マチカネフクキタルとの3年間 with ゴルシ   作:あぬびすびすこ

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 フクキタルの育成イベントの中で最も切なくなるアレです。


36、それぞれの天寿

 毎日王冠を終え、天皇賞秋目前。

 スズカを鼓舞すべく、たくさんの来客があった。

 

「スズカさん! 応援してます!」

「負けないでくだサイ! スズカさんを倒すのはアタシデース!」

「大逃げの走り、見せてくださいね~」

 

 スペシャルウィークたち黄金世代の5人。

 エルコンドルパサーとグラスワンダーは毎日王冠で敗れたが、スズカの次走に大きな期待をしているようだ。

 交流が少ないセイウンスカイとキングヘイローも、がんばってほしいと声をかけていた。

 

 菊花賞でレコード達成した逃げをかました黄金世代きってのトリックスター、セイウンスカイ。

 他の追随を許さないスピードで先頭を譲らないサイレンススズカ。

 去年は皐月賞、ダービーとレースを完全にコントロールしたシャインフォート。

 どうやら逃げウマ娘の時代が到来しているらしい。

 

「や。スズカ」

「シャイン」

 

 そんなことを考えていたらシャインフォートがやってきた。

 脚にサポーターは付けているが、全く問題ないようだ。

 そろそろ復帰戦だと張り切っていて、楽しそうにトレーニングをする姿が見られる。

 

「天皇賞、楽しみにしてる」

「ええ、ありがとう」

 

 逃げウマ娘同士、何か通ずるところがあるらしい。

 多くは語らず、目を見合わせて去っていった。

 

「今日は来客が多いのだな」

「エアグルーヴも来てくれたのね」

 

 苦笑しながら入ってきたのはエアグルーヴだ。

 先輩ではあるがあのスズカが敬語を使わないぐらい気を許している友人でライバル。

 去年の天皇賞秋の勝者でもある。

 

「緊張は……していないようだな。スズカらしい」

「ええ。私はただ、先頭で走るだけだから」

「ふっ、そうか」

 

 いつもと変わらないスズカを見て、エアグルーヴはクールに笑う。

 しばらくはお互いの調子を聞き合っていた。札幌記念での勝利や、次のレースなど。

 

「エアグルーヴはエリザベス女王杯に出るのね」

「ああ。女帝として、是非とも欲しいタイトルだ。私の適性にも合っている」

 

 静かに闘志を燃やすタイプのスズカと対照的に、エアグルーヴはぐっと拳を握って闘志を燃やす。

 どちらもクールなのに、こういうところでは違いがあるのだなぁと思わず見比べてしまう。

 

「お互いに勝つぞ、スズカ」

「ええ。がんばりましょう」

 

 フッと笑ってエアグルーヴは去っていった。

 ようやく来客が落ち着いたとスズカに水を渡していたら、トレーナー室の扉がノックされる。

 開けてみると、そこにいたのはシンボリルドルフ。

 

「やあ、トレーナーくん。スズカがここにいると聞いたんだ。少しいいかな」

「ルドルフ会長?」

「こんにちは、スズカ。少し話をしたくてね」

 

 ルドルフもスズカと話がしたいようだ。

 部屋に通すと、不思議そうなスズカと対面する。

 

「毎日王冠の走り、見事だったよ」

「ありがとうございます」

「天皇賞秋。またあの走りを見せてくれるのかな」

 

 どうやらルドルフも期待しているようだ。

 それだけスズカの大逃げが目を引くのだろう。

 あの走りを見せられたら、そりゃあ注目するけどな。俺のチームで良かった、うん。ありがとう先輩。今度菓子折りをあげます。

 

「はい。私はただ、誰よりも早く先頭で走るだけです」

「ふふっ、そうか。楽しみだ」

 

 ケガだけはしないようにね。そう言ってルドルフは部屋を出ていった。

 色々な人から期待されているな。

 

「そうですね。ちょっと驚いてます」

 

 少しだけ困ったように笑うスズカ。

 

 喉を潤して休んでから部室に向かう。

 既にチームメンバーがそろっていて、遅れてきたスズカを見てお迎えしてくれる。

 

「やっときたか! 随分もみくちゃにされてたみてーだな」

「大人気ですねぇ~。気持ちはわかりますよ! 期待しちゃいますもん!」

「わたしも応援しちゃうなぁ」

「あの走りはすごかったデス! ゼンブ1番人気デスヨ!」

 

 タイキが見せてくれた新聞には、天皇賞秋の人気が書いてあった。

 11月1日の1枠1番で1番人気という1尽くし。天に勝てと言われているぐらいの最高の条件だ。

 

「こんなにみなさんから期待してもらえるなんて、スズカさんは幸せですねぇ~。私もこのぐらい注目されたいものです」

「幸せ……ねえ、みんなって今、幸せ?」

 

 ふとスズカが話す。

 俺もフクキタルたちも不思議そうな顔をするが、みんな笑顔で頷く。

 

「私は幸せですよ~! 大切な人が周りにいっぱいいます! トレーナーさんとか、フナボシのみなさんとか、ファンのみなさんとか! 思いっきりレースして応援してもらうのがとっても楽しいです!」

