新世紀エヴァンゲリオン for Children ~全ての子供たちのために~   作:朝陽晴空

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第七話 レイ、恋心の向こうに(2021/08/25 14:30)

<ネルフ 第二試験場>

 

「起動実験開始」

 

 ゲンドウの号令と共に零号機の起動実験が開始された。定期的に行われるシンクロテストで何の問題も無いはずだった。実験に立ち会っているリツコとゲンドウも何の心配もなく起動実験の様子を見守っていた。先ほどの使徒との戦いで使徒の陽電子ビームを受けてしまった初号機の修理には時間が掛かる。零号機に頑張ってもらうしかないのだ。

 

「神経パルス、逆流しています!」

 

 マヤの悲鳴にも似た声にゲンドウとリツコにも動揺が走る。零号機は激しく身動きをして拘束を解こうとしている。零号機の暴走を許すわけには行かない。

 

「電源を落とせ、実験は中止だ!」

 

 ゲンドウの命令により零号機のアンビリカルケーブルが抜かれた。零号機は内部電源に切り替わり、活動時間は残り五分となった。リツコは零号機にエントリープラグの射出信号を送った。暴走するエヴァに乗り続ければパイロットが精神汚染される危険性があるからだ。

 暴走する零号機から飛び出したエントリープラグは跳弾の様に部屋の壁に何度も激突し、地面に最後には地面に叩きつけられた。

 

「レイ!」

 

 そう叫んだゲンドウは階段を駆け下り、零号機に踏み潰される危険も顧みずに零号機のエントリープラグへとダッシュした。ゲンドウは自分の手袋が熱で溶けるのにも構わず加熱したハッチをこじ開ける。エントリープラグの中へ入ったゲンドウはレイをお姫様抱っこをして外へと出た。二人は笑顔で見つめ合っていた。リツコは階段の上の部屋からそんな二人の様子を複雑な心境で眺めていた。

 

「やはり司令は自分の娘が可愛いのね。それともレイの身体を通して、ユイさんを見ているのかしら……」

 

 ゲンドウには戸籍上の娘は居ない。レイはゲンドウの血の繋がった娘ではない。しかしユイとは血縁関係にある事は知っている。この事はゲンドウとコウゾウ、リツコと亡くなった母親のナオコ博士しか知らない。だからレイは綾波姓となっている。

 

「赤木博士、零号機の暴走の原因は?」

「パイロットの精神が乱れた事だと考えられます」

 

 ゲンドウに尋ねられたリツコは確信を持った表情で答えた。ほとんど人間の感情を持ち合わせず、わずかにゲンドウに反応を示すだけのレイの心が乱れるなど、今までに無かった事だ。レイが感情を持つ契機になったのは、シンジとの出会い。使徒の攻撃から命を懸けて零号機を守った初号機のエントリープラグにレイは息せき切って駆け付けたと報告を受けていた。

 

「碇司令、シンジ君を呼び寄せた事を後悔していらっしゃいますか?」

「仕方のない事だ。レイでは初号機を覚醒させる事は出来なかったからな」

 

 リツコが尋ねると、ゲンドウは重々しい口調で答えた。ゲンドウはシンジをネルフに呼び寄せる前に、レイで初号機の起動実験を何度も行っていたのだ。初号機とレイのシンクロ率に問題は無かったが、ゲンドウが望む初号機の覚醒は起きなかった。初号機覚醒のトリガーにシンジが必要だと考えたゲンドウは、コウゾウとリツコに相談せず独断でシンジをネルフへと呼び寄せたのだった。

 

 

 

<第壱中学校 グラウンド>

 

 その日シンジの通う中学校では男子がプールで水泳、女子は校庭でランニングを行っていた。女子の先頭を走るミサトは生き生きとしている。ミサトのペースについて行ける女子生徒はおらず、ほとんどの女子生徒はヘロヘロになって歩いていた。

 

「ほらほらみんな、元気出して!」

 

 走れば走るほどミサトは元気が出てくるようだ。戦略自衛隊でしごかれたミサトにとって、校庭のトラック周回なんて軽いものである。そんなミサトの胸は重そうに揺れていた。別の生物が服の中に居るのではないかと思うほどだ。

 

「やっぱ、ミサト先生のチチは最高やな!」

「ああ、碇もよーく拝んでおけよ」

 

