マチカネフクキタルとの3年間 with ゴルシ   作:あぬびすびすこ

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 お休みをいただきます!
 彼女がね!


38、お休み

 伝説となった天皇賞秋からしばらくして。

 スズカは来年までの長期休みを取ることとなった。レースは勿論出ないし、トレーニングもしばらくは軽いものばかりになる。

 これは驚くべきことに、スズカからの提案だったのだ。

 

「トレーナーさん。私、少し休もうと思います」

 

 チームの部室で言われた時、全員が驚いてぽかんとしてしまった。

 いつも通りルービックキューブで遊んでいたゴールドシップもギョッとして手を止めていたぐらいだ。

 

 どうしたのか聞いてみたら、毎日王冠から脚に負担がかかりすぎたからと話してくれた。

 しばらく休んで、万全の状態でまた走りたいと。

 あまりにも衝撃が強すぎて、みんな本物か……? と疑いの視線をぶつけていた。

 その状況を見て、困った様子で俺を見る。

 

「あの……そんなに驚くことですか?」

 

 うん。大きく頷く。

 

「スズカってほら、マグロみてーだからよ」

「マグロ? フィッシュ?」

「……あ、マグロってずっと泳ぎ続けてるんでしたっけ」

 

 泳ぎ続けないと息ができなくて天に召されてしまうんだよ。

 

「スズカみたいデスネ!」

「スズカさんだねぇ」

「そうですね~」

「だろ?」

「うそでしょ……」

 

 自分が走り続けないと生きられないウマ娘だと思われていたことにショックを受けている。

 いやぁ、夕食後にもちょっとだけ……と言いながらターフを走っているからな。ターフが好きすぎる。

 

「でもいいんじゃねーか? 最近走り詰めてただろ。コアラぐらい休んどけよな」

「寝っぱなしだねぇ」

 

 俺もそう思う。スズカも少し休むと言っていることだし、思い切って今年いっぱいは休めばいい。

 来年のURAファイナルズもあるわけだからね。

 

「そうですね……はい。ちょっとゆっくりしてみます。スペちゃんにも迷惑かけたし……」

 

 同室のスペシャルウィークに心配をかけていたらしい。

 毎日王冠後に脚の不調を感じていたみたいだし、同室だったというならその変化にも気づいていたはず。

 学生らしく、ゆっくり遊んでおいで。

 

「はい。あ、でも……」

 

 もじもじしながら、こちらを上目遣いで見てくる。

 

「少しは走ってもいい、ですよね?」

 

 その言葉を聞いて、部室から大きな笑い声が聞こえてくるのだった。

 

 

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 スズカは今年の出走レースが終わったが、他のみんなはまだまだ走る。

 ソーラーレイはJBCとチャンピオンズカップ、東京大賞典があるし、タイキはマイルチャンピオンシップがある。

 

 そしてフクキタル。フクキタルは、年末の大一番。有マ記念に向けて、強度の高いトレーニングを行っている。

 

「ふにぃ~~~!」

「ゴーゴー!」

 

 坂路でぱかプチダッシュを懸命に行う。

 既にシニア級ウマ娘としてしっかりと体ができている。4、5回と坂路で走っても、くくりつけたぱかプチが落ちることは無い。

 加えてやる気もある。次こそは勝つ! という気合を入れて走っているのだ。

 菊花賞以降、掲示板には残るものの1着にはなれていないからな。

 

「フィニーッシュ!」

「~~~っ! はふぅ~! ゴールです!」

 

 俺の目の前を通り抜けて速度を落とし、ゆっくり帰ってくる。

 汗を拭いながら近くに置いてあるドリンクを手に取り、ぐびぐび飲む。

 

「ぷふぅ。あ~、上り坂はやっぱり辛いですね~~」

 

 前言撤回しなければならないかもしれない。耳をぺたんと垂らして疲れた表情を見せている。

 やる気があったのは最初の1、2回だけだった可能性が……。

 

「中々な登山家になったじゃねーか、フク」

「そうですか? まだまだキツいんですけど……」

「坂路で走り切ってあんまり息切れしてないのはすごいよぉ」

 

 ソーラーレイが言う通り、坂路を何度も走っているのに、そこまで息切れはしていない。スタミナがついている証拠だ。

 というか、上り坂を走りまくって辛くないわけないからな。

 

「ゴールドシップは坂路、ソーファストデス!」

「坂は駆け上がって駆け下りねーもんだからな」

「逆だと思うけど……」

 

 スズカが困惑しながらやってきた。

 結局走る魅力に勝てず、予定がなくなるとトレーニングに合流している。今日は坂路だから走りこみはしてないけど。

 

「ちょっと回復しました。もう1回行ってきます!」

 

