マチカネフクキタルとの3年間 with ゴルシ   作:あぬびすびすこ

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 菊花賞を勝ったフクキタル。
 そんな彼女を襲うものとは……?


23、反省会

 菊花賞で大活躍して次の日。

 フクキタルは俺のトレーナー室で頭を抱えながら叫んでいた。

 

「あぁ~~~!!! 終わりですぅ~~~!」

 

 何をこんなに騒いでいるのかというと、今朝の新聞だ。

 トレセン学園に来る前にいくつか買ってみたが、どれもこれも菊花賞について1面で記載されている。

 ただ、すごい勝利だという書き方じゃなかった。

 

「『フクキタル泣いた!』『マチカネフクキタル号泣!』『マチカネ軍団涙の勝利!』『チームフナボシ新星、泣く!』」

「全部泣いたことばっかりじゃないですかぁ~~!!!」

 

 そう、菊花賞で勝った後、フクキタルが大泣きして俺に縋りついたときの写真ばかりだったのだ。

 確かにタンホイザを含めてマチカネ軍団ウマ娘の中で、唯一長距離で多大なる結果を残したわけだ。泣くのもわかる、と思われているのだろう。

 

 でもそういう理由で泣いたわけじゃないと思うけどな。

 シャインフォートの想いと一緒に走って勝ったことが誇らしいからなんだと思うんだが。

 

「うう、どうしましょう……家族みんな明日の新聞買い占めるとか言ってたんですよぉ~! これじゃあ恥ですよ!」

 

 結果を残したんだし恥ではなくない?

 

「私が恥ずかしいんですよっ! だってこんな、小さい子みたいに泣いてる写真ばっかりじゃないですか~!」

 

 ああ~~! と濁点ばかりの叫び声を上げながら絶望しているフクキタル。

 この後たくさん取材の予定もあるのに大丈夫なのだろうか。

 

「失礼します。トレーナーさん、いらっしゃいますか?」

 

 ノックと共にたづなさんの声が聞こえた。

 返事をすると中に入ってくる。

 フクキタルを見てまあ、と少し驚いていたが、気にせず封筒を手渡される。

 

「取材したいと連絡があった出版社の一覧と名刺です。以前と同じく月刊トゥインクル優先で大丈夫なら、乙名史記者には連絡しておきますよ?」

 

 それでお願いしますと言うと、楽しそうに頷いてトレーナー室から出ていった。

 封筒を開けて中身を見る。

 ふーむ、月刊トゥインクルに週刊トゥインクル、週刊ウマ娘、あとはクラシック特集の雑誌のものと、女性誌まである。

 一緒に覗いていたフクキタルに、人気になったなと声をかけると、嬉しそうに体を揺らす。

 

「はい! みなさん、私を応援してくださっているんですね~」

 

 依頼書を見てうきうきしている。

 そう言えばレースの勝利者インタビューも、キチンとやったのは京都大賞典からだ。

 取材やインタビューみたいなものは新鮮なのかもしれない。

 

 だからといって浮かれすぎると変なウマ娘だと思われるから気をつけるように言っておかないと。

 菊花賞後のインタビューを少し思い出す。

 

『この勝負服もにゃーさんも水晶も私に力をくれたのです! ハッピーカムカム! 福は来れり!』

『す、水晶玉……? バッグにそれを?』

『はい! 霊験あらたかなとてもご利益のある水晶玉で……』

 

 もう怪しげな商品の販売みたいになっていた。

 昨日帰ってからエアグルーヴさんに怒られましたとしょんぼりしたフクキタルを見たとか見ないとか。

 あとよく頑張ったなと褒められてたぬきの信楽焼をエアグルーヴにプレゼントしたという話も。さっき本人から困った様子でどう処理したらいいか相談されてしまった。

 

「新聞はもう諦めます……雑誌のインタビューでは、がんばりますよ!」

 

 やる気満々のフクキタル。

 後日全てのインタビューで泣いたことを聞かれて、また叫ぶことになるのを彼女はまだ知らない。

 