 海水パンツが盛り上がっているトウジとケンスケは言うまでも無く、男子はミサトの走る姿に釘付けになっている。家で見慣れてしまったシンジは走るのに邪魔にならないのかなと考えていた。シンジはミサトよりも涼しい顔でミサトの後をついて行くレイの方が気になっていた。

 ファースト・チルドレン、綾波レイ。過去の経歴は不明だとミサトから聞いていた。ミサトはレイの正体を詮索する必要は無いでしょう? とシンジを諭した。同じ仲間のエヴァのパイロット、それで十分。だからレイに優しくしてあげてね、とシンジはミサトに頼まれていた。

 

「碇は綾波が好みか」

 

 レイを見つめるシンジに気が付いたトウジがからかうような顔で声を掛けた。

 

「無表情なのが玉に瑕だけど、美少女である事は認めるぜ。写真は結構売れているからな。碇にも売ってやろうか?」

 

 ケンスケが目を光らせてそう言うと、シンジは首を横に振った。

 

「綾波っていつも独りで本を読んでいるし、友達が居ないのかと思って」

 

 シンジの言葉を聞いたトウジとケンスケは渋い顔になって顔を見合わせた。シンジは不思議そうな顔で二人を見つめた。

 

「うーん……委員長がそうかもしれないけどな。話したりしているし」

「アホか、あれは友情なんかやあらへん!」

 

 ケンスケが困った顔で絞り出すように言うと、トウジは怒った顔で否定する。シンジもヒカリがレイと話している事は何度か目にした。でも他のクラスメイトと話しているのは見た事が無い。見るのは孤独に本を読む姿ばかりだ。自分が何とかしてあげなければいけないとシンジは思うのだった。

 

 

 

<第壱中学校 2-A>

 

 放課後シンジは勇気を出して、レイに声を掛けた。

 

「綾波! これからネルフに行くなら、一緒に行かない?」

「……いいわ」

 

 レイがわずかに微笑んだ事に、クラスメイトたちは驚いた。レイが少しでも笑う所など見た事が無いからだ。レイと一緒に下校する事をクラスメートに冷やかされ、シンジはドキドキしていたが、レイはいつもと変わらない表情で歩いていた。

 

「また、起動実験をするんだ? 今度は上手く行くといいね」

「ええ」

 

 廊下を歩きながらシンジが声を掛けると、レイは短い言葉を発してうなずいた。

 

「綾波は怖くないの? エヴァに乗るのが」

「命令だもの。碇君はどうなの?」

 

 レイに尋ね返されたシンジは苦しそうな表情で答える。

 

「そりゃ怖いよ、怖くない方がおかしいんじゃないか」

「碇君は司令の息子でしょう、お父さんの事が信じられないの?」

 

 初めて強い感情のこもったレイの言葉に、シンジは驚いた。レイがゲンドウの事でそんなにムキになるとは思ってもみなかった。

 

「父さんが僕をどう思っているかなんて、わからないから無理だよ」

 

 ついシンジも自分の胸の内をレイにぶちまけてしまった。

 

「自分が思っている事をお父さんに話せばいいのよ」

 

 レイは落ち着いた声でシンジに言い聞かせたが、シンジは悲しげな顔をして首を横に振る。

 

「でも、父さんと話す機会が無いよ」

「そう、わかったわ。私が何とかする」

「え?」

 

意外なレイの言葉にシンジは驚いた。レイが自分のために何かをしてくれるなんて思ってもみなかったのだ。二人が昇降口に着くと、ヒカリが息を切らせて走って来てレイに声を掛けた。

 

「綾波さん、今度の土曜日の日直、変わってくれないかな?」

「日直は決められたルールよ。自分勝手に変えられるものじゃないわ」

「その通りね、ごめんなさい」

 

 いつもと違い、拒否されてしまったヒカリは動揺を隠せなかった。レイがヒカリに意見を言うなど、この一年間で初めての事だった。

 

「委員長、お前の負けや」

「す、鈴原!?」

 

 トウジの声がした方を振り返ったヒカリは息を飲んだ。自分の恥ずかしい姿をよりにもよって見て欲しくない相手に見られてしまった。

 

「綾波が忙しゅうしとった時も、委員長は手伝わんかったやんか」

「その時はたまたま、私も手が空いて無かったからよ!」

 

 逆にトウジに説教をされてしまうとは、ショックだった。ヒカリは取り繕うような言い訳しか出来なかった。

 

「そんなんじゃ、綾波に嫌われても仕方ないぜ」

 

