 ロシア軍による第三新東京市への電撃的な侵攻作戦は、残った市民達への大混乱を引き起こした。

 戦略自衛隊やネルフに関係の無い商業ビルなどにも攻撃を仕掛け、店の品物を強奪して行く姿は軍隊では無く盗賊の集団のようにも見えた。

 地上では戦略自衛隊や在日米軍が奮戦しているようだが、戦う力を持たない市民達はシェルターに逃げ込むしかない。

 そして留守になった家の財産を奪っていくと言う略奪行為が繰り返されていた。

 

「うちらの小学校が、メチャクチャになっとるやんか……」

「学校が燃えちゃった……」

 

 シェルターに避難したサクラとノゾミも、声を上げて泣いていた。

 その2人をヒカリの姉であるコダマが胸に抱き締めていた。

 ロシア軍の無差別攻撃は第壱小学校も襲ったのだった。

 瓦礫と化した校舎から、コダマは必死になってサクラとノゾミの2人の手を引いてネルフのシェルターへと駆け込んだ。

 他の生徒達はどうなったかコダマには分からない。

 2人を助けるだけで精一杯だった。

 

「あそこに居るのは確か、ネルフの伊吹さん……?」

 

 どうしてネルフ本部の中枢に居るはずのマヤがシェルターに居るのか、コダマは不思議に思った。

 マヤはうずくまっている少女に声を掛けているようだった。

 

「わたしがエヴァのテストパイロットになったのは、エヴァにちょっと乗って有名になればアイドル活動がしやすくなるってプロデューサーさんに言われたからなんです! あんな怖い思いをするためになったんじゃないんです! 放って置いてください!」

 

 コトネはそう言って、マヤの手を跳ね除けた。

 

「でもコトネちゃんは、エヴァのパイロットになるための操縦練習はしていたんだよね。エヴァでダンスを踊るために。お願い、コトネちゃんの力を貸してほしいの。ヒカリちゃん達だって今日初めてエヴァに乗ったのに、肆号機と戦っているの」

「ヒカリお姉ちゃんがエヴァに乗ってるって本当なの?」

 

 マヤが驚いて振り返ると、青い顔をしたノゾミとコダマの姿を見つけた。

 余計な事を聞かれてしまったと、マヤが後悔しても遅い。

 その直後、大きな衝撃がシェルターに走った。

 天井からパラパラと細かい粉が降り注いて騒ぎになる。

 ロシア軍のミサイルが近くに着弾したようだ。

 

「コトネちゃん、ここも絶対安全だとは言い切れないわ。お願いだから……」

 

 マヤがそこまで言ったところで、サクラがコトネの顔をグーパンチで殴った。

 小学校低学年の力だとは言え、中学1年生のコトネをよろめかせるには十分な威力があった。

 

「こんなところでウジウジ腐ってないで、さっさとエヴァに乗らんかい! ノゾミの姉ちゃんはドンくさいし、虫も殺せないような性格なんや、それでもエヴァに乗って戦ってるんやで!」

 

 サクラのこの言葉は、コトネの心に相当響いたようだった。

 

「わたし、エヴァに乗ってマリイさんを止めます!」

「良く決心してくれたわね、ありがとう」

「姉ちゃん気張りーや!」

 

 サクラの元気な声に送られて、コトネはマヤとエヴァの元へと向かうのだった。

 

 

 

<戦略自衛隊 御殿場基地>

 

 戦略自衛隊の御殿場基地はネルフ本部から富士山を挟むような近い距離にあり、日本海側や東シナ海側から上陸したロシア軍の侵略部隊は必ずこの基地を破らなければならなかった。

 厚木基地からは航空部隊が援軍として駆け付け、戦略自衛隊はロシアの主力陸戦部隊は絶対にここで堰き止めると気合いを入れていた。

 この地点を占領されてしまうと、第三新東京市は直接砲撃を受けてしまうからである。

 

「いいか、絶対にロシア軍の第三新東京市及び富士山周辺への侵攻を許してはならん、チルドレンのために!」

「チルドレンのために!」

 

 上官の言葉に仕官達も復唱する。

 エヴァのパイロットである子供たちを守る、それが加持ミサトの遺言だとネルフから伝えられていた。

 制空権はまだロシア側に奪われていない。

 しばらくは耐えて見せると戦略自衛隊の士官達は誓った。

 介入を禁止されている国連軍の元自衛隊の士官達は、基地から離れた場所で見守る事しかできなかった。 

 

 

 

<ネルフ本部 セントラルドグマ>

 

 ネルフの最深部セントラルドグマでは、最後の使徒アダムとシンジ達の戦いが続いていた。

 一刻も早く使徒を倒して地上へと駆け付けたい。

 しかしアダムのエントリープラグの中でL.C.L.から14歳の葛城ミサトの肉体の構成作業が完了するのを待つために、2時間は攻撃を仕掛ける事は出来ない。

 アダムの大鎌攻撃を避けながら、シンジ達にはほんの数分が何時間にも感じられていた。

 地上の戦況は発令所からの通信を介してシンジ達の耳にも届いた。

 

「碇君、大変よ! 肆号機の攻撃でエレベータがストップしちゃった!」

「それじゃあアンタ達は直ぐにヒカリ達を助けに行けないって言うの!?」

 

 マナの話を聞いたアスカは驚きの声を上げた。

 

