新世紀エヴァンゲリオン for Children ~全ての子供たちのために~   作:朝陽晴空

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外伝第一話 エヴァンゲリオン完成、ユイとキョウコの意志(2022/04/26 09:43)

<研究機関ゲヒルン日本支部 ロビー>

 

 特務機関ネルフの前身であるゲヒルンは、セカンドインパクト後に人類が生き残る方法を模索する研究機関であった。

 南極大陸の融解による水位上昇、地軸が傾いた事による気候変動、人類同士の戦争による環境汚染。

 その問題を解決するために世界中の研究者がゲヒルンには集まっていた。

 シンジの母親である碇ユイ博士、アスカの母親である惣流・キョウコ・ラングレー博士もゲヒルンに集まった研究者だった。

 2人は自分の子供を連れて、重要な実験が行われる日本支部へとやって来ていた。

 同じ実験に参加する者同士、ユイとキョウコはロビーで顔を合わせるとすぐに親しくなった。

 

「ユイさんの息子さん、5歳なんですか?」

 

 ユイの足元に隠れるように立っているシンジを見たキョウコはそう尋ねた。

 

「はい、キョウコさんの娘さんも?」

 

 そう答えたユイは、キョウコの後ろで腕組みをして退屈そうな顔で立っているアスカを見て尋ね返した。

 

「ええ、そうなんです。アスカと言います」

「可愛らしいお嬢さんですね」

 

 キョウコが笑顔でユイに答えると、ユイも微笑みながらアスカを見つめた。

 褒められたアスカは当然でしょ、とでも言いたげにツンと澄ました顔をしている。

 ユイは相変わらず自分の身体に隠れている息子のシンジに声を掛ける。

 

「ほら、シンジったら私の後ろに隠れてないで前に出てきなさい、何を照れているのかしら」

 

 そんな情けないシンジの姿を見て、アスカはシンジをおどおどしたさえないヤツだと思った。

 アスカのシンジに対する第一印象は良いとは言えなかったが、シンジから発せられた言葉がアスカの評価をひっくり返した。

 

「だって、髪がとってもきれいな子なんだもん……」

 

 アスカは金色の髪をした母親のキョウコと違い、赤みを帯びた茶色い髪の色をしていた。

 母娘で一緒に居ると、髪の事を褒められるのはまず母親のキョウコが先。

 側にキョウコが居ると言うのに、アスカの髪を真っ先に褒めたのは、シンジが初めてだった。

 ドイツに居る時はコンプレックスだった髪を、純真な瞳で褒めてくれたシンジに、アスカの胸はキュンとなった。

 

「アスカちゃん、シンジと仲良くしてあげてね」

 

 ユイに声を掛けられたアスカは胸を張って任せろと言った態度でうなずいた。

 

「シンジ、審美眼に優れたアンタをアタシのお婿さんにしてあげる!」

「ありがとう」

 

 アスカはシンジに人差し指を突き付けてそう言い放った。

 シンジには審美眼もお婿さんの意味も分からなかったが、家族相手でもお礼を言うのは大切だと教育を受けていたシンジは、アスカのプロポーズを快諾した。

 

「あらあら、アスカちゃんのお婿さんが決まったのなら、私も実験前に思い残す事が1つ無くなったわ」

「それは私もですよ、キョウコさん。シンジ、アスカちゃんを守ってあげられるくらいに強い男の子になるのよ」

 

 笑顔のキョウコの言葉にユイも笑顔で答えると、ユイはシンジの頭を優しくなでた。

 

 

 

<研究機関ゲヒルン日本支部 実験場>

 

 使徒の父である第1使徒アダムは、南極で暴走しセカンドインパクトを起こして自滅し、第2使徒リリスはロンギヌスの槍とカシウスの槍によって封印する事に成功した。

 死海文書により予告された第3使徒の襲来は15年後。

 まず人類は使徒を倒す事よりも、生き延びる研究を優先したのだった。

 使徒に対抗する兵器として最初に作られたエヴァは、第1使徒アダムのコピーである零号機だった。

 14歳の葛城ミサトをゼロ・チルドレンとする起動実験は成功したが、使徒と戦うには心細いものだった。

 そこで持ち上がったのが第2使徒リリスのコピーである新しいエヴァの建造・量産計画。

 この計画の成功を持って、研究機関ゲヒルンは特務機関ネルフへと移行する。

 使徒の攻撃から逃げ延びるのでは無く、積極的に使徒を殲滅する組織へと生まれ変わるのだ。

 研究所のキール所長やネルフの支部長達も立ち会う、重要な実験だった。

 

「どうしたゲンドウ? そわそわと動き回って、いつも冷静な君らしくもない。ただの起動実験だろう?」

 

