新世紀エヴァンゲリオン for Children ~全ての子供たちのために~ 作:朝陽晴空
<ネルフ 第一発令所>
ジェット・アローン(JA)暴走事件からしばらく経った。ゲンドウは時田シロウ博士をミサトとの約束通り、リツコと同格の技術開発部技術局第一課所属として迎え入れた。エヴァンゲリオン開発総責任者はリツコのままだったが、シロウはエヴァの内部電源の改良等の研究をする事になった。
JAは「原子炉を搭載した格闘兵器はやはり危険すぎる」と言う結論になり、兵器としての運用は完全に否定される結果になった。シロウはまだ巨大ロボット兵器への夢を捨て切れず、原子炉をN2リアクターに変更した『JA改』の建造を画策していた。
そんなある日、正八面体の姿をした巨大な浮遊物体が相模湾沖で発見されたとの情報が入った。司令室を出たゲンドウとコウゾウはネルフのスタッフたちを第一発令所へと招集した。発令所の大型ディスプレイには巨大な青色の美しい正八面体の浮遊物体が映し出されていた。
「赤木博士、MAGIの分析結果はどうかね?」
「パターン青、使徒です」
コウゾウに尋ねられたリツコが断言すると、ゲンドウは発令所に居るスタッフ達に向かって大きな声で号令を下した。
「目標物を第五使徒ラミエルと認定する。総員、第一種戦闘配置」
第三新東京市に緊急避難命令が発令され、ビル群が地下のジオフロントへと収納されて行く。第三新東京市が使徒に襲われるのも三度目だ、市民の避難も手際が良くなっていた。
「加持一尉、今回はどのような作戦で行くのかね?」
「使徒の移動速度は非常に遅いです。よって、初号機による遠距離でせん滅します」
コウゾウに尋ねられたミサトはそう答えた。今までの使徒戦の反省を踏まえて、ネルフ技術部ではエヴァ用の遠距離攻撃武器が開発されていた。劣化ウラン弾を使ったパレット・ガンは使徒に通用しなかった。次に開発されたのはエヴァ用のプラズマ・ライフルだった。
「シンジ君、使徒がプラズマ・ライフルの射程圏内に入ったらトリガーを引いて。細かい調整はMAGIがしてくれるわ」
「分かりました」
初号機に乗り込んで待機をしていたシンジは、ミサトの指示に対してしっかりと返事を返した。前回の使徒戦で命令に逆らってしまったシンジは今回こそはミサトとの信頼を回復しようと意気込んでいた。ミサトも初号機に危険な接近戦闘をさせたく無い気持ちから、先手を打って使徒に遠距離攻撃を仕掛ける作戦を採った。
「エヴァンゲリオン初号機、発進!」
ミサトの号令と共に、初号機が地表へと射出される。シンジはすぐ側にある兵装ビルからエヴァ用のプラズマ・ライフルを取り出して、ライフルを構えて使徒の接近を待った。相模湾に展開する国連軍の艦隊は使徒が第三新東京市に向けて移動するのを静観していた。
第三、第四の使徒戦で国連軍、戦略自衛隊、第三新東京市の防衛設備にかなりの被害が出ていた。復旧も出来ていない状況で、下手に使徒に攻撃を加えて被害を大きくする事を嫌ったのだ。一撃必殺で使徒を倒せれば足止め攻撃の必要も無いとミサトは考えていた。
ゆっくりと浮遊する使徒は小田原市付近から第三新東京市に接近、芦ノ湖上空からネルフ本部を目指していた。ミサトの作戦は使徒が蘆ノ湖の北岸、『仙石原高原』に到着した時に初号機がプラズマ・ライフルで使徒の中心部を撃つものだった。
しかし使徒が蘆ノ湖の北岸、桃源台駅付近に着いた時、オペレーターの青葉シゲルが声をあげた。
「使徒内部に高エネルギー発生、中心部に向けて収束していきます!」
「何ですって!?」
今まで相模湾に展開する国連軍の艦隊に何の反応を示さなかった使徒が活動を始めた事に、ミサトは驚いた。使徒は正八面体から中心部に赤い球体のコアを露出し、コアを頂点にした三角錐を四個広げた形状に変化した。
【使徒ラミエル変形図】(環境依存文字があります)
▼
(三角形頂点方向→)▶●◀(←三角形頂点方向)
▲
※上下の三角もくっついていると想像してください。
使徒はコアに電子エネルギーを集中させると、陽電子ビームを初号機に向けて発射した!