 そう言ってフクキタルは駆け下りていく。

 前言撤回を撤回しよう。やる気はある。

 

「気合入ってんなー、フクのやつ」

「ウィナーになれないっていってマシタ」

「悔しいよねぇ……うん、悔しいよね」

 

 ソーラーレイもライバルと勝ったり負けたりしているから、その気持ちはよく分かるだろう。

 タイキとスズカもわかるだろうが、今現在別格の強さだからな……タイキなんて無敗だし。

 

「うっし! ゴルシちゃんも見せてやるか! 怒りのデスロード!」

「何を見せるつもりなの!?」

 

 はしゃぎながら坂を下りるゴールドシップを見て、思わずツッコむスズカだった。

 

 

 

 

 

 トレーニングを終えて部室に戻る。

 この時ばかりは学生らしく、部室でガールズトークに花を咲かせる。

 まあ、俺もいるんだけど。戸締りしなきゃいけないから。

 

「スズカさん。この前走るのお休みするって言ってましたけど、どうしてですか?」

「あの時言った通りだけど……ちょっと無理しすぎちゃったから」

 

 フクキタルが机にぺったり体を預けてスズカに話す。

 先日話題になった『スズカ走るのを休む』事件。何やら気になるところがあるようだ。

 

「あ、えっとですね~。今までスズカさんって調子が悪くてもなんでも走ってたじゃないですか」

「そう……?」

「そうですよ! ケガしててもトレーニング行こうとしてたの知ってるんですからね!」

 

 フクキタルにそう言われて、スズカは驚きながら俺を見た。

 ちょいちょいとゴールドシップを指さすと、むっとした表情で睨む。

 ゴールドシップは全く気にせずにタイキとソーラーレイの3人でサイコロを投げまくっている。ヤッツィーでもしてるのだろうか。

 

「だから、急に休むって言ってたので……ちょっと気になったんです」

「そういうことね……はぁ……」

 

 自分の失態をバラされて、少し恥ずかしそうに息を吐くスズカ。

 あはは、とフクキタルも苦笑い。

 

「本当は調子も良かったし、脚も痛みなんてなかったの。でも、トレーナーさんからもらったお守りが切れたから」

「脚に付けてた神むすびですね」

「ええ。私の代わりに切れたと思うと……目標も達成できたから、休ませてあげないとって」

 

 そう言ってスズカは左脚を見る。

 そこには新しい神むすびが巻かれていた。

 

「それに、きちんと休んだほうがいいって言われてたから」

「エアグルーヴさんですか?」

「何で知ってるの……?」

「だって、スズカさんがエアグルーヴさんと会ってからずっと言われてるじゃないですか」

 

 みんな知ってますよ。フクキタルにそう言われると、うそでしょ……とがっくり肩を落とす。

 正直俺もスズカに会う前から知っていはいた。エアグルーヴから走るのが好きすぎて休まないやつがいる。どうするのが正解だ? と困った様子で助言を求められたことがあるから。

 トレーナーたちの中でも有名だぞと話すと、手で顔を隠してうぅ……と唸っていた。

 客観的に見ると、じゃじゃウマ娘だなぁ。そう思う。

 

「はぁ……気をつけないと」

「エアグルーヴさんには色々教えてもらってばっかりですね~」

「そうね……でもフクキタル。フクキタルの話を聞いて、最終的に休むことにしたのよ」

 

 え? とフクキタルが驚いてスズカを見る。

 ふふっと笑いながら、スズカは思い出すように少し上を見た。

 

「幸せになるにはどうすればいいか。フクキタルが教えてくれたじゃない」

「……あ! アレですか! 長生き!」

「そう。フクキタルに言われて、確かにそうかもって思ったの」

 

 スズカさんも同じですね! フクキタルはぐっと親指を立てる。

 それを見て、そうね、とスズカも頷いた。

 

「私、やっぱり走ることが好き。たくさん走るには、やっぱり長生きしなきゃ」

「そうですね~。私もたくさん走って、長生きして、大切な人と楽しくいたいです」

「うん、そうね。だから、長生きするために、ケガをしないようにって思って。だから休むことにしたの」

「そうだったんですね~」

 

 ははぁ~と納得してうんうんと頷いた。

 フクキタルの占いとか考え方の影響が、いい方向に出たみたいだ。

 やっぱり長生きって大事ですよねと神妙に頷くフクキタルを見て、幸運を運んでくれたんだなぁと思うのだった。




 というわけでスズカ、お休みの巻。
 なおトレーニングには積極的に顔を出す様子。休みじゃないじゃん!

 というわけで、この小説のスズカは育成ストーリースズカなのでとっても元気に、その先の景色を見て帰ってきました。
 湿っぽい展開なんてなかったんや!
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