マチカネフクキタルとの3年間 with ゴルシ 作:あぬびすびすこ
URAファイナルズ準決勝中距離部門。
東京レース場に俺たちは来ている。
ここで走るのはフクキタル、タイキ、ソーラーレイだ。
スズカは中京、ゴールドシップは京都とまた離れてしまった。ものすごい文句を言われたが、チームのトレーナーとしてはメンバーが多いところに行きたいからさ。許してほしい
今度ゴールドシップのお出かけに付き合う約束をして、なんとか行ってもらった。
メジロマックイーンが同じく京都のため、頭を下げて2人で行ってもらうことに。レースは違うが、楽しくやってくれている……はず。
ダートから始まった準決勝なわけだが、まずはソーラーレイの勝利という吉報からスタートした。
後方でバ群の中を切り裂いて、上り坂から一気に突っ込んでくる走りは圧巻。抜け出してそのまま1着だ。
後方集団は砂を被りやすいからあまり好かれないんだが、あえてそこを陣取ることでマークを散らす作戦だったわけだけど。うまく決まってよかった。
「やったよぉ!」
「いい走りでしたよレイさん!」
「グレイト! 次はワタシデスネ!」
やる気満々で次のレースとなったタイキのマイル部門。
そのレースはもう鎧袖一触というかなんというか。同じように上り坂から一気に抜け出すと、グングン加速して全員を置き去りにしてぶっちぎりの1着。
マイルの無敗王者が爆誕しようとしている。そんな期待しかないレースだった。
問題は決勝戦にドリームトロフィー・リーグのスプリント兼マイル王、マルゼンスキーがいることだが……まあ、うん。タイキならやってくれるだろう。
「アイムウィナー!」
「流石はタイキさん! 強すぎますね~!」
「本当に凄いよぉ。ダートで対決じゃなくてよかったぁ」
ソーラーレイはレースを見てホッとしている。
あの走りをダートでもできると考えると末恐ろしい。
瞬間的なパワーだけなら、ゴールドシップよりもタイキのほうがあるかもしれないからな。
「よ~し! 次は私です!」
「頑張ってきてくだサイ!」
「がんばれー! フクちゃーん!」
2人から気合いを受け取り、やる気絶好調のまま控室へと駆けていく。
フクキタルもこのままの勢いで勝ってほしいが、果たしてどうなるか……。
◆ ◆ ◆
地下バ道からターフへと出ると、歓声がわぁっと聞こえます。
いつもみなさんの声を聞くと、なんというか、燃え上がるものがありますね!
ターフの上で軽く脚の準備運動をします。
私たちは控室で念入りに体を温めてますし、ゲートに行くまでに軽く走ってアップをしたりもします。
レースで最高のパフォーマンスを発揮するためです。でも、ファンのみなさんへの感謝も忘れません。
手を振ってみなさんの声に応えます。今日も頑張りますよ~!
「フクキタル」
「はえ? あっ、エアグルーヴさん!」
声をかけられたので振り向くと、エアグルーヴさんが腕を組んで立っていました。
おお……なんという闘志。体から蒼い炎が見えますよ!
「有マ記念は負けてしまったからな。今回は勝たせてもらう」
「むむ! 今日も私が勝ちますよ!」
ぐっと拳を握ってやる気を見せると、エアグルーヴさんはふっと笑ってくれました。
メラっと炎を揺らすと、いいレースにしようと言って去っていきました。
いつもクールですね……とその背を見ていると、視線の先にいた黒い勝負服のウマ娘さんがこちらを見ていました。
キンイロリョテイさんです。腕を組んでじぃっとこっちに視線を向けていますね……。
グッと親指を立てると、フン! と顎を上げて別のほうに顔を向けました。
相変わらず気が強いお方ですね~。
……みなさん強敵ですが、今の私は絶好調ですからね!
今日はいけますよぉ~!
ゲート前で深呼吸して気持ちを落ち着けます。
ゲートに入ると体の中からパワーが満ち溢れてきます!
おおぉ~……こ、これがスーパーラッキーナンバーの力!
シラオキ様! 今日は凄いことになりそうです!