「どうする? こうなったらよじ登るより俺達が飛び降りてそっちに行く方が早いと思うぜ?」

「いや、ムサシ君達は時間が掛かってもケンスケ達を助けに向かってくれないかな? アダムは僕達が何とかするよ!」

「そや、ヒカリ達は今日エヴァに初めて乗ったばかりさかい、ごっつキツイ事になっとるやんか」

「分かった、おいらたちは地上を目指すよ! シンジ達も頑張ってね!」

 

 シンジとトウジの言葉にケイタはそう返事を返して、マナ達3人は地上を目指す事にした。 

 

「シンジ、お前達がアダムとの決着をつけるまでにはエレベータは必ず復旧させる」

「任せたまえ、この時田シロウ博士が何とかしよう!」

「ありがとう、父さん! 時田さん!」

 

 とりあえずシンジ達3人は目の前のアダムとの戦いに集中する事にした。

 誰か1人が欠けても、アダムを取り押さえてエントリープラグを引き抜く事は難しくなる。

 

「惣流さん、今までゴメンね! マリイは私が取り押さえてみる!」

 

 程なくして地上のコトネからエヴァを介したモニター通信が入った。

 

「コトネ、アンタ今まで何していたのよ!」

「怖くてシェルターの隅っこでガタガタ震えてた。でも鈴原君の妹のサクラちゃんに励まされて、わたしもエヴァに乗る勇気が湧いたんだ」

「妹を怒らせると恐ろしいで」

 

 コトネの話を聞いて、トウジが茶化すように言う。

 器量的には劣らないコトネがマリイの相手をするのならば、エレベータの復旧も妨害される事は無さそうだ。

 シンジ達は安心して大鎌を振り回すアダムとの戦いに専念できた。

 

「やっと1時間経過か」

「もう攻撃を仕掛けても良いんじゃない?」

「ダメだよアスカ、リツコさんも2時間は様子を見ろって言っていたじゃないか」

「せや、作戦を台無しにする気か?」

 

 アスカにとって防戦一方と言うのはストレスの溜まるものだった。

 しかし反射的に手が出てしまうアスカもこの1時間グッと我慢して耐え抜いて来たのだ。

 元零号機の使徒アダムの振り回す大鎌をソニックグレイブで受け止め、耐え凌いでいた。

 

「ん? アダムの動きが止まりおった?」

 

 トウジがアダムの異変に気付き、不思議そうに呟いた。

 

「もしかして、エントリープラグの中に居る14歳のミサトさんがアダムの動きを食い止めているのかもしれない」

「それなら、エントリープラグをとっとと引き抜いて構わないって事?」

 

 アスカの言葉に応えるかのようにアダムの方からミサトの声が聞こえる。

 

「私がアダムを止めている間に、エントリープラグを引き抜いて。でも気を付けて、私が居なくなったらアダムは暴走を始める……」

「よっしゃ、ワシがエントリープラグを引き抜いたら一度アイツから離れるで」

 

 トウジの提案した作戦にシンジとアスカは頷き、参号機がアダムの背部ハッチに手を掛けてエントリープラグを引き抜いた。

 エントリープラグの排出により、L.C.L.が外へと噴き出すと思われたが、L.C.L.はアダムの中へと吸い込まれて行った。

 

「エントリープラグは確保したで!」

 

 トウジはミサの乗ったエントリープラグを安全な場所へと運ぶため、アダムに背中を向けて全力疾走した。

 

「ウォォォォォォン!」

 

 エントリープラグを引き抜かれ、暴走したエヴァのようになったアダムは唸り声をあげた。

 

「何よコイツ、前より強くなってる!?」

「アスカ、危ない!」

 

 弐号機をかばった初号機の右腕が、アダムの振りかざした大鎌によって切り落とされた。

 

「ぐっ!」

「シンジ!? アタシのせいで……」

「エントリープラグと言う枷が亡くなったアダムは、元はミサトとレイと渚君だった3つの魂が融合して、3倍、いえ、それ以上の強さのA.T.フィールドを持っていると推測されるわ」

「何よそれ、アタシ達の攻撃が通じないって事じゃない!」

 

 リツコの言葉は自分達への死刑宣告の様に思えたアスカはそう叫んだ。

 

「いや……まだアダムを倒す手は残って居る。僕達3人の攻撃を集中させれば、アダムのA.T.フィールドを破れるかもしれない」

「そんな事言って、シンジはアタシをかばって、右手を切り落とされたのよ!?」

 

 エヴァからのフィードバックによるシンジの痛みは相当ひどいはずだと、アスカは思った。

 

「トウジがA.T.フィールドのボールを作って、アスカがバットで飛ばして使徒を倒した事があったよね? 初号機に2人のA.T.フィールドを収束させて、体当たりをすれば……」

 

 シンジの提案した作戦は、初号機を弾丸とした特攻作戦だった。

 

「……それしか無さそうやな」

「鈴原まで何言ってるの、失敗したらシンジの首が折れるわよ!」

 

 初号機のA.T.フィールドがアダムのA.T.フィールドを突き破る事が出来なければ、衝撃でぶつかった初号機の方がひん曲がるだろう。

 

「それは覚悟しているよ」

「シンジが死ぬくらいなら、アタシがやる!」

「右腕が無くなった初号機が適任なんだ。分かってよ、アスカ!」

 

 しばらく押し黙っていたアスカは、ゆっくりと話し出す。

 

「シンジ、使徒を殲滅して平和な世界になったら、ドイツに居るアタシのパパとママに会ってくれる?」

「うん」

 

 ここで言うアスカの両親とは、アスカの養父母の事だ。

 

「約束したからね」

 

 心を決めたアスカは、弐号機で初号機の左手を握りA.T.フィールドのエネルギーを送り始めた。

 アダムを引き付けていた参号機も初号機の両足を掴み、A.T.フィールドのエネルギーを注入する。

 参号機に持ち上げられ、うつ伏せになった初号機は、参号機の胸に両足を付けて、ばね仕掛けの鉄砲玉のような形になる。

 

「行くわよ、アインス、ツヴァイ、ドライ!」

 

 アスカの合図で初号機は弐号機と参号機によって送り出された!

