新世紀エヴァンゲリオン for Children ~全ての子供たちのために~ 作:朝陽晴空
<ネルフ 司令室>
その日、一人で司令室に居たゲンドウはネルフドイツ支部に派遣されている加持リョウジの元に電話をかけていた。
「弐号機の具合はどうだ?」
「建造はほとんど終わっています。順調ですよ」
「それならば問題は無い」
「セカンドチルドレンについては何も聞かないので?」
ネルフドイツ支部ではエヴァ弐号機の建造とパイロットであるセカンドチルドレンのシンクロテストが大詰めを迎えていた。ゲンドウは忙しい執務の合間を縫っては、ドイツ支部に居るリョウジに自ら電話を掛けているのだ。
「あの娘が負けん気の強い事は知っている、それに君が側にいるのだから心配はない」
「そうは言っても、気になるからこうして電話をなさっているんでしょう。大丈夫、必ずあなたの元に送り届けますよ」
ゲンドウが無関心を装った抑揚の抑えた声を出しても、リョウジは分かっているとばかりにからかった声で言った。
「で、例の計画ですが、やはり実行するのですか? わざわざ遠回しな手を使わなくともいいのでは」
リョウジの声のトーンが真剣なものに変わる。
「相変わらず耳が早いな、余計な口出しは無用だ」
司令室のゲンドウのデスク正面のモニターに赤と白を基調とした初号機と同サイズの巨大人造ロボットの画像が映し出される。ジェット・アローン、モニター下部に映し出された字幕にはそう書かれていた。
「決して加持一尉には伝えるな、邪魔をされてはかなわないからな」
「了解しました」
リョウジは悔しい思いを胸に秘めながらもゲンドウの作戦を黙認した。その作戦の必要性をリョウジも認めていたからである。ただ、人の心を騙すような作戦をミサトは嫌っている。作戦が成功した後も、リョウジはミサトを傷つける真実が明らかにされない事を願ったのだった。
<第三新東京市 加持邸>
「おはようございます」
起床してダイニングルームに顔を出したシンジは、台所にヨシアキが立っているいつもの日常を見てホッとした。やっぱりミサトさんが家事をする事は無いんだなと思っていると、ヨシアキがシンジを手招きする。
「今日からシンジも料理をしてもらうよ」
「ええっ?」
ヨシアキの言葉に不意を突かれたシンジは驚きの声を上げた。
「あの時僕と約束しただろう? それとも兄さんの言う事が聞けないのかな?」
「分かったよ!」
爽やかな笑顔で圧を掛けて来るヨシアキにシンジは降参した。今まで料理は叔母に頼りきりだったシンジも台所に立つと、初めて叔母の苦労が分かった気がした。毎日食事を用意するには苦労があるのだ。シンジは心の中で今まで嫌っていた叔母に感謝した。
「ヨシアキーご飯まだー?」
ぼさぼさの髪のままパジャマ姿でリビングのソファーに寝転がっているのはこの家族の長であるミサト。泥酔した時は部屋に戻らずそのままソファーで寝てしまう事もあるとヨシアキは話していた。シンジがミサトをベッドまで運ばない理由をヨシアキに尋ねると、「死体って重いんだよ」と答えてシンジをドキリとさせた。
「ミサトさん、パジャマのボタンくらい閉めてくださいよ」
シンジは顔を赤くして目のやり場に困るような視線でチラチラとミサトの開いた胸元を見ていた。ヨシアキはミサトの下着など見慣れているのだろうが、シンジはこのナイスなバディなお義母さんと暮らし始めて三日目なのだ。そう言えば自分の部屋に隠したアイドルの写真集は伯母に見つかっていないだろうか、と思い出した。
「ボタンを閉めると、寝る時息苦しくなるのよ」
ミサトはシンジをからかうように胸を寄せて上げる。雑誌やテレビなどの映像を通してみるよりも生で見た方が衝撃度が違うとシンジは思った。
「新しい服を買えば良いじゃないですか」
「何かまだ胸が大きくなっている気がするのよ、やっぱり旦那とラブラブだからかしら」
愛の力で胸は成長する、そんな事を言ってミサトが大きく伸びをして胸を突き出すと、確かに胸が窮屈そうにシンジは思った。それと同時に、ミサトの胸元に傷がある事に気が付いた。そのほとんどはミサトのブラに覆われて見えない。気になったシンジはミサトの胸を食い入るように凝視してしまった。
「ほらシンジ、手が止まっている。母さんもバカな事を言ってないで早く着替えて。遅刻したら冬月先生にお説教されるのは僕なんだからね」