人間の肉眼で確認出来るほど強力なものだった。
「すぐに初号機を格納庫に戻して!」
とっさにミサトは判断を下すが、初号機はビームの直撃を受けてしまった。使徒から照射されたビームに気が付いたシンジは反射的に両腕を前に出して体をかばう。初号機もその動きに連動し、フィードバックの痛みがシンジの両腕に走る。
「うわああああああ!」
シンジの悲鳴が発令所に響き渡る。次の瞬間、初号機は地中に収容された。ミサトは自分の作戦の甘さを悔やんでいた。被害が出ても使徒に攻撃を仕掛けて反応を見るべきだった。遠距離攻撃をしてくる使徒と分かったならば、安易に初号機を出撃させる事も無かった。
シンジの具合が心配だったが、ミサトは新たな作戦を練らなければならなかったので、病室に行くわけにはいかない。ミサトは発令所で戦闘の様子を眺めていたレイにシンジの病室に行くように頼んだ。
「レイ、シンジ君の様子を見に行ってくれない?」
「加持一尉、それは命令ですか?」
レイは無表情でミサトの目を見つめて尋ね返した。平時ならそんなレイを説得したりしたのだが、今は緊急時だ、この言い方しかない。
「命令よ。目を覚ましたシンジ君に食事を摂らせてあげなさい」
「了解」
ミサトに短い声で答えたレイは発令所を出て行った。とりあえずシンジの事をレイに任せたミサトは使徒の動きに注視した。正八面体に形を戻した使徒はネルフ本部の直上で動きを止め、円錐のドリルのようなものを地中に向かって伸ばし、掘削を開始した。
【使徒ラミエル変形図】(環境依存文字があります)
◢◣
◥◤
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※ドリルの穴を通る時、使徒は細長くなると想像してください。
ネルフ本部がある巨大な地下空洞、ジオフロントに使徒のドリルが到達するのは12時間後だとリツコはミサトに報告した。まずミサトは使徒の攻撃能力を探るため、無人の自走砲で使徒を砲撃させた。砲弾は使徒のA.T.フィールドに跳ね返された。
「再び使徒に高エネルギー反応!」
シゲルがミサトに報告し、使徒は先程と同じように姿を変形させ陽電子ビームで自走砲を攻撃した。
「次の攻撃をお願いします!」
ミサトの合図により戦略自衛隊の無人戦闘機『F-5』が三機同時にミサイル攻撃を仕掛ける。ミサイルの熱源反応を察知した使徒が姿を変形させエネルギーの収束を始める。最初に発射されたミサイルが使徒に命中する前に、陽電子ビームによって破壊された。
残りの二つは使徒に命中し、使徒はA.T.フィールドで攻撃を防いだ。使徒は無人戦闘機に狙いを定めて陽電子ビームを発射し、三機とも撃墜するまで繰り返した。その様子をミサトとオペレータたちは大型ディスプレイで見ていた。
「なるほどね。あなた達はこの使徒の特徴をどう思う?」
ミサトはオペレータ席に近づき、日向マコト、青葉シゲル、伊吹マヤの三人に意見を求めた。自分一人で作戦を立案・実行できない事も無いが、これから使徒と共に戦うオペレータたちの判断力を見たかったのだ。
「使徒は相模湾においては攻撃をしませんでした。脅威となると判断した対象にのみ攻撃するようです。一撃離脱戦法も執れるのではないかと思われます」
「同時に複数の陽電子ビームを撃つ事は出来ないようです。複数の部隊による同時攻撃も検討の価値があると思います」
マコトとマヤがそれぞれ作戦の骨子を述べた。ミサトの腹案とは違ったが、二人ともよく考えていると感心した。シゲルも自分の意見を話し始めた。