 使徒アダムに交わされてもこの攻撃は失敗だったが、アダムは初号機の攻撃を受け止めるつもりのようだ。

 使徒アダムは大鎌を放り投げ、腕を十字にクロスして構えてA.T.フィールドを展開し、防御態勢を取る。

 ゆっくりとアダムのA.T.フィールドを侵食して突き進む初号機。

 しかしシンジは初号機のまとうA.T.フィールドに力不足を感じていた。

 このままでは使徒アダムのA.T.フィールドに負けてしまう。

 シンジはエントリープラグの中から初号機に語り掛ける。

 

「ここで負けたら、全てが終わりなんだ! お願い母さん、力を貸して!」

 

 シンジの祈りが通じたのか、初号機の背中に光の羽が現れ、初号機の纏うA.T.フィールドが赤色から金色へと変化した。

 強さを増したA.T.フィールドを使徒アダムは避けようとはせず、初号機を受け入れた。

 初号機のA.T.フィールドによる攻撃が自分のコアに届くのをアダムが待っていたようにも見えた。

 

「見事よ、シンジ君……あなた達の勝ちよ」

 

 そう言うミサトの声がシンジとアスカとトウジには聞こえた気がした。

 

 

 

<第三新東京市 市街地>

 

 戦略自衛隊が御殿場基地で上陸して来たロシアの陸軍部隊を食い止めている間、やっと地上に這い上がる事の出来た、マナ達3人の乗る伍号機、陸号機、七号機はヒカリ達のエヴァと協力してその他のロシア軍と戦っていた。

 短期決戦を目論んでいるロシア軍は、戦闘機や空母部隊も惜しみなく投入して来たのだ。

 そして奇襲前から第三新東京市に潜り込んでいたスパイ達も居る。

 給与を十分に貰っていない兵士は規律など存在せず、野党の類と変わらなかった。

 シェルターにも行けずに自分の家に立て籠もっている住民を脅しては金品を強奪する。

 世界の警察である国連軍もロシアの拒否権行使により動けなかった。

 

「わたし達、こんなに早く外国の軍隊と戦う事になるなんて、思っても見なかったね」

「ああ、覚悟はしていたけどな」

 

 マナの言葉にムサシはそう答えた。

 戦略自衛隊のロボット計画、トライデント級巡洋艦はマナ達が20歳になる時を見据えて正式に運用されるものだった。

 紫電・雷電・震電はテスト機で、武装は持っていたものの、戦場に投入される事は無かった。

 バレンタイン停戦条約により、表向きの平和は保たれていたからだ。

 エヴァのA.T.フィールドのお陰で通常兵器は蚊ほどにも感じないマナ達だったが、戦闘機やミサイルを蚊トンボのように撃ち落しても嬉しさは微塵も感じなかった。

 また人の命を奪ってしまったと、罪悪感が積み重なるばかりだった。

 マナ達3人は軍人にはなりきれていなかった。

 

「マリイさん、あなたに勝ち目はありません! 大人しく降参してください!」

「ダメよ! そんな事をしたらお母様が……妹のエリーが……」

 

 4体のエヴァで取り囲んでいるにもかかわらず、コトネはマリイの乗る肆号機を完全に制圧出来ないで居た。

 

「こうなったら、最終手段しかありませんわ! あなた達だけでも倒せれば、大統領も家族の命を助けてくれるはず……」

「まさか、自爆する気!?」

 

 肆号機は量産機では無いので、初号機と同じく自爆装置が着けられている。

 本来は使徒であるカヲルが暴走した場合の安全装置のはずだった。

 

「マリイさん、死んでしまったらそれこそ全てがおしまいです!」

 

 大声でマリイの暴挙を諫めたのは、大人しい性格だと思われていたマユミだった。

 マユミは自分は大人しい性格ではない、周りにそう決め付けられているだけだと思っていた。

 

「戦場での勝者は、最後まで生き残って立っていた人の事を言うんです。死んでしまっては後悔してしまっても、何もする事が出来ません! もしあなたのお母さんや妹さんが生きていたら、もっと悲しませてしまう事になりますよ! そうですよね、相田君?」

「ああ、そうだ。サバゲーでも最後まで諦めずに、地面を這ってでも生き残るんだ」

 

 マユミに話を振られたケンスケは、きっぱりとそう断言した。

 

「マリイさん、もう大統領に協力するのは止めて、私達に力を貸してくれないかな? 1人でも多くの人を助けるために」

「分かりましたわ、ヒカリ」

 

 マリイは遂にヒカリ達に心を開き、本当の意味での友達となった。

 

 

 

<ロシア・クレムリン宮殿 大統領執務室>

 