口を動かしながらもヨシアキは手際よく料理を作って行く。調理の時間を逃したシンジは配膳係へと回された。食器を並べるのも名前の無い家事の一つだ。
「うーん、朝はやっぱり緑茶よね、スイッチが入って来た!」
ミサトはヨシアキの淹れた煎茶を一気に飲み干した。ヨシアキはさっきまで台所で料理をしていたはずなのに、今はシンジに煎茶の淹れ方をレクチャーしている。『朝茶はその日の難逃れ』、大切な人のためにお茶を淹れてあげるのだとヨシアキは茶道の心得を説いた。
「ミサトさんが保護者なら僕の三者面談はどうなるんですか?」
今日はシンジの通う第壱中学校で三者面談を行う日だった。シンジは伯母の元を離れてしまっている。今はミサトがシンジのクラス担任であり保護者。ミサトとサシで進路について話す事に苦手意識が残っていたシンジは不安そうな顔で尋ねた。
「あたしが保護者で、先生役は副担の根府川先生にしてもらうことになっているの」
根府川先生とは第壱中学校で社会科の授業を教えている教師である。いつも授業になると根府川の話をするのでそうあだ名がついてしまった。シンジは根府川先生は温厚で優しい先生だとミサトから聞いていた。昨日の社会の授業で一回顔を合わせただけだったが、そんな感じだとシンジは思った。
今日はシンジが初めて加持邸から歩いて第壱中学校に通う日だった。シンジはトウジとケンスケから一緒に登校しようと誘いを受けていた。ネルフに来てから初めてシンジの携帯電話が鳴ったのである。嬉しくてシンジはケンスケと長電話してしまった。聞かれるままにケンスケにネルフの事を話してしまったシンジだがとても気分が良かった。
シンジが朝食を終えて学校へ行く準備が整った時、加持邸の玄関のベルが鳴らされた。
「「おっはよー碇君」」
玄関からトウジとケンスケの元気な声が飛び込んで来た。遠回りをして第三新東京市の郊外にある加持邸に二人がやって来たのは、教師ではないプライベートなミサトの姿を見るためでもあった。
「「行ってきます、ミサト先生!」」
「行ってらっしゃい」
元気良くミサトに呼び掛けるトウジとケンスケが見れたのは、玄関から死角となる角から伸びたミサトの腕とヒラヒラと振るミサトの手だけ。二人は無念の涙を流していた。せめて想像で傷ついた心を補完しようと、通学路を歩きながらケンスケはシンジに質問を投げ掛けた。
「なあなあミサトさん、今日の朝はどんな服を着ていた?」
「どんなって、普通のパジャマだよ。胸元のボタンが空いててだらしが無かった」
シンジはウンザリとした顔でため息を吐き出してそう言うと、トウジとケンスケは両側からシンジに抱き付いて悲鳴にも似た怨嗟の声を上げた。
「くーっ、うらやましすぎるっ!」
こうなったらミサトをこっそり隠し撮りでもしようかと思ったケンスケの心を見透かしたように、ヨシアキが後ろに立っているのに気が付いて、ケンスケは声にならない悲鳴を上げた。トウジもヨシアキを見て震え上がっている。
「えっと、紹介がまだだったね。ヨシアキ兄さんだよ」
ヨシアキに気が付いたシンジがトウジとケンスケにそう告げた。
「どうも、弟と仲良くしてやってね」
爽やかな笑顔を浮かべるヨシアキに秘められた殺気をトウジとケンスケは知っている。二人がコクコクとうなずくと、通学路が別れるヨシアキは手を振ってシンジたちの前から去って行った。ケンスケはヨシアキがミサトと同居している事を悟ると、残念そうに息を吐き出すのだった。
<旧東京都心 第018実験場>
その翌日、ミサトはキッチリとしたスーツ姿で加持家の食卓に現れシンジを驚かせた。ミサトとリツコの二人はネルフの代表として日本重化学工業共同体の実験機「ジェット・アローン(JA)」の完成披露記念会に参加した。
会場に集まっているのはネルフのせいで日の目をみない、利権にあぶれた企業の役員や政治家たち。自分たちの実験機を自慢し、ネルフを笑いものにしようと企んでいるつまらない集まりだとリツコは批判していた。
「みなさん、本日は次世代決戦兵器JAの完成披露記念会にご参加いただきありがとうございます」