「俺、疑問に思ったんですけど、どうして使徒は真下にレーザーを撃たないんでしょう? 使徒はドリルでジリジリと地面を削ってますけど、陽電子ビームをガンガン撃った方が早く地下に到達出来そうな気がするんですよ」
「青葉君が言いたいのは、陽電子ビームに弾数制限があるか、あるいは連続で撃つとエネルギーが枯渇するかもしれないと言う事ね?」
ミサトが確認するように質問すると、シゲルはしっかりとうなずいた。使徒のエネルギー切れを狙う作戦、それが上手く行けば無力化した使徒を接近戦闘でも倒す事が出来る。しかし、どうやって使徒の残りエネルギーを確認するのか問題が残った。
「リツコ、使徒の残存エネルギーを調べる事は出来る?」
ミサトが尋ねると、リツコは否定的な表情で首を横に振った。
「使徒のエネルギー量を測定出来たとしても、使徒が陽電子ビームを撃てるかどうか判断する事は難しいわ」
リツコの言葉を聞いたミサトは、シゲルの立案した作戦を断念するしかないと思った。三人のオペレータの前でミサトは自分の腹案を明かした。
「あたしはねえ、使徒の射程距離外からの超長距離射撃で一点突破を狙う作戦を考えているの」
ミサトは大出力の陽電子ビームで使徒のコアを打ち抜く作戦をゲンドウに提案し、実行のための許可を求めた。
「私には日向二尉と伊吹二尉の作戦の方が確実だと思えるのだが」
口を挟んだのはゲンドウの隣に立つコウゾウだった。ミサトは大出力の陽電子砲をどう調達するのか示していなかった。
「使徒の射程圏内にエヴァを出撃させれば、先程の様に攻撃を受けます。一撃を与える前にやられてしまう可能性は高いかと。零号機と初号機を同時出撃させる作戦もリスクが高すぎます」
ミサトが指摘をすると、コウゾウは反論することも出来ず、発令所は沈黙に包まれた。破ったのはゲンドウの一声だった。
「……分かった、加持一尉。君の作戦を承認する」
「いいのか、碇?」
「問題無い」
ゲンドウの発言を聞いたコウゾウは思わず尋ねたが、司令席に座るゲンドウは姿勢を崩さずに断言した。
「ありがとうございます」
ミサトは司令席に向かって頭を下げた。ゲンドウのお墨付きほど頼もしいものは無い。
「全く、ミサトも無茶な作戦を立てたものね」
作戦が決まると、リツコは深いため息を吐き出した。
「実行可能な作戦と言えば、これしか思い付かなかったのよ」
ごまかし笑いを浮かべたミサトはリツコにそう答えた。
「大出力の陽電子砲なんて、ネルフには無いわよ」
ネルフはエヴァが使徒のA.T.フィールドを中和する前提で武装の開発研究をしている。結果としてプログレッシブナイフやスマッシュホーク等の接近戦用武器が中心となっていた。シロウ博士の参入によってエネルギー系の研究は進んだが、遠距離攻撃用の武器としてプラズマ・ライフルを開発するのが精一杯だった。
「まっかせなさい。あたしにアテがあるわよ」
JA事件をミサトが解決した影響から、戦略自衛隊を管轄する防衛庁もネルフに好意的だった事もあり、ミサトは戦略自衛隊の伝手から戦略自衛隊が研究していた陽電子自走砲をトラブルも無く借り受ける事が出来た。戦略自衛隊に限らず、各国の軍隊は戦争のために超長距離の陽電子砲の開発競争をしていたのだ。
戦略自衛隊から借り受けた陽電子砲をエヴァ用のポジトロン・スナイパー・ライフルに改造する事が決定され、リツコたちネルフの技術部スタッフは忙しく作業を始めた。
「大出力の陽電子ビームを発生させるには大量の電力が必要です、どうするつもりですか?」
「ジェット・アローンを使うのよ。搭載された原子炉によって生み出される150日の連続行動可能なエネルギー。格闘戦には不向きでも、発電所としてはイケるんじゃない?」
