マチカネフクキタルとの3年間 with ゴルシ 作:あぬびすびすこ
「『フナボシ全勝! URAファイナルズはこのチームで決まりか!』だってよ」
そう言ってゴールドシップがもたれかかって雑誌を見せてくる。
我がチームは非常にうれしいことに、全員勝利して決勝へとコマを進めた。
スズカは予想通りのぶっちぎりな上、2回息を入れる走法を実戦投入して大成功。
いつも以上に走りやすかったと嬉しそうに報告してきた。
ゴールドシップはまたギリギリのハナ差勝利。
やる気の限界かと思って予選と準決勝のレースを何度か確認したが、どうやら長距離レースが連続だから調整している節がある。
予選から準決勝にかけてトレーニングもほとんどしていない。フクキタル達のトレーニングに少し付き合うとかぐらいだ。
体重を物凄いかけてくるゴールドシップを押し込みながら雑誌を見ると、俺がゴールドシップにドロップキックをくらって他のみんながビックリしている写真が載っている。
これ宝塚記念3連覇した時のやつだな。なんでこんな写真なんだ。せめて菊花賞とかのほんわかしたやつにしてほしかった。
ちらっとゴールドシップを見ると、凄いニヤニヤしている。まさかと思うが……。
「乙名史ちゃんがチームの写真ほしいっていうからよー。トレーナー室のアルバム渡したんだよ」
ソーラーレイの発案で、チームの思い出ということでレース場に行ったり勝利した時に写真を撮っている。
そこから使ってもらうのはいいけど、なんでこれなんだ本当に。
「ま、アタシのおススメを教えといたんだけどな!」
結局ゴールドシップじゃないか!
お返しに頭の帽子をわさわさといじくる。
帽子にこだわりがあるから、変に触れると結構怒るのだ。
「あっ! トレーナー! やめろよな! アタシの魂だぞ!」
「失礼しま……え、何してるの……?」
ゴールドシップと一方的に負ける取っ組み合いをしていると扉がガラッと開いた。
動きを止めて視線を向けると、困った様子のスズカたちが立っていた。
みんなどうした?
「フナボシ集結だな。待ってろ! 今からトレーナーをイワシのつみれにすっからよ!」
「すり潰すってことじゃないですか~!?」
「オウ! ミルデスネ!」
どこからともなく取り出したわさびをすり下ろす板を取り出して顔に押し付けてくる。
押し付けられてるだけだから別に痛くもないけど。
ただのじゃれ合いだ。
「ところで何しに来たんだ? マグロ漁船にでも乗るのか?」
「遠洋漁業じゃないよぉ」
「はっ! ゴールドシップさんの奇行で忘れるところでした! 見てくださいコレ!」
「フクキタルって変に度胸あるわよね」
ゴールドシップが目をかっぴらいてフクキタルを見ているところを無視して、フクキタルが突き出してきた新聞を受け取る。
何が書いてあるのか……ああ、決勝戦のメンバーか。
準決勝が全て終わったから出走者は決まっている。あとは枠番ぐらいだから、先んじてメンバーを紹介しているのだろう。
ダートは……うん、ソーラーレイとアフクママルコが1番人気と2番人気だな。差はないけど、アフクママルコが人気優勢って感じだ。
マイルもタイキとマルゼンの2強みたいな雰囲気で書いてあるな。マイル王者、激突! だって。こっちもマルゼンが人気優勢。だが、ケガを克服したフジキセキもいるため、マイルもかなり盛り上がっている。
そして中距離が……ああ、そうか。ルドルフが長距離にいったからいないんだな。
「そうなんです! いやぁ、知ってはいましたけど、決勝で会長さんと当たらないのは嬉しい反面残念と言いますか……」
「私も1度走ってみたかったです……でも、会長さんはリベンジに燃えているみたいで」
「リベンジ? フクシューということデスカ?」
「再挑戦かなぁ。えーとね、わんもあたいむ?」
「オーケー! のみこみマシタ!」
タイキの日本語勉強が突然始まったが……リベンジ? リベンジか……ああ、そうか。
ゴールドシップがURAファイナルズ中距離部門に勝った時、ルドルフは2着だ。ドリームトロフィー・リーグで既に活躍していたし、負けたのが相当悔しかったのだろう。
URAファイナルズが始まる前にゴールドシップはどの部門に出るのか聞いてきたのは、つまりそういうことだろう。
まあ当の本人はのほほんとわさびをすり下ろしているが。
すごい匂いがするな……。
「リベンジだかシリンジだか知らねーけど、ゴルシちゃんはいつでも大噴火だぜ!」
「わああ~! 勢いよくすり下ろさないでください~! は、鼻がツ~ンとしてきますよ~!」
「へいらっしゃい! 本マグロの大トロトロシャリ抜きがお勧めだよー!」
「わさびだけじゃないかしら……?」
突然板前の服装になったゴールドシップが寿司を握る手の動きをしながらわさびだけ提供しようとしてくる。
相変わらずのはじけっぷりだな。おかげでチームの空気が悪くならないというのもあるけど。
わさびだけ渡されて困っているフクキタルたちを横目に新聞を改めて確認する。
中距離で注目されているのはやはりスズカ。前走めざましい走りで完勝したフクキタルもピックアップされている。
それ以外だと……んん?