 白衣を着て落ち着かない様子で実験場を見渡せる広間を歩き回るゲンドウに、同じく白衣を着た大柄の白人男性が声を掛けた。

 この男性はアスカの父親であるヤーコブ・ラングレーだった。

 生まれはアメリカであるが、ドイツ人の血を受け継いでいる。

 ヤーコブはゲヒルンの所員達から、テディ・ベアとあだ名をつけられていた。

 本人もそのあだ名を気に入っていて、娘のアスカにテディ・ベアをプレゼントするほどだった。

 

「ヤーコブ、君は今回の実験は危険なものだと感じていないのか?」

 

 ゲンドウが神経質に眼鏡を頻繁にいじりながら真剣な表情で問い掛けると、ヤーコブは大声を上げて笑った。

 

「零号機の起動実験は何度も成功していた、被験者の彼女は今や戦略自衛隊に入隊して戦場で奮戦しているそうじゃないか。以前より身体能力も向上したらしいとも聞いたぞ」

 

 ヤーコブに元気付けられても、ゲンドウの心の中の不安は消えなかった。

 零号機の被験者、葛城ミサトは零号機とのシンクロに成功したが、年齢の上昇に伴いシンクロ率は低下して行き、16歳になる頃には動かせなくなった。

 零号機に乗れなくなったミサトは戦略自衛隊へと入隊し、使徒襲来の少し前にネルフに呼び戻されるまで海外の戦場への任務に赴いていた。

 焦りを感じたキール所長は京都大学で形而上生物学を教えていた冬月コウゾウ教授にも協力を求めた。

 そして提唱されたのがアダムでは無くリリスをベースとした初号機と弐号機の建造だった。

 

「君の息子にも、俺の娘にも、人類の輝かしい歴史の瞬間を見せられるんだ。今日は素晴らしい日になるぞ!」

 

 ヤーコブは期待に満ちた表情で実験の準備が行われている実験場を眺めた。

 

「パパ!」

 

 遠くからシンジの手を引いて駆け寄って来たのはアスカだった。

 アスカはパッとシンジの手を離すと、ヤーコブに飛び付いた。

 

「アスカ! 一緒にここでママの活躍を見ようじゃないか!」

「うん! それでパパにサプライズのお知らせがあるの!」

「何かな?」

 

 父親のヤーコブに尋ねられたアスカは、唖然として立っているシンジを指差した。

 

「彼はシンジ、アタシのプロポーズを受けてくれたダーリンよ!」

「ほう、君が娘を貰ってくれるのか」

 

 ヤーコブが大きな手をシンジに向かって差し出すと、怯えたシンジはゲンドウの陰に隠れた。

 

「おとうさん……」

「なんだ、ゲンドウのジュニアなら俺も安心だ、ハハハ……」

 

 自分の陰に隠れるシンジを見て、ゲンドウはため息をついた。

 ユイに似て可愛い息子だからとシンジを甘やかしすぎたのかもしれない。

 ゲンドウは膝の上にシンジを乗せて、ピアノを弾かせた事もある。

 空手の道場にでも通わせるか、自分ではシンジを厳しく育てる事は出来ないとゲンドウは考えていた。

 

「ゲンドウ君、ヤーコブ君。今回の実験が成功すれば、我々は使徒を殲滅させる手段を持つ事になる」

 

 杖を床に突きながらゆっくりとゲンドウ達に近づいて来たのはキールだった。

 キールの後からぞろぞろとついて来たのは、コウゾウとネルフの支部長となる者達だった。

 

「冬月先生、本当にこの起動実験は安全なのですか?」

「碇、君が不安になる気持ちは理解できる。だが、初号機と弐号機はリリスをベースにしている。零号機とは違うのだよ」

 

 ゲンドウの質問に対して、コウゾウはそう答えた。

 ユイとゲンドウはコウゾウの研究室に所属していた。

 セカンドインパクトの後、師であるコウゾウと共にゲヒルンに入所した。

 ゲンドウはユイと同じくコウゾウの事を信頼していたが、恩師の言葉を聞いても胸騒ぎは収まらなかった。

 

「シンジ、ここに居たのね」

「ユイさん、ママ!」

 

 プラグスーツに着替えたユイとキョウコが姿を現すと、アスカはまたシンジの手を引いて、ゲンドウやキール達から少し離れて2人の元へと駆け寄った。

 シンジとアスカは宇宙服のようなものを着た母親達を見て不思議そうな顔になる。

 

「ママ、その変なお洋服はどうしたの?」

「ママとユイさんはね、これからあの大きなロボットに乗るのよ」

 

 キョウコはそう言って、実験場にある初号機と弐号機の方を指差した。

 

