新世紀エヴァンゲリオン for Children ~全ての子供たちのために~   作:朝陽晴空

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第九話 瞬間、リズム、合わせて(2022/03/06 21:05)

<ネルフ本部 赤木リツコ博士の研究室>

 

 ネルフ技術部の長、赤木リツコは自分の研究室に籠もってデータを纏めていた。

 弐号機がネルフ本部にやって来た事で、彼女の仕事量がまた増える事になる。

 新しいエヴァの整備はもちろん、セカンドチルドレンであるアスカのシンクロテストの準備などもしなければならない。

 

「先輩、日本に来る途中の弐号機と使徒との戦闘資料、整理しておきました」

「ありがとう。このあなたがくれた座布団も座り心地が良いわね。助かったわ」

「どういたしまして、先輩!」

 

 リツコに礼を言われたマヤは嬉しそうに顔を輝かせた。

 今までリツコは自分の聖域である研究室に他の人間のデスクを置く事はしなかったが、弐号機の件で忙しくなったので、後輩のマヤの席を用意する事になったのである。

 マヤは発令所の席にも自分専用の座布団があるとリツコに話し、リツコにファンシーな座布団をプレゼントしていた。

 

「よお、邪魔するぜ、リッちゃん!」

「どちら様ですか?」

 

 赤木リツコの研究室にノックもせずに馴れ馴れしく入って来た男性に、マヤは驚くと同時に警戒心を抱いた。

 

「驚かせてゴメンね、マヤちゃん。コイツはね、あたしの旦那のリョウジ」

「あっ、加持一尉、おはようございます!」

 

 リョウジの後ろからミサトが顔を覗かせると、マヤは警戒心を解いた。

 でも先輩をリッちゃんと親しく呼ぶなんて、どんな間柄だろうとマヤは思った。

 

「久しぶりね、加持君」

 

 リツコが仕事の手を止めて、リョウジの方を振り返った。

 私が声を掛けても振り返らないのに、この人にはなんで? とマヤは軽い焼きもちをリョウジに焼いた。

 

「弐号機の輸送任務が終わって本部に転属になったから、着任のあいさつに来たよ。またあの頃のようにミサトと3人で楽しい時を過ごせると良いな」

 

 リョウジの言葉を聞いたマヤは色々な想像をして頭が混乱した。

 まさかこの人は先輩とミサトさんと同時に付き合っていたとか!?

 

「リョウジが紛らわしい言い方をするから、マヤちゃんが目を回しているじゃないの」

「ごめんな、俺とミサトとリッちゃんは3人でバンドを組んでいたんだよ」

 

 ミサトに促されてリョウジが説明をすると、マヤは胸に手を当ててホッと息を吐き出した。

 

「俺が尺八で、ミサトが津軽三味線、リッちゃんが和太鼓だったな」

「ええっ!?」

 

 いったいどんなバンドなのか想像も付かない。

 マヤは再び目をグルグルと回した。

 

「ほら、太鼓を叩いているリッちゃんの映像もあるぞ」

 

 リョウジがそう言ってマヤにさらしを巻いて両手にバチを持って太鼓を叩いているリツコの姿を見せた。

 マヤは口を開けて驚くばかり。

 

「恥ずかしいから、そろそろ止めてくれる?」

 

 リツコに止められたリョウジは他にもライブの映像があるんだけどな、と呟くと、マヤは後で見せて下さいと目を輝かせて頼んだ。

 

「リッちゃんは、アスカのデータを整理していたところだったのか」

「マヤが居てくれて助かったわ」

「それでどう? アスカの印象は」

「さすがとしか言いようが無いわね。弐号機のスペックもかなりのものね。ただ……」

「どうしたの?」

 

 言い淀んで身体を震わせているリツコを見て、ミサトが不思議そうな顔で尋ねた。

 

「シンジ君と居る時の心拍数や脳波のデータは普段とはまるで別人ね。良くもまあ見せつけてくれるわ」

「まあ、リッちゃんも辛い恋をしているからなあ」

 

 青筋を立ててシンジといる時の幸せそうなアスカの表情を見るリツコに、リョウジは同情した。

 マヤの前だから表立っては言えないが、リツコは妻子の居る男性に片思いをしているのだ。

 

「うーん、マヤちゃんが男の子だったら付き合えたのにね」

「えっ、私は別に先輩となら構いませんけど……」

 

 ミサトの言葉に、マヤは顔を赤らめた。

 リツコは困ったような顔で笑みを浮かべるばかり。

 

「じゃあそろそろ俺達は行くか」

「これ以上2人の邪魔をしちゃ悪いしね♪」

 

 そう言ってリョウジとミサトが部屋を出て行こうとした時、警報がネルフに鳴り響いた。

 

「警戒中の戦略自衛隊の巡洋艦より入電! 駿河湾沖で正体不明の移動物体を確認」

 

 日向マコトの館内アナウンスはそう告げていた。

 

 

<静岡県 駿河湾>

 

 輸送機に吊るされた弐号機が駿河湾の海岸に到着すると、戦略自衛隊の部隊は祝砲を上げて歓迎の意思を示した。

 弐号機が圧倒的な強さで使徒を倒した事は、弐号機を輸送したアメリカ軍の太平洋艦隊から伝えられていた。

 今回も被害が出る前に使徒を華麗に倒してくれるだろうと、戦略自衛隊の士官達は期待をしているのだ。

 

