マチカネフクキタルとの3年間 with ゴルシ   作:あぬびすびすこ

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 何かと有名なレースですね。
 フクキタルのことを話すとき今でも語り草という凄いレースです。


20、神戸新聞杯

 神戸新聞杯当日。

 夏合宿で力をつけたフクキタルとスズカは、パドックでその成長した姿を見せつけた。

 

「マチカネフクキタル、ダービーから随分成長したな」

「トモの張りが違う……でも体はしゅっとしてるわ」

「ゴールドシップのトレーナーなだけあるぜ。全体的なまとまりが完璧だ」

 

 フクキタルは最大の武器である末脚を鍛えるために、しっかりと脚を強化した。

 そしてその末脚を長く速く使うために、スタミナも身につけてもらった。

 水上ゴザ走りと素潜り漁はかなりいいトレーニングになったみたいだ。

 

「サイレンススズカはしっかりした印象だな」

「線の細さは変わらないな。しなやかだ」

「でも見て。筋肉はしっかりつけてきてるわ」

 

 スズカは最初からハイペースで突っ走るせいで、体への負担が大きい。

 だから、クラシック級中盤ではあるが、とにかく丈夫な身体にしようとしている。

 ゴールドシップを基準に柔らかさと強靭さを仕上げているから、未だにどこにも異常は無い。

 

 2人のやる気もあって、今の段階では他のウマ娘の誰よりも仕上がっている。

 鍛え上げた体と成長した精神。それを発揮する時だ。

 

 

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

「フクキタルー! スズカー! グッドラック!」

「がんばってねぇー!」

「フクー! スズカー! あの日の誓いを思い出せー!」

 

 タイキさんやレイさん、ゴールドシップさんの応援を聞いて、そちらに手を振ります。

 あの日の誓い……ゴールドシップさんはいつも通り自由に言ったのでしょうけど。

 

『届けます! シャインフォートさんに、幸運を! 福を届けますから!』

 

 あの時シャインフォートさんに約束しました、幸運を届けますって。

 どこかにいるシャインフォートさん。見ていてください。

 シラオキ様と占いがないと何もできないこんな私ですが、必ずあなたに届けます。

 

「フクキタル」

 

 呼ばれて振り向くと、スズカさんが立っていました。

 

「私たち、大きなものをもらったわね」

「スズカさん……」

「だから、負けないわ。フクキタル、あなたにも」

 

 きゅっと胸の前で手を握って、私を見据えます。

 少し戸惑ってしまいます、けど。手をぎゅっと握り締めて、スズカさんを見ます。

 

「私も、負けませんよ! 福を届けますからね!」

「……ふふっ」

 

 スズカさんに笑われてしまいました!

 なんでぇ~!? いいこと言ったと思うんですけど!

 

 わたわたしている内に、出走準備になりました。

 みなさんゲートのほうに向かっています。

 

「いきましょうフクキタル。私たちの走り、見せてあげないと」

 

 2人で頷き合い、ゲートに向かいます。

 

 ゲートの前で深呼吸。靴の調子を確認してゲートインします。

 今日はちょっぴり雨が降っています。でも、芝の感覚は良好です。

 ……私の朝の占いだと、今日は吉。あんまりいい運勢ではありません。

 ですけど、さっきトレーナーさんに教えていただきました。

 

 ――運勢が悪いなら、幸運を来させればいい。

 

 今まで来てくださいって願ってばかりでした。

 でも、私はシャインフォートさんから想いをもらったのです。

 シラオキ様! 今日ばかりは、私のところに幸運を呼びますから!

 

『各ウマ娘、ゲートイン完了しました』

 

 ――ガタンッ

 

『スタートしました! サイレンススズカ! 一気に前に出ます!』

『好スタートですね! あっというまに先頭をとりました!』

 

 予想通り、スズカさんが先頭にいきました。

 ダービー後にトレーナーさんと相談して、どのレースでも、どんなことがあろうとも、誰よりも前に出るという作戦でいくと話していましたからね!

 気づけばグングン先にすすんでいます。私は前と後ろ、2つに分かれたバ群の内最後方につけています。

 スズカさんと走る時はどれだけ脚を溜めれるかが勝負です。内側でぐっと我慢しますよ。

 

『コーナー回りまして向こう正面に入ります。依然として先頭はサイレンススズカ』

『1,000m59.3! やや速めのペースでしょうか』

 

 コーナーをゆるりと回っていきます。

 ペースは速め……いつものハイペースですね。

 周りの皆さんは私と同じように、後方から一気にと思っているようです。

 

 ですが、やはりハイペースで脚が持つか不安なのか、前に行きたそうにしていますね。

 特に、ダービーでも一緒に走ったキヌノセイギさん。前回はシャインフォートさんのペースメイクされた逃げでしたから。

 こんな最初からスタミナ勝負のようなハイペースで大逃げされたら、追いつけるかどうか不安ですよね。ダービーでも逃げ切られてしまったわけですし。

 

 でも、ここで無理をしては勝てません。

 ゴールドシップさんが言ってました。この阪神レース場では、最後の坂を上るスタミナを残しておけって。

 まあ、ゴールドシップさんは気にせずスパートするんですけどね!