 直ぐにネルフ本部制圧の一報が届くと思っていたロシア大統領は、相次ぐロシア軍の苦戦の報告を受けて、目に見えるほど苛立っていた。

 

「これはどういう事だ! エヴァンゲリオンが地下深く潜っている間に日本に侵攻すれば、ネルフ本部は半日で制圧できる、お前達はそう言っていたな!」

「申し訳ございません、大統領。前線の実行部隊の統率がとれておらず、日本の軍隊の抵抗も死に物狂いなものでございまして」

「今更言い訳をするな! お前と家族のDSSチョーカーを直ぐに爆発させてやろうか!?」

「す、済みません! 必ずネルフ本部を落として見せます!」

 

 ロシア大統領の周りに居る幹部達は、忠誠の証として首にDSSチョーカーを着けさせられていた。

 彼らの家族も人質として同様だった。

 就任当初はより良いロシアを作ると志していた大統領も、セカンドインパクトが起き国内経済が落ち込み、さらに自分も老齢となった焦りからか、人類補完計画を自分達の都合の良いものにする機会を狙っていた。

 そこに飛び込んで来たのが使徒アダムの話。

 自分達の軍隊が第3次世界大戦で、旧東京に新型爆弾を投下できた過去の栄光に浸り、実際のロシアの腐敗が進んでいる事、日本が戦略自衛隊を結成した事も知らずに、ロシアの幹部達はロシアの大統領に耳触りの良い話ばかりを吹き込んでしまった。

 ロシアの大統領が日本侵攻の決意を固めてしまった責任の一端はロシア大統領の元で甘い汁を吸い続けた彼らにもあった。

 

「大変です! 国内で国民達が一斉蜂起を起こしました!」

「治安部隊を送り込んで直ぐに制圧しろ!」

「それが……抑えきれないほどの勢いで……」

 

 ロシアの国民は、最初はロシアによるソビエト連邦の復活を宣言するロシア大統領の演説を誇らしげに聞いていた。

 日本を植民地化して国の生活を豊かにする。

 支持率も40%から90%まで一気に跳ね上がった。

 しかしロシア軍の犠牲者が増えて行くにつれて、自分達は間違った支持をしてしまった事に気が付いた。

 最初に立ち上がったのはロシア軍の兵士の母親達。

 そして熱烈にロシア大統領を昔から支えて来た中高年の市民達も、ロシアによる日本侵攻は間違っていると態度を翻したのだった。

 治安部隊も武力で抑え込もうとした場合、ロシア政権が倒れた後の報復を恐れて動く事が出来ず。

 賢いスパイ達はロシア大統領の失脚は確実だと協力するのは諦めた。

 

「中国軍と韓国軍が我が軍の補給路を断ち、後方から奇襲を仕掛けて来ました! EU諸国も、フィンランド、ウクライナ方面から侵攻を開始! クリミア半島の戦艦は全て接収されました!」

「お前達、裏切ったな!」

 

 ネルフのロシア支部長が、モニター通信で支部長達に向かって吠えた。

 

「我々はロシアの味方になった事など、1度も無かったが?」

「左様」

 

 そう言ってモニター通信が打ち切られると、ロシア大統領は顔を真っ赤にしてN2ミサイル発射スイッチの入ったバッグを持って来るように幹部に告げる。

 

「しかし大統領! エヴァも消滅させてしまっては、人類補完計画が遂行できなくなりますが!」

「うるさい! このような世界、破壊してくれる! N2爆弾の雨を降らせるのだ! 早くしろ! 今すぐお前のDSSチョーカーを作動させるか!?」

「それがねえ、もうN2爆弾も、DSSチョーカーも使えなくなっているんだなぁ、コレが」

 

 呑気な声で緊迫した大統領執務室のドアを開けて姿を現したのは、白衣を着たマリとリョウジだった。

 

「小娘、でたらめを言うな!」

「私は戦略自衛隊のサイバー部隊に所属していたからね、『デジタルフォース』を持っているんだよ。だからプログラムを根こそぎ破壊して回っていたわけ」

 

 デジタルフォースの存在は、ロシア軍も知っていた。日本の戦略自衛隊のデジタルフォースがロシア軍のものよりも優れている事も。

 物理的に占領してしまえばコンピュータなど関係無いと言う考えが、ロシア軍のサイバーセキュリティを大きく低下させていたのだ。

 

「ロシアの大統領さん、素直に負けを認めて軍隊に撤退命令を出してはくれませんかね? あんたの命令ならば、大半のロシア軍が国に帰ってくれるはず…」

 

 リョウジの言葉はそこで唐突に途切れた。

 ロシア大統領がリョウジの急所を撃ったのだ。

 即死だと判っていながらも、マリは言わずにはいられなかった。

 

「リョウちゃん、目を開けてよ! ミサトちゃんが居ない今、あの『家』のお父さんはリョウちゃんしか居ないんだよ!」

 

 マリがリョウジの遺体を抱えている間に、遅れて到着したヨシアキがロシア大統領の首筋にナイフを突き立てた。

 

「殺しはしない。お前には戦争犯罪人として法の裁きを受けてもらう。でも無力化はしてもらうよ」

 

 ヨシアキはそう言うとロシア大統領の鼻にカプセルをぶち込んだ。

 

「強力な睡眠薬だ。副作用はどっさりあるから、お前は死ぬまで苦しむ事になる。でも命があるだけマシだよね? それだけの事をしたんだから」

 

