マチカネフクキタルとの3年間 with ゴルシ   作:あぬびすびすこ

35 / 52
 伝説のレースが始まる。
 タイキのレース?
 カットじゃよ……。


35、スズカの毎日王冠

 夏合宿を終えて、フクキタルたちはシニア級の秋へと走り出した。

 まずはタイキのスプリンターズステークス。

 前走、フランスのジャック・ル・マロワ賞で勝ったことでさらなる期待を寄せられ、ダントツの1番人気。

 

『タイキシャトル先頭! 後続を突き放していく! タイキシャトルが先頭だ! 欧州GⅠ勝者は伊達じゃない!』

『タイキシャトル強い! タイキシャトル文句なし! タイキシャトル文句なし! 圧勝ーーーッ!!!』

 

 最終直線で抜け出し、そのままグングン加速して1着。

 帰国後に短距離レースのため、ちょっとキツめのトレーニングで体を絞ったからな。いい加速力だった。

 次走のマイルチャンピオンシップも無敗で勝てそうだ。

 

 そして今日、史上最高のGⅡレースと言われているレースが始まる。

 その名も毎日王冠。

 出走するウマ娘の中で特に注目されている3人。

 

 ダービー以外無敗で勝ち進んでいるエルコンドルパサー。

 朝日杯でレコードを叩き出し、その後ダービー以外やはり無敗できているグラスワンダー。

 そして現在本格化して異次元の逃げを見せ、ぶっちぎりの人気を誇るサイレンススズカ。

 

 この3人との勝負を避ける陣営も多く、出走するウマ娘はなんと9人。

 天皇賞秋の前哨戦とも言われるレースであるのに、回避するウマ娘がかなり多かった。

 ハイペースになることはわかっているから、消耗を避けるという意味合いもあるだろうけど。

 

 回避していないウマ娘たちは、それだけ強いということになる。

 全員重賞を制覇した経験のあるウマ娘しかいないし、全員調子は最高のようだ。

 先ほどパドックで見ていたが、全員仕上がりが完璧だ。やる気が凄く、スズカに勝つという気迫を纏っている。

 

 そんな中、スズカは落ち着いていた。

 控室で神むすびを左足にしっかりとつけ直し、時間になるまで椅子に腰かけ、ゆっくりするという余裕。

 非常に高いレベルのレースになるが、この様子だとスズカがぶっちぎるな。そう思った。

 

 

 

 

 

 東京レース場のゴール前にて、俺たちはレース開始を待っていた。

 今日はチームメンバー以外に、スペシャルウィークとシャインフォートが応援に来ていた。

 

「スズカさん、エルちゃん、グラスちゃん。みんな頑張って……!」

「スズカ、今回はどんな走りするんだろう」

 

 きゅっと手を握り、ゲート前で準備運動している同期と先輩を応援しているスペシャルウィーク。

 そして楽しそうに笑っているシャインフォート。脚のケガは順調に回復しているらしく、今は走れるまでになったようだ。

 

「今日のスズカは今までと違ったな」

「そうだねぇ。いつものスズカさん以上に調子がよさそう」

「今日は私が大吉だったので、幸運パワーを差し上げたのです!」

「オウ! ジンツウリキというやつデスネ!」

 

 相変わらずわいわい盛り上がっている我らがチーム。

 楽しそうだなと思っていたら視線を感じた。振り返ると、後ろの観客席後方でエアグルーヴがこちらを睨んでいた。隣には苦笑いするシンボリルドルフもいる。

 彼女たちもこのレースに注目しているみたいだ。

 

『東京レース場のメインレース、毎日王冠。京都レース場では、同じくメインレースの京都大賞典が行われています。西も東も今日は本当にどきどきわくわくそわそわ、どっちもGⅡレースなんですが……すごいことになっています』

 

 京都大賞典はセイウンスカイが出るレースだ。他にもフクキタルとしのぎを削っているメジロブライトやキヌノセイギ、宝塚記念2着のキンイロリョテイも出走する。

 今の世代がスターウマ娘だらけ、黄金世代と言われているのも頷けるぐらい、みんな華々しい実績を持っているのだ。

 

『さあ、各ウマ娘。ゲートイン完了しました。まもなく始まります毎日王冠!』

 

 ――ガタンッ

 

『スタートしました! 少し出遅れたかグラスワンダー!』

「グラスちゃん!」

 

 グラスワンダーがほんの少しだけ出遅れた。

 やはり怪我をして春シーズンを休んでいた影響が出ているようだ。

 

『先頭をとるのはやはりこのウマ娘! 2枠2番サイレンススズカ!』

「やっぱり速ぇな、スズカのやつ」

「うん。もうわたしじゃあ前に出れないかも」

 

 ゴールドシップの言う通り、スピードの違いが如実に出ている。

 スタートし始めてすぐにグンと加速して一気に前に出て先頭を走っていた。ダービーのシャインフォートのように、スズカの前をとって逃げを防ぐことはかなり難しいだろう。

 

「でもスズカ、飛ばしすぎじゃない?」

「そうでもないですよ? もっと速く走っても大丈夫なぐらいです!」

「ほんとに!? くはー! スズカ速くなりすぎだよ!」

 

 フクキタルからスズカのスピードを聞いて嬉しそうに頭を抱えている。

 ライバルがさらに強くなったのがよかったみたいで、いい笑顔だ。

 

 今のところ後続との距離はそこまで離れていない。1、2バ身程度だろうか。流石に突き放させてはくれないか。

 しかし、ペースはかなり速い。コーナーに入るころには4バ身ぐらいは差がつき出すだろう。

 