 ため息をケンスケにまで図星を突かれたヒカリは、すっかりと肩を落として落ち込んでしまった。

 

「碇君、起動実験に遅れるから行きましょう」

 

 レイはヒカリの事などもう眼中にないかのように学校の入口の方を振り返ってシンジに告げた。

 

「うん、それじゃあまたね」

 

 うつむいて黙り込んでしまったヒカリをかわいそうだと思いながらも、シンジはトウジとケンスケに別れを告げて学校を出て行くのだった。

 

 

 

<ネルフ 第三試験場>

 

 ネルフに着いたレイは起動実験のために零号機のケージへと向かい、シンジは第三実験場で零号機の起動実験を見る事を許可されていた。放課後と言う事もあって、授業を終えたミサトも顔を出していた。教師としての職務も大切だが、起動実験に失敗したレイの事が気になったのだ。

 ミサトはゲンドウから今度の起動実験にはシンジも連れてくるようにと命令を受けていた。ミサトもレイの心が乱れた原因はシンジにあると察していた。シンジが自分で零号機の起動実験の場に来てくれて、説得の手間が省けた。シンジが見守っている事で、レイの心拍数はさらに上がってしまうのではないかと懸念もあった。

 

「レイ、今度の起動実験は大丈夫だ。きっと上手く行く」

「はい」

 

 ゲンドウがレイに優しい言葉をかけるのを、シンジは複雑な心境で聞いていた。ネルフに来てからゲンドウに直接声を掛けてもらったのは、初めて使徒を倒した後、廊下ですれ違った時だけだ。あの時もミサトが強制しなければ、ゲンドウは無言でシンジの前から去っていただろう。

 ミサトはゲンドウの事を不器用な人だと話していたが、だからと言って全てが許されるわけじゃない。シンジはじっと零号機を見つめるゲンドウの方に視線を送るが、ゲンドウは何の反応も示さなかった。

 

 

 

<零号機 エントリープラグ内>

 

 零号機に乗るレイは、必死に心を落ち着かせようとした。今まで一糸乱れぬ平常心でエヴァに乗っていたレイは特に意識しなくても、零号機や初号機と一定のシンクロ率を維持することが出来た。シンクロ率が乱高下するようになったのは、第五の使徒ラミエルと戦った後の零号機の起動実験からだった。

 零号機に乗るとレイは思い返してしまう。放たれる使徒のビームから守ってくれた初号機の雄姿、初号機のエントリープラグの中で見たシンジの笑顔、掛けられた優しい言葉。特にシンジの笑顔を思い出すと、とても落ち着かない気分になるのだ。

 ゲンドウもレイに言葉を掛けてくれる。食事の度に学校はどうだ、起動実験の時は大丈夫か、とゲンドウに尋ねられたレイは「今まで問題ありません」と何の感情も無く返していた。でも前と変わらない同じ言葉なのに、ゲンドウから投げ掛けられる言葉に温かいものを感じるようになった。

 碇君も碇司令も好き。どうしたら二人が仲良く出来るのだろうとレイは悩んでいた。シンジには「何とかする」と言ってしまったが、どうすれば良いのか分からない。レイは初めて誰かに相談しようと考えるようになった。しかし、このような事を誰に相談すればいいのだろう。

 レイの頭にミサトの顔がぽっと浮かんだ。シンジがミサトに相談を持ち掛けている姿は何度も目撃している。今までレイはミサトの命令に従うだけだった。ミサトはレイの質問に驚くだろうが、きっと相談に乗っていいアイディアを思い付いてくれる。何しろ作戦部長なのだから。 

 やるべき事が決まったレイは心が落ち着き、平常心を取り戻した。今までリツコは心理グラフが不安定だとレイに落ち着きを取り戻す様に声を掛けていたようだったが、レイの耳には届いていなかった。それだけレイは自分の考えに没頭していたのだろう。

 零号機の起動実験は成功に終わった。前よりもシンクロ率が上がったとリツコはレイに告げた。今のレイにはシンクロ率の事は興味が無かった。素っ気ないレイの態度に、リツコはいつもと同じだと勘違いしていた。

 

「加持ミサト一尉、相談したい事があります」

 

 零号機から降りたレイは真っ先にミサトに声を掛けた。ミサトを逃がしてしまえば相談が出来なくなるからだ。

 

「レイがあたしに?」

 