 DSSチョーカーの呪縛から解放されたロシア大統領の側近達は逃げようとしたが、ロシア政府のあるクレムリン宮殿は蜂起していた市民達によって取り囲まれて居て逃げ場は無かった。

 ヨシアキはその後、ロシア大統領の命を奪おうとする、直接怒りをぶつけようとする市民達からロシア大統領を護る事で手一杯だった。

 大人であるマリがロシア大統領は法廷で裁くべきだと訴えても聞き入れる市民の数は少なかったのだ。

 

 

 

<戦略自衛隊 御殿場基地>

 

 ロシア大統領は倒されたが、大混乱に陥ったロシアではその情報の信頼性が薄く。

 もしロシア大統領が生きていれば自分達が処断されると、日本に上陸したロシア陸軍は引くに引けない状況に陥っていた。

 悪い意味での火事場の馬鹿力、窮鼠猫を嚙む。

 ロシア軍のなりふり構わずの玉砕作戦で、戦略自衛隊の御殿場基地は突破されようとしていた。

 

「厚木、入間にもう戦力は残って居ないのか! 横田、立川の米軍部隊の支援もか!?」

「はい、残念ながら……」

 

 御殿場基地を護る自衛隊の士官達も全滅を覚悟した。

 

「この基地に向かって来る大軍があります!」

「ロシア軍の新たな増援部隊か!?」

「いえ、国連軍の部隊がロシア軍と交戦を開始しました!」

 

 ロシア軍の統率の取れていない無差別な攻撃は、第二新東京市にある国連本部も脅かした。

 そして何よりも、同じ自衛隊員として窮地に陥っている仲間を見捨てる事は出来なかった。

 国連軍は命令が下るよりも早く現場の部隊の判断で動き始めていた。

 加勢を得て今まで押し込まれていた御殿場基地の部隊は、逆にロシア軍の部隊を追い返した。

 これでこのルートからロシア軍が攻め込んで来る危険性は無くなった。

 

「チルドレンを護ると言う我々の責務を果たす事が出来たようだな」

 

 命を落とした多くの同胞の事を想いながらも、士官達は笑みを浮かべた。

 

 

 

<第三新東京市 市街地>

 

 ロシア軍の航空部隊と激戦を繰り広げているマナ達の元に、背中に光る羽を持った初号機が現れた。

 弐号機と参号機は初号機にしがみつく形で、セントラルドグマから浮上して来たのだった。

 

「碇君、その羽はどうしたの!?」

 

 マナ達は初号機の左腕が無い事よりも、初号機が空を飛んでいる事、初号機が金色のA.T.フィールドを纏っている事にまず驚いた。

 

「初号機のコアが覚醒したんだ。その力でアダム……ミサトと綾波とカヲル君達に別れを告げて来た」

 

 シンジはアダムを殲滅したと言う言い方はしなかった。

 最後まで3人の魂はアダムの中にあり、試練としてシンジ達の前に立ち塞がったのだとアダムと直接戦った3人は思っていた。

 

「さあ、こんな戦争、早く終わらせてやるわよ!」

 

 シンジやトウジが居るとは言え、場を盛り上げるのはアスカの掛け声だった。

 マナ達の活躍により、ロシア軍の航空部隊はかなり数を減らしていた。

 さらに中国と韓国の海軍と空軍が補給路を断った事により、燃料切れで降伏する空母まで出て来た。

 ただ厄介なのは統率の取れていないロシア軍の破壊行為だった。

 彼らは住宅街のマンションにさえ爆弾やミサイルをばら撒いた。

 恐怖を与えれば日本は直ぐに降伏するとロシア大統領は戦争前に命じていたからだった。

 

「残った敵は僕達がやっつけるから、霧島さん達は瓦礫に埋まった人達を助け出して」

「うん、分かった!」

 

 日本に攻め寄せたロシアの空軍は壊滅寸前だった。

 補給も受けられないまま、もう半日近くも戦っている。

 直ぐに降伏すると言っていた大統領の言葉も信じられなくなっていた。

 しかし大統領の命令が無い限り帰れない。

 地上で略奪行為を行っていた盗賊団のような末端のロシア軍も戦局の変化によって追い詰められて行った。

 コンビニ強盗を働こうとしていたロシア兵達も遅れて参戦した国連軍の兵士達に制圧された。

 戦局の読めるロシア兵は自ら進んで降伏、残って居たのは本当にゴロツキのような兵士だけだった。

 

 

 

<ネルフ本部 司令室>

 

 ロシア軍を追い返した後、シンジ達は発令所に集まり被害の状況を目の当たりにした。

 第三新東京市の至る所が破壊され、無事な建物も略奪行為の爪痕が残って居た。

 その酷さは使徒ゼルエル以上だった。

 

「……やはり人間の最大の敵は、使徒では無く、人間だったな」

 

 コウゾウの言葉が発令所に居たみんなの心に染み渡った。

 

「シンジ、お前に大事な話がある」

 

 ゲンドウはそう言ってシンジを司令室へと呼び出した。

 いつも側に居るコウゾウに後を任せるほどだ、内密な話に違いない。

 しかしアスカは平然とシンジの後を付いて行った。

 

「……話があるのはシンジだけと言ったはずだが?」

「アタシはシンジのフィアンセ、言わば一心同体の存在よ。そうでしょ? おじ様」

 

 アスカがゲンドウの事を『おじ様』と呼ぶのはユイとキョウコが消えた日以来だった。

 幼いアスカが涙をこらえていたお陰で、ゲンドウは取り乱す事も無く心を落ち着かせる事が出来た。

 