「日本に来て初めてのアタシの晴れ舞台、しっかり見ててよね、シンジ!」

 

 アスカはシンジ達の乗るネルフの指揮通信車に向かって呼びかけた。

 ミサトは弐号機の戦闘能力を高く評価し、単騎で使徒を倒せると考えたのだ。

 

「二号さん、私も居るわ」

「何よその呼び方は!?」

 

 シンジの代わりにレイがそう答えると、アスカはあきれた口調で言い返した。

 二号とは愛人と言う侮蔑を込めた言葉である。

 アスカはレイがそんな言葉を知っている事に驚いた。

 自分も人の事を言えないが。

 

「あなたは私を零号機の女っていうから」

 

 レイの声に静かな怒りを感じたアスカは、レイの意外な一面に驚くと同時に、自分がレイに対してとっていた態度を改める事にした。

 

「分かったわよ、レイ。これでいい?」

「頑張って、アスカ」

 

 とりあえずレイは怒りの矛先を収めた様子だった。

 2人の争いの種の当事者であるシンジはどうして2人の間に刺々しい空気が流れているのだろうと気が付いていなかった。

 

「アスカ、使徒はたった1体よ。先制攻撃で殲滅、頼むわね」

「OK、ミサト!」

 

 弐号機は見せ場が来たと喜び勇んで使徒に向かっていった。

 ミサトは安心してアスカの戦いぶりを見守る。

 

「てやあっ!」

 

 アスカの叫び声と共に飛び上がった弐号機は使徒に向かってスマッシュ・ホークを斜めに振り下ろした。

 弐号機の腰の高さ位の背の使徒はコアと一緒に身体を縦に真っ二つに切り裂かれ、海中へと倒れて沈み込んだ。

 

「どうシンジ、アタシの活躍見てくれた?」

 

 弐号機は指揮通信車の方に振り返って、アスカは通信で嬉しそうに声をあげた。

 

「アスカ危ない、後ろっ!」

 

 シンジの叫び声を聞いたアスカは反射的に弐号機をその場からジャンプで移動させた。

 真っ二つに切り裂かれて海中に沈んでいた使徒が分裂した身体をそれぞれ元の形に修復させて動き出し、弐号機に向かってかぎ爪を振り下ろしたのだ。

 間一髪攻撃を逃れた弐号機は2体に別れた使徒の方を振り返る。

 

「まさか千切れた部分から復活するなんてね。まるでヒトデみたいじゃない」

 

 自分の誤算を悟ったミサトは、苦々しい口調でそう呟いた。

 

「フン、まとめて倒してやろうじゃないの」

 

 アスカはそう言うと、再び弐号機で使徒に攻撃を加えようとした。

 

「アスカ、止めなさい! また奴らを増やしてしまう事になるわよ!」

 

 ミサトは大急ぎでアスカを止めた。

 自分の予想が正しければ、使徒を切り裂いた数だけ増える事になり、今度は2体が4体に増えてしまう事になる。

 

「コアが2つある使徒なんて初めて見たわね……」

 

 ミサトは作戦の立て直しを余儀なくされた事に気が付いた。

 

「アスカ、ここは一時撤退よ!」

「えーっ!? せっかく良い所を見せようと思ったのに!」

「その使徒を倒すには、弐号機だけでは無理よ」

 

 先ほどの使徒との戦いで弐号機があっさりと勝利した事が裏目に出た。

 ミサトは弐号機だけで使徒が倒せると油断してしまったのだ。

 使徒の足止めにはN2爆弾が使われ、使徒の構成物質を部分的に焼却する事に成功。

 使徒は動きを止め、これで辛くも時間稼ぎは出来た。

 戦略自衛隊の部隊の期待を裏切る結果となってしまい、弐号機とミサト達は苦い思いで戦場から撤退した。

 

 

 

<ネルフ本部 作戦会議室>

 

 ミサト達がネルフに戻ると、直ぐに使徒対策の緊急作戦会議が開かれた。

 

「地図を書き換える程度で済んで良かったな」

「副司令、申し訳ありません」

 

 使徒を甘く見ていたミサトの弐号機への過信が招いてしまった事もあるが、コウゾウは被害が少なかったとミサトに軽い口調で話した。

 これはミサトの責任を問う周囲の声を抑えるためのコウゾウの気遣いでもあった。

 

「使徒は分裂して互いを補完し合っているようです。使徒の2つのコアを同時に攻撃すれば撃破出来ると技術部は結論を出しました」

 

 リツコが弐号機と使徒との戦いを直ぐに分析していた事に、ミサトは感心すると同時に感謝していた。

 

「使徒は2体以上、分裂する事は無いのね?」

「ええ、使徒のコアは最初から2つあったわ。だから姿形はヒトデとは似てなくもないけど、ミサトが戦場でした想像とは違う事になるわね」

 

 リツコの言葉を聞いたミサトは、自分の最悪の事態は避けられたと安堵した。

 無限増殖する使徒ならば、N2爆弾を大量投下する作戦も視野に入れていたからだ。

 

「加持一尉。何か作戦はあるかね?」

 

 コウゾウに尋ねられたミサトはしっかりと頷いた。

 ミサトの頭の中で戦闘のイメージが纏まっていた。

 

「はい、赤木博士の分析結果から、2機のエヴァで2つのコアに対して同時攻撃を行います」

「しかし自在に動く使徒にどうやって同時攻撃が行えるのか、作戦はあるのか?」

 