「凄い!ギムナジウムに行ったら、みんなに自慢できるわ!」

「アスカちゃん、エヴァの事はみんなにはナイショなのよ」

「えーっ、つまんない!」

 

 日本人とのクオーターで、髪の色も身長も同じドイツの幼稚園児に負けていると思っているアスカは不満そうに口を尖らせた。

 キョウコとアスカの話を聞いて、ユイはキョウコがアスカをエリートコースに進ませるつもりなのかと思った。

 卒業率が7割で、常に優等生で居なければならない厳しい道を歩む事になるアスカに、少しでも普通の女の子らしい面も持って欲しいと、ユイはお節介を焼きたくなった。

 

「シンジ、これをアスカちゃんに渡しなさい」

 

 ユイはそう言ってシンジに透明な袋でラッピングされた赤いリボンを渡した。

 オシャレをしてみようと自分用に買ったものだが、恥ずかしさもあって、開封できずにユイが持ち歩いていたものだ。

 本当は自分が身に着けた姿をゲンドウに見てもらおうと思っていたが、アスカにプレゼントする事に決めた。

 

「どうして、おかあさんが渡せば良いと思うよ」

「シンジから渡してあげた方がアスカちゃんは喜ぶわよ。お似合いだって言うのよ」

 

 母親のユイに押し切られる形で、シンジはアスカに向かって赤いリボンを差し出した。

 

「もしかして、アタシへのプレゼント?」

「うん、お見合いだと思って」

 

 シンジの言葉を聞いたアスカは不思議そうな顔をしたが、ユイからのプレゼントだとは理解していた。

 それでもアスカはその事を指摘せずに、喜んで自分の髪に赤いリボンを付けた。

 

「どう?」

「アスカちゃん、もっと可愛くなった」

 

 シンジが素直に言った感想の方が、アスカにとっては嬉しくなった。

 自分の髪には赤が似合うんだと学んだアスカは、インターフェイス・ヘッドセットの色も赤を選ぶ事になる。

 

「あなた、今夜の夕食はかぼちゃのいとこ煮とお味噌汁でいいですか?」

「実験の日まで無理をしなくていい」

 

 いつもと変わらない笑顔で話しかけて来るユイに、ゲンドウはそう答えた。

 

「それならゲンドウ、実験が終わったら6人で食事でもどうだ?」

「良いですね」

 

 横から口を挟んで来たヤーコブの提案に、ユイは穏やかに微笑んでそう答えた。

 実験の準備が完了し、遠ざかって行くユイの背中に、ゲンドウは何度も心の中で行くなと声を掛けた。

 

 

 

<ネルフ本部 司令室>

 

 それから10年の時が過ぎ、ネルフ本部では使徒迎撃の準備が進められていた。

 司令室で2人きりになったコウゾウは、ゲンドウに尋ねた。

 

「久しぶりのシンジ君との対面だな。碇、お前は私の事を恨んでいるか?」

「いいえ、先生を恨んでもユイは私の側には帰って来てはくれません」

 

 コウゾウの問い掛けに、司令席に座ったゲンドウは肘をついて腕を組んだまま微動だにせずに答えた。

 ユイとキョウコが自らの意思で初号機と弐号機のコアになろうとしていた事を、コウゾウは知っていた。

 コピー元がアダムでもリリスでも、エヴァは魂を喰わなければ動かない点は同じ、コウゾウは嘘を付いたのだ。

 キール所長やネルフの支部長達がエヴァの完成を喜ぶ中で、残されたゲンドウ達は深い心の傷を負った。

 エントリープラグにいたユイがL.C.L.に溶けて消えてしまった姿を目の当たりにしたシンジは、記憶の蓋と心を閉じてしまった。

 自分ではシンジを育てられないと判断したゲンドウは伯父夫婦にシンジを押し付けてしまった。

 アスカの父親のヤーコブは薬物中毒に陥ってしまい、娘のアスカの事も分からなくなり、他の女性をキョウコだと思い込みストーカー行為に及んだ挙句に獄中で死んだ。

 リョウジから真実を知らされるまで、アスカは父親が他の女性と浮気したものだと考え、憎んでいた時期もあったようだ。

 今のアスカは自分でボロボロにしてしまったテディベアの縫いぐるみを直して、その縫いぐるみを通して父親に語り掛けている。

 そしてリョウジにも話していない、シンジから貰った赤いリボンの秘密。

 アスカはネルフ本部からの招集命令を受け、シンジとの再会を心の支えにしてエヴァのパイロットとしての訓練に励むのだった。




設定の変更に伴い、内容をさらに書き換えました。
赤木ナオコ博士の死因を自殺としていましたが、この話での断定を避けました。

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