胸を張って得意気な表情でミサトはそう答えた。JAは暴走事件の後、分解される事が決まりネルフの格納庫に押し込められていた。シロウ博士をネルフに引き入れるためにJAを暴走させた負い目もあって、まだJAの分解に着手していなかった事が幸いした。JAが完全に分解されていたら日本中の電力を徴発する事態になっていただろう。
電力の問題が解決しても、次は狙撃地点を決めなければならない。使徒に近すぎては意味が無い。協議の結果から、変電設備が充実している二子山に仮設基地を造る事が決定した。二子山とネルフ本部の距離は、初号機が使徒に攻撃を受けた距離よりも数倍離れているが、使徒の攻撃を受けないという保証は無い。
「スペースシャトルの船体を転用した物だけど、技術部で盾を製作したわ。使徒の陽電子ビームにも10秒は耐えられるはずよ」
リツコはミサトにそう報告をした。盾を構えながらポジトロン・スナイパー・ライフルを使う事は出来ない。エヴァ二体の同時出撃が必要となった。初号機は使徒のビーム攻撃を受けた。神経接続の解除も間に合わなかった。シンジにもフィードバックによる痛みが相当あったのだと推測できる。
再出撃まで残された時間は長くて10時間、その間にシンジが完全快復する保証は無いと考えたミサトは、精密な射撃が要求される射手を零号機が担当し、盾を持った防御を初号機にさせる事を決めた。ミサトの献策はゲンドウに受け入れられ、『ヤシマ作戦』は始まった。
<ネルフ中央病院 第3外科病棟>
シンジが目を開くと、見慣れたジプトーンの天井が目に入った。伯父夫婦により幼い頃から何度も入院させられたシンジは、この天井をベッドで見上げる度に悲しい気持ちになる。
「ここは、病院? また僕はやられたのか」
「おはよう」
ブツブツ独り言をしていたシンジは、突然聞こえたレイの声に驚いて上半身を起こした。
「綾波さん? どうしてここに居るの?」
不思議そうな顔で尋ねるシンジに、プラグスーツを着たレイは無表情のまま淡々とした口調で答える。
「加持一尉に、碇君の様子を見るように命令されて」
「そっか、ミサトさんの命令なんだ」
レイの返答を聞いたシンジは少しガッカリとした表情になった。自分がレイの立場だったら、同じパイロットしてお見舞いしたと思う。レイはシンジのそんな心情を察することも無く、鍋から湯気を上げているお粥を皿によそってシンジの前に突き出した。
「食事。温かいうちに食べるようにって」
「このお粥、綾波さんが作ったの?」
シンジが尋ねると、レイは無表情のままうなずいた。それなら食べないわけには行かないと、シンジはレンゲを握って食べようとした。腕を動かしただけでシンジの身体に痛みが走った。
「痛てててて。手が痺れるように痛くて上手くスプーンが握れないよ」
レイはシンジからレンゲを奪い取ると、お粥をすくってシンジに向かって差し出す。
「碇君。口を開けて」
「あ、綾波さん、こういうのは……」
照れたシンジは断ろうとするが、レイの赤い瞳にじっと見つめられて、シンジは仕方無く口を開いた。
「熱っ!」
「次からは冷ますわ」
レイはレンゲによそったお粥に息を吹き掛けてシンジの口に運ぶ。シンジはレイの唇に色っぽさを感じて思わず唾をゴクリと飲み込んだ。
「綾波さん、こういうことは家族とか、こ、恋人同士でするんだよ」
シンジは恥ずかしさで顔を真っ赤にしてレイから顔をそらした。自分がレイの唇に色欲の情を抱いたなど知られたら穴があったら入りたい気持ちだった。しかし、レイは止めようとしなかった。
「そう。でも、命令だから」
「ミサトさんてば……」
