マチカネフクキタルとの3年間 with ゴルシ   作:あぬびすびすこ

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 合宿要素が少な目かもしれません。


19、夏合宿 下

「や、サイレンススズカ、マチカネフクキタル」

 

 竹ウマでのトレーニングの休憩中、意外な人物が声をかけてきた。

 

「?」

「シャインフォートさん!?」

 

 シャインフォートだ。にこやかに笑っている。

 そしてその脚には、包帯が巻かれていて、両手には松葉杖。

 

「大丈夫なんですか……?」

「うん、とりあえずはね。実はダービーで走ってる時、イヤな感じはしてたんだ」

 

 シャインフォートは、日本ダービーでの激走で骨折。全治3ヶ月と新聞で発表があった。

 いつも寡黙な先輩トレーナーが、無茶をさせすぎたと悔やんでいた。ダービートレーナーになったというのに、喜びよりも悲しみのほうが強い結果に。

 

「でもさでもさ、面白かったじゃん? ダービー逃げ切り!」

「ええ、本当に凄かったわ。本当は私がそうしたかったけど……」

「ま、キミを先頭に行かせないのが作戦だったから」

 

 にひっとシャインフォートは笑う。

 絶対に前を走ろうとするスズカを大外から急襲してハナを奪って逃げる。

 言うのは簡単だが、かなりキツイ作戦だ。

 

「本当はキミが意地でも前に出ようとしたら、その後ろを走る策もあったんだけどね」

「おぉー……すごいですね。トレーナーさんみたいです」

 

 さすが先輩だなと思った。

 俺は1つの作戦を通すためにトレーニングやコースの位置取りを考えるが、先輩は勝つまでにいくつも作戦を考えていた、ということだ。

 今回はそれにやられた。絶対に前へ出るように言うべきだったみたいだ。一枚上手だったかー。

 

「それで無茶しすぎて脚を壊しちゃったわけだけどね。合宿だって、無理言って連れてきてもらったし」

「本当ですよぉ~。病院で安静にしていないとダメじゃないですか?」

「そうなんだけどさ。どうしても2人に会いたくて」

「私たちに……?」

 

 そう話すと、先ほどまでの飄々とした雰囲気から一変して真面目な表情になった。

 

「わたしは菊花賞には出れない」

「………」

「っ、は、はい」

 

 彼女にとっては事実。

 それはウマ娘にとって、本当に苦しい現実だ。

 

「全治3ヶ月じゃあ、リハビリ含めても菊花賞には間に合わないからね。だから、3冠の挑戦はできないんだ」

「そうね……」

「あ、必ず治して戻ってくるよ? でもさ、この時期に走れないってやっぱり悲しいじゃん」

 

 だからさ、その、なんだ。そう言って、言いづらそうにもじもじし始めた。

 ……遠くで心配そうに見ている先輩が、ぐっと拳を握って応援している。

 

「うんと、えっとな」

「シャインフォート?」

「シャインフォートさん?」

 

 顔を赤くして、口をもごもごと動かす。

 照れてる……?

 

「はずいな、これ……2人に頼みがあるんだ!」

「わたし、レースで走りたい! 菊花賞に出たい! でも出れない!」

「だから、代わりに、わたしの分まで走ってくれないか!」

 

 思いを吐き出すように、フクキタルとスズカにそう話した。

 2人は驚いて、互いに目を見合わせ、シャインフォートを見る。

 

「逃げの才能はスズカのほうがあると思ってる。朝日杯も弥生賞も、正直感動したんだ。こんな逃げがあるんだって」

「シャインフォート……」

「最初から最後まで先頭を譲らないで、ずっとハイスピードで走り続ける。逃げウマ娘にとって理想の存在なんだ、サイレンススズカは」

 

 ぎゅっと杖を持つ手に力が入る。

 

「マチカネフクキタル。ダービーで警戒してたのは、サイレンススズカとキミだったんだ」

「わ、私ですか?」

「うん。弥生賞で見せたあの末脚、わたしの作戦が頭から吹き飛んでしまう可能性だってあったんだ。本当に怖かったよ」

 

 なんとか作戦通り行ったけどね。シャインフォートは苦笑する。

 

「2人はもっともっと強くなって、上にいくウマ娘だと思っているんだ。でも、わたしは今、立ち止まってる」

「わたし、2人に期待してるんだ! だから、わがままかもしれないけど、お願い!」

「最高の逃げを、最高の菊花賞を見せてほしいんだ! わたしの想い、受け取ってほしいんだ」

 

 目を閉じ、ふぅ、と息を吐き出す。

 この2冠ウマ娘は、シャインフォートは。2人に想いを背負ってくれと話すために、無理をしてこの合宿に来たのか。

 

「……ねぇ、シャインフォート」

「なんだろう」

「私、どこまでも走るわ。前に誰もいない、一番先頭で」

 

