聖剣様は理想の勇者を求む ~ヒーローオタクがひたすら冒険者を選別する~   作:雲色の銀

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第1話 聖剣の目覚め

 見渡す限りの山、山、山。あと青い空。

 雲は風に乗って流れ、その下を体長3メートルはある鳥が獲物を探して飛んでいる。台座の近くでは、角の生えた兎らしき小動物が時折草むらから顔を出しては去っていく。

 ……うん、今日も代わり映えしない平和な一日だな!

 見晴らしのよすぎる丘の上にポツンと置いてある台座。そこに俺は一人で、いや()()()佇んでいた。

 

(……暇すぎるだろ)

 

 誰に聞こえるでもない声で俺は呟く。まぁ剣だから口がないので呟くってのもおかしいが。

 俺が意識を持ち始めた時から約50年。周辺の光景は変わることなく、時は緩やかに流れていった。

 

 

 

 元々、俺は人間だった。名前は由良錬徒(ゆられんと)。名前の通りゆらゆられんと生きていたはずだったのだ。ある一点を除いては。

 そんな平凡な日々を過ごしていたはずだが、どうやら俺は死んでしまったようで次に目を覚ました時には剣になっていた。

 自分でも何を言っているのかよく分からないが、事実として俺は以来この台座の上に突き刺さっている。

 実を言うと、最初にこのことに気が付いた時にはかなり興奮した。

 何故なら──。

 

(うおおおおお!? 剣!? 聖剣!? ってことは勇者の戦いを間近で、特等席で見られるってことか!? 英雄が俺を使って必殺技を放ったり、民衆を救ったり!? どれだけ強力な悪が相手でも聖剣を掲げて戦うヒーローの勇姿が俺の目の前に!? ご褒美じゃねぇか!!!!!!!)

 

 俺は大のヒーローオタクなのだ。

 特撮やアメコミはもちろん、古いRPGの勇者みたいな正義のヒーローは大好きだ。カードゲームのヒーローテーマも範囲に含まれる。

 とにかく人類の自由と平和のために命をかける英雄が俺の琴線に触れるのだ。

 そんな俺が伝説の聖剣になるなんて夢にも思わなかった。普通なら、転生して勇者にでもなるところなんだろうけど、俺がヒーローになりたいわけじゃない。強くて輝きに溢れたヒーローを推していたいのだ。

 

(どんな勇者が俺を抜きに来るんだろうか! やっぱり神託を受けて使命に溢れた若者か? それとも鍛え抜かれた鋼の身体を持つ実力者か? あぁ~早く来ないかな? いや、まずは魔王が現れないとダメか。よし来い!)

 

 魔王が来ることを願う聖剣というのも前代未聞だが、その時が近々来ると本気で思っていた。

 しかし、世界は平和そのもの。闇が訪れる気配などなく、俺はこの場所に封印されたままおよそ50年もの間ジッと過ごさざるを得なかった。

 

(ぶっちゃけ拷問でしょこれ)

 

 身動き一つとれないまま意識だけはハッキリと保ててしまう。前世のことはもうあまりよく覚えていないけどそこまで悪逆非道を尽くしたつもりもないぞ。

 そもそもなんで剣に転生出来るんだよ。無機物じゃん。明らかに輪廻転生の輪外れてるじゃん。

 

(大体「聖剣」ってなんだよ……)

 

 100年くらい前に神が地上の住人達に作らせて聖なる力を与えた代物で、魔王に対抗するため俺は人間によって生み出されたあと勇者が引き抜くまでこの光刃(こうじん)の丘に封印されたってのは知ってるけど、勇者がいつ来るのかは分からないし……。

 

(……ん?)

 

 ちょっと待て。

 なんで異世界の聖剣の知識がすらすらと出て来たんだ? 転生してからずっとこの場所から動くことすらできなかったのに。

 まさかと思って、俺は自分の意識を集中させる。

 するとどうだろう。今まで知り得なかった、この世界に関する知りたいと思った情報が次々と出てきた。

 

(50年間ボーっと過ごしてきたのはなんだったんだ……!)

