マチカネフクキタルとの3年間 with ゴルシ 作:あぬびすびすこ
弥生賞での白熱したレースから、しばらくして。
フクキタルにお願いされて、2人で神社にやってきた。
「トレーナーさん! よろしくお願いします!」
そう言って渡されたのは、その神社のおみくじ筒だ。
何がしたいのかわからないが、とりあえずじゃらじゃら動かして棒を出す。
「56番ですね!」
番号を見たフクキタルは、そそくさと56と書いてある箱からおみくじの紙を1枚取り出した。
「ムムム……南無参!」
おみくじを開いたフクキタルは中身を見て、耳と尻尾がピン! と跳びはねる。
「みぎぃ~~~!!! 日本ダービーですか~~!?」
日本ダービーは左回りだぞ。
「そんな小ボケはいらないんですよぉ~! 見てください、これをっ!」
おみくじの紙を渡されたので受け取って中身を見る。
なるほど、これはウマみくじというおみくじらしい。可愛らしいデフォルメされたウマ娘の絵が……これゴールドシップか?
まあ、それはそれとして。
『あなたの運勢はGⅠ! ラッキーレースは日本ダービー!』と書いてある。
なんだ、大吉だぞ。そう言うと、そうじゃないんです~! と半泣きですがりつかれた。
「このおみくじで次のレースを決めようと思って、トレーナーさんを誘ったんですよぉ~! そしたら、まさかダービーが……いぎゃあ~~! こんなことってぇ~~!!」
顔を青くしながら頭を抱えるフクキタル。どうやらピンポイントにクラシックのGⅠレースを引き当ててしまったようだ。
運がいいのか悪いのか。でも、別に挑戦してみてもいいと俺は思っている。だって、弥生賞であれだけの好走だからな。
「でもぉ……スズカさんだって出るじゃないですかぁ~」
弥生賞後の話し合いで、スズカは皐月賞には参加しないことになった。が、ダービーには出るというのだ。
フクキタルに差されかけたことで、自分の走りがまだまだ足りないことを痛感したらしく、もっとトレーニングしてからレースに臨みたいらしい。
走る楽しさ以外に、レースの楽しさを覚えた結果、もっと走らなきゃ……という結論になって、皐月賞ではなくダービーを見据えるとか。走るのが好きだなぁ、スズカ。大舞台のレースに興味が薄いのもまた面白い。
「あぁ~~! どうしたらいいんですかぁ~!?」
タイキもマイル以下、ソーラーレイはダート路線ということで、王道のクラシックGⅠはフクキタルとスズカだけしか参戦しないことになったわけだが。
どうするかと思っていたらおみくじでダービーが出たのでちょうどいい。
がんばろうね。肩をポンと叩くと、ぐぬぬと悔しそうに上目遣いで見てきた。
「ぐぬぬ……」
本当にぐぬぬと言い出した。
「うぅ~~……しかし、トレーナーさんがおみくじで引いた以上、出ないわけにはいきません。わかりました、わかりましたよぉ~!」
俺から距離を取ってビシっとこちらに拳を出す。
「やりましょう! 日本ダービーで、走り切りますとも!」
ヤケクソ気味にそう宣言したフクキタル。
こうして彼女の日本ダービー参戦が決まったのであった。
◆ ◆ ◆
「フクー! もっと脚を前に出せー! そんなんじゃヤドカリにも負けちまうぞー!」
「ふぎぎ……ふんぎゃろぉ~~!!!」
ゴールドシップがフクキタルと並走しながら檄を飛ばす。それを聞いて残っている力を振り絞り、一気に加速していく。
フクキタルがゴール地点に来たところでタイマーを止める。うん、いい調子だ。
「ぜぇ……ぜぇ……」
「お、いい感じじゃねーか! フク、タイムまた縮まってるぜ!」
「ご、ゴールドシップさん……すごいスタミナですね……」
必死に息を整えている彼女をよそに、ゴールドシップは俺の手元の記録用紙を見ていた。
スタミナで勝るものなしと言わんばかりの体力だからな。あの天皇賞春連覇のマックイーンに相当するレベルだし。
「2,400mの併走はオラつくんだよなー。がんばらねーといけないっつーかさ」
ダービーやオークスなど、クラシックディスタンスと呼ばれる2,400m。
長距離を走るウマ娘も中距離を走るウマ娘も、丁度限界ギリギリになる距離だ。
しかも直線が525mもある東京レース場。とにかく根性と運がものを言う距離……と、先輩たちからは聞いている。
正直ゴールドシップが今一ノらなかったレースだからトレーナーになってからはあんまりいい思い出がない。
トレーナーになる前は熱狂して見てたんだけどなぁ。
「ふぅ~……落ち着きました。あ、お水お水」
フクキタルがようやく落ち着いたようで、水分補給をしていた。
弥生賞が終わってからトレーニングに真剣で、とてもよく頑張っている。
