マチカネフクキタルとの3年間 with ゴルシ 作:あぬびすびすこ
金鯱賞から少しして。
「はぁ~……あぁ、口から幸運が逃げていきます……」
フクキタルが凄い沈んでいた。
この前は公園の池に身投げすると言って全員に止められるという騒動があったぐらいだ。
原因は2つ。
1つはスズカに勝てなかったから。
これはわかりやすいし、それぐらいでは今のフクキタルはこんなに沈まない。次は勝ちます! と躍起になるはず。
問題は2つ目。
俺は手元にある週刊トゥインクルという雑誌を見る。
表紙に写っているのはスズカ。そして目玉は金鯱賞の回顧記事だ。
めくって読んでみると、割とぼろぼろに批評がされている。
『大逃げをそのままさせるなんて普通じゃない』『何故後ろの娘たちはきちんとマークしないのか』
そんな感じで結構強めの口調で書いてあるのだ。
そして、フクキタル個人について言及がある。
『マチカネフクキタルの走りっぷりは目に余るものだった』
『ハイペースなのにレース中盤からのロングスパートなどありえない』
『ファンに応えるショーマンシップばかり目立ち、勝負しようという走りを感じられない』
『レースを愛する者として、私はこんな走りをするウマ娘をウマ娘とは呼びたくない』
とんでもない言いようだ。
改めて読んでいたら、後ろから大きなため息がまた聞こえてくる。
振り向くと、沈んだ様子のフクキタルが覗きこんでいた。
「やっぱり私、だめだめなんですね……菊花賞でちょっとは変われたと思ったんですけど……」
どんよりとした空気を纏うフクキタル。
彼女の周りだけしっとりしていそうだと思うぐらいに湿りきっていた。
菊花賞以前の、占いと運に身を任せて大凶を引いた時のフクキタルに逆戻りしている。
自分でがんばって気持ちを整えて解決できるならそれでいいが、フクキタルはずぶといと思いきや妙に繊細なところがある。
神様がいるおかげで私は友達がいるんですと言い切るぐらい自分に自信が無いからな。少しのつまづきで大きく転倒してしまう娘なんだ。
とりあえず、少しだけ気持ちを上向きにしてもらおう。
フクキタルの頭を軽く叩いて、指をパチンと鳴らす。
「参上!」
「ゴールドシップさん……?」
ゴールドシップが上から降ってくる。
俺が持っている週刊トゥインクルを差し出すと、おう! と応えて、受け取る。
そして、勢いよく真っ二つに破り捨てた。
「電流いらいら棒っ!」
「あっ! えぇ~!?」
ビリビリに破かれた雑誌を見て驚いているフクキタルに、別に買ってきた月刊トゥインクルを手渡す。
不思議そうに受け取り中身を見て、さらに首を傾げだした。
「えっと……あ、あれ?」
「フク、何が書いてあんだ? 流鏑馬パーティか?」
フクキタルが困惑しているのには理由がある。
ゴールドシップが一緒に中身を読んで、あぁ、と声を出した。
「浅漬けぐれーの評価だな」
「あ、あさ……? いえ、よくは書いてますけど」
月刊トゥインクル。まあ、あの叫びがちな乙名史さん記事だな。
金鯱賞の回顧記事だからさっきの週刊トゥインクルと同じなわけだが。
フクキタルの激走を称えていて、決して下げるようなことは書いていない。
「あの、トレーナーさん。これは……」
正当な評価をしてくれている雑誌だよ。
そう言うと、驚いたようにまた月刊トゥインクルを見る。
単純な話、週刊トゥインクルはかなり辛口なのだ。
圧勝して勝ったはずのスズカにも、『今後あの走りをできるとは思えない』『前を塞がれたら走ることはできない』と批評している。
昔ゴールドシップと記者がバチバチにやり合ったこともあるぐらいだからな。
辛口すぎるせいで情報収集にも使いにくいことから、トレーナー間でもあの雑誌は必要ないと断じられているぐらいだ。
ゴシップ雑誌としては、そこそこ人気みたいだけど。
「私……がんばったって書いて……」
記事を覗いてみると、フクキタルがロングスパートしたことについて記載があった。
『あのロングスパートはサイレンススズカが落ちてこないことをわかっていたスパートだった。あのレースで勝ちにいく走りをしていたのは、間違いなくマチカネフクキタルだけだった。すばらしい頑張りだったが、今回はサイレンススズカが上手だったようだ』
うん、書いてある通りだ。流石の観察眼というかなんというか。
ぽかんと口を開けるフクキタルに、見ている人はちゃんと見ているものだよと話した。
信じられないという表情でこちらを見上げてくる。そんな彼女の頭をぽんと叩く。
もし信用できないなら、今度の感謝祭でファンに聞いてみるといい。
「感謝祭……あっ、トークショーでですかぁ!?」
トレセン学園のファン感謝祭では、全種目終了後にウマ娘とのふれあいトークショーというものがある。