壇上にはJAの開発責任者である時田シロウ博士が尊大な様子で立っていた。会場に集まった群衆たちからは拍手が上がる。シロウは壇上からリツコを見下ろしていい気分に浸っていた。シロウは一方的にリツコをライバル視していた。ネルフのエヴァが使徒を二体もせん滅させた話を聞いて、嫉妬心に燃えていた。
「JAは150日間連続で戦うことができます。ここが5分として戦えない某組織の決戦兵器と違う所です」
時田シロウ博士はそう言って真ん中のテーブルに居るリツコとミサトに視線を送る。リツコは相手にしないとばかりにシロウの方に顔を向けようともしない。ミサトも凛とした表情でシロウの言葉を受け流していた。そんな二人の様子が面白くないのか、シロウはさらに挑発を続ける。
「先の戦いでは電池切れまで起こしたそうではありませんか。ネルフにこのまま使徒との戦いを任せてはおけません!」
シロウがそう言い放つと、周囲から賛同する声が湧き上がる。リツコは涼しい顔で何も言い返さない。ミサトは負けを認めているようなリツコの反応が不思議でならなかった。JAの欠点を指摘するなり、ネルフの正当性を冷静に話せば聴衆の中にもネルフに味方してくれる人は出て来るはずだ。
「私の返事は、これよ!」
壇上に駆け上がったミサトはそう言うと、時田シロウ博士に見事な一本背負いを決めた。おおっと、聴衆から声が上がった。シロウは尻餅をついて呆然とミサトを見上げていた。今度はミサトがシロウを見下す番だ。ネルフを役立たずと言った大口を塞いでやる。
「あなた達が自慢するJAの性能、見せてもらおうじゃないの!」
「言われなくてもそのつもりです、ご覧に入れましょう」
立ち上がったシロウはJAの起動実験開始を宣言した。実験場に建てられたビルが縦に割れ、その中から直立したJAは姿を現した。シロウの指示でスタッフたちが動き、固定していたものが次々と外されて行く。JAは頭部が存在しない首無し人型ロボットと言う表現が適切だった。
「歩行、前進微速。右足、前へ!」
「了解。歩行、前進微速、右足前へ!」
シロウが号令を下し、オペレータがコンソールを操作すると、JAは右足を一歩踏み出した。その様子は会場に設置された超大型ディスプレイに映し出される。一歩動いただけで拍手が巻き起こる。初号機が動き出した時のあたしたちもこんな感じだったかしらと懐かしそうに眺めていた。
JAはゆっくりと歩き出した。会場のディスプレイではなく窓から望遠鏡を使って眺める人たちも居た。
「へえ、ちゃんと動いてる。大したものじゃない」
「歩くだけなら並みのロボットでも出来るわよ」
JAを見たミサトが感心してつぶやくと、リツコは不敵な笑みを浮かべていた。
「さて次はJAの格闘能力をご覧に入れましょう」
シロウが合図を送ると地面からビルが生えて来た。JAのパンチでビルを粉々にするデモンストレーションなのだろう。しかし、歩くJAはビルを通り過ぎて行ってしまった。異変に気が付いたシロウは驚いた顔でオペレータに問い掛けた。
「どうした?」
「変です、融合炉内の温度が急激に上昇しています、冷却水の温度も上昇中です」
「バルブを解放しろ!」
シロウはあわてず、マニュアル通りに指示を下したが、歩き続けるJAには何の変化も見られなかった。
「信号を受け付けません!」
オペレータの言葉を聞いたシロウは顔が青ざめた。制御不能を意味するからだ。パニックに陥ったシロウは無駄な命令を繰り返した。
「緊急停止信号発進、動力閉鎖!」
「停止信号発信……ダメです、止まりません!」
恐怖がオペレータにも伝染する。想定外の事態に膝を折ってしまったシロウ。
「そ、そんなどうすればいいのだ……」
「主任、このまま温度が上昇すれば炉心融解の危険があります!」
そうオペレータが報告すると、会場全体から轟音の様な悲鳴が上がる。メルトダウンに巻き込まれては命に係わる。会場の出口にはパニックになった人々が押し寄せるが、この辺り一帯が爆発範囲になれば間に合わないだろう。
「あり得ない……JAにはあらゆる危険を想定してプログラムが組み込まれているはずだ……」
真っ青な顔で座り込んでブツブツとつぶやくシロウの肩をつかんでミサトは詰め寄った。
「何を手をこまねいているんですか、JAを止めなければ大変な事になるんですよ!」
「こうなっては自動停止を待つしか手はありません……」
生気を失って肩を落としたシロウは消え入るような声でミサトにつぶやいた。
