新世紀エヴァンゲリオン for Children ~全ての子供たちのために~   作:朝陽晴空

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第八話 アスカ再来日(2021/09/04 15:25)

<太平洋艦隊 OTR《オーバー・ザ・レインボー》旗艦 甲板>

 

 弐号機パイロット、惣流・アスカ・ラングレーと護衛役の加持リョウジはネルフドイツ支部から日本のネルフ本部に異動するため、弐号機とともに国連艦隊の戦艦に乗り込んでいた。アスカは5歳の頃に一時期日本に滞在していたことがある。実に10年ぶりの日本だった。

 

「アスカ、甲板の上は潮風が強いぞ。そのワンピースは止めておいた方がじゃないか?」

 

 黄色いワンピースを着たアスカを心配するようにリョウジは声を掛けた。風の無い船内で待っているならともかく、甲板でサードチルドレンの到着を待つと言うアスカのアイディアを聞いたリョウジは驚いた。何もそこまでかっこつける事は無いだろうに、と思った。

 

「アタシの髪の色が映えるのはこの服なのよ」

 

 アスカは金色に少し茶色が混じった髪の色をしていた。姿見でコーディネートするうちに、アスカの脳内には光差す甲板で華麗なポーズを決める自分の姿が浮かんでいた。潮風になびく自分の髪も計算に入れていた。潮風がこれほど強いのは予想外だったが。

 

「それに、そんな色あせたリボンでいいのか?」

 

 リョウジはアスカが髪をポニーテールに纏めている赤いリボンを指摘した。アスカは他にカチューシャやシュシュなど様々な服飾品を持っている中でどうして古いリボンを選んだのか。華やかなアスカの金髪に水を差しているような気がした。

 

「鈍感なシンジの事だから、このリボンが無いと美しく育ったアタシの事が分からないかもしれないわ」

 

 アスカはいとおしそうに髪を束ねているくたびれた感じのリボンを撫でた。リョウジはそのアスカの表情を見て合点が行った。五年前にアスカと出会ってから、リョウジはアスカからシンジの話を聞いていた。アスカとシンジは九年前、五歳の頃、両親の勤める研究所で会っている。

 シンジはアスカの髪の事を褒めて、赤いリボンをアスカにプレゼントをした。アスカは第一印象でシンジの事を母親の陰に隠れていた冴えない子だと思っていたが、シンジに対する評価を大きく改めた。幸せだった幼い頃の思い出は美化されてアスカの心の中に残っている……。

 

「まあ線は少し細いけど、ユイおばさんに似て合格点ね」

 

アスカはサードチルドレンの資料として、シンジの写真が貼られているネルフの書類をニコニコして眺めていた。十年前、アスカは研究所でシンジの父親であるゲンドウとも会っている。今のゲンドウから想像付かない事だが、その頃のゲンドウは普通の眼鏡を掛けていて顎髭も蓄えておらず、威圧感のようなものも無かったらしい。

 

「さあ、アタシとシンジの感動的な再会になるベストなロケーションを探すわよ!」

「はいはい、分かりましたよお姫様」

 

 リョウジは日差しの照り付ける甲板でアスカのわがままに付き合わされる事になった。アスカは五歳の頃の記憶を美化してしまっているが、ミサトから聞く限りではシンジは五歳の頃の事を話す事は無いと言う。シンジが辛い思い出として蓋をしてしまっているのも無理はない。シンジとアスカが出会った日は、二人の母親であるユイとキョウコが初号機と弐号機の起動実験で消えた日でもあるのだ……。

 

 

<太平洋艦隊 OTR旗艦 ブリッジ>

 

 ミサトはエヴァのパイロットであるシンジとレイ、息子のヨシアキを連れて艦隊に乗り込んでいた。輸送中の弐号機が使徒に襲われる危険性が指摘され、ゲンドウから指令を受けた。役得として旦那であるリョウジとの再会が早まった事は嬉しいが、ミサトには気がかりな事があった。アスカと言う少女がシンジとレイに出会った時どうなるかと不安があった。

 リョウジからの連絡によると、アスカはユイの目の前でシンジに婚約を申し込み、ユイに認められたと言っている。しかしシンジの口からアスカの話が出て来た事は無い。恥ずかしい話だからミサトに言わなかっただけかもしれないが、シンジが過去の辛い記憶に蓋をしてアスカの事も忘れてしまっている可能性がある。

