マチカネフクキタルとの3年間 with ゴルシ 作:あぬびすびすこ
マチカネフクキタルと名乗るこのウマ娘。なにやらゴールドシップとは違うタイプのクセ者の匂いがする。
とにかく俺に担当トレーナーになってほしいということらしい。
理由はおみくじに書いてあったからという話だ。
「おめー、中々おもしれーじゃねえか! そういうのアタシは好きだぜ」
「おおぉ! わかってくれますか! いやぁ、流石は初代チャンピオンですね!」
クセ者とクセ者が意気投合している。
……チームに入れないといけない雰囲気になってきたな!
とりあえず、何も知らない状態では担当できないよと話をすると、ハッとして頷いた。
「それもそうですね! では次の選抜レースで私の走りをお見せしましょう!」
「あん? 選抜レース?」
選抜レースというのは、ウマ娘がトゥインクル・シリーズへ参加するために、トレーナーにスカウトしてもらうレースだ。学園の一大イベントだな。
要はトレーナーに今の実力を見せるためのレースだな。トレセン学園内のレース場で開催される。
公開練習にも使われるレース場のため、観客席もしっかり整備されているから本番同様の環境で走ることができるわけだ。
ゴールドシップと出会ったのは選抜ではなく模擬レース。模擬レースは選抜レースよりも簡素で、トレーナーたちでも組むことがあるし、トレーニングでも組むことがある。
昔は選抜で実力を出せなかったウマ娘が、ベテラントレーナー主催の模擬レースでスカウトされるというのが通例だったようだが、今はどちらも差はない。
むしろ、常にトレーナーや学園が開催している模擬レースで早めにスカウトするのもトレーナーの腕だと言われているぐらいだし。
「そうと決まれば早速練習してきます! 開運ダ~~~ッシュ!」
「おぉ、天運にかけた走りじゃねえか。宇宙までぶっ飛びそうだな。天の川見にいくか?」
彼女は凄まじいスピードで走り去っていった。
選抜レース、果たしてどうなるのだろうか。絡んでくるゴールドシップをあしらいながら、マチカネフクキタルの走って行ったほうを見ていた。
◆ ◆ ◆
後日、選抜レースに向けたトレーニングを行っている練習場を見に来た。
現在チームに入る予定のソーラーレイやトモエナゲたちもここでトレーニングを行っている。
というのも、まだ担当ではないのだ。一応チーム入り希望というだけで、正式には契約していない。スカウトはしたが、よければ見学にどう? ぐらいの感じなのだ。
マチカネフクキタルと同じで、まだ彼女たちの実力をしっかり把握しているわけではないからな。ゴールドシップにはそれはスカウトじゃねーだろと珍しく突っこまれたけど。
とはいえ一応入りたいとは言ってくれているから、様子を見に来たわけだが。
先輩トレーナーたちも結構いて、トレーニング風景をしっかり見ている。今やっているトレーニングを見て、スカウトするウマ娘を絞っているのだろう。
俺も同じように見ていると、仲良く3人で準備運動していたソーラーレイたちがこちらに気づいた。にこやかに手を振ってくれている。
「バナナはおやつに入らねーよな? リンゴだっておやつ扱いじゃねーし」
手を振り返していると、隣でももを食べているゴールドシップが話しかけてきた。
好きなものを好きに食べていいと言ってはいるが、この場所この状況で食べるのはやめなさい。
ぺしっと肩を叩くと、しゃーねえなと言いながらももを鞄にしまった。
他によいウマ娘がいないか探していると、視界の端で調子がよさそうに体を動かすウマ娘を見つけた。
「さあ、スズカさん! ラッキーナンバーの数だけ走りましょう! 今日のナンバーは39ですよ!」
「39!? 1周で2,000mあるけど……」
「大丈夫です! なんせラッキーナンバーですからっ!」
「本当にラッキーなの……? 無茶だと思うんだけど……」
マチカネフクキタルだ。もう1人のウマ娘は、サイレンススズカだろうか。
女性トレーナーの先輩が凄まじい素質があるウマ娘を見つけたと珍しく興奮していたのを思い出す。既に機能美溢れる体つきをしていると言っていたし、きっとあの娘だろう。手足のしなやかさが群を抜いている。
2人で併走を始めたのだが……明らかにペースが速い!