 ミサトは驚いた顔をしたが、優しげな表情に変わると、レイに近づいて行った。しかし同じ部屋にはゲンドウとシンジが居る。当事者の前で話すのは憚られた。レイは困ったようにゲンドウとシンジにチラチラと視線を送っていた。

 

 

 

<ネルフ 女子ロッカールーム>

 

 レイの視線の動きから、ゲンドウとシンジに聞かれたくない話の内容だと察したミサトは、プラグスーツを着たままのレイを、女子更衣室である女子ロッカールームへと連れ込んだ。ここなら総司令のゲンドウでも盗み聞きは出来ない。

 

「レイが相談したいのは、司令とシンジ君の事ね?」

「はい」

 

 ミサトが尋ねると、レイは真剣な表情でうなずいた。ミサトもゲンドウとシンジのすれ違う姿を見て、頭を悩ませていた。自分とレイの目的は一致しているとミサトは確信した。どうしてレイがそんな考えを持つに至ったのか、自分に相談しようと思ったのか、ミサトは知りたくなった。

 

「最近、特に変わった事は無い?」

「空が……明るく感じるようになりました。緑の濃さが、目に染みるようになりました」

 

 レイの答えを聞いて、ミサトはレイの閉じていた心が開き始めたのだと思った。ゲンドウもミサトも、ネルフの誰もが成しえなかった偉業を遂げたのはシンジだ。ミサトは嬉しくなって頬がほころんでしまった。突然笑みを浮かべたミサトを不思議そうな瞳で見つめるレイ。レイからわずかに漏れる感情をミサトは読み取った。

 

「他に、何か良い事は無かった?」

「家庭科の授業で、お味噌汁を作ったんです。飲んだら、ポカポカしてきました」

「それよ!」

 

 レイの話を聞いたミサトは指を鳴らした。ミサトはレイとシンジが味噌汁を作り、食事会にゲンドウを招待すればシンジとゲンドウが心を通わせる機会が持てるのではないかと提案した。レイもミサトの案に賛成し、ミサトに料理を教えて欲しいと懇願した。

 ミサトは料理がどうしても苦手である。特にレシピの分量通りに入れるのが我慢できない。塩を入れ過ぎて失敗料理となってしまった事もある。料理の指導はヨシアキに任せる事にして、ミサトはゲンドウに話を付ける事にした。

 

 

 

<ネルフ 司令室>

 

 

「これから食事会をするだと?」

 

 機密に係わる緊急の報告があると言うミサトを司令室に入れたゲンドウは、ミサトの話を聞いて苛立った口調で怒鳴った。ミサトは物怖じする様子もなく笑顔を浮かべて話す。

 

「はい、ですから是非、いらしてください。副司令も」

「加持君、我々はこれから新銀座の高級寿司店『九兵衛』で政府の要人と会合の予定がある」

「そうだ、そんな時間はない」

 

 コウゾウは物腰柔らかく、ゲンドウはキッパリと断った。ミサトはゲンドウの言い方にカチンと来たのかゲンドウのデスクへ足音を響かせながら近づくと、バンッと両手を叩きつけてゲンドウをにらみつけた。

 

「そんな時間はない? 政治家の爺さん達と飯を食べる時間はあっても、エヴァのパイロットの子たちと食事を食べるのはちゃんちゃらおかしいって言うんですか!?」

「別にそこまでは言っていない……」

 

 ミサトの迫力に気圧されたゲンドウは、上半身を椅子の背もたれにピッタリつくほどに引いて答えた。

 

「碇、先方には私が会って話をしておく。お前は加持一尉の家に行け」

 

 コウゾウがあわててミサトとゲンドウの間に入って取り成した。ミサトはゲンドウと同じ黒塗りの高級車に乗って加持邸へ向かう事になった。作戦成功を知らせる必要は無い。加持邸に居るヨシアキはミサトの成功を確信しているのだ。今頃シンジとレイはヨシアキの指導を受けながら加持邸の台所で料理をしているはずだ。

 

 

 

<第三新東京市郊外 加持邸>

 

 加持邸の台所では、エプロンを着けたシンジとレイが力を合わせて味噌汁を作っていた。二人が心を込めて作るのは長ネギと豆腐のシンプルな味噌汁だった。シンジが鰹節で出汁を取り、レイはまな板で豆腐と長ネギを切る。

 シンジは沸騰したお湯に鰹節を入れて、かき混ぜずにじっと待つ。続いてざるの上にキッチンペーパーをのせて出汁をこした。金色に光る出汁を見て、シンジは感動の声を上げた。簡単に見える作業だが、お湯に入れる鰹節の分量や寝かせる時間、出汁の取り方にコツがあるのだ。