シンジの頭にからかって喜んでいるミサトの顔が思い浮かぶ。ミサトははそこまで細かく命令はしていないのだが、レイの隠し持った母性本能の成せる業なのか。レイの携帯電話が鳴る。発令所に居るミサトからのようだ。
「初号機、零号機の両機は二子山仮設基地にて待機。明日午前0時より作戦開始」
ミサトとの通話を終えたレイは事務的な口調で作戦内容を話し始めた。シンジは口を挟む事無く黙ってレイの話を聞いていた。
「……以上よ。質問、ある?」
レイから作戦のスケジュールを聞き終わったシンジは首を横に振った。
「また、エヴァに乗らなきゃならないのか」
「乗りたくないの?」
シンジが浮かない顔でぼやくと、レイは無表情を変えずにそう尋ねた。
「当然だろ? また痛い思いをするのは嫌だよ!」
痛む両腕を抱え込みながら、シンジは目を瞑ってそう叫んだ。
「なら、乗る必要は無いわ。作戦は射手の私だけで出来るもの」
レイの言葉に驚いたシンジが目を開くと、レイの姿は病室の入口にあった。
「あっ、綾波さん」
「さよなら」
シンジは呼び止めたが、レイは振り返らずに病室を出て行った。
「ヨシアキ兄さんも言ってたじゃないか、逃げちゃダメなんだ……」
真剣な表情でそうつぶやいたシンジはレイの後を追いかけて病室を出るのだった。
<第三新東京市郊外 二子山第二要塞>
使徒の目を避けるため、複雑に入り組んだ地下通路を数時間歩き通した零号機と初号機は二子山の仮設基地に到着した。仮設のプレハブ小屋で待機任務に就いたレイとシンジに、ミサトとリツコが作戦の細かい内容を説明する。
「零号機には射手を、初号機には防御を担当してもらいます」
「シンジ君が使徒の攻撃で腕を痛めてしまったからよ」
初号機の腕には防御用シールドが縛り付けられていた。シンジが手の痛みに耐えきれず、シールドを手放してしまう危険性を考えたからだった。これなら腕を胸の前で構えるだけの動作で機体をカバーできる。
「照準の設定はMAGIがサポートしてくれるわ。レイ、あなたはトリガーを引くことだけを考えて」
「了解しました」
リツコの言葉にレイは割り切った口調で答えた。
「もし敵が攻撃して来たら、僕が盾で零号機を守るんですね」
冷静なレイとは対照的に、シンジは緊張した口調でつぶやいた。
「巨大な熱源反応を察知すれば、使徒がエヴァに気づく可能性があるわ。盾はそのための保険なの」
「まあ、この距離ならきっと大丈夫よ」
リツコの話に不安の色をのぞかせたシンジを安心させるように、ミサトはシンジに声を掛けた。作戦開始時間まで待機を命じられたシンジとレイは、プレハブ小屋から外に出て星空を眺めていた。少し離れた場所にある変電設備ではネルフのスタッフたちが忙しく作業をしているが、このプレハブ小屋の周辺は人の気配が無く、静かだった。
「碇君はエヴァに乗らなくていい。私だけでいい」
二人きりになるとレイは再びシンジにそう言った。決意が固まったのに、話を蒸し返されたシンジは少し責める様な口調になって、レイに言葉を投げ掛けた。
「何でまだそんな事言うんだよ」
「私が死んでも、代わりがいるもの」
レイは真っ直ぐにシンジの目を見つめ返してそう答えた。シンジにはレイの言葉が「自分は守ってもらう必要は無い、使徒に撃たれて死んでも代わりのエヴァパイロットであるシンジが居る」と言う意味に思えた。自分は知らないうちにレイの存在価値を奪ってしまったのかと思うと悲しくなった。
「綾波は死なないよ、僕が守るから」
「そう」
シンジとしては精一杯レイを元気付けたつもりだった。その気持ちが届いたのか、無表情で短く答えたレイからは読み取る事は出来なかった。レイの気持ちがどうであれ、自分は身体を張って零号機を守る。シンジは自分を奮い立たせて初号機に乗り込んだ。