「思ったよりも爽やかね……おいしい」
「あ、本わさびって辛くないんですね~……あれ? どうしましたか、トレーナーさん?」
首を捻りながら新聞を見ていた俺にフクキタルが気づいた。
これ、と新聞を指さす。みんなが寄ってきて新聞を読み、あっと声が漏れる。
「ミホノブルボンさん! トウカイテイオーさんもいます!」
「会長さんを気にしていて、ちゃんとメンバーを見ていませんでしたね……」
出走者はちゃんと見ると、とんでもないメンバーだ。
俺もルドルフ出ないのかーと思って長距離メンバーに目を移してしまったが、決勝なんだからどう考えても猛者しかいない。
特に中距離と長距離はレースの花形とされているから、強いウマ娘がとにかく集まりやすい。それ以下の距離やダートは、クラシックディスタンスのレースに比べるとやや……といった感じ。
タイキの大活躍のおかげでかなり注目されているし、今後はまた印象が変わると思うけど。
「お、チケゾーとタイシンは中距離か。ハヤヒデとブライアンは長距離なんだな」
「今回はBNWはわかれたんだねぇ……いやぁ、すごいメンバーだよぉ」
中距離の注目ウマ娘! と書かれているメンバーは、誰もがGⅠ制覇を成し遂げているメンバーだ。
サイレンススズカ、トウカイテイオー、ミホノブルボン、ウイニングチケット、ナリタタイシン、トーセンジョーダン、エイシンフラッシュ、そしてマチカネフクキタル。
これは……距離とレース場によってはとんでもないぐらい有利不利が出そうだな。東京レース場だったらフクキタルは相当厳しそうだ。
ほとんどみんな東京レース場でGⅠとっているウマ娘ばかりだし。
長距離は長距離でもう、魔境だ。
ゴールドシップが1番人気だが、2番人気に差はなくシンボリルドルフ。そしてメジロマックイーンと並んで、ケガから復活して決勝まで駆け上がってきたライスシャワー。
そこにナリタブライアンとビワハヤヒデ、ヒシアマゾン。さらにはハッピーミーク。
うぅん……やっぱり距離別で最強を決めるとなると、決勝は凄まじいな!
「改めてみるとすごいレースになりそうですね……」
「ええ。でも、私はただ走るだけ。先頭は譲らないわ」
「おっと! 私もですよ! 今度こそスズカさんを追い抜きますからね!」
スズカがきゅっと拳を握って気合を入れると、フクキタルも合わせてむん! と気合を入れた。
こんなに自分に自信を持てて……成長したなぁ。
「トレーナーさん! スズカさんを差せるように作戦考えましょう!」
「トレーナーさん。最初から最後まで先頭を走るための作戦を教えてください」
2人からそれぞれ勝つための作戦をとお願いされ、がんばろうか、と答える。
チーム内で対決すると、中々複雑だなぁと改めて思うのだった。
オールスター+スズカです。
フクキタルは今まで超強力な相手が少ないところにいたというわけですねぇ。
果たしてどんなレースになるのか、お楽しみに。
8/13に最終話を投稿しますので、今日から3日間は2話投稿しますのでよろしくお願いします!