 作戦会議室に集まっている人々の疑問を代弁するかのように、コウゾウがミサトに尋ねた。

 

「2機のエヴァの動きをユニゾンさせれば、使徒も同じ動きをすると考えられます」

 

 ミサトが作戦内容を発言すると、作戦会議室に集まっている人々も納得した表情をした。

 その空気を読み取ったゲンドウは大きな声で宣言する。

 

「その葛城一尉の作戦を許可しよう」

 

 ゲンドウの承認が得られたが、まだミサトには考えなければならない事がたくさんあった。

 どうやって2機のエヴァをユニゾンさせるのか、ユニゾンさせる2機のエヴァをどう選ぶのか。

 

「はい!はい!はい!はい!弐号機と初号機がユニゾンします!」

「いいえ、零号機と初号機の方がヤシマ作戦を経験して連携が取れています」

 

 アスカとレイが手を上げて主張し、2人の視線はぶつかり合った。

 しばらくにらみ合いが続いた後、2人は同時にシンジに詰め寄った。

 

「シンジ、アタシとユニゾンするに決まっているわよね!」

「碇君、私とユニゾンした方が確実だわ」

 

 返事に詰まったシンジは左右からアスカとレイに引っ張られていた。

 ミサトはレイがここまで自分を強く主張するとは思っていなかった。

 明らかにレイは以前に比べて積極的になっている。

 そのレイの成長を姉の立場としては喜ぶべきなのだろうが……。

 

「レイ、アンタ腕を離しなさいよ、シンジが痛がっているじゃない!」

「碇君が苦しんでいるのはアスカが腕を引っ張っているせい」

「加持一尉、何とかしてくれないか……」

 

 コウゾウは困った顔で眉間にしわを寄せてため息を吐き出した。

 作戦会議室に居る人々も同じ気持ちでミサトに視線を集める。

 

「はいはい、2人ともストーップ!」

 

 ミサトがアスカとレイの腕をつかんで、2人の言い争いを終わらせ、作戦会議は解散となった。

 

 

<第三新東京市 加持邸>

 

 作戦会議室から出たミサトは、シンジとアスカとレイを自分の運転する車に乗せて、自分の家へと帰った。

 

「ええっ、アタシもこの家に住む!?」

「そう、あの使徒を倒すにはエヴァ同士のユニゾンが必要になるのは分かっているわよね。だから生活を共にしてお互いのリズムを整えるのよ」

「全く、それじゃあ仕方ないわね」

 

 アスカは言葉では嫌がっていたが、嬉しさはにやけた顔に現れていた。

 シンジとアスカが同居すると言う話を目の前で聞かされたレイは、肩を落として暗い表情になった。

 ユニゾンするエヴァも弐号機と初号機に決まってしまったのかと思った。

 

「大丈夫よレイ、あなたも一緒に住むのよ」

 

 ミサトの言葉を聞いたレイは顔を上げてパッと輝かせた。

 

「レイも住むって言うの?」

 

 心の中で勝利の美酒に酔っていたアスカはミサトに不満を口にした。

 

「部屋はまだ余っているし、レイだけを同じパイロットして仲間外れにするわけにはいかないでしょう?」

「ユニゾンは2人で十分じゃない」

 

 アスカは腕組みをしながら口を尖らせた。

 

「でも、3人じゃいけないってことは無いわ」

 

 ミサトはそう言って、アスカに向かってウインクした。

 レイに対して気まずい思いをすると考えていたシンジは、ミサトの決定に安心した。

 アスカのシンジの動きに合わせられる操縦能力の高さと、レイのシンジとヤシマ作戦で連携した経験値。

 どちらも捨てがたいと、ミサトは作戦に参加する機体を2機に絞り込むことを止めた。

 この機会に3人全員の絆を深める事とも重要だと考えたのである。

 

「それじゃ、今からアスカとレイの引っ越し。荷物を運ぶわよ」

 

 ミサトがそう言うと、玄関のベルが鳴る。

 

「ナイスタイミングで人手が来たようね」

 

 ミサトがボタンを押して自動的に開け放たれたドアの向こうには、シンジ達の友人であるトウジとケンスケ、ヒカリが笑顔で立っていた。

 

「ヒカリ、来てくれたの!」

 

 (主にシンジの事を)話す事が大好きなアスカは、学校で聞き上手なヒカリと親しくなっていた。

 アスカは他のクラスメイトとも上手くやっているが、余りにも熱く(シンジの事を)話すので、ヒカリ以外の女子からは少し距離を置かれている。

 

「私にもアスカと綾波さんの引っ越しのお手伝い出来ることがあるかもしれないと思って」

「はぁ!? なんでレイの手伝いまでするのよ」

 

 自分はヒカリと一番の親友だと思い込んでいたアスカは、レイの事も気に掛けるヒカリに対してそう言った。

 

「私ね、碇君が転校してくるまでの1年間、学校で綾波さんに甘えっぱなしだったの。この前鈴原にハッキリと言われて分かったわ、私も綾波さんに恩を返さなくちゃいけないって」

 

 そう言ってヒカリはチラッとトウジの方を見て顔を赤くした。

 

「あ、ありがとう洞木さん」

 

 レイも顔を赤くしてヒカリにお礼を言った。

 以前のレイは、命令されたからとヒカリに従っていただけで、ヒカリに対する恨みのような感情も別に持っていなかった。

 それを恩返しだと笑顔でヒカリに言われて、レイは心が温かくなるのを感じた。

 

