マチカネフクキタルとの3年間 with ゴルシ   作:あぬびすびすこ

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 遅くなりましてすみませんでした。
 ちょっと加筆しておりました。


40、有マ記念

『今年もやってまいりました有マ記念! 強くて豪華なメンバーがそろっています』

 

 年末の中山レース場。

 いつもとは違う雰囲気の中、レース場にウマ娘たちが集まってくる。

 

「今年はクラシック級からの挑戦者が強いわ」

「そうだねぇ……みんなすごい実力者ばっかり」

 

 黄金世代筆頭と言われている2冠ウマ娘のセイウンスカイ。

 勝負根性は誰よりも勝るキングヘイロー。

 そしてここにきて調子を万全に整えてきたグラスワンダー。

 みんな実績ある強豪ばかりだ。

 

「シニア級も強そうなのばっかだな」

「フム……みんなエネルギッシュデス」

 

 去年の有マ記念覇者のキヌノセイギ。

 春の天皇賞で勝ったステイヤーメジロブライト。

 女帝エアグルーヴと、その彼女をエリザベス女王杯で下したメジロドーベル。

 そして常に上位争いをしているゴールドシップお気に入りのキンイロリョテイ。

 

 流石は有マ記念といったところで、人気の実力者しかいない。

 だが、その中でフクキタルが劣るわけじゃない。大いに期待されるべき実力だ。

 

『3番人気のメジロブライト。ステイヤーである彼女には、この長丁場のレースで実力が発揮されるでしょう』

『メジロ家の実力は誰もが認めるところ。メジロブライトの走りは期待できますよ』

 

 メジロブライトが準備運動をしながら気持ちを高めている。

 彼女は後方から一気に突っこんでくる追込。何度もその末脚を見ている。

 5枠10番と走りやすい枠にいる。ポジション取りはうまくいけるだろう。

 

『2番人気は女帝エアグルーヴ。前走の悔しさをバネに頑張ってほしいですね』

『ジャパンカップではエルコンドルパサーに完敗してしまいましたが、今日に向けて仕上げてきています。距離不安もあまり見られないでしょう』

 

 エアグルーヴは目を閉じ、集中している。

 エリザベス女王杯ではメジロドーベルに渾身の末脚で敗北し3着。続くジャパンカップではエルコンドルパサーがぶっちぎり2着。

 それでも2番人気なのは、やはり彼女はそれでもなお強いと思われているからだろう。

 短い期間で出走しているために少しだけ疲労が心配だが、長丁場でも脚色は衰えない。それが彼女の走りだ。

 

『1番人気は今年のクラシック級主役! セイウンスカイ!』

『中・長距離がベストですからね。彼女には大きな期待がかかっていますよ! 私のイチオシウマ娘でもあります』

 

 いつも通りのほほんとしているのはセイウンスカイ。

 菊花賞で見せた幻惑の大逃げはシャインフォートを思い出させる見事な逃げだった。

 今回の有マ記念でも、その逃げを遺憾なく発揮してくれるだろう。

 

「フクキタル……頑張って」

 

 スズカが小さくつぶやく。

 フクキタルは5番人気だ。ここのところ勝ち切れていないことが理由だろう。

 枠は1枠1番とありがたい場所だ。フクキタルの走りなら、内から突っこんでいけるし。

 しかし、今日の彼女の気合いは今までとは全く違う。最終直線でその恐ろしさを全員が味わうことになる。

 

 ……ちらっとフクキタルがこちらを見た。

 

「フクキタル、ゴー!」

「フクちゃん、がんばって!」

「……行ってこい、フク」

 

 みんなが応援して手を振ると、フクキタルは笑顔で親指を立てた。

 ――楽しく走ってくれよ、フクキタル。

 

 

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 すぅ~と息を吸って、ふぅ~とゆっくり吐きます。

 今日は1年の総決算、有マ記念です。

 いっしょに走る皆さんは、誰もが本当に強い方々。

 お友達のメジロドーベルさんも、今日はライバルですね。

 

 目を閉じて、手を合わせて願います。

 シラオキ様。今日は私がみなさんに幸運を渡したいと思ってます。

 いえ……幸運をわけます、必ず。

 

 応援してくれているみなさんに福をもたらす、私にとってのシラオキ様になります。

 だから、見ててくださいね。シラオキ様、トレーナーさん、チームのみなさん、ファンのみなさん。それに、死んじゃったお姉ちゃん。

 私、みなさんに届けます! だって、マチカネフクキタルだから!

