戸口所属魔法使いは猟鬼と呪術師のせいで胃が限界   作:犬(ゆきいろ)

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第3話

じゃあね風贄『さん』と、新しい学校のクラスメイトは控え目に声を掛けていく。私も、会釈だけを返す。

 

どうせいつかは知人も財産も切り捨てて、人の世界から離れなければいけなくなる。それなら、表の顔として問題ない程度の関係さえ作れていれば、それでいい。

 

きっとその方が『いつか』が来た時の為になる。

もし、悪い魔法使いだった場合も、深く知らない方が殺しやすい。

 

日歌ちゃんも、知らなければきっと楽だった。

 

「ジラーチ、何してんの……?」

 

魔法なんてものを知る前は、仲のいい子達と並んで、笑いながらの帰宅。今は下校時口を開く機会なんて皆無だと思って居たのに、思わず疑問形の言葉が出た。

 

校門から出て直ぐ。まだそれなりに生徒の密度が高い場所に何か変なのが居た。

胸の前で指を組祈るような形で微動だにせず微笑み佇む一見不審者。ここ最近一緒に行動する事の増えた外典。

表の顔を持たないせいか、人っぽい形になっても禁書としての性質が滲みだした姿になっている。

慌てて背を押す様にして、人目から逸れ今日の調査の目的地への道を開く。何だか今日はいつもよりも喧騒が騒々しいが、その分、怪しさしかないジラーチへは視線が向かない。

ジラーチは背中をぐいぐい押されながらも、相変わらずな口調で質問へ回答していた。

 

「ナナチを待っていました。カミナカサンが『分からな過ぎて無理怖いちょっとまって暫くその辺りの調査待ってくださいお願いします張さん…張さんにどこまで踏み込んで良いか確認取りますあの出来れば橘さんの調査も同行者をお願いしますあのもう、吐く』と言って居ました」

 

上中さん……あの人大丈夫だろうか…戸口ってそんな激務なのかな……。正直組織全体としてはいいイメージ無いけど…。場合によっては書籍卿とも取引に応じるって言うし……。

 

「パルドは?駄目そう?変調受けた感じ?」

 

「元気でした。でも何故死んだのか分からないです。義眼の誤作動も確認されたので、鬼門へ戻りました」

 

それは大丈夫なのだろうか?最低限の基礎しか学ばず、早々に実務を希望したせいで深いことは分かっていない。

最初は学院へ送られたが、だれか『師匠』についきつつ任務をこなしていく心算だったが、弟子に取ってくれる魔法使いは見つかっていない。

先輩達が予め言っていたけど、本当に猟鬼は嫌われているらしい。

……今大法典の目指すところの、一番必要な動きをしていると思うのに…。

 

特に意識せずに眼帯に触れて、ふと、下らない事を考えた。

 

同じ方の目に眼帯している二人が並んで歩いてるの、客観的に見たら大分アレではないだろうか…?

私もジラーチも、制服のように支給された物を使って居るから、更に妙な塩梅に成っている。率直に言って恥ずかしい。

 

「あれ……何か持ってる?」

 

ちらりと並んで歩く、まるで聖職者の様な装いのジラーチへ目をやると、祈る様に組んでいた指が解かれ何か……例えるな猫でも捕まえた形に成っている。

 

「はい。持って居ます。ワタシはこれらがそれなりに好きです」

 

目を凝らして見るが、何も見えない。普通の一般人……魔法使いの言う一般人と私の認識する一般人は未だに即座には噛み合わない……。

やる気だけはあるのに、上手く頭が着いて行ってくれない。

 

兎も角、あまり魔法使いに順応出来ては居ないが、それでも一息に第三階梯にまでは上がっている。見えない力を目視するし、因果の改変を行う。

 

けれど『持っている』というそれは、全く見えない。魔力の様な物も感じない。

 

「それは…外典だから見える、とかそういう?」

 

教会の聖母像の様な顔で固定されたままのジラーチが首を傾げる。

 

「多分違います。ワタシがこれらを可愛らしく思うからです。禁書としての意識が強く残った外典と、会話をしたことが無いので憶測ですが、ワタシ固有の性質だと思います」

 

そこで一度言葉をきり、腕に抱えている物へ顔を向ける。

 

「魔法は世界を捩じりますが、これらは世界の内側のものです。なので魔法使いでも見える人と見えない人が居るのかも知れません。ワタシは人が想うという事象が大好きです。誰かの祈りの形だと思うと、愛らしくて仕方ありません」

 

第三階梯、外典。所属は猟鬼。

『祈りは破滅を乞う』と題された禁書。

 

上手く言語化出来ないけれど、ジラーチの抱えたそれは決して可愛いらしいものではないという気がした。

 

「離してあげて」

 

「はい」

 

禁書としての意識はそこまで縛られず、洗脳も殆どされて居ないが、外典である以上基本的に大法典に所属している魔法使いの言葉は素直に聞く。

それでも、笑顔で固定された顔が少しばかり名残惜しそうにしていた。

……気がした。

 

「……よし。じゃあ、調査はじめるよ」

 

「はい」

 

しきり直すように、わざと大きめの声を出す。

学院に居たほんのわずかな時、橘日歌がポロリと零した病院を思い出した。

彼女の僅かな記憶を、ここで拾えればいいのだけど……。

 

 

 

 

当時は、世の中にはこんな不運も有るのだろう、と酷く暗い気分に成りながらも受け入れては居た。運が悪かったのだ、と諦めにも似た気分だった。

 