「私達は持ちつ持たれつ、仲良くやって行くべきだと思うの」

 

 ヒカリにそう言われたアスカは観念したようにため息を吐き出した。

 

「はいはい、分かったわよ。さっさと引っ越しを始めましょう」

 

 ヒカリの独占を諦めたアスカはそう言って、レイとヒカリを玄関から押し出した。

 面倒な力仕事はあの3バカトリオに押し付けようとアスカは考えた。

 

 

<第三新東京市 コンフォート17>

 

 アスカは日本に来てからは、レイと同じくネルフの所有する高級マンション、コンフォート17の一戸で暮らしていた。

 ヒカリと楽しく話しながら引っ越し作業をしようと考えていたアスカは、きつくトウジとケンスケに当たっていた。

 

「ほらほら、キリキリ運びなさい!」

「惣流のやつは人使いが荒らいやっちゃな」

「シンジが綾波の所に行ったから機嫌が悪そうだな」

 

 トウジとケンスケがアスカのところに来ると言う事は、レイの荷物を運ぶ男手はシンジとなってしまった。

 ドイツから日本に来た滞在期間がまだ短かったせいか、アスカの荷物はそれほど多くは無かった。

 シンジに見せるための洋服やアクセサリのコレクションがほとんどだった。

 

「何やコレ、ぼろっちい熊のぬいぐるみやな」

 

 トウジがアスカの荷物から古びたテディ・ベアを摘み上げると、アスカは慌ててトウジからテディ・ベアをひったくった。

 

「ちょっと、乱暴に扱わないでよ!」

「そんなん、ちょっと触っただけやないか」

「パパの腕が折れたらどうするのよ!?」

 

 アスカはそう口走ってしまってから、口を両手で押さえた。

 トウジはアスカの言葉の意味が分らず困惑した顔で尋ねようとしたが、何かを察したケンスケはトウジを止めた。

 

「ほら、口よりも手を動かそうぜ。惣流はそのテディ・ベアを大事に抱いていろよ」

「あ、ありがとう、相田……」

 

 不意にケンスケの優しさに触れたアスカは、素直にお礼を言ってしまった。

 そのアスカの表情を見て、ケンスケも驚いて顔を赤くして反らした。

 トウジはますます疑問符が頭の上に積み重なるのだった。

 

 

 

 一方、シンジとヒカリはレイの住んでいた部屋へと向かった。

 レイは長く住んでいる、それなら荷物も少し多いだろうと思っていた。

 しかしレイの家に入ったヒカリとシンジは、殺風景で生活感の無い部屋に驚いた。

 キッチンには調理器具の1つも無い。

 冷蔵庫には冷凍食品や保存食が詰まっていた。

 プリンなどのスイーツやジュースなども無い。

 食材と呼ばれるものは何一つ入っていなかった。

 シンジは今までレイとスーパーで買い物をした事も無かった事に今更ながら気が付いた。

 

「綾波さん、荷物はこれだけでいいの?」

「だって、必要ないもの」

 

 洋服も第壱中学校の制服や下着の替えが何着かあるだけ。

 下着が真っ白だと言うのもレイらしい(ヒカリ「碇君、そんなにじっくりと見ないの!」)

 

「綾波がこんな生活をしていたなんて知らなかったよ」

 

 唯一の趣味である読書を感じさせる本棚に収められた書籍が、レイの主な荷物だった。

 シンジは冷凍食品や保存食は引っ越しの荷物として持って行くのは止めて、コンフォート17に残す事にした。

 加持家にはシンジの兄である名料理人ヨシアキが居るのだから、冷凍食品を食べるなんてあり得ない。

 トウジとケンスケ、シンジ達は段ボール箱に詰めた荷物をコンフォート17のエントランスまで運んだ。

 アスカとヒカリ、レイは応援するチアガールだ。

 シンジはアスカなら力は男子にも負けないだろうと思っていたが、テディ・ベアをしっかりと抱いているアスカに荷物運びを手伝えとは言えなかった。

 

「全部でこの量なら一度で運べそうだな」

 

 エントランスに積み上げられた段ボール箱の量を見て、リョウジはそう呟いた。

 シンジ達はリョウジの乗って来た軽トラックに段ボール箱を載せて、リョウジがしっかりとロープで固定した。

 道路交通法では荷台に人が乗るのは法律違反である。

 特務機関ネルフであっても例外ではない。

 だからミサトの運転する6人乗りのライトバンもやって来ていた。

 

「アスカ、ちょっと良いか?」

 

 リョウジはシンジ達と一緒にミサトの車に乗ろうとしていたアスカを呼び止めて、自分の運転する軽トラックに乗るように促した。

 アスカはシンジとレイが同じミサトの車に乗るのが気に入らない様子だったが、リョウジに従って軽トラックの助手席へと乗り込んだ。

 

「父親の事は、乗り越えられそうか?」

 

 リョウジは真剣な表情でテディ・ベアを抱いているアスカに尋ねた。

 

「まだアタシは……本当のパパの心は、アタシの側にあると思う」

 

 アスカはリョウジにそう答えてテディ・ベアを強く抱き締めた。

 

「でもアタシはリョウジさんの事も、パパだと思っているよ」

「ははっ、嬉しい事を言ってくれるねぇ」

 