「分かった。椅子となるものはこんなものしかないが我慢してくれ」

「アタシは普通の椅子に座るわ」

 

 何故かメインとして呼ばれたシンジが蜜柑の入った段ボール箱に座る事になってしまった。

 

「……シンジ、我々人類は未完の存在だとは思わないか?」

「何よそれ、未完と蜜柑を掛けたオヤジギャグ?」

「そうではない!」

 

 アスカが茶々を入れた事で話の腰を折られてしまったゲンドウだが、張り詰め過ぎていた空気が緩んだのは確かだった。

 

「人間は不完全な存在であるがゆえに、過ちを繰り返す。今回のロシア軍が引き起こした第4次世界大戦もそうだ。多くの人が亡くなり、そして傷付いた」

「そうだね……」

 

 ゲンドウの言葉にシンジは悲しそうな顔で同意した。

 

「葛城博士、加持ミサト三佐の父親によれば、超文明を気付いた古代アトランティス人もその事を憂えていたようだ。そこで『人類補完計画』を起こすためにアダム達使徒を作った。だが計画は実行される事無く、アトランティス文明は滅亡したらしい。いや、正確には文明を全て捨て去る道を選んだ」

「結局、便利な生活を諦めて、原始人みたいな生活に戻ったって事?」

「ああ、アダムを南極の永久凍土の中に封印し、後世への戒めとして『死海文書』を残した」

 

 アスカの言葉に、ゲンドウはそう答えた。

 

「あのさあ、シンジは中学生なんだし、アタシ達はまる1日戦った後で疲れているんだからさ、要点をまとめて話してくれない? 3行ぐらいで」

「そ、そうだな」

 

 ゲンドウにズケズケとものを言うアスカを見て、ミサトさんが居なくなっても父さんは誰かの尻に敷かれるなとシンジは思った。

 僕も、もしかしてアスカの尻に敷かれるかも、綾波を選んだ方が良かったかな、とも考えた。

 

「ど、どうしたのアスカ? そんな怖い目で僕を見て」

「シンジの考えている事なんてお見通しよ。今は真剣に司令の話を聞きなさい」

「うん」

 

 ボコン、と音を立てて蜜柑の段ボールが潰れてひしゃげるが、シンジは真面目な態度になった。

 

「セカンドインパクトは不完全な形で起こってしまった人類補完計画。本来は使徒たちも人類の敵ではなかった。そこで私がサードインパクトを起こして、この間違った世界を終わらせるつもりだった」

「つもりだった……って父さんが僕達の反対を押し切ってやろうとしていたんじゃないの!? ミサトさんや綾波、カヲル君とお別れしたのは意味が無かったって事!?」

 

 シンジは激高して立ち上がりゲンドウの首を両手で締め上げる。

 

「バカっ! 何してるのよ!」

「ぐえっ」

 

 シンジの股間を蹴り飛ばして阻止したのはアスカだった。

 ゲンドウは思い切り咳込み、シンジは股を抑えてうずくまる。

 アスカは腕組みをして2人が落ち着くのを待った。

 

「シンジ、お前がネルフに来た頃は私がサードインパクトを起こす人間として選ばれ、ネルフの支部長達も納得していた。しかし私は、お前の成長を見るにつれて考えが変わった。シンジ、お前がサードインパクトを起こすのだ!」

 

 立ち上がったゲンドウはシンジを見下ろす形でそう言い放った。

 

「……あきれた、司令って本当に頼み方が下手ね。そんな高圧的な命令口調で、誰でも言う事を聞くと思っているの!?」

「まるで加持ミサト三佐と話しているかのようだな……」

 

 もう小さなミサトそのものだとゲンドウは思った。

 14歳の葛城ミサトは別に存在しているが。

 

「どうしてシンジがサードインパクトを起こさなきゃならないのよ! そこの説明が抜けている!」

「世界が終わると同時に、新たな世界が始まる。シンジなら私よりも素晴らしい世界が創れると思ったからだ」

「そんな……」

 

 背負わされようとされている物の大きさに、シンジはショックを受けた。

 ネルフに来た時は、エヴァに乗るか乗らないか、だった。

 それが今度は神になるかならないかと来たものだ。

 

「人類補完計画の儀式は明日行うものとする。お前が神になる決断を下せないのならば、私がネブカドネザルの鍵を飲み込んで神となる。補完計画を行わなければ、他の支部長達も動き出しかねないからな」

「父さんは……大人達はいつも勝手だよ! 僕の気持ちも知らないで、勝手に押し付けて!」

「シンジ、まずは気を落ち着かせて。ほら、行きましょう?」

「ありがとう。シンジと2人だけだったら、まともな話し合いが出来ないところだった」

「司令がそう言うと気持ち悪い」

 

 アスカはそう言うと、シンジの手を引いて司令室を出て行った。

 素直にお礼を言ってそう言われたら、自分はどうすれば良いんだとゲンドウは思った。

 

 

 

<第三新東京市郊外 加持邸>

 

 家の主であるミサトとリョウジ。

 家族だったレイとカヲル。

 ロシア軍の侵攻で命を落とした学友。

 落ち着いた居場所であるはずの『家』に暗い影を落としていた。

 そんな暗い雰囲気を少しでも和らげようと、ヨシアキはロシア大統領への怒りをこらえながらシンジ達の大好物を作った。

 明日この世界は終わる。

 本当の意味での最後の晩餐だった。

 リビングダイニングにシンジ達は集まっていたが、和気あいあいと騒ぐことは無く、静かに恋人同士、友達同士の時を過ごして居た。

 

