新世紀エヴァンゲリオン for Children ~全ての子供たちのために~ 作:朝陽晴空
「ここはどこよ?」
シンジと共に手を取り合って転移してやってきたはずの世界。
惣流・アスカ・ラングレーの周囲に広がるのは、廃墟と化したネルフ本部施設だった。
直ぐに彼女は、手を繋いでいたはずのシンジの姿が見当たらないことに気が付く。
「シンジ! どこ行ったの! シンジーーっ!」
「いくら呼んでも無駄よ。ネルフにはほとんど人は残っていない」
惣流アスカが後ろを振り向くと、後ろには白衣を着た自分そっくりの少女が立っていた。
「アンタ、もしかして惣流・アスカ・ラングレー?」
「いいえ、アタシは式波・アスカ・ラングレーよ。オリジナルのね」
「オリジナル?」
「アンタ、アタシ達のことを何も知らないの? それに自分そっくりのアタシを見てもそんなに驚かない。アンタ何者なの?」
「アタシは惣流・アスカ・ラングレー、この世界を救うために、碇シンジと一緒に別世界から降り立った救世主よ」
惣流アスカが腰に手を当てて宣言すると、式波アスカは大声で笑い出した。
「何をバカなことを言ってるのよ! 大魔王の宮殿に直接ワープするなんて、とんだ間抜けな勇者ね!」
「大魔王? バ〇ン?」
「特務機関ネルフの支配者と言ったら、碇ゲンドウに決まってるじゃない」
「おじ様が?」
「……アンタ、随分とおめでたい世界からやってきたようね」
式波アスカはほこりを被った薄汚れたクッションを用意すると、惣流アスカに座るように勧めた。
惣流アスカは顔をしかめながら、クッションに腰を下ろす。
廃墟と化したネルフ本部には、他に座るものが無いからだ。
「アンタ、どうして空や地面が赤く染まっているのか知っている? これはこの世界のシンジが引き起こしたことよ」
「シンジは生きてるの!?」
「さあ? アンタと同じように人間を止めていたら、このエル結界濃度の中でも生きているかもね」
式波アスカは、エル結界濃度が高い場所で人間は生きていけないと話した。
このまとわりつくような重い空気は、そのエル結界濃度のせいだと惣流アスカは理解する。
「アンタはL.C.L.化しないのね。さすが救世主様」
「アタシは神に等しい存在なのだから、当然よ!」
惣流アスカは虚勢を張りながら、自分が平気なら、この世界にやってきたシンジも無事なのだと安心した。
「それでアンタはこんな人気の無い場所で何をやっているのよ?」
「アタシ? アタシはネルフ本部という巨大な牢獄で、生贄にされる時を待ってるの」
式波アスカは覇気の無い瞳で、惣流アスカに向かってそう言い放った。
どうしてシンジの元へと向かわないのか。
世界をこんなにしてしまって落ち込んだシンジを慰めるのは、アンタの役目。
惣流アスカは口には出さないが、そう思っていた。
「碇ゲンドウ(大魔王)からは逃げられないのよ、アンタもね」
彼女の言葉通りなら、自分もシンジの元へと駆け付けることが出来ないのか。
式波アスカの言葉に、惣流アスカは不安を感じた。
「大魔王がアンタの存在に気が付いたようね」
惣流アスカが振り返ると、遠くから二人の人影がやって来るのが見えた。
一人は碇ゲンドウ。
もう一人は、黒装束を被り、白い仮面で顔を隠していた。
「おじ様……その顔……」
ゲンドウが近づいて来るにつれて、その風貌が明らかになる。
ネブカドネザルの鍵を飲み込んだと思われるゲンドウは、人間の目をしていなかった。
目の代わりにオレンジ色の光を放つ十字架が、ゲンドウの顔には刻まれていたのだ。
吐き気を催す邪悪さを感じた惣流アスカは目を反らした。
「こいつ、不法侵入者よ。さっさと叩き出してくれない?」
式波アスカがそう言うと、二人は大きな笑い声をあげた。
「せっかく手に入れた予備を私がやすやすと手放すとでも?」
「くっ……」
ゲンドウがそう言い放つと、式波アスカは悔しそうな顔で唇をかむ。
彼女は自分を逃がそうとしてくれたのだと惣流アスカは理解した。
「君がここから逃げようとしても無駄だよ。エヴァ・インフィニティの群れがネルフ本部の周りを取り囲んでいるからね」
仮面の男の声に、惣流アスカは聞き覚えがあった。
冬月副司令のものだ。
惣流アスカが遠くの方に目を凝らすと、無数の首無しエヴァが飛び回っているのが見えた。
確かにこれでは逃げようがない。
式波アスカの絶望も分かる気がした。
「ふん、アンタ達なんか、シンジがぶっ飛ばしてやるんだからね!」
「シンジ? ヤツも来ているのか?」
「とんだ邪魔者だな、直ぐに刺客を送らなければ」
ゲンドウとコウゾウの話を聞いて、惣流アスカは余計なことを言ってしまったと口を押えた。
これでシンジの元へはネルフの殺し屋が放たれるだろう。
二人は来た時と同じように、堂々とした足取りでアスカ達の前から立ち去った。
惣流アスカは、この世界のゲンドウは悪魔を通り越した存在、大魔王であると改めて理解した。
「どう? 自称・救世主様。これで諦めがついた?」
「いいえ、アタシはシンジが助けに来てくれると、最後の瞬間まで信じている」
「アンタバカ? アイツがあのエヴァ・インフィニティの群れを殲滅するだけの力を持っているっていうの?」
「それは、アタシとシンジが愛し合っているからよ! だからアタシ達はまた再会できる!」
惣流アスカが曇りのない笑顔で言い放つと、式波アスカは腰を抜かすほど驚くのだった。
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