 リョウジはアスカの言葉を聞いて明るい口調でそう答えた。

 アスカもリョウジとミサトが本当に血の繋がった息子を持てない事情を知っている。

 そう言えば、新しい家に帰れば新しいお兄さんが出来るんだっけ。

 アスカは上手くやって行けるか少し緊張した。

 愛の無い相手と同居するのは辛いものがある。

 

 

 

<第三新東京市 加持邸>

 

「ようこそ綾波さん、惣流さん、引っ越しおめでとう。そしてお帰りなさい」

 

 シンジ達が家に戻ると、ダイニングキッチンとリビングに置かれたテーブルには兄ヨシアキが作った蕎麦が置かれていた。

 エプロン姿のヨシアキに「お帰りなさい」と言われて、アスカとレイは一気に緊張が解けた気がした。

 ヨシアキの笑顔には兄でありながらも、女性のような色気があって少しドキッとした。

 それはあまり顔を合わせないトウジとケンスケ、ヒカリも感じている。

 しかしシンジやトウジ、ケンスケの3人は刺すように冷たいヨシアキの瞳も知っている。

 アスカ達が座る席は、レストランの様にヨシアキに指定されていた。

 来客の多い加持家は椅子の数に常に余裕を持たせているのだ。

 

「でもなんで引っ越しのお祝いが蕎麦なのよ?」

 

 もっと豪華な料理でお祝いしてもいいんじゃないの、と疑問に思ったアスカがそう尋ねた。

 

「日本ではそういう風習なのよ」

 

 ミサトがアスカの質問にそう答えると、アスカはそれ以上不満の言葉を漏らさなかった。

 豪華な料理では無かったが、ヨシアキの作った蕎麦は喉越しも味も最高級だった。

 

「とても美味しいお蕎麦ですね、高かったんでしょう?」

「大したこと無いよ、父さんが日本各地から買って来た蕎麦粉を独自の配合でブレンドしただけ」

 

 ヒカリが尋ねると、ヨシアキから返って来た答えにアスカ達は驚いた。

 カレーのスパイスのブレンドなら聞いた事がある、それが蕎麦粉だとは……。

 キッチンを見ると、蕎麦打ち道具一式が洗って片付けられている事に気が付いた。

 こんな完璧なメイドみたいな男の娘が元暗殺者でした、なんて設定で漫画を描いたら売れるんじゃない、とミサトは思った。

 

「いやあ、食った食った、御馳走さん」

 

 トウジは蕎麦が気に入ったのか何回もお代わりした。

 ヒカリはトウジが「こんな真っ黒な汁の蕎麦なんて食べられるか!」と以前に言っていた事を思い出し、不思議に思った。

 

「あの、まさか全員の蕎麦のつゆが違うんですか!?」

「うん、心を込めたおもてなしをしようと思ってね。だから引越しの手伝いに行けなかったんだ」

 

 だからヨシアキは座る席をしていしたのかと、驚愕の事実に気が付いたヒカリは声を上げた。

 ヒカリのヨシアキを見つめる視線の熱さを感じたトウジは胸のざわつきを覚え、ヒカリを振り向かせようとして腕を伸ばすと、痛みを感じて顔をしかめた。

 

「体中が痛いわぁ、きっと筋肉痛になるで」

「どうして引っ越し業者に頼まなかったのよ。もっと楽に済むじゃない」

 

 トウジの声を聞いたアスカはまたミサトに尋ねた。

 

「俺達の勝手な引っ越しにネルフの公費を使いたくなかったのさ。ちょうど俺も時間が空いていたしな」

「それに自分達の手で力を合わせて何かを成し遂げるのは良い事よ」

 

 ミサトはヒカリと楽しそうに話すレイの方を見て笑顔でそう言った。

 学校でもヒカリはミサトに今までレイを都合のいい人間として使ってしまって後悔していると相談していたのだ。

 それを聞いたミサトは、この引っ越しがヒカリのレイに対しての重荷を降ろすいい機会だと作戦を立てたのだった。

 

「今度綾波さんと洋服やアクセサリを買いに行こうと思うの。アスカも付き合ってくれるよね?」

 

 今のヒカリはすっかりレイと対等の友達に近い関係に感じているとミサトは思った。

 

「仕方ないわね、アタシも日本に来てから買い物する時間も無かったし。シンジ達は荷物持ちね!」

「何でワシらまで付き合わなあかんのや」

 

 アスカに言われて、トウジはウンザリとした顔で拒否した。

 そんなトウジの肩をケンスケが掴んで囁きかけた。

 

「いいかトウジ、ここは深く考えるんだ。服を買うって事は試着もするわけだ。制服姿以外の惣流達3人の写真も撮り放題って事さ」

「なるほど……それは儲けるチャンスやな。でも委員長の写真は売り物にはならんから売ってはアカンで」

 

 トウジはヒカリも十分にかわいい事は知っている。

 ケンスケにヒカリの写真を撮るのは良いが、全部自分のものだと照れ隠しに遠回しに言っているのだ。

 

「2人が企んでいる事くらい察しが付くわ。アタシのモデル料は高いからね」

「アスカ、鈴原も誘ってくれてありがとう」

 

 ヒカリがそっとアスカに耳打ちした。

 

「アタシは単に荷物持ちが欲しかっただけよ」

 

 アスカは腕組みをしてヒカリにウインクした。

 