 

「母さん、顔色が悪いよ。父さんと久しぶりに会うんだからしっかりしなよ」

「そうね……」

 

 パイロット同士の顔合わせもあるが、まずは礼儀として艦長に挨拶をしなければならない。ミサトは気合いを入れ直してブリッジへと向かった。

 

「おお、ミサト君かね。すっかり大人の女性になって、見違えたよ」

「ありがとうございます」

 

 ミサトとOTR艦長は笑顔で握手を交わした。ミサトと艦長は、ミサトが戦略自衛隊に所属して世界の戦場を渡り歩いている頃に知り合った仲だった。艦長はミサトと一緒に居るシンジたちにも目を向けた。

 

「そちらに居るのがエヴァのパイロットか。おや、パイロットは二人と聞いていたが?」

 

 シンジとレイの他にヨシアキが居る事に気が付いた艦長は不思議そうな声を上げた。

 

「この子は息子のヨシアキです。リベラル国の少年兵でした」

 

 ミサトはそう言ってヨシアキを紹介する。内戦に明け暮れた国の少年兵と言う言葉で、艦長は察したようだった。

 

「この度はエヴァ弐号機の輸送を引き受けて下さってありがとうございます」

「ああ、私も君に会いたかったしな」

 

 使徒に通常兵器が通用しない事は周知の事実となっていた。国連軍の艦隊は貧乏くじを引くのを嫌がっていた。それでもミサトの指名にOTR艦隊の艦長は応えた。

 

「例の作戦の準備は出来ていますか?」

「もちろんだとも。よくもまあこのような作戦を思いついたものだ」

 

 真剣な表情でミサトが問い掛けると、OTR艦長は感心したようにため息を吐き出した。ミサトは弐号機の輸送中に海上で使徒に襲われることを想定した作戦を前もって考えていた。エヴァには水中戦闘のD型装備があるが、やはり陸上で戦うのがベストだ。

 慣れない水中用装備を使用して戦えば、使徒に対する勝率が低くなる。海の上でも陸地の様にエヴァが立ち回れる足場が造れないものかとミサトは考えた。ミサトが思いついたのが戦艦同士を鎖で繋ぎ、密集させる《連環の計》だった。

 

「ところで弐号機のパイロットはどこにいるかご存知でしょうか?」

 

 ミサトはブリッジにセカンドチルドレンとリョウジの姿が見当たらないのを不思議に思って尋ねた。

 

「弐号機パイロットとその保護者は甲板で君達を待って居ると聞いている」

 

 潮風と日差しが強い甲板で待たされるリョウジは堪ったものではないわね、とミサトはアスカのワガママに付き合わされるリョウジに同情してため息を吐き出した。

 

「どうやらすれ違ったようですね、それでは失礼いたします」

 

 ミサトは艦長に敬礼をしてシンジたちと共にブリッジを出た。

 

 

 

<太平洋艦隊 OTR旗艦 甲板>

 

 いい場所を見つけたアスカは甲板で腰に手を当てたポーズでミサトとサードチルドレンの登場を今か今かと待って居た。近くにはウンザリとした表情をしたリョウジが立っている。戦闘機の離着陸が止んでいる甲板は静かで人の話し声も大きく響く。

 人の話し声を聞き取ったアスカがその方向を見ると、シンジが‘三人の女性’と楽しそうに話しながら歩いてくる姿を見たアスカは衝撃を受けた。紫色が混じった長い黒髪の魅惑的な大人の女性、短めの黒髪に琥珀色の瞳で穏やかな笑みを浮かべる少女、水色の短髪に赤い瞳をした無表情の少女。

 

「アンタ、アタシというものがありながら、何をイチャついているのよ!」

「おい、アスカ止めろ!」

 

 リョウジが制止しようとするが間に合わない。突進したアスカはシンジに平手打ちをくらわせた。

 

「……僕が何をしたって言うんだよ」

 

 トウジの時と言い、自分は殴られ霊にでも取りつかれているのかとシンジはウンザリとした顔で呟いた。

 