『各ウマ娘、ゲートイン完了しました』
――ガタンッ
『スタートしました! 全員好スタートを切りました!』
ゲートから出て走り出します。出遅れはありませんね。
左右の動きを確認しながらポジションを取りに行きます。
ラッキーナンバーの枠にいますが、それは7枠。外枠です。
内には入りにくいので少し様子を見ましょう。
『先頭でハナをとったのは6番ネレイドランデブー! 一気に飛ばしています! 1番のリードマガジンも追走!』
『ネレイドランデブーいいスタートですよ! これは先頭でペースを作れそうです』
逃げウマ娘のネレイドランデブーさんが先行しました。
事前の話ではシャインフォートさんのようなタイプだと聞いていますが、この走りを見るとどうでしょう。
何が何でも先頭を取りに行くって走りですけど……あっ、まさか。
真ん中の枠番で出走したエアグルーヴさんを見ると、ネレイドランデブーさんが元々いたポジションにすっと動きました。
序盤からプレッシャーをかけてポジションを確保したのですね。圧のかけ方が会長さんみたいです。
エアグルーヴさんはレーンの魔術師と言われるぐらいコース取りが上手いです。こういう細かい動きがそれに繋がっているのでしょう。
『1番人気の7番エアグルーヴはリードマガジンの後方を位置取りました。2番人気13番マチカネフクキタルは中団の外側といったところ』
エアグルーヴさんに抜け出されると困りますからね。
今回の作戦も最後に差すわけですが、ロングスパートをかけずに機を見て差すという王道の走りを予定しています。だから、今回は少し前のほうにつけますよ。
奇をてらった走りだと、エアグルーヴさんに咎められる可能性があるとトレーナーさんが言ってましたからね。やるならゴールドシップさんぐらい弾けないとって。
私はゴールドシップさんにはなれませんからね~。なら、強い走りで強い方に勝ちますとも!
『第1コーナー回りまして、先頭はネレイドランデブー。2番手のリードマガジンから3バ身ほど距離が開いています。その後方1バ身開いてエアグルーヴ。その外並んでキンイロリョテイ。中団外にはマチカネフクキタル』
キンイロリョテイさんはここのところ2着3着が多くて中々人気が前後しています。
しかし、入着率が高いということはそれだけ実力があるということです!
ゴールドシップさんも、ブロンズコレクターと言われているナイスネイチャさんは滅茶苦茶強いぞと言ってましたからね。
1着をとっていないとしても油断はできません。全力でいきますよ!
『第2コーナー抜けまして向こう正面へ。隊列は12バ身ほどでしょうか。ぎゅっと詰まっていますね』
『エアグルーヴとマチカネフクキタルを警戒してのことでしょう。キンイロリョテイも抜け出してからの末脚は素晴らしいものがあります。そこをマークするとなると、中団に固まってしまうということです』
みなさんがこちらをマークしているのはわかります。
少し目線を内に向けたり走る位置を動かすと、内側から圧をかけられますからね。
できるだけ外側を走らせて距離を稼ぐようにという狙いでしょう。
キンイロリョテイさんもエアグルーヴさんにそれをやられて大いに怒っています。もう怒気がここまできてます! こわいですよ~!
『ネレイドランデブーが1,000mを通過しましてタイムは60.5! 良バ場では平均ペースといったところでしょうか?』
『そうですね。ここからどうペースを変えるかですが、後ろにはリードマガジン。その後方にエアグルーヴもいます。スローペースにすると簡単に抜かれてしまうでしょう』
ペースとしては普通ぐらいでしょうか?
スズカさんと流しで2,000mを走る時と同じぐらいだと思うので、大体1分ぐらいだと思います!
いやぁ、逃げのウマ娘さんといっしょにトレーニングするとペースを覚えられるのでいいですね~。
『先頭は変わらずネレイドランデブーですが、少しペースを緩めたか? リードマガジンとの差は2バ身ほどになっています』
『リードマガジンとエアグルーヴの差は2バ身になりました。エアグルーヴはペースを維持しているようです』
『後半のスタミナを残すためでしょう。前の2人はかなり厳しくなりそうです』
コーナーまで来ていますが、リードマガジンさんとの距離は少し離れました。
エアグルーヴさんはペースを変えていないと思うので、きっと逃げているネレイドランデブーさんとリードマガジンさんで競り合いがあるのでしょう。
ペースメーカーがエアグルーヴさんだと走りやすくていいですね。いい状態のまま直線まで行けますよ!
『第3コーナー入って、リードマガジンがネレイドランデブーに詰めていく! 差が1バ身になったぞ!』
『ロングスパートでしょうか! しかしスタミナが持つのでしょうか!』
先頭での競り合いを見て、周囲が少しだけ動揺したのがわかります。
ですが、エアグルーヴさんもキンイロリョテイさんも動きません、もちろん私も。
スタミナが余っているのだから、最後の直線で抜かせますからね。東京レース場では焦ってはいけないのです。
直線が525mもありますし、上り坂だってあるんですから!
『大ケヤキを越えて第4コーナーへ! さあどのウマ娘が前に出てくるのか!』
『先頭はネレイドランデブー! しかしリードマガジンもすぐ後ろにいるぞ! 後ろの集団も差がなく一気に上がっていく!』
ネレイドランデブーさんは少し引きつけてから逃げたかったのでしょうが、リードマガジンさんにブロックされてしまいました。
でも、これだとリードマガジンさんもスタミナがなくなってどっちも落ちてしまいそうです。
上り坂で気をつけないと壁になりそうですので……ここから行きましょう!