「僕だけ何も得することが無い気がするけど」

 

 シンジだけが面白くない顔でそう呟くと、アスカはシンジに声を掛ける。

 

「シンジにはアタシのキュート写真を無料であげるから、感謝して部屋に飾りなさい!」

「碇君、私の写真も飾って……」

 

 アスカの言葉を聞きつけたレイも、控えめながら負けじと主張した。

 そして楽しい食事会も終わり、トウジたちは帰っていた。

 

「さあ、明日は朝早くからユニゾンの特訓よ。早くお風呂に入って寝なさい」

 

 ミサトがそう言って、テーブルの上に広げられた食器を片付けようとすると、ヨシアキが止めた。

 

「後片付けは僕がするから、母さんはレイとアスカと一緒に入るといいよ」

 

 ヨシアキの言葉を聞いたアスカは不思議そうな表情で答えた。

 

「3人も入れる広さなの?」

「ああ、俺は風呂は命の洗濯だからこだわったんだ。天然温泉みたいで気持ちいいぞ」

 

 『みたいで』と言う表現は、実際にはこの家と同じように、リツコ謹製のハイテク人工温泉装置が使われているからだ。

  まだ加持家に来たばかりのアスカは知らなかった。

 

「シンジ、アタシ達の裸をのぞくんじゃないわよ」

「そんな事をしたら、僕は明日の朝陽を拝めないよ」

「さすがにアタシはそこまでしないわよ、せいぜい半殺し程度」

 

 真剣な表情で語るシンジに不思議そうな顔をしたアスカはそう答えて、レイとミサト共に浴室へと向かった。

 女性たちの入浴と言えばまず下着の色を明かす(読者サービス)

 ミサトは大人の色気を感じさせる黒を基調とした紫のフリル。

 アスカはあどけなさを残す赤と白の横縞。

 レイは買ったばかりの爽やかさを感じさせる水色だった。

 脱衣所には体重計ではなく、3D測定装置が置かれている。

 体重や身長だけでなく身体の3サイズから体脂肪率も表示される器械だ。

 いちいち別の器械で調べるのが面倒だからと置いてあるらしい。

 

「レイ、勝負しない?」

「受けて立つわ」

 

 アスカとレイは腰に手を当てて胸を張って張り合った。

 どちらが勝っているかは見た目では分からない。

 

「じゃあ、あたしがお先♪」

 

 ミサトがそう言って測定装置に飛び乗ると、163cm 47kg B-88 W-59 H-82 BMI-17.69と表示された。

 アスカとレイは戦意を喪失し、揃ってミサトに向かって頭を下げた。

 いつか成長して追い越してやると2人は心の中で誓った。

 

「ミサト、その体の傷どうしたの?」

「戦場でちょっとね」

 

 ちょっとどころの傷じゃないと思うけど、とアスカは思った。

 ミサトの下乳の部分には大量の切り傷があったのだ。

 普段、服を着ているミサトが見せているのは胸の谷間と呼ばれる部分。

 せっかくのバストが台無しだとアスカは思った。

 

「加持一尉はナイフを持って暴れている子供を胸に抱き締めたのですか?」

 

 レイがそう尋ねるとアスカは驚いた顔になった。

 

「あはは、どうしてそんな事を思うのかな?」

「そうでなければ、説明出来ない傷痕だからです」

 

 レイは追及の手を緩めそうにない。

 このままではいずれ真相にたどり着いてしまうだろう。

 

「ヨシアキは生まれた境遇がどうあれ、今は心優しい私達の子で、あなた達のお兄さんよ」

 

 ミサトはアスカとレイがのぼせてしまいそうになるまで、戦場であった昔話をしたのだった。

 

 

 

 女性陣が風呂から上がった後、交代でリョウジとシンジとヨシアキが風呂に入った。

 男性の着替えシーンはもちろん省略だが、シンジはブリーフ派だ。

 ヨシアキが首に巻いているチョーカーを取ると、サソリをモチーフにした刺青が現れた。 

 

「ヨシアキ兄さん、その腕の刺青って……」

「とある暗殺組織の紋章さ、子供を洗脳して兵士に育て上げるんだ」

 

 気になりながらもシンジが尋ねると、ヨシアキは冷淡にそう答えた。

 マズい事を聞いて雰囲気を悪くしてしまったとシンジは思ったが、場の空気を変えたのはリョウジの発言だった。

 

「ほらシンジ君、アスカ達のエキスが残っているうちに浴槽に入るんだ」

「父さんってば、相変わらずだなあ」

 

 無理やり浴槽に引きずり込まれたシンジを見て、ヨシアキは微笑んだ。

 驚いたシンジは浴槽の水と一緒にエキスを飲み込んでしまったかもしれないと思った。

 

「やっぱりシンジ君も男だ。興奮して来たようだな」

「何ですか、その物差しは、何の長さを計るんですか?」

 

 シンジはヨシアキに両肩を拘束されると暴れて抵抗した。

 

「俺とヨシアキは、根元から切られてしまったからな。半分でも残っていれば、良かったんだが」

「暗殺者は子孫を残す必要が無いからね」

「俺は不幸な事に、アフリカの部族に捕まって戦利品にされてしまった」

 

 ヨシアキとリョウジは、辛い過去を開き直ってケロッとした口調で話す。

 

「だからシンジ君がアスカかレイと家庭を持って、可愛い孫を見せてくれると父さんは嬉しいぞ」

 