「自動停止の確率は?」
「0.03%です。奇跡でも起こらない限り無理ですよ!」
ミサトに尋ねられたオペレータの一人がそう答えた。
「ミサト、遠隔操作ロボットには停止信号を受け付けない場合の緊急停止コードが備えられているはずよ」
今まで黙っていたリツコが口を挟むと、ミサトは凄い剣幕でシロウに詰め寄った。
「あなた、知っていて黙っていたわね! 緊急停止コードを教えなさい」
「私は開発責任者、上の許可を取らないと無理です!」
シロウが首を横に振って拒否すると、ミサトはシロウの両手を握って頼み込んだ。
「お願い、何としてでもJAを止めたいの。緊急停止コードを教えてください」
「……緊急停止コードはHAREZORA。JAの内部コンソールに打ち込めばいい」
「ありがとう」
ミサトはシロウにお礼を言うと、手を離した。ミサトのやる事は決まっている、JAに乗り込んで緊急停止コードを打ち込んで炉心融解を阻止する。話を聞いたシロウやJAの開発スタッフたちは口々に無理だと言う。
「奇跡は待つものじゃない、人の手で起こすものなのよ!」
ミサトは高らかにそう宣言をする。その姿に見とれてしまった人々も居た。
「ミサト、初号機が輸送機でこちらに向かっているわ。ネルフの対放射能防護服も一緒にね」
「リツコ、気が利いているじゃない!」
リツコの手際の良さに、ミサトは思わずリツコに抱き付いた。抱き付かれたリツコは複雑な表情になる。ミサトはリツコが苦しがっているのかと思い、謝ってリツコから身体を離した。輸送機の到着までミサトはJAの構造についてシロウやJAのスタッフたちに詳しく聞いて、JAの内部コンソールへの侵入シミュレーションを重ねるのだった。
<エヴァ専用輸送機>
しばらくしてネルフからの輸送機が旧臨海都市の実験場へと到着した。初号機をぶら下げた輸送機の中ではシンジとミサトは顔を合わせていた。
「JAは後7分で炉心融解の危険があるわ。シンジ君は初号機で歩くJAを追いかけて、動きを止めて」
「分かりました、ミサトさんはどうするんですか?」
ミサトの言葉にしっかりとうなずいたシンジは心配そうな顔で尋ねた。
「私は輸送機から飛び降りて、後部ハッチからJA内部に乗り込むわ」
「危なすぎますよ!」
そうミサトが言うと、シンジは驚いた顔で叫んだ。
「やれる事をやっておかないとね。後味悪いでしょ」
ミサトはそう言ってシンジのほおをなでた。輸送機はJAに接近し、歩きを止めないJAの前へと回り込んだ。ミサトは初号機をJAの前面に着陸させ、動きを止める作戦だった。
「頼んだわよ、シンジ君!」
「はい!」
大きな声で返事をしたシンジは初号機へと乗り込んだ。
「エヴァ、投下位置!」
シンジは踏ん張ってバランスを取り、着地の衝撃で初号機が倒れないようにした。よろけそうになりながらも何とか着地に成功したシンジは前方から近づいて来るJAに向かって歩き出した。初号機の内部電源も五分しか持たない。エネルギーの使い方によっては制限時間が短くなる可能性もある。時間との勝負だった。
初号機はJAの両肩をつかんで前進を止めようとするが、核融合炉を搭載したJAのパワーは半端ではない。馬力だけ比較するなら初号機に勝っていた。普通に押すだけでは止められない。
悩んだシンジの頭に閃くものがあった。初号機はグッと腰を落とし、JAの下半身をつかむことでJAの動きを封じ込める事に成功した。これはカバディにおけるキャッチングのテクニックで、カバディ部のキャプテン、トウジに教えてもらったのだ。
「ナイス、シンジ君!」
完全に動きを止めたJAの背中に、旋回する輸送機からミサトが飛び乗った。
「頑張ってください、ミサトさん」
防護服を着たミサトは初号機に向かってVサインを送る。JAの背中のハシゴを降りたミサトは後部ハッチを開き、JAの内部に入る。目指すは緊急停止コードを打ち込む内部コンソールだ。JA内部を進んで行くうちに、ミサトは違和感を覚えた。
JAが炉心融解の危機に瀕しているにしては静かすぎる、JAが直進を続けている以外には異常が感じられないのだ。目的の内部コンソールに到着したが、緊急停止コードを打ち込むか数秒ためらっているうちに、JAは動きを止めた。
