マチカネフクキタルとの3年間 with ゴルシ 作:あぬびすびすこ
占いも大事だけど、それよりなにより走るのが大好きというのがわかるからヨシ!
先日のことを踏まえて、俺は反省してトレーニングを色々考えてみた。
デビュー前だから基礎が大事ということで、筋力や体幹を鍛えるトレーニングをメインに考えたわけだ。
その中でも、バランスボールに乗ってジェンガをやっていた時は白熱していたなぁ。限界を迎えたフクキタルがジェンガごと吹っ飛んでいく光景を何度見たことか。
ちなみにゴールドシップはバランスを崩すことなくずっと正座してジェンガをやっていた。
時折フクキタルのやる気を継続させるために、サイレンススズカやタイキシャトルなどに協力してもらうこともあった。
筋力や体幹ばかりだと飽きるだろうからと、試しにやってみたペットボトルロケットショットガンタッチは凄い戦いになっていたな。
ゴールドシップが2Lのペットボトルで作り上げた2段式ロケット。なんと空中で分離してさらに飛んでいくという代物だ。どういう機構なんだろうか……。
シャレにならないスピードで飛んでいくペットボトルをキャッチするだけなのだが、これが低空の軌道で100mぐらいぶっ飛んでいくものだから中々取れない。
正直フクキタルよりもスズカやタイキのほうがムキになっていたが、楽しんでくれていたから良しとしよう。
そんな感じで俺とゴールドシップにとっていつも通りのトレーニングしてきたわけだが。
レース前日の昼、フクキタルがトレーナー室にやってきた。タイキシャトルも連れて。
「トレーナーさん……今までありがとうございました……」
意気消沈した別れの挨拶を初手で受けた。
がっくり頭を垂れていて、隣にいるタイキも困り顔だ。
どうしたのかと聞いてみると、タイキが携帯を見せてきた。
「コレを見てくだサーイ!」
携帯に映っているのは選抜レースのメンバー表の写真だ。
……なるほど。どうやらフクキタルはデビューは確実だろうと言われるそうそうたるメンバーの中に組み込まれている。
タイキから名前を聞くたびに青ざめる彼女の姿が幻視できるな。
「もうダメなんです~~~! 私の選抜レースはもう終わってしまったんです~! 占いの通りですよぉ~!」
うわあーーん! と頭を抱えて叫ぶフクキタル。
どうやら選抜レースの占いをしたら『最悪』とでてしまったらしく、それも相まってこんな状態になっているようだ。
「トレーナーさん、なんとかしてくだサイ! フクキタルのフレンドとして、ほうってはおけまセン!」
「うう……いいんです、タイキさん。私はこうなる運命にあったのです……ああ、シラオキ様、何故私にこんな試練を……」
ついに膝崩れになって天に祈り始めた。
ずっと気になってはいたけど、シラオキ様って誰?
「シラオキ様ですか? シラオキ様は私の夢の中にだけ現れる神様です。私を福へと導いてくれるありがた~い神様なのですよ!」
ですが今回ばかりは何故~……と嘆くフクキタルを見て、どうやって話をしようか考えていると、肩をポンと叩かれた。
振り向くと、そこにはサングラスをかけたゴールドシップが! いやまあ、一緒にお昼ご飯食べていたからいるのは知っていたけど。
「フクキタル、このゴルシちゃんがほんのちょっぴりだけ教えてやるぜ」
「ゴールドシップさん……?」
腕を組み、フクキタルを見下ろすゴールドシップ。その顔にはいつのまにか白いヒゲがくっついていた。
どこから持ってきたんだそれは。
「神様はの……乗り越えられる試練しか与えないのじゃよ」
「乗り越えられる、試練……?」
「そうじゃよ。ゴルゴル星の神、シップオブゴルーシもそう言っているのじゃ」
ふぉふぉふぉとヒゲを撫でながらどこからともなく取り出したラップを通して空を眺めるゴールドシップ。ラップ越しに空を見ると故郷の星が見えるとかなんとか言ってたな。
横目でゴールドシップを見ていたら、フクキタルが急に立ち上がった。
「私には、このレースを乗り越えられる……そういうことなのですね、シラオキ様!」
ゴールドシップの言葉を受けて、少しばかり元気が出たようだ。
「しかし、占いは最悪です……どうすれば乗り越えられるのでしょう……悲しいことですが、勝てるとは思えません~!」
「あん? 走ればいいだろ」
「うぇ?」
「オゥ?」
不思議そうにするフクキタルとタイキ。ヒゲをいじりながらゴールドシップは話す。
「勝つか負けるかとかそんなのはどーでもいいだろ!」
「ホワッツ!? どうでもいいんデスカ?」
「面白いレースができりゃあそれでいいからな! とりあえず走るんだよ!」
自信満々に答えるゴールドシップを見て、2人は驚いていた。
だが、ゴールドシップの言っていることは、俺も共通認識だ。
今までのトレーニングはさ、何のためにやってきたんだ? そう聞くと、フクキタルは俺を見る。
「それは、トレーナーさんにスカウトしてもらうためです」