頑張りすぎてこの前はバランスボールごと転がって壁に激突したぐらいだ。転びそうになったら降りなさいとあれだけ言ったのに。
「トレーナーさん! 終わりマシタ!」
「あの、もう少しだけ走ってもいいですか?」
「スズカさん、まだ走るのぉ……?」
ウッドチップコースで上り坂のトレーニングをしていた3人も戻ってきた。
スズカはまだまだ走りたそうにしているから、フクキタルと併走トレーニングしてもらうか。
「スズカさんとですね! わかりました。今日こそは負けませんからね!」
「私も負けないわ。じゃあトレーナーさん、行ってきますね」
少し水を飲んだスズカは、フクキタルと一緒にスタート地点に向かう。
2人ともやる気は十分で、併走というか模擬レースだな、これは。
ゴールドシップがスタートの合図をすると、2人とも駆け出していった。
「2人ともグレイトデスネ!」
「うん。いつも楽しそうに走ってるよねぇ」
「あれがきのことたけのこのライバル関係というものじゃよ。ふぉふぉふぉ」
目を細めてうんうん頷くゴールドシップ。
なんというか、2人の関係は言葉で言い表せないな。
仲のいい友人で、チームメンバーで、勝ちたい相手。でもバチバチに対抗しているわけでもなく、本当に仲がいい。
タイキとソーラーレイも入れたら仲良し同期組だ。不思議な関係性だなぁ。
「いきますよぉ~!!!」
「抜かせないからっ」
楽しそうに走る2人を見て、いいな……と語彙力の低下を感じるのだった。
次のレースに向けて作戦を考えなければならない。
一番近いのはタイキ。オークスの前週、GⅠレースのNHKマイルカップだ。
タイキについてはとても簡単だ。先行につけて、そのまま最終直線でぶっちぎる。それだけで今のクラシック級ウマ娘には勝てる。
単純にパワーが違うのだ。ゴールドシップでも思っていたが、タイキはクラシック級にいていいウマ娘のパワーではない。ダート専門のソーラーレイも追いつけないパワーで走るからな、マイルではほぼ無敵だろう。
さて、問題の日本ダービーのフクキタルとスズカだが。
「エコエコアザラシ、エコエコオットセイ……勝利よ、カムトゥミ~~!!!」
ころころと鉛筆をころがすフクキタル。
部室にいるみんなで見守っていると、止まったところで書いてあるのは中吉だ。
「……まあ、そこそこですね!」
「チューキチ! 知ってます! ビミョーというヤツデスネ!」
「ぴぃ~! そういうこと言わないでくださいよタイキさん!」
「でも、本当のことだし」
「スズカさんもひどいですよ~! 少しぐらいこう、盛り上げてくれてもいいじゃないですか~!」
占いで決めます! と自信満々に言っていたので見守っていたが、どうしたらいいのだろうか。
結局普通に考えればいいのか?
「えっと、それでお願いします」
まず、皐月賞で1着をとったシャインフォート。彼女は逃げウマ娘で、スズカとは違いペースを巧みに操るタイプだ。
人気が11位なのに勝ち切って、次走のダービーでは逃げますと自信満々に言っていた。あれは間違いなくスズカなどの逃げウマ娘への牽制だろう。
浮かれていると言われていたインタビューをゴールドシップと見て、2人して思ったことがある。
「こいつ、本気だな」
明らかに作戦だ。自分をマークさせないために、あえて浮かれたように見せかけている。
ゴールドシップを見てるからよーくわかる。あれは演技だ。しかも、マジで勝ちにいこうとしている、本気の作戦だ。
ダービーで走ったら間違いなくペースメイクされて逃げられる。差し追込は不利だ。ならば、先行するのがいいだろう。
トレーニングで鍛えたわけだし、先行でいってみよう。そう話すと、少し驚いていた。
「せ、先行ですか? あんまり経験ないですが……ペースを合わせて走ればいいんですかね」
「あの、私はどうすれば……」
スズカは好きに走っていい。ただし、シャインフォートには気をつけて。前に行かせたら間違いなく負ける。
そう強く言うと、フクキタルもスズカも真面目な顔になった。
「シャインフォートさん……皐月賞ウマ娘ですね」
「わかりました。私、もっと速く逃げます」
今回のダービーはかなり難しいレースになると思う。気を引き締めて頑張ろう。
そう言うと、2人は力強く頷いた。
日本ダービー果たしてどんな展開になるのだろうか。
というわけで日本ダービーです。
スズカも史実ではダービーに出走していたので、一緒に出てもらいます。
ボスキャラとして登場するのはサニーだれだれくんことシャインフォートちゃん。陣営が本気で勝ちにいくために、様々な策を練ったお馬さんですね。
若葉Sからダービーまでの一連の流れが美しいので、是非特集や記事なんかを読んでいただけると!