「あたしは加持ミサト。リョウジのハニーよ」

 

 そう言ってアスカに自己紹介をしたミサトはリョウジの肩を抱き寄せる。

 

「おいおい、人前でみっともないぞ」

 

 リョウジもそう言いながらもミサトを振り払ったりしない。

 

「僕は加持ヨシアキ。心外だな、女の子と間違えられるなんて」

 

 ヨシアキは穏やかにアスカに微笑みかけた。アスカの目がシンジへの恋心で曇っていたとは言え、ヨシアキが男だと判っていても、アスカはヨシアキから色気のようなものを感じていた。

 

「それで、そっちの女は何?」

 

 アスカは無表情で見つめて来るレイの瞳をにらみ返しながらミサトに尋ねた。

 

「その子は零号機のパイロットの綾波レイちゃん。仲良くしてあげてね」

 

 ミサトが明るい口調でレイの事を紹介するが、アスカは視線の厳しさを緩めない。

 

「そっか、アンタが強引に言い寄ってシンジを困らせているわけね」

「私、別に碇君を困らせてない。碇君を困らせているのはあなたの方」

 

 アスカがそう言うと、レイも敵対心をむき出しにしてにらみ返した。シンジは目の前の事態に対処できずに固まっていた。どうして初めて会うアスカが自分の事を知っているのか、混乱するばかりだった。

 

「シンジはどう思っているのよ?」

 

 アスカがシンジに詰め寄って問い詰めようとした時、船体が大きく揺れた。

 

「衝撃波!?」

 

 ミサトが驚きの声を上げた。海面を見たヨシアキは、巨大な生物が泳ぎながらこちらに接近してくるのが判った。

 

「多分、使徒が出たんだ」

「アスカ、弐号機で出撃よ!」

 

 真剣な表情になったミサトが指示を飛ばすと、アスカは喜び勇んで声を上げた。

 

「待っていたわ! シンジ、零号機の女、アタシが華麗に使徒を倒すところを見ておきなさい!」

 

 アスカは迎えに来たヘリコプターに乗って、弐号機の載る船へと飛び立った。弐号機はミサトの作戦によって作られた鎖で繋がれた戦艦群の上で使徒を迎撃する段取りとなっていた。

 

「リョウジ、私はブリッジで指揮を執るわ。シンジ君達をお願い」

「わかった、任せとけ。さあ外は危険だ、船室に向かおう」

 

 リョウジはシンジ達を船内へと案内する。ミサトはブリッジに向かって駆け出して行った。

 

 

 

<太平洋艦隊 OTR旗艦 船室>

 

 リョウジは自分が持つアタッシュケースを見ながら考えを巡らせた。使徒が現れたのは、やはりこの『荷物』のせいだな……。リョウジは使徒の狙いが弐号機ではない事を知っていた。自分が厄介な荷物を持って同行しなければ、弐号機は海上戦闘を強いられることは無かった。

 しかし死海文書のシナリオによれば、次に現れる使徒は魚型の使徒だとされている。ここで弐号機が使徒をせん滅させるのは計画の内だった。使徒はこの荷物を探して姿を現した。まだ見つかるまで時間に余裕があると感じたリョウジは、父親として家族との交流も大事だと考えて船室に残った。

 

「ヨシアキ、いろいろ大活躍だったみたいじゃないか。父親としては嬉しい限りだ」

「そんな、父さんほどじゃないよ」

 

 リョウジとヨシアキはお互いに見つめ合って笑顔となった。リョウジは暗殺を生業としていたヨシアキにスパイの技術を叩き込んだ。気配を殺す事に長けていたヨシアキはリョウジが認めるほどに成長した。ミサトの知らない情報も二人は共有している。

 

「レイちゃん、久しぶりだな。調子はどうだい?」

「別に、問題ありません」

 

 リョウジは親しげにレイに声を掛けるが、レイの冷たい返事は以前会った時と変わらない。しかしリョウジはミサトから、レイの心の氷解が始まっていると話を聞いていた。シンジの事を持ち出せば、温かみのある表情が見れるに違いない。ミサトの様にレイをからかうよりもリョウジは優先してやるべき事があった。

 

「キミが碇シンジ君だね」

 