「ハイ! フランスでフレンドができマシタ! それに、レースにもたくさん勝ててマス! とってもシアワセ? デス!」

「うん。強いみんなと一緒に走れるし、がんばってがんばってレースに勝ったりして。すっごい充実してるなぁ」

 

 それぞれがそれぞれの幸せを感じている。

 トレーナーとしては、とても嬉しいことだ。

 

「ゴルシちゃんはおもしれーことがありゃあいつだって幸せ者だぜ! 当たりのラーメン屋見つけたりとかな!」

「そう……みんな充実しているのね」

 

 スズカはそう言って穏やかに笑う。

 急にどうしたの? と聞いてみると、顎に手をあててうーんと唸った。

 

「私、手ごたえは感じているんですけど、普通ぐらいというか……まだたどり着けてないんです」

「――スピードの向こう側」

 

 以前からスズカが話していた、スピードのその先。

 金鯱賞や毎日王冠でのぶっちぎった走りをしても、まだ目指すところには行けていないらしい。

 

「あともう少しなんです。その先に、私の幸せがあると思うから……」

「感じられるのは、ほんの一瞬かもしれない。でも、みんなに負けないぐらいの幸せ。つかんでみせるから」

 

 グッと力強く拳を握るスズカ。その決意はとても強いものだ。

 それを見て、フクキタルがふっふっふと笑う。

 

「ならばスズカさん! 幸せを掴んだその先に、最強最大大吉級の幸せになれる方法を教えてあげましょう!」

「おお! 随分と言うじゃねーか」

「それは……?」

「それは、長生きすること!」

 

 親指を立てて自信満々に答えるフクキタル。

 それを見て、俺とゴールドシップ以外はぽかんとした顔をした。

 

「ほら、大事な人と一緒にいるには長生きしなきゃじゃないですか。50歳より100歳! 100歳より200歳! マチカネチョウジュキタルです!」

「オウ! 確かにそうデスネ!」

「フクちゃん、思ったより考えてるんだねぇ」

「レイさん!? 思ったよりってどういうことですか~!?」

 

 やいのやいのと騒ぎだすフクキタルたち。

 ゴールドシップがケガに気を付けまくっているのを知っているし、俺もケガだけはさせないようにと思っているから、フクキタルの言う長生きが幸せというのはとてもよくわかる。

 ぎゃいぎゃいと叫ぶフクキタルを見ながら、ゴールドシップと顔を見合わせて笑うのだった。

 

 

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 天皇賞秋の前日。

 全員のトレーニングを終えると、スズカに話があると声をかけられた。

 夕焼けを見ながら、学園の外を2人で歩く。

 しばらく景色を楽しんでいると、スズカがぽつぽつと話をし始めた。

 

「トレーナーさんには、お話しておこうと思って」

「私、少し前に脚が痛くなったんです」

 

 思わずスズカを見て、すぐさま脚を見る。

 しゃがもうとする俺を慌てて止めてきた。

 

「今は大丈夫です! あの、ゴールドシップが、ケアしてくれたんです」

 

 話を聞いてみると、毎日王冠の後に、好調だったものの少しだけ脚に痛みを感じていたらしい。

 それでも走りたいと思ってトレーニングに行こうとしたら、ゴールドシップに捕まって脚休め地獄めぐりの旅に連れていかれたのだとか。

 ……そういえば、毎日王冠の後にゴールドシップとスズカが突然いなくなったことがあったな。

 

「左の脚首が少し炎症を起こしてたみたいで。でも、今はメジロ家のお医者さんからも完治して問題ないと言われてます」

 

 ゴールドシップからシャインフォートに話がいって、その流れでメジロ家の主治医に見てもらったと。

 軽めの炎症だから特に問題がなかったのですぐに復帰したということだった。

 レース後は長めの休みをさせるから、スズカが足を痛めていたなんて気づかなかった。ゴールドシップがいなければどうなっていたか……。

 露骨にへこんでいると、スズカがそれを見てクスっと笑う。

 

「ゴールドシップが言ってました。トレーナーが凹むから早めに言ってやれって。トレーナーさん、今まで言えなくてごめんなさい」

 

 いや、俺も悪かったよ、と互いに謝る。

 

「……トレーナーさん。私、走ります。ようやく行けそうなんです」

 

 そう言って俺を見る。その目から強い決意と覚悟を感じられた。

 スズカは顔を下ろして、足首についた神むすびを見る。

 

「このお守りがあれば、きっと大丈夫です。だって、トレーナーさんと一緒に走れるから」

 

 顔を上げたスズカは、穏やかに微笑んでいた。

 そんな彼女を見て、思わず頭をぽんぽんと手でたたく。

 頑張って。でも、無理はしないように。そう言うと、スズカは嬉しそうに頷いた。

 

「はい。トレーナーさんにも見せます。私の夢、スピードの向こう側を」

 

 ――楽しみにしてる。

 2人で顔を合わせて笑い、しばらく夕日を眺めながら歩いていくのだった。




 ※この小説の主人公はフクキタルです。
 でも次回もスズカの回じゃよ。

 フクキタルの世代であれば、スズカとタイキは欠かせませんからね。
 ちょっと群像劇のようになってしまいますが、しばしお楽しみください。

 キリよく楽しんでほしいので、次の話は18:00に投稿しますよ!
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