 

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 そんなこんなでチームとしてはそこそこの結果を出した年末。

 タイキがジャパニーズパーティーをしたいと言うので、鍋を楽しむことになった。

 

「昆布だしはアタシがとっといたから、そのタラ入れてもいいぞ」

「わかりマシタ!」

 

 ゴールドシップが海鮮鍋を作ってくれている。

 わくわくしながらこたつでのんびり待っていると、フクキタルとスズカがすすすっと近づいてきた。

 

「トレーナーさん。あの、大丈夫なんですか?」

「ゴールドシップ、変なもの入れないといいけど……」

 

 どうやら何かしら変なものを作らないかと心配しているようだ。

 そう言えば、みんなはゴールドシップの料理の腕を知らないのか。合宿の時はバーベキューだったし。

 楽しみにしてるといいよと声をかけるが、信用できないのがむぅっと頬を膨らませるフクキタル。

 

「トレーナーさんは慣れているかもしれませんが、私たちはふつーのウマ娘なんですよ!」

「フクちゃんは普通かなぁ?」

「フクキタルって変わっているところがあるから……」

「ちょっとレイさんスズカさん!? そこは頷いてくださいよぉ~!」

 

 わいわい盛り上がっていたところで準備が終わったらしく、ゴールドシップが鍋に蓋をして温め始めた。

 

「うっし、こんなもんだろ」

「ゴールドシップ、シェフみたいデスネ!」

「ゴルシちゃんはなんだってできるんだぜ! 測量とかな!」

 

 本当にできるから手がつけられない。

 

「しっかし今年は全然走らなかったぜ」

「ゴルシちゃん、いっぱいサポートしてくれてたからね」

「確かに少なめ……かしら」

「ゴールドシップさん、クラシックの時GⅠレース5回出走とかしてたみたいですからね」

 

 鍋ができるまで、今年の振り返りをみんなで話す。

 

「フクちゃんは3月ぐらいまでお休みだっけ」

「はい。ちょっとゆっくりさせていただきますね」

 

 フクキタルは3度の激走でかなり脚を使ったため、年明けの3月ぐらいまで長期休養とした。

 理由はシャインフォートだ。

 

「へへ……やっちゃった」

 

 菊花賞の熱に押され、リハビリとトレーニングを早く速くとやりすぎた結果、屈腱炎。

 復帰は早くても再来年となってしまった。

 ただ、メジロマックイーンが屈腱炎を克服したことが知られているため、メジロ家主治医監修のもとでじっくりと治していくことになった。

 

 これを聞いたフクキタルは顔面蒼白となって、長期の休みを申し出てきたというわけだ。

 俺も連続した出走を心配していたから、休むのは賛成だった。次の出走レースはかなり余裕をもって、3月前半に行われる金鯱賞に定めた。

 

「スズカもいっしょデスヨネ?」

「ええ。フクキタルと同じレースに出るわ」

 

 スズカも金鯱賞に出走を決めた。フクキタル以上に間隔をあける理由は、そこまでに自分の走りを完璧に仕上げるためだ。

 フクキタルに差されたことが相当悔しかったらしく、納得できるまではレースに出たくないんだとか。

 一緒に金鯱賞に出走して、自分の走りがどこまで仕上がったか確認すると言っていた。すごい負けず嫌いだ……。

 

「わたしは今年、悔しい結果だったな」

「レイもすげー活躍だぞ? アタシはダートはわかんねーけどよくやってると思うぜ」

「えへ、ありがとぉ」

 

 ソーラーレイは、ダートのGⅠレース、JBCクラシックとチャンピオンズカップに挑戦。

 結果としては、JBCクラシックは入着できず7着。

 それを悔しがりめちゃくちゃ仕上げに仕上げて挑んだチャンピオンズカップは接戦の末、3着。しかも、1着2着とはほぼ差がなくハナ差だった。

 シニア級ウマ娘たちと戦ってここまでの結果は素晴らしい。本人は涙を流していたが、次のレースでは1着を取りにいけるだろう。

 