 すっとシャインフォートの肩に手を置くスズカ。

 微笑んでいるが、その目は覚悟の炎が見えている。

 

「サイレンススズカ……」

「私、私も……っ! なんにもない私ですけどっ!」

 

 フクキタルはぎゅっと拳を握り締めて、力強く叫んだ。

 

「届けます! シャインフォートさんに、幸運を! 福を届けますから!」

「マチカネフクキタル……うん、ありがとう」

 

 へらっと笑うシャインフォート。

 こうして、走る想いは受け継がれたのだった。

 

 

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

「トレーナーさん! レースに出たいです!」

「私も走らせてください」

 

 シャインフォートとの話をした日の夜、2人から出走登録のお願いをされた。

 予想していたことだったが、2人のやる気や気持ちの高まりは今まで以上だ。

 

「やる気MAXだな! イカスミパスタでも食ったか?」

「歯が黒くなってやる気になるかなぁ」

「でもでも、とってもいい顔デス!」

 

 ミーティングの始まりで急に言われたので、他の3人は少し驚いている。

 だが、フクキタルたちのやる気がわかるのか、みんな嬉しそうだ。

 

「菊花賞に出たいです! でも、今の私は出走資格が足りません……」

 

 GⅠレースに出るためには、実績を残さなければならない。ダービーは弥生賞2着の好走があったが、その後は7位。

 菊花賞に出る実績が、まだまだ足りないのだ。

 

「私は自分の走りをもっと強くするために、走りたいんです」

 

 スズカは菊花賞を目指さず、中距離からマイルの重賞に出走してその走りを磨きたいと話す。

 2人とも希望通り、いくつかレースに登録してあげよう。

 

「ありがとうございます! で、どれがいいんでしょうか?」

「フクちゃんは菊花賞があるし、トライアルレースがいいんじゃないかなぁ」

 

 ソーラーレイの言う通り、フクキタルにはトライアルレースに出てもらう。

 菊花賞に優先して登録させてもらえるレースは、神戸新聞杯とセントライト記念の2つだ。

 距離を考えると、少しでも長い神戸新聞杯がよさそうだ。

 

「神戸新聞杯ですね……わかりました!」

「トレーナーさん、私もそのレースに出たいです」

「お、いいですねぇ! 一緒に走りま……ぁえ?」

 

 スズカの一言を聞いて、フクキタルはピシッと固まった。

 

「スズカさん……? 同じレースに出るのですか……?」

「ええ。自分の適正距離をきちんと見極めたいの……ダービーでは、逃げれなかったから」

 

 そう言うと、フクキタルはうぐぐ……と唸りながら、ポケットからすっとサイコロを取り出した。

 

「ふんにゃかはんにゃか……神戸牛っ!」

「コウベビーフ! エンギヨシ、デスカ?」

「コンビーフってなんであんなうめーんだろうな。トレーナー、ちょっとコンビニで買ってこようぜ」

 

 喧騒をよそにサイコロを転がした。出目は1だ。

 ……これはどっちなんだ?

 

「1ですか……つまり、私とスズカさんのどちらかが1着ということですね!」

「そういうことなのかしら……?」

「そうです! あ、でもスズカさんが1着ですよね……もう一回かしこみっ!」

 

 ころころとサイコロを転がす。出目は2だ。

 

「おぉ~! 2着ですよ! これならいけますね!」

「1から6までしかないと思うんだけどなぁ」

「そういうのはいいんです~! 幸運が来ているのですから!」

 

 盛り上がるフクキタルをよそに、スズカがすすっと近づいてきた。

 

「あの、トレーナーさん。もうひとつ相談があるんです」

 

 神妙な様子で聞いてきたので、なんだろうかと返すと、何やら同室のウマ娘のことだった。

 

「今年から同室の娘がきたんですけど、どう接していいかわからなくて……」

 

 何やらすごい憧れと尊敬を抱かれているらしく、少し困っているんだとか。

 弥生賞の逃げを見て気持ちが入ってしまったのだとか。まあ確かに、あのレースはすばらしかった。フクキタルもね。

 

「とてもいい娘なんです。田舎から来たみたいで、こっちのことがわからないから、支えてあげたいんですけど」

 

 その気持ちがあるならいいんじゃないかな。自然と上手に動けているよ。

 そう言うと、そうでしょうか……と不安そうにもじもじするスズカ。

 気にしすぎても居心地が悪くなっちゃうからね。普段通りでいいと思う。そういうスズカを見て憧れたんだろうから。

 ただ、ちょっとだけ話す機会を増やしてあげればいいんじゃないかな。

 

「……はい、わかりました。がんばってみます」

 

 そう言って、小さくガッツポーズをとり、気合を入れた。

 走りのことよりも悩んでいる気がするなぁと思うのであった。




 シャインフォート骨折。そして意識していた2人に想いを託しました。
 成長できるかどうか、お楽しみに。
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