元々家族に縁の薄い両親で、私は一人っ子だった。

 

最初は、お父さんが悪い人に騙されて多額の借金を負った。

次にお母さんが、大病を患った。

 

こんな事も、起こる世界なのだと諦観を抱きながら、倒れたお母さんのお見舞いをして、昼間の仕事の他に夜間のバイトを始めたお父さんのご飯を作って、家事をして、私もバイトに精を出した。

 

辛そうなお母さんを見るのは苦しかった。

日に日にやつれるお父さんを送り出さなきゃいけないのは苦しかった。

バイトと家事で友達と話す余裕さえなくなって、とても寂しかった。

 

そんな時に病院で頻繁に見かける男の子の存在に気付いた。

歳は同じくらいか、少し下。

いつも一人で誰かのお見舞いに来ている様だった。

 

看護師さん達の言葉で彼が『虎杖くん』と言うのを知った。

 

たったそれだけ。

下の名前も知らないし、誰のお見舞いへきているのかも知らない。

言葉を交わした事もない。

 

数度お互い一人っきりで病院を訪れる際、廊下やロビーですれ違い視線が交わり会釈し合った、たったそれだけ。

 

たったそれだけだけど、何もかも全てが苦しかった私は、時々病院ですれ違う同年代の男の子の存在に、その瞬間だけほっと息を吐き出せた。

どぶ川から顔をだして、ようやく息継ぎが出来た感覚だった。

 

たったそれだけ。

たったそれだけだけれど、確かに私はその一瞬だけは救われたのだ。

 

その内に、お父さんは首を吊ってしまった。

その内に、お母さんが病死してしまった。

 

そうして私は魔法を知った。

 

そうして私は、運命変転を理解した。

 

そうして私は、後悔した。

 

私は、苗字しか知らない、ただすれ違うだけの彼を、私のアンカーにしてしまった。

 

もし、私が、失敗したら、かれは…………

 

 

 

 

 

んんんんんんん~~~~~~~~!!!!!!どういうこったよ!?

 

風贄さんから調査結果が伝達されたけども!!

ますます状況がわからない…なに…何が起きてるの……。

 

取り敢えず、分かっている、細切れの事実。

 

 

 

【橘日歌】は魔法使いに成る以前に一方的に感じた恩から、世界への楔として【虎杖悠仁】を選んでいた。:風贄調査

【橘日歌】は禁書『呪いは興隆を与える』を持ち出した。

【橘日歌】は【虎杖悠仁】と接触後所在不明。(接触の程度は現段階では不明)

【虎杖悠仁】は死亡している。(原因不明。禁書?或いは運命変転?世界の条理通りの死?)

【虎杖悠仁】は復活している。(魔法使い…書籍卿?少なくとも大法典に登録はない):ジラーチ調査

 →死体に断章が憑依したパターン?

  しかし魔法災厄の報告は相変わらずなし

【虎杖悠仁】への調査で死ぬ(原因不明。マジでなんで怖い):パルドが実証

【伏黒恵】、【虎杖悠仁】の死の瞬間に接触。(未調査)

【呪術高専東京校】呪術師のコミュニティ。関りたくな、

 

そこまで書いて頭を抱える。

 

んあああああ!!!関わりたくないのに!!!行ってこい!のGOサインだされたよちっくしょう!!

ほんとさ、ほんと、この事件意味が分からなくて、こわいの!

断章がどこにいったかも!確認された学派不明の書籍卿がどこいったのかも!見えな過ぎてこわいのぉ!

ついでに、猟鬼に睨まれたんだって?お前、どんなむちゃな取引したの?デボラ?ブラウア?どっちタイプの危機?あの日本のやべぇ異端者のとこに交渉行くんだって?

って!!!煽って来る周りの奴ら!!!仕事しろよ!仕事!いや多分仕事してるわ!仕事し過ぎて荒んでるんだわ!!!!お大事にっっっ!!!!

 

はぁーーーーー、と一つ溜息をつく。

調べない事には始まらない。幸い、分科会を組んだ猟の人は、今の所そこまで疑われては無さそうなのが、まだ生きられる。

何もしていない筈なのに、ちくちく視線が刺さり続けるの、本当につらい。

 

表の顔の職場、事務机の片隅に置かれたのど飴を一つ口に入れて直ぐにかみ砕き、意を決して受話器を取る。

もちろん、電話はなんの変哲もない人間が使うものだ。

 

「…………あ、突然のお電話失礼致します。私■■■にある漫画喫茶■■■の上中と申します。そちらにご在学中の……

 

 




第三階梯 訪問者 猟鬼 女性
名前『風贄ナナチ』表の顔『女子高生』魔法名『』真の姿『』
信条:魔法を悪用する奴須らく殺す
書籍卿の放った禁書により発生した魔法災厄に巻き込まれ、天涯孤独になり大法典所属に成ると同時に学院をつっぱしり、即猟鬼に所属し泉に目玉をシュゥゥゥウウット!した殺意高めの元女子高生。
怪しいから魔法戦仕掛けとこう。
今回が初任務で、少しどきどき。目上の人や仕事中は敬語で話す様に務めている。まだ見た目通りの年齢だが、パルドとジラーチに対しては結構砕けた話し方をしている。
ともかく『悪い魔法使い』にトドメを刺す事にしか目が向いて居ないので、いまいち今一緒に居る外典や異端者への認識は浅い。
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