ランニングとしては相当飛ばしている。ゴールドシップが併走トレーニングのアップをしている時にたまにふざけてあのペースで走ることもあるが、5周で相手が確実に潰れる。
デビューもしていないウマ娘だと、3周、よくて4周で限界だと思うが……。
鞄から新たにみかんを取り出そうとするゴールドシップの腕を掴んで抑えながら見ていたら、結局4周で完全にバテていた。
そりゃあそうだろう。途中から時間を計っていたが、1周70秒だ。準備運動の速さではない。
「ぜえ……ぜえ……」
「はあ……はあ……もう、だから言ったのに……」
ラッキーナンバーの39周を走り切るペースで、ということではない走りだった。一体どんな意図があるのだろう。
「で、ですが、流石はラッキーナンバーです! この数字があったから、こんなに頑張れたのですから!」
「4周しかしてないけど……」
特に意図はなかった。頑張って走っただけのようだ。
トレーニング風景だけ見ると、真面目なのか真面目じゃないのか。一応やる気はあるようだ。
「へへっ、やるじゃねーかトレーナー。だけどアタシがキウイを食うのは止めれねーからな!」
ついに抑えきれずに鞄からキウイを取り出されてしまった。どれだけ果物入っているんだ……。
でも切らないと食べれないと思うぞと言うと、それもそうかと言って鞄にしまいこむ。
いつものようにゴールドシップと少し騒いでいたら、何事かとトレーニング中のウマ娘たちの視線を集めてしまう。
「あっ、トレーナーさんじゃないですか!」
見つかってしまった。この前の神社を彷彿とさせる素早さでフクキタルがこちらに走ってきた。
よう、とゴールドシップも手を上げてあいさつする。
「見に来てくれたのですね! これも今日のにんじん占いで『併走トレーニングが吉』と出たご利益ですね!」
「そんな理由で併走を頼んだのね……あ、こんにちは」
随分と天運に身を任せたトレーニングの選び方だったらしい。
サイレンススズカに呆れられてしまっているが、幾分か慣れている様子だ。仲のいい友人なのだろう。
「こちらはサイレンススズカさんです! とっても凄いウマ娘ですよ!」
「サイレンススズカ、です」
ぺこっと頭を下げられたので、こちらもよろしくと頭を下げる。
「トレーナーさん、お願いがあります!」
お断りします。
「ちょっ!? 最初から断らなくてもいいじゃないですか~!」
「あの、ゴールドシップさん、ですよね? URAファイナルズ、凄かったです」
「おう! しかしすげーマイペースだな、お前」
俺がマチカネフクキタルとやり取りをしている間、サイレンススズカは全く気にしないでゴールドシップに話しかけていた。
ゴールドシップとは別の方向でマイペースだ。なんというか……みんな個性が強いな!
「朝に占いアプリでかしこみしたら『詳しい人の話に耳をかたむけるのが吉』と出たのです! なので、なにとぞなにとぞぉ~!」
必死に手をすり合わせて拝まれた。ゴールドシップと目を見合わせる。
クイっ。ちょいちょい。スッ。
「ま、それで許してやるか」
「えっと……何をしてるの?」
ゴールドシップのトレーニング時間がなくなっちゃうけどどうするか。ゴルシちゃんの時間けずるたぁいい度胸だな。ラーメン奢るから許して。
このやり取りをジェスチャーでしただけ。そう話すと、マチカネフクキタルがおぉ、と声を上げた。
「これが人バ一体ということですね……!」
「ちょっと違うと思うけど……」
困ったようにこちらをチラ見するサイレンススズカ。うん、これは付き合いが長いからできるだけだと思う。
とりあえず少しぐらいならいいよと話すと、飛び上がって喜び出した。
「ありがとうございます! では早速、どんなトレーニングを?」
あそこの3人と2,000mの併走を3回やってきてと話す。
手を差し出したその先にいるのは、こちらを見ているソーラーレイたち。
とりあえず中距離の走りを見て走りや体の特徴を確認しよう。そう言うと、わかりました! と言って走って行く。
これでうまいこと目星をつけた全員の走りが見れるな。うんうんと頷いていると、サイレンススズカがふぅ、と息を吐いた。
「ありがとうございます、トレーナーさん。おかげで普通のトレーニングができそう」
困ったように笑う彼女を見て、クセウマ娘の相手は大変だよな。
そう思いながら、隣でサクランボを食べているゴールドシップを見るのだった。
選抜レースと模擬レースでわけましたが、その理由は前作で模擬レースって最初に書いてしまったからです!
次作にツケが回ってきましたね!!!
一応ストーリーを見ると、模擬レースはトレーニングの一環としてトレーナーが組むことがあるようなので、非公式のものみたいです。
選抜レースはウマ娘の実力を見せるレースで、実況もついています。多分、学園主催のレースで、学園での一大イベントになっています。
スカウトしたりするのは選抜レース! 模擬レースではないです!