 リョウジは努めて穏やかな笑顔でシンジに声を掛ける。シンジはリョウジに対して緊張していた。

 

「はい、ミサトさんにはいつもお世話になっています」

「あいつもシンジ君の世話になることもあるだろう。家族は助け合ってなんぼのものだ、お互い様だ」

 

 肩を叩いてそう言うリョウジに、シンジは心配そうな表情で問い掛ける。

 

「あの、僕もリョウジさんを父さんと呼ばないといけないんでしょうか?」

「呼び方は何でも構わないさ。シンジ君はミサトさんって呼んでいるだろう」

「はい、ありがとうございます」

 

 リョウジにそう言われたシンジは、ホッとしたような表情でリョウジにお礼を言った。真剣な表情に変わったリョウジはシンジに問い掛ける。

 

「さてと、ここからが本題だ。シンジ君はアスカと会った時の事を覚えているか?」

「あんなにきれいな女の子と会っていたなら、覚えてますよ」

 

 性格はちょっと怖くて乱暴そうだけど(実際殴られているんだし)とシンジは思いながら答えた。

 

「小さい頃の事だから思い出すのが難しいと思うが、何となくでも思い出せないか?」

 

 シンジが過去の悲劇の記憶に蓋をしてしまっているのは判るが、このままではアスカがかわいそうだ思ったリョウジはシンジに幼い頃の記憶をたどる様にうながした。

 

「父さんが僕を伯父さんの家に預けてどこかに行ってしまった事は覚えているんですけど、それ以前のことはよく思い出せないんです」

 

 シンジは悲しそうな顔で首を横に振った。ミサトの話によれば、シンジは自分の母親の顔も思い出せないのだと言う。やはりそれだけ目の前で自分の母親が消えた記憶はシンジにとって忌むべきものなのだろう。アスカの事だけ思い出して欲しいと言うのは虫の良すぎる話か、とリョウジはため息を吐き出した。

 

「さて、もうそろそろ潮時かな」

 

 リョウジはそうつぶやくと真剣な表情で使徒が水飛沫を上げる海面を見つめるのだった。

 

 

 

<太平洋艦隊 OTR旗艦 ブリッジ>

 

 シンジたちが船室でリョウジと話をしている一方で、ブリッジに居たミサトはマイクを使って弐号機に指示を出していた。

 

「アスカ、電源を甲板に出したわ。人の退避は終わっているから自由に動いていいわよ」

「了解。エヴァ弐号機、着艦しまーす」

 

 弐号機に乗り込んだアスカは飛び上がり華麗に着陸した。ミサトの狙い通り、鎖で繋がれた艦隊の揺れは抑えられていた。足場が安定している弐号機は悠々と電源とアンビリカルケーブルの接続に成功する。

 

「アスカ、上出来よ。戦闘準備は万全ね」

 

 スマッシュ・ホーク(ナギナタの形をした武器)を構えた弐号機を見て、ミサトは声を掛けた。しかしアスカは浮かない表情でミサトにぼやいた。

 

「でも水の中を泳いでいる魚みたいな使徒をどうやって倒せばいいのよ」

 

 使徒は海をウロウロと泳ぎ回っている。弐号機の近くを漂っているのは確かだが、使徒は弐号機には目もくれずに巡回していた。ミサトも使徒が襲い掛かって来る前提で作戦を立てていた。これでは水上に巨大な足場を作った意味が無い。ミサトは頭を抱えた。

 

「釣り上げればいいのさ」

 

 ブリッジに姿を現したリョウジは悩むミサトを肩に手を掛けながら元気付けた。突然ブリッジに来たリョウジにミサトは驚いたが、もっと不思議に思ったのはリョウジの言葉だった。使徒は魚型だが、釣りと同じようにはいかない。ミサトの疑問にリョウジは答えず、ブリッジにあるマイクを使ってアスカに連絡を取った。

 

「アスカ、これから使徒は餌に釣られて大きく飛び跳ねる。そのタイミングを狙って使徒を二枚おろしにしてやれ!」

 

 アスカはリョウジの作戦の内容は分からなかったが、リョウジの事は信頼していた。有言実行、リョウジがやると言ったらやる。弐号機に乗ったアスカに出来るのは、リョウジを信じてスマッシュホークを構えて必殺のタイミングを狙う事だ。