「トウジ、この世界が間違っている世界で、正しい世界に戻るってどういう事かな? 私とトウジはまたケンカ友達に戻っちゃうのかな?」

「しっかりせいやヒカリ、シンジの事を信じるんや。あいつならきっと何とかしてくれるで」

「お願い、ヒカリって呼んで」

「それで気持ちが落ち着くっちゅうんやたら、いくらでも呼んでやるわ、ヒ、ヒカリ……」

「ありがとう、トウジ。今度生まれ変わってまたトウジと巡り会ったら、遠回りせずに自分の気持ちを伝えるね」

「そん時はワシの大好物の唐揚げをぎょうさん作ったってくれや。お礼にスペシャルカレーを御馳走したるで」

 

 トウジとヒカリは新たな世界でもきっと結ばれたいと、互いの手を握るのだった。

 

「ねえムサシ」

「何だ、マナ」

「私たちが戦略自衛隊に居た頃の夢の話、忘れてないよね?」

「何の話だよ」

「戦略自衛隊から脱走して自分たちだけの楽園を創るって話」

「馬鹿、あれは俺たちの勝手な思い上がりだってミサトさんに説教されただろ?」

「でも楽園は土地が必要だとも限らないよ? いろんな形がある、だから向こうの世界でも創ろう、私たちの居場所」

「でも正しい世界に戻ったら俺たちはまた戦略自衛隊の兵士だぜ。ネルフが無かったら、どうやって抜け出すんだよ」

「上官のみんなは私達の事を想ってくれる優しい人達だったよ。きっと話せばわかってくれるよ」

「そうだと良いけどな」

「あ~っ、またマナとムサシだけで仲良くしてる、僕も仲間に入れてよ」

「そうね、ケイタも私たちの楽園の一員だもんね」

 

 マナとムサシとケイタはミサトによって深海魚だった生活から引き出された。

 新たな世界での自分達はどうなっているのか分からない。

 でも決して諦めてはいけないと希望を胸に抱いた。

 

「皆さんの声、聞こえてますね」

「まあ、同じ部屋に居るんだからな」

 

 マユミの言葉にケンスケはため息をついた。

 

「山岸さんは俺なんかと話していて良いのか?」

「ええ、綾波さんは……居なくなっていまたし、最後に話したいのは相田君ですから」

 

 マユミがそう言って微笑んだ。

 

「あっ、今の山岸さんの表情は良かったな。カメラを構えて居れば良かったよ」

「相変わらずですね。女の子の写真を撮るのが好きなんですか?」

「山岸さんも眼鏡をとればかわいいと思うぜ、コンタクトにしないの?」

「そ、そうですね、そのような機会があればしてみようと思います」

 

 マユミは今まで誰かからかわいいと言われた事がなかった。

 心臓の鼓動の高まりをケンスケに聴かれないかと思うと、さらに鼓動が早まるのだった。

 

「コトネ、今日は済みませんでしたわね、家族が人質に取られているとは言え、あなたに酷い事を」

「ううん、マリイさんにとっては仕方の無い事だったんだから気にしてないよ。お母さんも妹さんも無事で良かったね」

「わたくし、新しい世界になったら母上と妹を説得してフランスに亡命いたしますわ」

「そんな、ロシアもセカンドインパクトが無かったら良い国になっていると思うよ……多分」

「多分じゃ困りますのよ」

「そうだね、私も地下アイドルから脱出するために、エヴァに乗る事以外の方法で頑張らないとなぁ」

 

 深く打ち解ける相手が居なかったマリイとコトネは何となくそんな事を話していた。

 

「ヨシアキお兄ちゃん、新しい世界になっても、サトコやレイやカヲル君は戻って来ないのかな?」

「それは僕にも分からないよ。僕も母さんに会わなかったらずっと暗殺者のままかもしれない」

「そっか……」

 

 ヨシアキの言葉を聞いてミサ=14歳の葛城ミサトは悲しそうにため息を吐き出した。

 

「でもきっと葛城博士か父さんが僕達を見つけてくれるかもしれない。そうしたら、新しい世界で僕達は兄妹になれるね」

「そうだと良いね、お兄ちゃん」

 

 ミサはそう言って明るい笑顔で答えた。

 

 

 

<ネルフ本部 作戦会議室>

 

 ネルフ本部では明日の儀式に向けて具体的な段取りの確認が行われていた。

 もうロシア軍の侵攻のような妨害は無いだろうが、手順を間違えて人類補完計画を失敗してしまっては台無しだ。

 

「先輩、新しい世界になったらネルフはどんな施設になるんでしょうね」

「少なくとも巨大人造人間やロボット兵器を取り扱う施設ではない事を祈るわ」

「MAGIの力を使った情報センターネルフなんてどうでしょう。SDGsに取り組むのも良いですね」

「それはいけません、『JA・V』が完成したと言うのに!」

 

 リツコとマヤの話にシロウ博士が首を挟んだ。

 

「土木作業や災害救助には適したロボットだと思いますよ。原子力は止めてN2リアクターにして欲しい所ですけどね」

「青葉さん! 素晴らしいアイディアです! 災害情報と組み合わせてネルフレスキュー隊と言うのはどうですか!」

 