 

『各ウマ娘、ゲートイン完了しました』

 

 ――ガタンッ

 

『スタートしました! 先陣を切ったのはやはりこのウマ娘! セイウンスカイ! その他好スタートです!』

 

 スタート直後、スピードを上げて駆け抜けていったのはやはりセイウンスカイさん。

 セイウンスカイさんは先頭でペースを操るタイプの逃げウマ娘。

 トリックスターとも言われ、様々な幻惑をしてくるタイプだから、過去のデータは信用しないで自分だけ信じてとトレーナーさんには言われています。

 なら見せましょう! スズカさんとのトレーニングで培った、対逃げウマ娘の走り方を!

 と言っても、自分のペースで走るだけですが。遅いと思ったら勝手にペースを上げちゃいます。

 

『ハナを走るのはセイウンスカイ! しかしマークがキツい! 第4コーナーに入っていきますがまだ後方を離せません!』

 

 流石に菊花賞ウマ娘を先行させたくないのでしょう。みなさん食らいついてます。

 セイウンスカイさんはどう走るのか読めませんが、これだけは言えます。

 スズカさんみたいに飛ばして飛ばして一気に行くのではなく、シャインフォートさんのようにペースを作って乱して走ろうとしているのだと。

 正直スズカさんと走ってるせいで勘違いしてしまいますが、普通ハイペース逃げはあんまりしないみたいですね。ペースメイクして脚を残すのが普通なようです。

 やっぱり癖が強い方が多いですねぇ~フナボシは。

 

『第4コーナーから1度目のホームストレッチへ! 大歓声の中、ウマ娘たちが駆け抜けていきます!』

『ここでセイウンスカイが前に出ていきました! 少しずつ差を広げていきます!』

 

 セイウンスカイさんが直線で仕掛けました!

 ポジション争いが落ち着いて隊列が決まったところで一気に逃げるみたいです。

 単騎逃げは得意みたいですからね、気をつけて進まないと。

 私の後方にいるキヌノセイギさんやキングヘイローさんにも注意しないとですね。差し脚はすばらしいものがありますから。

 

『コーナーに入りまして、先頭でセイウンスカイが差をつけています! 4バ身から5バ身ほどでしょうか!』

『バ群はやや縦長となっております。1,100m地点でタイムは67.2。1,000m60秒ペースです』

 

 ペースは普通……ぐらいですかね?

 そんなに速くないと思います。これなら最後も脚を溜めれます。

 でも、それは逃げているセイウンスカイさんや先行しているエアグルーヴさんたちも同じ。

 脚が残ったままだと、中々差しにくいんですよね~。

 

『向こう正面入りまして、セイウンスカイがまだ飛ばしていきます。先頭集団ではメジロドーベル、その後ろにグラスワンダー。エアグルーヴにキンイロリョテイ』

『後方で脚を溜めているのはマチカネフクキタル、キングヘイロー、キヌノセイギ。最後方にメジロブライトもいます』

「………!」

 

 前のほうでグラスワンダーさんが少しずつペースを上げています。セイウンスカイさんを捕えるためでしょう。

 それにつられて他のみなさんもペースアップしました。いいですね~、差しやすくなってますよ!

 半分過ぎましたし、私もペースを上げていきます! みなさん、スタミナは十分ですか~!

 

「やってくれる……!」

「でもそれが正解っ」

 

 みなさんもゆっくりですがペースを上げてくれました。最内の私がグイッと行ってますからね、上がっちゃいます。

 第3コーナー前にいるセイウンスカイさんの逃げは明らかにペースダウンしています。

 息を入れながら、脚をじっくり溜めているのでしょう。

 しかし、後ろからのペースアップに気づくはずです。そうすると、あまり息も入れられません。

 少し苦しくなっちゃいます。大丈夫でしょうか。

 

『セイウンスカイが第3コーナーに入りました! 少しずつですが差が詰まってきています!』

『ここで少しペースを上げたかグラスワンダー! 先団に進出しています!』

 

 そう言えばスペシャルウィークさんが言っていましたね。

 グラスワンダーさんは差すと決めたら絶対に差してくる怖さがあるって。

 セイウンスカイさんは今、それを強く感じていることでしょう。

 

『セイウンスカイかなり詰められています! これは大丈夫か!』

『先団は上がってきている! 誰が抜け出すのでしょうか!?』

 

 第4コーナーに入って、みなさん加速していってます。

 私もじっくりと加速を……むむむむむ!

 

『最終コーナー回っていきます! 全員上がってきています!』

「ここ入るよ!」

「いるから気をつけて!」

 

 みなさん結構横に広がっていきますね!?

 空間が空きすぎて、私の前にもぐっと入られてしまいます!