だったら、楽しく走ってきてほしい。
そう言うと、えっ? とフクキタルは声を漏らした。
俺は楽しく走ってくれれば、最高のパフォーマンスが出せると思っているし、そうやってゴールドシップと共に戦ってきた。
だから、勝ち負けという結果じゃなく、フクキタルらしい走りをしよう。そうすれば結果は後からついてくるから。
そう話すと、ぺたりと頭と一緒に垂れていた耳がピンと跳ね上がり、目をキラキラと輝かせた。
「おおぉぉ~! その通りですっ! 私がすべきことは、精いっぱい走ること! たとえ占いの結果が最悪だったとしても、トレーナーさんにスカウトしてもらうのが目標なのですから!」
「元気ハツラツになりマシタ! よかったデスネ、フクキタル!」
「ご心配おかけしました! もう大丈夫ですよ~!」
グッと拳を握るフクキタルの顔は、先ほどと違ってやる気に満ち溢れている。
どうやら気持ちを切り替えられたようだ。
「明日の選抜レース、がんばります! トレーナーさん、見ていてくださいね!」
フンスと体を揺らして気合を見せるフクキタル。
選抜レース、楽しみにしていよう!
選抜レース当日。
今回は芝1,800mの右回り。メイクデビューでよく選択される距離だ。
ゴールドシップは焼きそばを売りに行ってしまったため、1人でレースを見ようとゴール前で待っていた。
レース前に準備運動をしているフクキタルを見ていたら、声をかけられた。振り向くとそこにいたのはサイレンススズカとタイキシャトルだ。
「こんにちは、トレーナーさん」
「ハウディー! 昨日ぶりデスネ!」
タイキからむぎゅうとベアハッグを受けてすぐさまタップする。
親交があると誰彼構わずハグするのはどうなんだ。担当トレーナーでもないんだけど、俺。
「オウ! ソーリー!」
「もう、タイキったら……」
タイキに放してもらうと、手をすり合わせて謝られた。
スズカは困ったようにこちらを見ている。ゴールドシップで慣れているから、この程度なら可愛いものだ。
気にしないでと手を振って、改めてフクキタルを見る。
「緊張はしていなかったわ。当たって砕けてきますって言ってたのが気になるけど……」
どうやら昨日話した通り、とにかく精いっぱい走ろうという気持ちでいるようだ。
うんうん頷いていると、タイキが嬉しそうに体を揺らす。
「トレーナーさんと話したおかげデスネ! ナイスコミュニケーションデス!」
「だから昨日騒いでたのね……」
どうやら昨日のやる気満々な状態がずっと続いていたようだ。スズカがふぅ、と息を吐いていた。
2人は今日の選抜レースは走らないの? そう聞くと、どちらも頷いた。
「今日はフクキタルだけです。来週の選抜レースに出走します」
「トレーナーさんも見てくだサイ! がんばりマス!」
グッと拳を上げてやる気を見せるタイキ。
是非見にいくよと言うと、嬉しそうに笑っていた。
近況を聞いたり話したりしていると、ついにレース開始時間となった。
各ウマ娘がゲートに入り、スタートを待つ。
『各ウマ娘、ゲートイン完了しました!』
実際に実況してくれている方もお呼びして、いよいよ始まる。
――ガタン!
『スタートしました! 各ウマ娘、綺麗なスタートを切りました!』
全員好スタートだ。距離が短めな分、逃げ先行が有利になるため、先頭集団のポジション争いが始まる。
『出走メンバーが実力者ぞろいという注目のレースです!』
メイクデビュー確実と言われるウマ娘ばかりと言うだけあって、斜行してのポジション確保や内側に入りすぎる事などもない。
直線を進みコーナー前でバ群が整い始めているところで、明らかに1人遅れているウマ娘がいる。
『マチカネフクキタルはズルっと下がって後方へ。先行するウマ娘たちについていけないか!?』
フクキタルだ。バ群の集団から置いていかれ、ポツンと後ろにいる。
デビュー前ということを考えるとハイペースではあるが、それ以上にフクキタルのスピードが遅いのだろう。
「フクキタル、大丈夫かしら……」
「ノープロブレム! 問題ありまセーン!」
スズカが心配する中、タイキは自信満々に話す。
今日までたくさんトレーニングしてきたし、やる気という面では出走しているメンバー内で1番だ。
だってそうだろう。最後方で走っているのに、あんなにも楽しそうに笑っているのだから。
◆ ◆ ◆
「やっぱりみなさん速いですね……!」
マチカネフクキタルは最後方で走りながら独り言つ。
コーナーに入ったところで、既に何バ身も差が開いてしまっている。これではこのレース、かなり厳しいだろう。
しかし、フクキタルにとって、順位というものはこの瞬間はどうでもいいと思っていた。
「しかし、私のやることはただ1つ! 精いっぱい走って、レースを楽しむことです!」
トレーナーに言われた、楽しんで走ること。自分らしく走ること。
それがこのレースで1番大切なこと!