『サイレンススズカ先頭でコーナーを回っていきます。バ群はその後ろで固まっています』

 

 スズカがコーナーを回り、後続も少し離されるがついていく。

 グラスワンダーとエルコンドルパサーも差しにいけるよう集団の前のほうで待機している。

 

『1,000m通過タイムは57.7! ハイペースで逃げていきます!』

『先頭集団からグラスワンダーが少しずつ上がってきています! 直線前にしかけるつもりか!?』

「グラスは早めにいくつもりデス!」

「うん。きっと息を入れるところを差すつもりなんだろうねぇ」

 

 グラスワンダーがコーナーに入ってから少しずつ進出していた。

 直線前のコーナーで息を入れるスズカに狙いを定めたのだろう。

 しかし、出遅れからペースを上げてついていっている上、ここで仕掛けるのはかなりキツそうだが……。

 

『大ケヤキを越え、最後のコーナーへ! グラスワンダーが詰めていった! サイレンススズカを捕えることができるのか!?』

「スズカさん! グラスちゃん!」

「うぅ~、スズカさん相手に早めの仕掛けはまずいですよ……前のレースもそうでしたからね」

 

 身を乗り出すスペシャルウィークと耳を畳んで困ったような顔をするフクキタル。

 フクキタルが思い出しているのは、恐らく金鯱賞。

 ロングスパートをかけたが逃げからの末脚をくらってぶっちぎられたあのレースだ。

 

『9番のヒュージミサ! そして6番グラスワンダーが上がってくる! しかしサイレンススズカが先頭のままコーナーを出て最終直線へ!』

「おっしゃー! スズカー! ()()()()()ーッ!」

 

 先頭を保ったまま直線へと入ってきたスズカに、ゴールドシップは声を上げる。

 観客たちも東京レース場の長い直線、どんなレースになるのかと大歓声を上げてウマ娘たちを迎えた。

 

『坂を上る! サイレンススズカまだ逃げる!』

「スズカー! ゴーゴー!」

 

 ゴールドシップ仕込みの上り坂へのアプローチはまさしく登山家のごとく。

 全く失速せず、今までと同じハイペースで一気に駆け上がる。

 あれだけの逃げをした上で最後の直線の坂でスピードが落ちないというのは脅威でしかない。

 

 しかし、スズカの独走を許さないウマ娘が後ろから追い上げてきた。

 

『内外に少しヨレながらエルコンドルパサー!』

『グラスワンダーは伸びが苦しい!』

「来たね! スズカ、がんばれ!」

 

 突っ込んできたのはエルコンドルパサー。ハイペースでの走りで体が少しブレてヨレるものの、唯一スズカに食らいついている。

 グラスワンダーは息を入れたところに差せず、そのまま苦し気にずるずるとスピードを落としていく。

 

『200を通過っ!』

「エルちゃん!」

「スズカさん! そのまま逃げ切ってくださ~い!」

 

 エルコンドルパサーがここだと仕掛けたようだが、全く差が縮まらないことに驚愕している。

 目を見開きながら追いかけていくが、スピードはこれ以上上がらない。消耗しているのだ、ハイペースのレースによって。

 

『サイレンススズカだ! サイレンススズカだ!』

『2番手はエルコンドルパサーだが離れている!』

『グラスワンダーは3番手も苦しい!』

 

 スズカは全くペースを落とさず、脚を溜めて解放したはずのエルコンドルパサーと同じスピードの末脚で一気にゴールまで駆けていく。

 ほんのちょっとずつだがエルコンドルパサーが差を詰めている。しかしその差は3バ身かそれ以上ある。

 これではもう、スズカには追いつけない。

 

「スズカさん、すごい……! エルちゃんもグラスちゃんも、がんばってー!」

「すごいデス! スズカー!」

「スズカさーん! スズカさーん!」

「スズカー! わたしの分まで逃げてくれー!」

「スズカさ~ん! スピードの向こう側まで行きましょ~~~う!」

「行けー! 先頭の景色はぜってー譲るんじゃねー!」

 

 ――スズカー! ぶっちぎれー!

 

 スペシャルウィーク、シャインフォート、そしてチームのみんなで応援する。

 スズカが少しだけこちらに目線を向けると、小さく微笑んでからグン! と駆けていく。

 詰め寄るエルコンドルパサーに影も踏ませず、最速の機能美を見せてゴール板を抜けていった。

 

『サイレンススズカが1着でゴールイン!』

『グランプリ・ホースの貫禄ッ! どこまで行っても逃げてやる!!!!』

 

 ゴールの瞬間、俺たちを含めた観客みんなが大歓声を上げた。

 誰も見たことがないような、信じられないような走りを見せたレース。

 喜びながらスズカを見る中で、肌でその興奮を感じていた。

 

「サイレンススズカ、なんてウマ娘なんだ!」

「あのエルコンドルパサーとグラスワンダーにぶっちぎるって……ありえるのかよ、そんなこと!」

「最強だ……最強のウマ娘だ!」

「逃げて差すってマジかよ!? 見たこともねーぞ!?」

 

 近くの観客たちからも驚きと感動の声が聞こえてくる。

 タイキといいスズカといい、なんというか、凄いウマ娘たちがチームに入ったものだなぁと改めて感じる。

 穏やかに笑いながら手を振るスズカを見て、思わず声を上げながら手を振るのであった。




 というわけで、伝説のGⅡレースこと毎日王冠でした。
 実際のレースを見ると、本当に逃げ馬なんだよなコレ……? っていうレース展開です。
 最終直線でもう一回加速して上がり最速に近い速さで走るってどういうこと……?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。