 

「それで、どうやって使徒をおびき寄せるつもり?」

「じゃあ、後は任せた!」

 

 リョウジはミサトに手を振ると、ブリッジを飛び出して行った。リョウジがアタッシュケースを持っていた事に気が付いたミサトは、そこに使徒をおびき寄せる‘餌’が入っているのだと考えた。しばらく待っていると、OTR艦隊の旗艦からVTOL(垂直離着陸航空機)が飛び立った。リョウジが乗った機体だろう。

 弐号機の周囲をうろうろと泳いでいた使徒はVTOLに気が付くと、その後を追いかけ始めた。リョウジの載るVTOLは飛び回りながら弐号機が待ち構える戦艦の甲板の方へと使徒を引っ張って行く。使徒はVTOLを丸のみにしようと下が海面ではなく戦艦の甲板の列であるにも関わらず飛び上がる!

 甲板の上で安定して立っていた弐号機はそのタイミングを逃さず使徒を頭から尻尾まで真っ二つに切り裂いた! 二枚おろしになった使徒は、体の奥深くにあったコアを切り裂かれ、その巨体を甲板の列の上にさらした。

 

「まあザッとこんなもんよ!」

 

 弐号機はOTR旗艦に向かって歌舞伎の様に大見得を切る。使徒がせん滅された事を知ったOTR艦隊のクルー達は大歓声を上げた。シンジたちが居る船室からも弐号機の戦いぶりが見えただろうとミサトは思った。

 

「アスカ、使徒せん滅お疲れ様」

 

 ブリッジに居るミサトはマイクでアスカにそう話しながらも、リョウジがVTOLに持ち込んだアタッシュケースの中身が気になっていた。使徒がエヴァを差し置いて追いかけようとするほどものは何?

 リョウジに問い詰めても決して自分には教えてはくれないだろう。ミサトはその事に苛立ちと寂しさを覚えるのだった。

 

 

 

<ネルフ 司令室>

 

 弐号機が使徒をせん滅させた後、リョウジはそのままVTOLで一足先に日本のネルフ本部へと向かった。ミサトにアタッシュケースの中身について詮索されるのも嫌だったし、使徒をおびき寄せた事で、ここでの役目は終わったと判断したからだ。

 

「碇司令、例の物をお届けにあがりました」

 

 アタッシュケースを持ったリョウジは司令室へと姿を現した。コウゾウは席を外していて、部屋に居るのはゲンドウとリョウジだけだ。

 

「弐号機で使徒をせん滅させた事は聞いている。だが、危ない事をしてくれたものだな。万が一そのアタッシュケースが使徒の体内に取り込まれていたら大変なことが起こっていたぞ」

 

 重々しい声で告げたゲンドウに対して、リョウジはおどけた表情で尋ねる。

 

「へえ、どんなことが起こるんですか? ぜひ聞きたいものです」

「白々しい事を言うな。君の事だから調べているのだろう」

 

 ゲンドウの言葉に不敵な笑みを浮かべたリョウジはアタッシュケースを開くと、ゲンドウの机の上に置いた。

 

「このアタッシュケースには波動を遮断する加工がされています。閉じていれば‘これ’の存在を察知される事も無いでしょう」

「君が告げ口をしなければな」

 

 皮肉めいた口調でゲンドウはリョウジに告げた。リョウジもシニカルな笑みでゲンドウに言葉を返す。

 

「これが消えてあわてふためいているのは老人達だけです。行動を黙認している議長にあなたを売ったところで何にもなりません。それに俺も父親です。あなたが息子さんや娘さんを犠牲にしたくない気持ちも分かります」

「フン、私は自らの手で間違った運命を糺したいだけだ」

 

 ゲンドウはそう語ると、アタッシュケースを閉じた。話はもう終わりだという合図だ。しかしリョウジは止まって真剣な顔でゲンドウに訴えかける。

 

「‘それ’が使われない事を祈ります。俺は司令に踏みとどまって欲しいと思いますよ。息子さんと娘さんは悲しむと思いますから」

「加持君、その時は後を頼む。君が代わりに……」

 