 レイも包丁を持ち慣れてはいない。持ち慣れた刃物と言えばプログレッシブナイフだけだ。長ネギはぐちゃぐちゃになりながらも切る事は出来た。次は豆腐をさいの目に切る作業だ。豆腐を崩さないように切って鍋に入れなければならない。手の上で豆腐を切ればそのまま落とす様に鍋へと入れられるが、手の上で包丁の刃を動かすと手が切れてしまう。ヨシアキはまな板の上で豆腐を切るようにレイに勧めた。

 

「あっ……」

 

 鍋に入れようとした豆腐がぐちゃぐちゃに崩れてしまったのを見て、レイは悲しそうな顔で声を上げた。

 

「大丈夫だよ、味は変わらないから」

 

 落ち込むレイの肩に手を置いて、ヨシアキは優しい瞳で励ました。元気付けられたレイは気を取り直して残りの豆腐を鍋へと入れた。シンジの取った鰹出汁とレイの切った豆腐が鍋の中で湯気を出していた。味噌を溶かすと、いい匂いが辺りに漂う。最後にレイの切った長ネギを鍋に入れ、レイとシンジの味噌汁は完成した。

 加持邸のベルが鳴る。今日の食事会のメインターゲットであるゲンドウが到着したのだ。ミサトに案内されてダイニングキッチンへと入ったゲンドウは、エプロンを着けたレイの姿を見て固まってしまった。在りし日のユイの姿と重なって見えたからだ。

 

「驚いた? 綾波はネギと豆腐を切ってくれたんだよ」

「……そうか」

 

 シンジに声を掛けられて我に返ったゲンドウは、ミサトに促されて上座へと座った。用意された食事はご飯と味噌汁と言う最も簡素なものだった。シンジは味噌汁を、レイはご飯をよそってゲンドウの席へと置く。コウゾウが来れなくなった分、一人分余ってしまうがご飯と味噌汁ならば大した問題では無かった。

 

「ふむ……」

 

 ゲンドウは食べる前に味噌汁をよく見てみると、豆腐が崩れてしまっているのが分かった。料理に不慣れなレイが失敗してしまったのだろう。しかしだからこそレイが本当に作った証拠だとも言える。シンジとレイが見つめるプレッシャーの中、ゲンドウは味噌汁を飲んだ。

 

「この味噌汁を作ったのは誰だあっ!」

「あんたは海原雄山か!」

 

 味噌汁を飲んで大声を上げたゲンドウに、ミサトのツッコミが入った。怒ったようにも見えるゲンドウの反応に、シンジは怯えてしまった。そんなシンジの顔を見て、しまったと思ったゲンドウは落ち着いた声で事情を説明した。

 

「味噌の味が気になってしまって、つい尋ねたくなってしまったのだ」

「この家には様々な種類の味噌がありますが、その味噌を選んだのはシンジですよ」

 

 台所から顔を出したエプロン姿のヨシアキがそう言った。もしかして父の嫌いな味を選んでしまったのかとシンジは不安を拭いきれないでいた。

 

「懐かしい味がした。美味しかったぞ、シンジ、レイ」

 

 ゲンドウがそう言うと、シンジはパッと顔を輝かせた。レイも照れくさそうにほんのりと顔を赤くしている。今夜の食事会は大成功だったようだとミサトもホッと胸をなでおろした。ゲンドウはヨシアキが炊いたご飯の美味しさにも感動し、『九兵衛』の料理にも負けていないと称賛した。さすがにそれは褒めすぎだろうとミサトは心の中で苦笑したが敢えて口にはしなかった。

 

「父さん、また料理を作ったら食べてくれる?」

「……ああ」

 

 シンジとゲンドウのやり取りを見て、レイは食事会を企画して本当に良かったと思った。今回はそんなにたくさん二人は話せなかったけど、次はもっと打ち解けて話せるはず……。

 夜も更けていたので、レイはゲンドウの車に乗って家に帰る事になった。シンジは食事会を提案してくれたレイ、場所を提供してくれたミサト、料理を教えてくれたヨシアキ、みんなに感謝をしながら幸せな気持ちで眠りに就くのだった。




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文章量少なめのハイペースで進めた連載ですが、補完した方が良いでしょうか? 最終話だけ別のアンケート(続編について)になります。

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