マチカネフクキタルとの3年間 with ゴルシ 作:あぬびすびすこ
フクキタルのことを話すとき今でも語り草という凄いレースです。
神戸新聞杯当日。
夏合宿で力をつけたフクキタルとスズカは、パドックでその成長した姿を見せつけた。
「マチカネフクキタル、ダービーから随分成長したな」
「トモの張りが違う……でも体はしゅっとしてるわ」
「ゴールドシップのトレーナーなだけあるぜ。全体的なまとまりが完璧だ」
フクキタルは最大の武器である末脚を鍛えるために、しっかりと脚を強化した。
そしてその末脚を長く速く使うために、スタミナも身につけてもらった。
水上ゴザ走りと素潜り漁はかなりいいトレーニングになったみたいだ。
「サイレンススズカはしっかりした印象だな」
「線の細さは変わらないな。しなやかだ」
「でも見て。筋肉はしっかりつけてきてるわ」
スズカは最初からハイペースで突っ走るせいで、体への負担が大きい。
だから、クラシック級中盤ではあるが、とにかく丈夫な身体にしようとしている。
ゴールドシップを基準に柔らかさと強靭さを仕上げているから、未だにどこにも異常は無い。
2人のやる気もあって、今の段階では他のウマ娘の誰よりも仕上がっている。
鍛え上げた体と成長した精神。それを発揮する時だ。
◆ ◆ ◆
「フクキタルー! スズカー! グッドラック!」
「がんばってねぇー!」
「フクー! スズカー! あの日の誓いを思い出せー!」
タイキさんやレイさん、ゴールドシップさんの応援を聞いて、そちらに手を振ります。
あの日の誓い……ゴールドシップさんはいつも通り自由に言ったのでしょうけど。
『届けます! シャインフォートさんに、幸運を! 福を届けますから!』
あの時シャインフォートさんに約束しました、幸運を届けますって。
どこかにいるシャインフォートさん。見ていてください。
シラオキ様と占いがないと何もできないこんな私ですが、必ずあなたに届けます。
「フクキタル」
呼ばれて振り向くと、スズカさんが立っていました。
「私たち、大きなものをもらったわね」
「スズカさん……」
「だから、負けないわ。フクキタル、あなたにも」
きゅっと胸の前で手を握って、私を見据えます。
少し戸惑ってしまいます、けど。手をぎゅっと握り締めて、スズカさんを見ます。
「私も、負けませんよ! 福を届けますからね!」
「……ふふっ」
スズカさんに笑われてしまいました!
なんでぇ~!? いいこと言ったと思うんですけど!
わたわたしている内に、出走準備になりました。
みなさんゲートのほうに向かっています。
「いきましょうフクキタル。私たちの走り、見せてあげないと」
2人で頷き合い、ゲートに向かいます。
ゲートの前で深呼吸。靴の調子を確認してゲートインします。
今日はちょっぴり雨が降っています。でも、芝の感覚は良好です。
……私の朝の占いだと、今日は吉。あんまりいい運勢ではありません。
ですけど、さっきトレーナーさんに教えていただきました。
――運勢が悪いなら、幸運を来させればいい。
今まで来てくださいって願ってばかりでした。
でも、私はシャインフォートさんから想いをもらったのです。
シラオキ様! 今日ばかりは、私のところに幸運を呼びますから!
『各ウマ娘、ゲートイン完了しました』
――ガタンッ
『スタートしました! サイレンススズカ! 一気に前に出ます!』
『好スタートですね! あっというまに先頭をとりました!』
予想通り、スズカさんが先頭にいきました。
ダービー後にトレーナーさんと相談して、どのレースでも、どんなことがあろうとも、誰よりも前に出るという作戦でいくと話していましたからね!
気づけばグングン先にすすんでいます。私は前と後ろ、2つに分かれたバ群の内最後方につけています。
スズカさんと走る時はどれだけ脚を溜めれるかが勝負です。内側でぐっと我慢しますよ。
『コーナー回りまして向こう正面に入ります。依然として先頭はサイレンススズカ』
『1,000m59.3! やや速めのペースでしょうか』
コーナーをゆるりと回っていきます。
ペースは速め……いつものハイペースですね。
周りの皆さんは私と同じように、後方から一気にと思っているようです。
ですが、やはりハイペースで脚が持つか不安なのか、前に行きたそうにしていますね。
特に、ダービーでも一緒に走ったキヌノセイギさん。前回はシャインフォートさんのペースメイクされた逃げでしたから。
こんな最初からスタミナ勝負のようなハイペースで大逃げされたら、追いつけるかどうか不安ですよね。ダービーでも逃げ切られてしまったわけですし。
でも、ここで無理をしては勝てません。
ゴールドシップさんが言ってました。この阪神レース場では、最後の坂を上るスタミナを残しておけって。
まあ、ゴールドシップさんは気にせずスパートするんですけどね!