 リョウジはゲンドウの言葉を無視して司令室の外に出る。リョウジは強烈な拒否の意思を示したつもりだった。自分はあの二人の父親役になっても父親自体にはならないと誓っていた。

 

 

 

<第三新東京市 第壱中学校>

 

 翌日、ミサトの運転するルノーがいつもより少し遅れた時間に学校の駐車場に到着した。2-Aの生徒達も、ミサトの姿を見ようと教室の窓から身を乗り出していたのはいつもの光景だった。

 

「ミサト先生の車に、すげーかわいい子が乗ってるぞ!」

 

 2-Aの男子生徒が声を上げると、窓際に生徒が殺到する。制服を着たアスカが車から降りると、校舎の窓から顔を出す男子生徒達が大きな歓声を上げる。しかし歓声に応えて校舎に向かって微笑むのはミサトだけで、アスカは顔を上げようともしない。

 

「ミサト先生と一緒におるって事は、エヴァのパイロットなんか?」

 

 トウジに聞かれたシンジは素直にうなずいた。

 

「うん」

 

 ケンスケは余裕を感じさせるシンジの態度に、自分のハンカチを噛みながら歯ぎしりをする。

 

「くーっ、うらやましすぎるぜ碇!」

「まったく、男子ってば」

 

 クラスの男子の心をわしづかみにしたアスカの登場に、文句を言いつつもヒカリはトウジの反応を見て心がざわついた。トウジはアスカの美しい容姿に心を奪われてしまっている。ヒカリはレイも読んでいた本から目を離し、顔を窓の外に向けていることに気が付いた。珍しいレイの仕草に、ヒカリは質問せずにはいられなかった。

 

「もしかして綾波さんも、あの子の事が気になるの?」

「碇君の親公認の許嫁って言っていたわ」

 

 サラッとレイがそう言うと、ヒカリの耳に届いてから理解するまで数秒間かかった。

「えーーーっ!」

 

 ヒカリの甲高い悲鳴が教室に響き渡る。トウジは両手で耳を押えながら、振り返ってヒカリに言い返す。

 

「ビックリさすなや委員長!」

 

 しかしヒカリはトウジに構う事無くシンジの席へと駆け寄った。

 

「ちょっと碇君、こっちに来て!」

 

 血相を変えたヒカリは、シンジを廊下へと引っ張り出す。ホームルーム直前の廊下は人の気配は無かった。トウジやケンスケは他の男子生徒とアスカについて話すのに夢中で、シンジとヒカリの事は気にも掛けていない。

 

「綾波さんから聞いたわ。碇君はあの転校生の子と婚約してるの?」

「それは五歳の時の話だよ、それもあっちが勝手に言ってるだけだし」

 

 ヒカリに詰め寄られたシンジはウンザリとした顔でそう答えた。シンジの言葉を聞いたアスカはパッと顔を輝かせる。

 

「じゃあ、あの子は碇君の事が好きなのね!」

「そんな事は無いと思うよ、僕は大したものじゃないし」

 

 シンジは勝手に失望されるものだと思い込んで暗い顔でぼやいた。謙虚と言えば聞こえが良いが、シンジは自分は頭も良くないし、スポーツも上手くない、面白い話も出来ないと、その物差しで自分の価値を低く見ていた。

 

「ちょっとシンジ、アタシを差し置いて何をその娘と二人きりで話をしているのよ!」

「シンちゃん、早く教室へ入りましょうね」

 

 廊下で話し込んでいるうちに、ミサトとアスカが教室の前まで来てしまったようだ。アスカは二人きりになってくれないシンジにヤキモキしていた。

 

「誤解よ! 私は碇君とあなたの婚約を応援したいと思っているの!」

「はぁ!?」

 

 ヒカリが苦し紛れの言い訳をすると、シンジは困惑した声を上げた。アスカとミサトもなぜヒカリがその話を知っているのか首をひねった。シンジの学校生活も一段と賑やかさを増したようだ。




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文章量少なめのハイペースで進めた連載ですが、補完した方が良いでしょうか? 最終話だけ別のアンケート(続編について)になります。

  • 本文は今の量が読みやすいので外伝形式で
  • 本文の量が増えても加筆修正が良い
  • 外伝で活躍させたいキャラ(メッセージで)
  • 第〇話の修正希望(メッセージで)
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