 

「まだまだ、まだ溜めますっ」

 

 私の走りは、最後の直線! それまではぐっと我慢します!

 それがトレーナーさんとの作戦なのですから!

 

『向こう正面を抜けて第3コーナー! 先頭は変わらずサイレンススズカ!』

『後ろの娘たちはそろそろ仕掛けどころとなりますが、脚はまだあるのでしょうか!』

「行かなきゃ!」

「ここからっ」

 

 周りの皆さんが少しスピードを上げました。これで私が一番後ろです。

 ちょっとだけ不安になりますけど、まだです! 仕掛けどころは、次のコーナーの先!

 今度こそ、トレーナーさんを信じます!

 

『先頭が最終コーナーを抜けて直線に入った! 後ろの娘たちは間に合うか!』

 

 スズカさんが直線に入りました!

 私は最後方の最内。しかし、ここからです!

 

「いきますよぉ~!!!」

 

 今日は来させますよ、シラオキ様!

 私に道を教えてください! それを信じて走ります!

 

 足に力を入れて跳び出そうとすると、シラオキ様が導いてくれました!

 大きく外に向かって光が差し込んでいます。

 はい、わかりました! 今日は大外の日なんですね!

 

『最終直線! 先頭は変わらずサイレンススズカです! このまま逃げ切ってしまうのか!』

 

 コーナーでわざと膨らんでバ群の外側に出ます。

 目の間に広がるのは、邪魔されない、目の前に誰もいないターフと、10バ身以上は離れたスズカさんの背中。

 やっぱりスズカさんはすごいです! 最初から最後まで、誰も前に行かせていません。

 

 ですが、私も! この菊花賞トライアルレースで見せるんです!

 最高の菊花賞にするための走りを!

 

「開運、ダアアァ~~~~~ッシュ!!!!」

『大外から来たのはマチカネフクキタル! マチカネフクキタルがぐんぐん上がっていきます!』

 

 ドッ! ドッ! ドッ! と地響きを鳴らせるぐらい強く踏みこみます!

 ゴールドシップさんに教えてもらいましたからね! 強く踏んで、それをバネにして跳び出せと!

 それが末脚のエクスプロージョン! やる気MAXですっ!

 

「スズカー! フクキタルー!」

「スズカさんがんばってぇー! フクちゃん差せぇー!」

「そこだ! いけー! お前は富士山だー!」

 

 ――スズカー! そのまま逃げろーっ!

 ――突っ込めー! フクキタルーっ! 

 

「っ!」

「うにぃ~~~!!!」

『マチカネフクキタルだ! マチカネフクキタルがその差を詰める!』

 

 歯を食いしばって! 上がりそうなあごを下げて!

 

『2バ身!』

 

 重い脚をもっと動かして! もっともっと、速く走るんです!

 

『1バ身!』

 

 スズカさんに勝つんです! 勝って、シャインフォートさんに幸運を届けるんです!

 

『半バ身!』

 

 あとちょっと! あとちょっとです!

 

「ふんぎゃろおおぉぉぉ~~~~!!!!」

『並んだ! 並んだ!』

 

 来ます来てます!

 

『かわした! マチカネフクキタルがかわしてゴールインっ!』

 

 ゴール板を駆け抜けて、ぶはぁ! と息を大きく吐きます。

 ぜぇ……ぜぇ……が、がんばりましたよっ!

 あれ、そういえば途中でスズカさんの姿が見えなく……あ、あれ?

 

「ふぅ……おめでとう、フクキタル」

「あぇ……? ス、ズカさん?」

 

 息を整えてスズカさんを見ます。

 なんだか悔しそう……?

 

「凄い末脚だったわ……私もまだまだみたい」

「あの、スズカさん?」

「? どうしたの?」

 

 なんでしょう。見たことのないスズカさんの雰囲気です。

 よく分からなくて首をひねっていると、観客のほうから大きな声が聞こえてきました。

 

「フクキタルー! スズカー!」

「シャインフォート、さん?」

 

 トレーナーさんと思わしき人に支えられながら、こっちに手を振っています。

 

「最高だった! ありがとう! すごいよ2人とも! フクキタルもあそこから差しきるなんて!」

「ふぇ?」

 

 差し、きる……?

 思わずぽかんとして、ゆっくり掲示板を見ます。

 4番が1着……今日、4番です、私。

 え……? い、1と1/4バ身!?

 

「フクキタル、次は負けないから」

「え、あ、は、はい!」

 

 とてもやる気に満ちたスズカさんの声に、思わずビクッと跳ねて返事をしてしまいます。

 ……わ、私、勝ったんですね。

 

「や……やりましたよ~!」

 

 シャインフォートさんやトレーナーさんたちに手を振ると、観客の皆さんにも大きく声をいただいたのでした。




 阪神で福が来た! ということで末脚大爆発です。
 バ群から突き抜けてくるのは神戸新聞杯じゃないんですよね。
 こちらは大外から突然ぶち抜いてくるという衝撃的なレースでしたけど。
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