 

 自分の身体が情報の宝庫であることに気付いた俺は、今までの無駄に過ごした時間を激しく後悔した。まぁ動けない状態だからあまり変わらないのだけど。

 それからというもの、俺はこの世界についてひたすら勉強し続けた。

 言語、種族、魔法、世界図。

 知ることのできる事柄はこの聖剣に内包されていることに限定されており、封印されて以降の地理や繁栄については流石に無理だった。

 

 更には自分自身、つまりは聖剣の能力についても深く知ることができた。俺は「雷」の力を宿しているようだ。うーん、聖剣っぽい。

 封印状態でもある程度の魔法は使えるようで、実際丘の周辺には魔物を近付けさせない強力な結界が張ってあるが、これは俺が張っていたらしい。

 

(無意識の内に結界張ってて自分のエネルギー使ってたとか怖いな)

 

 結界をオンオフさせながら俺はそんなことを考えてた。

 因みに、頭上にいる巨大鳥は原生生物なので結界に弾かれなかったらしい。あ、今なんか弾いた。

 あと、ちゃんと雷の能力らしく周辺に雷を降らせることも出来た。生き物に当てるのはなんか可哀想なので巨木をターゲットに何回か練習した。どうせ人間なんて立ち寄らないし、雷がゴロゴロうるさくても迷惑にはならんだろう。

 

 

 

 聖剣に転生して70年。

 色々と魔法を使いこなせるようになって、聖剣としての自分をすっかり把握できるようになった俺は。

 

(おぉー、この丘ってこんな風になってたんだ)

 

 アストラル体を出せるようになった。

 

 この際なんでそうなったのかは置いておこう。俺にも分からないし。

 俺のアストラル体はどうやら聖剣の魔力で出来ているらしく、物体に触れることはできない。他の生物には俺の姿が見えないようで、巨大鳥の目の前に来ても気付くことなく空を飛び続けている。

 ぶっちゃけただの幽体離脱だけど、一応動けるようになっただけよしとするか。

 

(70年ぶりに動けるどころか宙に浮けるとは思わなかったなぁ)

 

 地に足をつける生活からかなり遠くなってしまった、というか足がなくなってしまったと感慨に耽りながら森の中を彷徨う。

 光刃の丘の周辺は深い森になっていて、野生動物が生息している。魔物は結界で弾かれてるからいないけど、普通の人間なら立ち入ることが出来ない環境になっている。

 どおりで聖剣を抜く人間が現れないわけだ。

 

(お、人骨)

 

 ただ、ゼロではなかったらしい。聖剣を手に入れようとして淘汰されたみたいだな。くわばらくわばら。

 

(あのうまそうな木の実も食えたらいいんだけどな)

 

 すっかり物を食べるなんてこともできなくなった俺は、久しぶりに湧いた食欲を残念に思いながら目の前の果実に手を伸ばす。すると、今まで物に触れられなかったはずなのに果実を手に取ることができた。

 いや、実際には()()()()()()()()()()()()()()を手に取っていた。

 

(マジかよ……食えるのか?)

 

 おそるおそる口に運んでみる。うん、甘酸っぱい。

 奇妙なことはそれだけでなく、魔力を抜き取った方の果実は見る見るうちに枯れていき、遂には塵になってしまった。

 

(こんなことも出来るんだなぁ、聖剣)

 

 おおよそ聖剣のすることではないと思うが。

 どうやらこれはマジックドレインの一種らしい。動植物にわずかにでも宿る魔力を自分の糧にする。その過程で俺が食事するということを当て嵌められたと。

 もちろん、食べずとも魔力を吸収することはできるようで、その辺の兎に手をかざすことで少しだけ魔力をもらった。

 

(すごく便利だな。お、小鬼)

 

 多分前に結界で遊んでたら弾き飛ばした奴だ。死んでたみたい。くわばらくわばら。

 そのまま俺はアストラル体の魔力を維持すべく少しずつ吸い取りながら、周辺の探索を続けた。

 

 

 

 そして、聖剣の意識になってから100年が経った。

 自分が無銘の聖剣であることに気付いた俺はカッコいい名前を考えていた。

 

(聖剣だし安直にエクスカリバー名乗っても……いや、それより和名で雷鳴剣ってのはどうかな? でも途中退場しそうだなぁ……サイキョーブレードみたいなのでも……ダメだダサいな)

 

 どこかで聞いたことある名前ばかりが浮かんでいまいち名前が決まらない。

 その時、何かの気配が俺に近付いて来るのを感じ取った。小動物にしてはサイズが大きいし動作がゆっくりすぎる。

 今までこの丘で感じたことのない気配に俺は意識を集中させた。

 

 

「お、おぉ……あれこそが伝説の聖剣……!」

 

 

 木の影から現れたそれは、俺にとってはもう忘れ去りそうなぐらい懐かしいものだった。

 人間だ。人間の男だ。

 疲れ切った様子だが、こちらを見るや否や目を輝かせている。

 

 この出会いが俺に新しい運命を運んできたのだった。

 

 

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