 うぐぐ……しかし、トレーナーさんからは、セイウンスカイさんが逃げたなら直線に入った瞬間全開でと言われています。

 なら、ここはなんとかして加速しますよ!

 

「ゴールドシップさんの妙技!」

 

 バランスを崩さないようにしながら、邪魔にならないようにスピードを上げていきます!

 そして、好位につけたなら、一気に行きます!

 

「タイキさんのパワー!」

 

 グッと脚を踏みこんで、溜めていた脚を解放します!

 さあみなさんご覧あれ!

 マチカネフクキタルが福を届けますよ~!

 

「行きますよぉ~~~!!!」

『最終コーナー回って直線に入った! 集団は横並び! 誰が抜け出すのか!』

『先頭のセイウンスカイ粘る粘る! しかし外からグラスワンダーが追いかけてくる! 驚異的な末脚!』

『最後方からはメジロブライト! 一気に突っこんできているぞ! このまま追い抜けるか!』

『内から突っこんできたのはマチカネフクキタル! マチカネフクキタル! バ群をすり抜けて福が来る!』

 

 スズカさんのように体を伏せて、グングンとスピードを上げます!

 今日だけは! 今日だけは絶対に先頭に立ちたいんです!

 絶対に負けません! だって、トレーナーさんに約束したんです!

 有マ記念の1着を上げるんだって!

 

『残り200m! グラスワンダー! セイウンスカイを抜いてグラスワンダー先頭! しかし後方からはメジロブライト! 内からはマチカネっ!? マチカネフクキタル! 爆発するかのような末脚っ!』

 

 少し前にグラスワンダーさんが見えます!

 さっき後方にメジロブライトさんもいたので、今突っ込んできていることでしょう!

 ですが、このレースの最速は譲りません!

 みなさんに、フナボシのマチカネフクキタルが1番速いんだって教えるんです!

 それが福なのです! だから……!

 

「うぅ~! うわあああぁぁ~~~!!!」

『マチカネフクキタルが一気に上がってきた! グラスワンダーと並ぶ! しかしグラスワンダーも粘る! メジロブライトもあと少し! マチカネフクキタル少し前に出たか!?』

 

 先頭ですか!? 先頭ですね! 私が今1番前にいますね!

 なら、この景色だけは絶対に譲りません! もっと、もっと速く!

 ゴールまで走るんです!!!

 

「フクー! 突っ込めー! あとちょっとだあああぁー!」

「フクキタル! 頑張って!」

「フクキタルー! ゴー! ゴー!」

「フクちゃーん! いっけぇー!」

 

 ――フクキタルッ! 走れええェーーー!

 

「い、きます、よぉおおおお~~~!!!」

『マチカネフクキタル! マチカネフクキタルだ! さらに伸びていく! これは決まったか!? グラスワンダーも前に出るがっ! マチカネフクキタルだ! マチカネフクキタル!』

 

 みなさんに、福を、届けるんですぅ~~~!!!

 

『マチカネフクキタルが差しきってゴールインッ! 大勢のファンが詰めかけるこの有マ記念! 中山レース場に福が来ましたぁー!!!』

 

 ぜぇ、はぁ、と息を整えて掲示板を見ます。

 1番……私、ですね。

 

「か、勝ちました……プレゼント、渡せましたよ、トレーナーさん」

 

 ヘロヘロのままトレーナーさんのほうを見て手を振ると、みなさんが笑顔で手を振ってくれました。

 ファンのみなさんも、私にたくさんの声をかけてくれています。

 ああ……福を届けられたんですね……。

 

「フクキタル」

「あ……エアグルーヴさん」

 

 声をかけられて振り向くと、エアグルーヴさんがそこにいました。

 

「完敗だ……フクキタル、強くなったな」

「はい。みなさんのおかげで、私、福を届けられるようになりました」

「そうか。次は勝つ。また走ろう」

 

 そう言ってエアグルーヴさんは歩いていきました。

 ぼーっとその姿を見ていたら、一緒に走ったみなさんからドン! と体当たりをっ!?

 

「ぎゃぼぼ!?」

「おめでとうフクキタル!」

「すごい速かった! 悔しいけど凄いよ~!」

「楽しかった! またやろうね!」

 

 みなさんから祝福を受けました。

 ああ……一緒に走ったみなさんにも、福が届けられた……のでしょうか?

 でも、楽しく走れたのであれば、嬉しいです!

 

 色々な人にもみくちゃにされながら、ウィナーズサークルまで歩いていくのでした。




 というわけで、グラスちゃん1着の有マ記念でしたが、今回はフクキタルの勝利。
 実際は13着と大敗でした。
 でも育成だと1着じゃなきゃいけないのでね。はい。
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