 加持家の入浴は、女性陣も男性陣も長い入浴となった。

 

「シンジ、部屋には鍵を掛けて置いた方が良いわ。レイが夜這いに来るかもしれないから」

「それはアスカの方」

 

 すっかり夜も更けて、加持家はアスカとレイを加えた初めての夜を迎える事になった。

 

「アンタ、ズケズケと言うようになったじゃない」

「言いたい事は言いなさいって、加持一尉が」

 

 にらみ合いを続ける姉妹のようなアスカとレイをなだめる様に、ミサトは声を掛ける。

 

「レイ、家族になったんだから、もう加持一尉と呼ぶのはお終いね」

「なんて呼べばいいのかしら?」

「ミサトさん、でいいんじゃないかな?」

 

 側に居たシンジがレイに助け舟を出した。

 

「分かりました、ミサト一尉」

 

 レイはミサトの方を見てそう言った。

 

「ダメよ~、ダメダメ」

 

 ミサトはそう言ってレイにツッコミを入れたのだった。

 

 

 

<第三新東京市 根府川先生の家>

 

 次の日の早朝、起床したミサトは道着に着替えたシンジとアスカとレイを連れて新崎川の近くにある家屋を訪れた。

 中からは同じ道着を着た門下生達が稽古に励んでいた。

 

「ここって道場ですよね」

「アタシたちに空手をやれっての?」

「そうよ。空手には『型』と言うのがあってね、一人で見えない敵と戦っているように動くものがあるの」

 

 シンジとアスカの質問に、ミサトはそう答えた。

 

「空気を相手にパンチしたりキックしたりするの? 空手なんてダサイものじゃなくて、シンジとユニゾンダンスしたーい!」

 

 アスカがそう叫ぶと、道場内が静まり返った。

 門下生の中には露骨にアスカに怒りの視線も向ける者も居た。

 

「お待ちしておりました、加持先生。惣流さん、道場と教室では静かにお願いしますよ」

 

 そう言って姿を現したのは、道着を着た2-Aの副担任の老教師、根府川先生だった。

 

「えっ、どうして先生がここに?」

「根府川先生はね、空手の師範でこの道場主なの」

 

 シンジの質問に、ミサトはそう答えた。

 

「えーっ!?」

 

 アスカは酸欠の金魚の様に口をパクパクとさせた。

 

「根府川先生、重ね重ねアスカが失礼を致しました」

「構いません、私にとって生徒はかわいい孫のようなものです」

 

 根府川先生は仏様のような穏やかな表情でそうミサトに答えた。

 

「根府川先生はネルフの諜報部員の武術指導をしているわ」

 

 レイがそう話すと、シンジは驚いてレイに尋ねた。

 

「綾波は根府川先生が空手の先生だって知っていたの?」

「ネルフで何回か会ったことがあるわ」

 

 シンジとアスカはネルフに来て日が浅いので今まで根府川先生と顔を合わせる機会が無かった。

 アスカは根府川先生がどうして2-Aの副担任でミサトの代役をしているのか納得した。

 

「かわいい孫のような生徒だと言っても、甘くはありませんよ」

 

 根府川先生は引き締まった表情になってシンジ達に声を掛ける。

 つられてシンジ達も引き締まった表情になった。

 

「それでは先生、お願いします」

「まずは空手の型を一通りお見せしましょう」

 

 掛け声と共に根府川先生は空手の型を次々と決める。

 踊っているように見えるだけの動きもあったが、正拳突きや回し蹴りなど、まるで見えない敵と戦っているようにも感じた。

 型を決める度に発せられる大きな声。

 目の覚めるような素早い動き。

 空手の型の事などサッパリ分からないシンジたちもその美しさに魅入ってしまった。

 根府川先生の演技が終わると門下生達から拍手が上がる。

 シンジ達も同じように拍手をしていた。

 

「さあ、次はあなたたちの番です。まずは空手の型を覚える事から始めましょう」

 

 それからシンジとアスカとレイは毎日、根府川先生の道場に通い空手の型の特訓を行う事になった。

 

「型を覚えてからが本番です。3人で息を合わせて同じ動きをするのです。互いの目で見ていては動きがズレてしまいます。リズムを揃えるのですよ」

 

 走り気味の動きのアスカと、溜め気味の動きのレイ。

 シンジはバランス良く動いていたが、3人のリズムはバラバラだった。

 

「調子はどうだ?」

「父さん!?」

 

 道場に姿を現したゲンドウにシンジは驚いた。

 

「もちろん、シンジとアタシのユニゾンはバッチリです!」

 

 アスカはそう言ってゲンドウにアピールする。

 見栄を張らないでよ、とシンジは心の中で呟いた。

 

「そうか、それなら見せてもらうぞ。美しい空手の型は、見ていて心が洗われるからな」

「えっ?」

 

 ゲンドウの言葉にシンジは激しく動揺した。

 

「まさか、父さんの前で空手をやる事になるなんて……」

 

 父親のゲンドウの前でガチガチに緊張したシンジの動きは固くなり、アスカとレイも動きを合わせられなかった。

 

「……もういい、お前達には失望した」

 

 ゲンドウにそう言われたシンジは、ショックで膝から崩れ落ちた。

 

「赤木君!」

「はい、碇司令」

 