時計が午前0時を告げる。作戦開始の時間だ。
「これより『ヤシマ作戦』を開始します!」
作戦指揮車に乗ったミサトの号令により、変電設備に灯りが点った。
「ジェット・アローン稼働開始!」
シロウがスタッフに合図をすると、JAに搭載された6基の原子炉が動き始める。発生した電力は全てポジトロン・ライフルに注入されるようにケーブル類は接続されていた。
「陽電子流入、順調なり」
発生した電力はポジトロン・スナイパー・ライフルへと入って行く。順調に進んでいるかのように見えた。しかし使徒が正八面体から形を変えたのを見て、ミサトは顔色を変えた。
「気づかれた!?」
使徒の放った陽電子ビームは真っ直ぐに零号機の方へと向かって来た。零号機に乗っているレイは身体を貫かれる痛みを覚悟して目を閉じた。しかし予期した痛みは感じられない。不思議に思ったレイが目を開くと、初号機が盾を構えて零号機を守っていた。
「碇君……!」
「発射まで、10、9、8、7……」
マヤから告げられるカウントダウンの声がレイにはもどかしく感じた。早く撃たなければ初号機がやられてしまう!
「最終安全装置、解除」
マコトの声が聞こえる頃にはもうほとんど盾は溶けていて、使徒のビームは初号機自身に降り注いでいた。
「撃鉄起こせ!」
ミサトの合図とともにレイはポジトロン・スナイパー・ライフルの引き金を引いた。発射された陽電子ビームは使徒のビームを押し返し、露出した使徒のコアを貫いた!
使徒が爆散すると同時に装甲板が溶けて黒焦げになった初号機も地面に倒れた。
(……碇君!?)
発令所から送られる射出信号よりも早く、レイは零号機で熱を帯びている初号機のエントリープラグを素早く引き抜いた。レイは零号機から飛び降り、熱を帯びたハッチのレバーをつかむと、レイの手にプラグスーツでも抑えきれないほどの熱さが伝わる。それでもレイは力を込めてハッチを開ける。初号機のエントリープラグの中でシンジは顔を伏せて固まっていた。
「碇君!」
「……良かった」
レイの呼び掛けにシンジは答えると、笑顔を見せた。
「……どうして、笑っているの」
「綾波を守れて嬉しいからだよ」
シンジの言葉を聞いたレイは不思議そうな顔でつぶやいた。
「私が死んでも、代わりはいると言ったわ」
レイがそう言うと、シンジは悲しそうな目をしながらも、笑顔を作って穏やかにレイに話し掛けた。
「死んでもいいなんて、そんな悲しい事言うなよ。綾波は死ぬためにエヴァに乗るんじゃない、誰かを助けるためにエヴァに乗るんだ」
「碇君が、私を助けてくれたように……?」
「そうだよ」
レイが尋ねると、シンジはしっかりとうなずいた。
「綾波、手を火傷しているじゃないか!」
シンジはレイのプラグスーツの手のひらの部分が破れ、火傷を負っているのに気が付くとあわてた顔になった。
「ごめん、僕のせいで綾波が火傷したんだね」
気遣うようにレイの手首をつかんだシンジはそう言って謝った。
「それなら、今度は碇君が私にお粥を食べさせてくれる?」
「えっ?」
レイに見つめられてそう尋ねられたシンジは、耳の先まで真っ赤になったのだった。
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文章量少なめのハイペースで進めた連載ですが、補完した方が良いでしょうか? 最終話だけ別のアンケート(続編について)になります。
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