 新しい世界についての妄想で盛り上がっている所に、冷や水を浴びせるマコトの発言は無かった。

 マコトは黙って仕事に打ち込むことでミサトが居ない悲しみを抑えていた。

 

「私達の開発したダミープラグ、使うことが無くてよかったね」

「あーあ、意味の無い物を作ったって事は私たちの給料はまた上がらないのか」

「サツキ、そんな大声で言うと赤木博士に聞こえるよ」

「あなた達は残業もして頑張ったのだから、特別ボーナスを出してあげるわよ」

「やった!」

 

 リツコの言葉を聞いたサツキはカエデとアオイの手を取って喜んだ。

 

「でも新しい世界では、特別ボーナスの件も帳消しになっていると思うわ」

「そんなぁ、からかうなんて酷いですよ」

 

 サツキはそう言ってヘナヘナと崩れ落ちた。

 

「俺達『伊吹組』と『惣流研究室』はそんなに出番はなかったっすね」

「いいじゃないか、縁の下の力持ちで活躍したんだから」

「あーあ、給料に釣られてネルフなんかに入ったアタシがバカだった」

 

 コウジの言葉を聞いてミドリはふくれっ面でそうぼやいた。

 

「マリさん、リョウジさんとお知り合いだったんですね」

「そう、あたしのお尻を褒めて、尻の大きい良い女だと言ってくれたんだよ」

「その調子なら大丈夫そうですね」

 

 冗談めかして話をするマリに、ヒトミはひとまず安心した息を漏らした。

 

 

 

<富士山火口周辺 溶岩洞窟内 地下祭壇>

 

 富士山は古来より神々の力が集まる場所とされ、世界七大聖山の1つに数えられる。

 女神、木花咲耶姫(コノハナサクヤヒメ)が祀られ、「富士山に登れば生まれ変わる事が出来る」という伝承も残るこの地に、ネルフは秘密の祭壇を造っていた。

 ここは使徒に侵食された仮設伍号機をシンジ達が撃破した場所だった。

 諜報部員の剣崎キョウヤに案内されてエヴァに乗り込んだシンジ達は地下の隠し通路を進む。

 

「薄暗くて、寂しい場所ですね……」

 

 エヴァ乗ったマユミが、周囲を見回してつぶやいた。

ネルフの中でもトップシークレットとも言えるこの場所は、チルドレンたちの他に人は居なかった。

 

「床に番号が書いてあるよ、きっとここに立つんじゃないかな」

 

 室内を見回したマナはそうつぶやいた。

 

「ワシはローマ数字ちゅうのはよくわからん、教えたってくれ」

「トウジ、3くらいわかるだろう?」

 

 ケンスケが呆れたようにため息をつく。

 

「シンジ、覚悟は決まったの?」

「どうせ父さんがサードインパクトを起こしても同じ結果なんだろうし、やってやるさ」

 

 シンジは少しやけ気味にアスカに向かってそう答えた。

 床には魔法陣のような図形と円が描かれていて、円にはⅤなどの番号が振られていた。

 マナの乗る伍号機がⅤの円の場所に立つと言ったものなのだろう。

 エヴァ達はそれぞれの場所へと散って行った。

 初号機がⅠの円に立つ事で人類補完計画が始まるとゲンドウは話していた。

 

「ねえシンジ」

「どうしたのアスカ?」

 

 Ⅰの魔法円に進もうとする初号機を弐号機が引き留めた。

 

「アタシ達、新しい世界でもきっと会えるわよね?」

「もちろんだよ。僕がドイツにアスカを探しに行っても良い」

 

 シンジがそう答えると、アスカはエントリープラグを排出させた。

 

「アスカ、一体どうしたんだよ!」

 

 シンジもエントリープラグを排出してアスカに駆け寄った。

 するとアスカはシンジに向かって熱烈なキスをした。

 トウジ達は少し不思議そうな顔で不安そうなアスカを見た。

 

「シンジ、本当にまた会えるよね?」

「僕はアスカを愛している。ただそれだけで、僕達は再会できるよ」

 

 シンジとしては歯の浮くようなセリフだったが、アスカはシンジにもう一度キスをして弐号機のエントリープラグへと戻った。

 シンジもそんなアスカを見て、初号機のエントリープラグへと乗り込む。

 アスカはとても猛烈な胸騒ぎを感じたのだ。

 ゲンドウはアスカに何かを言えないで隠している。

 アスカは少し前にゲンドウがうっかりと漏らしてしまったその一言を聞いていたはずだ。

 どうして最初はゲンドウはシンジを神にさせようとしなかったのか。

 シンジが未熟な子供だったから?

 いや、それ以外にも理由を話していた気がする。

 アスカの嫌な予感・胸騒ぎは最高潮に達していた。

 初号機の背中に羽が生え、金色のA.T.フィールドが発生する。

 そしてその現象はアスカの乗る弐号機、トウジの乗る参号機へと広まって行く。

 なるほど、これだけのA.T.フィールドが集まれば世界を壊す事も出来るかもしれない。

 白く輝いてぼやけて行く世界の中でアスカは大きな声で叫んだ。

 

「止めてっ! シンジ!」

 

 しかしシンジの乗る初号機がシン化して行くのをアスカは止める事は出来なかった……。




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文章量少なめのハイペースで進めた連載ですが、補完した方が良いでしょうか? 最終話だけ別のアンケート(続編について)になります。

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