「ワタシは絶好調デスネ!」

「タイキさんはもう、怪物って感じですね」

「ええ。クラシック級で既にマイルの王者って言われてるもの」

「でも、年度代表ウマ娘は逃してしまいマシタ。来年は必ずとりマス!」

 

 次に無敗のタイキシャトル。

 マイルチャンピオンシップに出走した。

 最終直線まで先団でじっくり脚を溜め、最終直線で一気に爆発させた。

 嘘だろ……と声が漏れるようなスピードで先頭で粘りに粘っていたウマ娘をあっさり追い抜き、そのまま2バ身半差をつけて圧勝した。

 マイルの王者はこの子だ、タイキが目指している年度代表ウマ娘に選ばれるはず! そう思っていたら、ティアラ路線から十数年ぶりに天皇賞を勝ったエアグルーヴが年度代表ウマ娘に。まあ、オークスも勝ったしな。

 

 そしてゴールドシップだが。

 

「レジェンドレース、やっぱりすごかったですよ!」

「ええ。私、まだまだだって思ったわ」

「アタシもそこそこ満足したぜ。次はあずきバーぐらいガチガチでもいいけどな!」

 

 なんとURA主催のレジェンドレースという大型イベントに参加していた。

 これはトゥインクル・シリーズ、ドリームトロフィー・リーグで多大なる活躍をしているウマ娘と本気のレースができるというイベントだ。

 今回はシンボリルドルフ、マルゼンスキー、ナリタブライアン、ゴールドシップの4人がレジェンドとして選ばれている。

 それぞれの得意な距離、レース場で戦うことになっていて、ゴールドシップはもちろん阪神レース場芝2,200m。

 

「阪神レース場はよ、コースが変形するんだぜ。でもそのコマンドを忘れちまったな」

 

 いつも通りのゴールドシップ。

 もちろん参加者をぶっちぎって勝利。他3人もレジェンドと言われている理由を見せつけた。

 ただし、一緒に走れて嬉しい! というウマ娘もそこそこいたので、なんとなくカジュアルなレースだったが。

 ゴールドシップはそういうのもまたオツだぜと言って面白がっていた。懐が深い。

 

「チームフナボシとしてはそこそこ活躍したんじゃねーか?」

「そうですね! 理事長さんからお褒めの言葉もいただきましたから!」

 

 先日、トレーナー評価の面談で素晴らしい! と理事長から実績を褒められたのだ。

 入着率の高さと誰もケガをしないというところが特に評価されたようだ。確かに、みんな頑張ってくれたからな。

 何故か近くを歩いていたフクキタルが外でそれを聞いていたらしく、退室したらキラキラした目でやりましたね! と声をかけてきたのだ。

 驚いて理事長室まで届く叫び声を上げたのは秘密である。

 

「そろそろいいだろ。くらえ! スーパーアルティメットまろやか出汁鍋!」

「オウ! まろやか羅刹ご飯デスネ!」

 

 ゴールドシップが夜に見ている謎の料理番組、まろやか羅刹ご飯。

 トレーナー室で見るから俺も知っている。アルティメットまろやかおでんはいつ完成するのだろうか……。

 

「そんじゃ、チームフナボシの活躍とロケット打ち上げ計画の完成を祝って食うか!」

「そんなのあったかしら……?」

「ないよぉ」

 

 ふんわりとした雰囲気ではあるが、来年も頑張ろう。

 チームのみんなで気持ちを1つにしたのであった。

 

 あと、チームはもうフナボシになったんだな。フォーマルハウトはどこに行ったのだろうか……。




 フクキタル、羞恥するの巻。あと年末反省会。

・フナボシ今年のトゥインクル・シリーズ結果
ゴールドシップ:1戦1勝
マチカネフクキタル:5戦3勝
サイレンススズカ:3戦1勝
タイキシャトル:4戦4勝
ソーラーレイ:6戦2勝
計 19戦11勝 内GⅠ3勝
入着率 84.2%

つ、強い……。
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