「まだまだ、まだ溜めますっ」
私の走りは、最後の直線! それまではぐっと我慢します!
それがトレーナーさんとの作戦なのですから!
『向こう正面を抜けて第3コーナー! 先頭は変わらずサイレンススズカ!』
『後ろの娘たちはそろそろ仕掛けどころとなりますが、脚はまだあるのでしょうか!』
「行かなきゃ!」
「ここからっ」
周りの皆さんが少しスピードを上げました。これで私が一番後ろです。
ちょっとだけ不安になりますけど、まだです! 仕掛けどころは、次のコーナーの先!
今度こそ、トレーナーさんを信じます!
『先頭が最終コーナーを抜けて直線に入った! 後ろの娘たちは間に合うか!』
スズカさんが直線に入りました!
私は最後方の最内。しかし、ここからです!
「いきますよぉ~!!!」
今日は来させますよ、シラオキ様!
私に道を教えてください! それを信じて走ります!
足に力を入れて跳び出そうとすると、シラオキ様が導いてくれました!
大きく外に向かって光が差し込んでいます。
はい、わかりました! 今日は大外の日なんですね!
『最終直線! 先頭は変わらずサイレンススズカです! このまま逃げ切ってしまうのか!』
コーナーでわざと膨らんでバ群の外側に出ます。
目の間に広がるのは、邪魔されない、目の前に誰もいないターフと、10バ身以上は離れたスズカさんの背中。
やっぱりスズカさんはすごいです! 最初から最後まで、誰も前に行かせていません。
ですが、私も! この菊花賞トライアルレースで見せるんです!
最高の菊花賞にするための走りを!
「開運、ダアアァ~~~~~ッシュ!!!!」
『大外から来たのはマチカネフクキタル! マチカネフクキタルがぐんぐん上がっていきます!』
ドッ! ドッ! ドッ! と地響きを鳴らせるぐらい強く踏みこみます!
ゴールドシップさんに教えてもらいましたからね! 強く踏んで、それをバネにして跳び出せと!
それが末脚のエクスプロージョン! やる気MAXですっ!
「スズカー! フクキタルー!」
「スズカさんがんばってぇー! フクちゃん差せぇー!」
「そこだ! いけー! お前は富士山だー!」
――スズカー! そのまま逃げろーっ!
――突っ込めー! フクキタルーっ!
「っ!」
「うにぃ~~~!!!」
『マチカネフクキタルだ! マチカネフクキタルがその差を詰める!』
歯を食いしばって! 上がりそうなあごを下げて!
『2バ身!』
重い脚をもっと動かして! もっともっと、速く走るんです!
『1バ身!』
スズカさんに勝つんです! 勝って、シャインフォートさんに幸運を届けるんです!
『半バ身!』
あとちょっと! あとちょっとです!
「ふんぎゃろおおぉぉぉ~~~~!!!!」
『並んだ! 並んだ!』
来ます来てます!
『かわした! マチカネフクキタルがかわしてゴールインっ!』
ゴール板を駆け抜けて、ぶはぁ! と息を大きく吐きます。
ぜぇ……ぜぇ……が、がんばりましたよっ!
あれ、そういえば途中でスズカさんの姿が見えなく……あ、あれ?
「ふぅ……おめでとう、フクキタル」
「あぇ……? ス、ズカさん?」
息を整えてスズカさんを見ます。
なんだか悔しそう……?
「凄い末脚だったわ……私もまだまだみたい」
「あの、スズカさん?」
「? どうしたの?」
なんでしょう。見たことのないスズカさんの雰囲気です。
よく分からなくて首をひねっていると、観客のほうから大きな声が聞こえてきました。
「フクキタルー! スズカー!」
「シャインフォート、さん?」
トレーナーさんと思わしき人に支えられながら、こっちに手を振っています。
「最高だった! ありがとう! すごいよ2人とも! フクキタルもあそこから差しきるなんて!」
「ふぇ?」
差し、きる……?
思わずぽかんとして、ゆっくり掲示板を見ます。
4番が1着……今日、4番です、私。
え……? い、1と1/4バ身!?
「フクキタル、次は負けないから」
「え、あ、は、はい!」
とてもやる気に満ちたスズカさんの声に、思わずビクッと跳ねて返事をしてしまいます。
……わ、私、勝ったんですね。
「や……やりましたよ~!」
シャインフォートさんやトレーナーさんたちに手を振ると、観客の皆さんにも大きく声をいただいたのでした。
阪神で福が来た! ということで末脚大爆発です。
バ群から突き抜けてくるのは神戸新聞杯じゃないんですよね。
こちらは大外から突然ぶち抜いてくるという衝撃的なレースでしたけど。