『さあ、最終コーナー抜けて直線に入ります! ここからラストスパートだ!』
コーナーを抜け、最後の力を振り絞るウマ娘たち。直線で横並びとなった集団は、ゴールめがけてスパートをかけていく。
全員死力を尽くして走る中、その最後方でキラリと目を輝かせるフクキタル。
「ここからです! 行きますよぉ~~!! 開運ダァ~~~~ッシュッ!!!!」
グッと足に力を入れると、バシュウ! と風を切って一気にスピードを上げていく。
誰もが彼女を見て驚愕した。このレースでは終わった娘だと思われていたのだから。
『ここで後ろにいたマチカネフクキタルがすごい末脚であがってきた! 差し切れるのかっ!?』
「おおぉぉ~~~!!!」
凄まじい加速力で、先頭集団に肉薄する。
他の誰よりもフクキタルが速い! グングン追い上げていく!
「フクキタルー! がんばってー!」
「ファイト! フクキタルーッ!」
――フクキタル! いけーっ!
見ていたウマ娘たちやトレーナーたちは大歓声を上げていた。
あんなに後ろにいたのに、実力だって負けていたのに! 凄まじいスピードで突っ込んできているのだから!
ワアアアァァ~~~ッ!!! 歓声がレース場に響く中、ウマ娘たちはゴールした。
◆ ◆ ◆
「いやぁ~、先頭に立てるかとも思ったのですが……」
頭を掻くフクキタルは、結果最下位。
苦笑してダメでした~と話す彼女だが、ダメだなんてとんでもない!
「と、トレーナーさん?」
「そうよ、フクキタル。あと50mあれば、全員抜かしていたと思うわ」
「ですねデスネ! 順位は最下位でも、1番インパクトがありマシタッ!」
うんうんと頷いて強くそう言うタイキ。本当に、目が覚めるような走りだった。誰よりも凄かったな。
その証拠に、褒めすぎですよぉ~と恥ずかしがるフクキタルの元に、様々なトレーナーが近づいてくる。
「あ、ここにいたんだね! マチカネフクキタルくん! キミをスカウトしたいんだ!」
「凄い末脚だったわ! 私と一緒に勝利を目指しましょう!」
「ボクは君の力をもっと発揮させられると思う。どうか共にがんばってみないか!」
「わわ! み、みなさん、私をですか~!?」
驚くフクキタルに、どんどんスカウトの話が舞い込んでくる。
それもそうだろう。メイクデビューのレースを見た時、俺もゴールドシップの走りに感動して惚れこんだ。
フクキタルには、それと同じような魅力とさらなる伸びしろを感じる。誰だって彼女と一緒に歩んでみたいと思うはずだ。
「ありがとうございます、みなさん! しかし、私にはもう"運命の人"がいるのです!」
そういってフクキタルはじっとこちらを見てくる。
待ってほしい。相当な語弊がある。いや、彼女にとっては真実なのだけれども!
周りにいた先輩たちはあって顔をするのをやめてくれ。別に変なことしてないんだから。
後輩のトレーナーはそんなキラキラした目で見ないでくれ。確かに字面だけ見ればドラマチックかもしれないけど。
「ふいー、売れた売れた……あん? 何してんだ?」
そして丁度よくないタイミングでゴールドシップが帰ってきてしまった。
彼女の姿を見た後輩たちが、さらにキラキラした目をしている! 別にすごいトレーナーじゃないからね、俺は! たまたまゴールドシップに誘拐された人だから!
俺がどうしたものかと思っていると、フクキタルが困った顔をし始めた。
「あのー……あんまり焦らされると口からおみくじが出そうです……」
うぅ、と胸を抑えるフクキタル。
……あの走りを見たら、一緒にやってみたいと思うよな。
これからよろしく。そう言って手を差し出すと、嬉しそうに手を握り締めた。
「その言葉を待っていましたっ! よろしくお願いします~!」
占いを信じ、占いでやる気も変わる個性的なウマ娘。
マチカネフクキタルとの3年間が始まるのだった。
というわけで、選抜レースは最下位でした。
しかしインパクトはイッチバーン! 末脚大爆発を見ると、順位が低くてもおぉ! ってなりますよね。