 ゲンドウが大声でリツコを呼ぶと、道場の入口から大きな和太鼓を押しながら、法被姿のリツコが現れた。

 太鼓のバチを2本持ち、胸にはさらしを巻いている。

 

「リツコ、懐かしい格好をしているじゃない」

「またバンド時代の衣装に袖を通すとは思わなかったわ」

 

 リツコは困ったような顔で笑いを浮かべながら、和太鼓のセッティングをした。

 アスカはバンドと言えばドラムやギターじゃないの?と不思議でたまらない顔をしていた。

 

「しばらくは、赤木君の太鼓の音に合わせて型を決める練習をしろ」

「実戦ではシンジ君が臨機応変に合図を送る事になるため、私が指示を出す事は出来ません。だから型のリズムを身体に叩き込むのよ」

「ありがとう、父さん!」

 

 その後3人はリツコの太鼓の音に合わせて、型の練習を続けた。

 根府川先生が目で見て合わせるのではないと言うのは、ずっとユニゾン相手の動きを目で追って合わせるのではないと言う意味だ。

 『1を聞いて10を知る』と言う言葉がある通り、合図を見て、タイミングとリズムを合わせて型通りに身体を動かすと言う事だ。

 1と言う合図を見たら、その後の2~10までは同じリズムで動けば使徒を同じように誘導できる作戦だ。

 もっとも、使徒の方がユニゾンに失敗したらコアの同時撃破は出来ないのだが、それは考えない事にした。

 他人の目のプレッシャーに負けないようにと、ゲンドウの他にコウゾウ、トウジ達も交代でシンジ達の練習を見に来ていた。

 

「ほお、碇も良い動きをするやないか。なあケンスケ」

「そうだな……」

 

 トウジの言葉にそう答えながらも、ケンスケの視線は髪型をポニーテールにしたアスカを追っていた。

 

「綾波さんも頑張って!」

 

 レイも汗だくになって身体を動かしている姿に、ヒカリは声援を送った。

 

「どうです、君たちもやってみますか?」

 

 根府川先生に声を掛けられると、トウジ達は慌てて首を横に振った。

 

「いえいえいえ、ワシとケンスケはカバディ部で身体を鍛えてますさかい」

「私も放課後は家事で忙しいので……」

 

 それから時間は過ぎて行き、シンジ達は決戦当日を迎えるのだった。

 

 

 

<ネルフ本部 発令所>

 

 自己修復を完了して元の姿に戻った使徒は、再び動き出した。

 第三新東京市に向かうため、上陸しようとした使徒の前に輸送機で到着した3機のエヴァが立ちはだかる。

 真ん中に居る初号機がプログレッシブナイフで使徒の身体を真っ二つにする。

 これが始まりの合図だ。

 使徒が2体に分裂するのももちろん想定済み。

 左側の零号機、右側の弐号機はしっかりとタイミングを合わせて動き出した。

 しかしこのユニゾン作戦に備えた練習では大事な点を見落としていた。

 それは零号機と弐号機のシンクロ率の差による僅かな動きの誤差だ。

 

「レイ、動きが遅い!」

「分かってる……」

 

 シンクロ率が100パーセントならば、理論上エヴァは自分の身体と全く同じように動かせる。

 だが3人のシンクロ率はバラバラだ。

 シンジもどうしたら良いのか戸惑ってしまった。

 

「シンジ、リズムをレイに合わせて落とすわよ。そのタイミングで合図を出して、出来るわよね?」

「うん、分かった」

「アスカ……?」

 

 今まで歩み寄って来なかったアスカが自分に合わせてくれる事になり、レイは驚いた。

 

「レイ、アンタも無理して力まないで、練習通りに動くのよ」

「ありがとう……アスカ」

「ふん、お礼は勝ってからにしなさい!」

 

 それからシンジは今までズレてしまっていた零号機と弐号機の誤差を修正し、何とか2体の使徒を目的の位置まで誘導した。

 

「ハァッ!」

 

 初号機のシンジが開始の合図の型と掛け声を出す。

 

「「ハァッ!」」

 

 数テンポ後に掛け声と共に零号機と弐号機の正拳突きが同時に2体の使徒に炸裂する。

 

「「アーッ!」」

 

 次の掛け声と共に零号機と弐号機の肘打ちが同時に2体の使徒に叩き込まれる。

 

「「タァーーーーーッ!」」

 

 零号機と弐号機は飛び上がると掛け声と共に全体重を乗せた蹴りで2体の使徒のコアに圧力を掛ける。

 2つのコアが同じ耐久力ならば、使徒は殲滅されるはずだ。

 

「流れるような美しい型だな、碇」

 

 コウゾウは満面の笑みを浮かべて零号機と弐号機の舞いを見ていた。

 

「ああ、よくやった」

 

 ゲンドウが司令席から立ち上がり拍手をすると、ミサトや他のスタッフ達もスタンディングオベーションをした。

 

「おめでとう」

「良くやったな」

「頑張ったね」

 

 オペレータのマコトやシゲル、マヤも祝福の言葉をレイとアスカ、シンジに投げかけた。

 そして零号機と弐号機の間で交わされたハイタッチ。

 この日を境に、アスカとレイはシンジに関する事以外ではいざこざを起こす事は少なくなったわね、とミサトは思った。




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文章量少なめのハイペースで進めた連載ですが、補完した方が良いでしょうか? 最終話だけ別のアンケート(続編について)になります。

  • 本文は今の量が読みやすいので外伝形式で
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