トゥインクル・シリーズで活躍しているウマ娘たちと話ができることで人気なわけだ。そこに立てば、フクキタルがどれだけ評価されているのかすぐわかる。
だって、フクキタルのファンはたくさんいるんだから。
「で、ですが、元ファンの方々に詰め寄られてお星さまになってしまいますよぉ~」
不安なのか俺の服を掴んでぷるぷると震えるフクキタル。
ゴールドシップと目を合わせると、糸目になって肩をすくめていた。
大丈夫だよと言うが、うぅ~と唸るばかりだ。
「ま、あのレース見てファンじゃねーって言うなら、アタシは気にしねーけどな」
「えぇ~!? なんでですか!?」
「フクキタル、元気出てきたのね」
叫びを聞いたのかスズカもやってきた。
さっきまで自主練で練習場で走っていたからか、水を片手に持っている。
レースであれだけ激走したのにもう走っているとは……体をちゃんと休めてくれよ。
「はい。でも、ちょっとだけと思って……」
「スズカさんは相変わらずですね~……」
「フクキタルもじゃない。叫び声、ずっと聞こえてたわよ」
どうやら周りに響いていたようだ。
驚きと恥ずかしさが同時に来たのか、顔を赤くしてぎゃぼーん! と奇怪な悲鳴を上げている。
「でも、いつも通りに戻ってよかったわ。心配してたのよ?」
「あの、スズカさん。私がいつも叫んでると思ってませんか?」
「? そうでしょ?」
「違いますよっ! せめて占いをしているのをいつも通りって言ってくださいよ~!」
スズカに詰め寄るフクキタルだが、全く気にすることなくマイペースに水を飲んでいる。
うん、ほんの少しだが元気が出たようだ。
「ところでフクは感謝祭何すんだ? アタシは木魚ライブすっけど」
「木魚……?」
「私ですか? 私はドトウさんと占いをやろうと思ってます」
そう言って携帯を取り出し写真を見せてくれた。
フクキタルと自信なさげなウマ娘。確か、メイショウドトウだったか。
そして後ろにあるのは看板だ。『表はあっても占い』と書いてある。
「もう看板まで作ってあるのね」
「はい! 会長さんが期待しているぞと言ってくださったので!」
「あいつも変わんねえなー」
確かにこの看板はルドルフが喜びそうだ。
近寄りがたいと気にしているのだから、この看板みたいに感謝祭でギャグ100連発でもやればいいのにと思う。
実はエアグルーヴとトウカイテイオーに止められていたことを俺は知らない。
「スズカさんは何をするんですか?」
「私は紅白対抗リレー。エアグルーヴも出るっていうから……」
どうやらエアグルーヴに誘われてリレーに出るようだ。
感謝祭の目玉イベントだから、多くのファンが見に来るはず。
いいところを見せないとな。そう言うと、スズカの耳がへにょんと垂れてしまった。
「そうですね……」
「あぁ、スズカさんはファン対応苦手ですからね~」
「どう話していいのかわからなくて。うぅ~ん……」
今度はスズカが沈んでしまった。
うーん、みんなとのコミュニケーション難しいなぁ。ゴールドシップだと楽なんだけど。
「ピースしとけピース! 盛り上がっからよ!」
「おぉ! 流石はゴールドシップさん! スターウマ娘として何かアドバイスはありませんか!」
「アドバイスー? そりゃあおめー、なにもしなくていいだろ!」
「さっきと言ってることが違うけど……」
ゴールドシップの回答に2人とも困惑していた。
まあ、言わんとしていることはわかる。
ゴールドシップのファンは、ゴールドシップというウマ娘が好きなのだ。
彼女と交流がしたいから感謝祭に来ているわけで。だから、特別に何かをしなければならないなんてことを気にしなくてもいいわけだ。
「そういうものなんでしょうか……?」
「そーだろ。フクもシラオキに何かしてほしいって思ってるわけじゃねーんだろ? そういうわけ」
「様をつけてくださいっ。でも、確かにそうですね~。道を示してほしいと思ってますが、特別色々お願いしますとは思ってないです」
「普段通りにしていればいい……のかしら」
成程~と手をポンと叩いて納得するフクキタルと、うーんと空を見上げるスズカ。
ファンは会うだけでも嬉しいからな。気にしすぎなくていいのだ。
でも、ゴールドシップはファンサービスが凄いからなにもしないわけじゃないけど。
少し前向きになったフクキタルとスズカを見て、感謝祭がうまくいくといいなと思うのであった。
というわけで、ちょっぴりナーバスなフクキタルでした。
週刊トゥインクルはオリジナルです故……。前作でも色々ありましたっていうキツめなところだと思っていただければ。
次回はファン感謝祭です。
フクキタルが前向きになれるイベントになるでしょうか。