JAが動きを止め、融合炉内の温度も適正な数値に戻りメルトダウンの危険性が無くなると、会場に居た群衆たちからはネルフへの感謝の声があがった。会場に残ったリツコには救ってくれたお礼を言う人々が集まっていた。
「すまない赤木博士、私たちが間違っていた……ネルフに張り合おうとする事ばかりに気を取られ、安全性をおろそかにしてしまった……」
シロウをはじめ、JAの開発スタッフはリツコに頭を下げた。リツコは穏やかな笑顔を浮かべてシロウに声を掛ける。
「JAに問題点があったのは確かです。でも、改良点を乗り越えれば素晴らしいものになると思います。つきましては我がネルフと技術提携をしては頂けないでしょうか」
思ってもみなかったリツコの言葉に、シロウは感激してしまった。ミサトと初号機は命を懸けて自分たちを救い、リツコは温かい言葉を掛けてくれる。シロウはネルフに対する気持ちが180度変わってしまっていた。
「JAと私たちをよろしくお願い致します」
シロウはそう言ってリツコに深々と頭を下げた。これだけの騒ぎを起こしてしまったJAと日本重化学工業共同体はネルフに従うしかないだろう。計画は上手く行ったとリツコは心の中でほくそ笑んだ。
<ネルフ 司令室>
シンジはミサトの起こした‘奇跡’に感激していた。ミサトはこれが仕組まれた奇跡だと分かっていたがシンジにも、シロウたちJAのスタッフたちにも正直に伝えるなど出来なかった。本当の事を知れば皆ネルフに失望し、憎しみも抱くかもしれない。
JAが炉心融解の危機にあったと言うのは、会場のモニターに表示されたJAの融合炉内の数値を改ざんしただけの偽物の事件だったのだ。JA本体はしばらくの間前進をするようにプログラムを改造されていただけ。炉心融解が起こる可能性など端からなかったのだ。
ネルフに戻ったミサトはリツコを詰問し、ゲンドウの指示でこの茶番劇が行われた事を知ると、リツコをしょっ引いて司令室へと押しかけた。ミサトの顔には強い怒りの表情が浮かんでいる。
「赤木博士から話は聞きました。この事件を仕組んだのは碇司令だったそうですね」
ミサトに問い詰められたゲンドウはリツコへと視線を送る。リツコは申し開きのしようが無いと黙って首を横に振った。
「エネルギー開発の第一人者、時田シロウ博士をネルフに引き入れるのに必要な芝居だったのだよ」
「彼は赤木君に敵対心を抱いていたからな、日本重化学工業共同体の後ろ盾もある。金では動かんよ」
コウゾウとゲンドウはもっともらしい理由をミサトの前に並べた。だがミサトには苦し紛れの言い訳にしか聞こえない。
「それならばシロウ博士に頭を下げて誠意をもって頼めば良かったではないですか!」
「君のいう事は正論だ。ただそれだけでは通らない時もある」
ヒートアップしているミサトにコウゾウは困った顔をして諭すようにそう話した。
「我々の計画は上手く行った。何の被害も無かったのだ、問題あるまい」
「被害が無かったですって!?」
ゲンドウの言葉を聞いたミサトは、総司令の机を思い切りバンっと叩いた。
「今回の件でシロウ博士はメルトダウンを起こした大悪人にされる所だったんですよ! シロウ博士のメンタルが弱くて、自殺でもされたらどうするつもりですか? JAの開発スタッフ全員の顔をご存じですか、中にはノイローゼになってしまう人も居るかもしれない。そんな事も考えた事はないんですか!?」
ミサトがそう言い放つと、リツコもコウゾウもゲンドウも返す言葉も無く黙り込んでしまった。三人とも自分の非を認めて謝る事しか出来なかった。ゲンドウがシロウ博士の事はネルフで丁重に扱うと約束すると、ミサトはリツコと共に司令室を出て行った。
「やれやれ、この私が諭されてしまうとはな。彼女も立派に成長したとは思わんか、碇?」
「彼女がシンジの保護者役を勝手に買って出た時は肝が冷えました。ですがこのまま任せようと思います」
コウゾウの言葉に、ゲンドウはそう答えるのだった。
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文章量少なめのハイペースで進めた連載ですが、補完した方が良いでしょうか? 最終話だけ別のアンケート(続編について)になります。
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