トレーナーさん発案! 大外ぶん回してこいや大作戦!
『さあ誰が先に出てくるのか! まず仕掛けたのはキンイロリョテイだ! キンイロリョテイが上がっていく!』
「――ッ!」
私がコーナーでの遠心力で外側に行っていると、キンイロリョテイさんが先に動きました!
少しペースを上げて集団の先頭に来ましたね! 天皇賞春も2着をとれるスタミナがありますから、それを武器に行くつもりでしょう。
エアグルーヴさんはまだ待機しています。坂を上がってから勝負するつもりですね。
なら、私が先に行かせてもらいますよ!
「登山家ダ~~~~ッシュ!!!」
『大外からマチカネフクキタル! 上り坂を駆け抜けていく! 一気にキンイロリョテイと並んだ! 並ばない! そのままネレイドランデブー、リードマガジンに差を詰める!』
私も長距離走れるんですからね!
スタミナと上り坂は得意です! あとコーナーも!
『坂を上る! キンイロリョテイとマチカネフクキタルがグングン伸びていく! 後方からエアグルーヴも飛んできた!』
坂を上って一気に行こうとすると、後ろからエアグルーヴさんの圧がきました!
ここからは真っ向勝負です!
「――ッ!!!」
「開運ダ~~~~ッシュ!!!」
「はあぁーーーっ!!!」
思いきりターフを踏みしめて、全身全霊でゴールまで突っ込みます!
スタミナは十分です! パワーも溢れんばかりです!
スピードは、いつもよりもっともっと速いですよ~!
『抜け出しているのはマチカネフクキタル! マチカネフクキタルだ! エアグルーヴがキンイロリョテイと並ぶ! しかしマチカネフクキタルが抜けている! 残り200m! 先頭は変わらずマチカネフクキタル!』
グン! とさらにスピードを上げて走ります!
大外にいるからエアグルーヴさんもキンイロリョテイさんもどこにいるか分かりません!
でも、きっと私が先頭です!
だってこんなにもいい景色が見えているんですからね!
『マチカネフクキタルがさらに抜け出したぁ! さらに距離が開いていく! エアグルーヴがキンイロリョテイを抜かした! キンイロリョテイ食らいつく! マチカネフクキタルまだ伸びるっ!』
「フクちゃーん! そのままいっけぇー!」
「フクキタル! ゴーファスト!」
――フクキタルーッ! そのまま一気に行けぇー!
みなさんの声を聞いて、さらに力がみなぎります。
さあ、一気に行きますよ~!
「うわあああぁぁ~~~!!!」
『マチカネフクキタルだ! これはすごい! もう誰も届かなぁい! 一気に突っこんでゴールイン!』
ゴール板を駆け抜けて、息を整えます。
ふひぃ~~~! こ、今回はかなり良かったんじゃないですか!?
今まで以上の力を出して走れましたよ!
少し落ち着いてから掲示板を見ると、13番が1番上。私が1着です!
2着はエアグルーヴさん……え!? エアグルーヴさんと2バ身差ですか!?
「フクキタル……素晴らしい走りだった」
「あ、エアグルーヴさん」
私が驚いていると、エアグルーヴさんが声をかけてくれました。
悔しそうですが、笑顔で話してくれています。
「ありがとうございます。私、勝ちましたよ!」
「ふぅ。有マ記念といい今回といい、フクキタルには完敗だな。これからは私が追いかける番だ。覚悟しておけよ?」
フッと好戦的に笑って、エアグルーヴさんは去っていきました。
いつでもクールですね~と思っていたら、背中をドン! と叩かれました。
げぼぼ! な、何事!?
「………」
「あ、キンイロリョテイさん」
キンイロリョテイさんが凄く不満そうな顔で立っていました。
少しビクッとしてしまいますが、別に悪い方ではありませんからね。
「今日は私の勝ちです! 次も勝ちますよ!」
そう言ってグッと拳を突き出すと、フンと鼻で笑ってキンイロリョテイさんも拳を突き出してタッチしてきました。
それで満足したのか、そのまま無言で歩いていきました。
キンイロリョテイさんも変わらずクールですね……獰猛ですけど。
少し苦笑いしながら、応援してくれていた観客の皆さんに手を振って感謝を伝えるのでした。
というわけでエアグルーヴとキンイロリョテイに勝利して決勝進出!
スーパーラッキーセブンはやはり強かったのだ……。
フクキタルが2人に比べて抜群に強いのではなく、差しが勝ちやすいレース場とフクキタルに得意な上り坂、そして謎のラッキーパワーが合わさった結果です。
時の運というものを見方に付けたのです……。