マチカネフクキタルとの3年間 with ゴルシ 作:あぬびすびすこ
「むむむむむ……お願いします理事長さん! 東京以外で!」
「私はどこでもいいけど……」
「ワタシもどこでも大丈夫デス!」
「ゴルシちゃんはどこでもいいぜ! 阪神来い!」
「どこでもよくないよぉ?」
トレーナー室にて最後の抽選をみんなで待っている。
レース場と距離によってはかなり展開が変わるからな。
これもまた運の要素でもある。天気でバ場が変わるのもまた運だし。
『注目! 抽選を始める! 決勝は全て同じレース場で開催する!』
『それでは参ります』
どるるるるとドラムロールと共に、モニターでレース場の名前がバババババと出ては消え出ては消え。
俺もなんとなくドキドキしてしまう。できれば全員に有利になる場所がいいが……。
『決勝の地は、ここだ!』
バン! と音楽が止まる。
モニターに出たレース場は……京都!
「おおぉぉ~~!!! 来ました! 来ましたよ~! 福の大地です!」
フクキタルが大はしゃぎだ。
京都大賞典に菊花賞と、京都での勝率が高いからな。
それに、菊花賞はフクキタルを1つレベルアップさせたレース。思入れもあるのだろう。
「京都かー。ま、いつも通り坂でぶっこわしゃいいだろ!」
「オウ! ブレイクスルー!」
「ちょっと違う気がするよぉ?」
ゴールドシップはいつも通り上り坂で加速するという掟破りをやるつもりのようだ。
多分他の陣営もわかっているだろうが、上り坂で妨害するとやったほうもスタミナがものすごい削れるから何もできない。
果たしてどんなレースになるか見ものだ。
『続いて部門別の距離だ!』
『ダートから短距離、マイルと決まっていきます』
先ほどと同じようにドラムロールが流れ、距離が次々と決まっていく。
ダートは1,800m、マイルは1,600m。ソーラーレイとタイキは得意な距離だ。
「次は勝ーつ!」
「がんばりマス!」
2人ともやる気満々でこぶしを突き上げている。
しっかり仕上げて決勝に臨めるようにしてあげよう。
『中距離は、これだ! 2,400m!』
「よぉ~~~~し!!! よしよしよしよし!!!」
「フクキタル、ちょっと」
ものすごい大きな声を出して立ち上がり、狂喜乱舞している。
流石にうるさかったのか、スズカがフクキタルの制服を掴む。
俺も鼓膜が吹き飛ぶかと思った。
「あ、すみません……でも、これは私に追い風が来ていますよ! 感じます……幸運のそよ風が!」
「微風じゃねーか」
テンションが上がりすぎておかしくなったのか、発言も適当になってきている。
たまらずゴールドシップがツッコミを入れた。ゴールドシップが冷静にツッコムのは中々ないぞ。
「うーん……2,400m。少しペースを考えるべきかしら……? どうでしょう、トレーナーさん」
どうなのだろう……今のスズカは2回息を入れる走りをしている。
ただ一緒に走る相手にはミホノブルボンがいるからな……シャインフォートに頼んで調整してもらおう。
「はい。お願いします」
「トレーナーさん! 私はいつも通りでいいですか!」
フクキタルは今やっている秘策のトレーニングでいいだろう。
とにかくそれをモノにしないと大敗する可能性もあるからな。
「わかりました! あ、次は枠番ですね」
テレビを見ると、長距離の発表が終わって枠番の抽選が始まっていた。
因みに長距離は3,000mだ。菊花賞と同じだな。
枠番が順々に発表され、中距離になった。
最初に呼ばれるのは誰だろうか……。
「これだ! 1枠1番! サイレンススズカ!」
「よしっ……」
最内の枠番を引いて、小さくガッツポーズをとるスズカ。
かなりの幸運だ。フクキタルとスズカの日ごろの行いの成果だろう。
「これは来てますよスズカさん! 私もラッキーナンバーがいいですね~」
「フクキタルもきっと望んでいる枠に入れると思うわ」
「そうだといいんですけど。期待しましょう!」
次々に枠番が呼ばれるが、フクキタルは呼ばれない。
フクキタルのラッキーナンバーと言っているのは7だ。つまり、4枠7番か、7枠。
大きな枠で考えているから、7枠に入りたいと思っているはずだから、今のところはいい……のか?
「来ますよ~、来てますよ~……来させますよ~! ハイ!」
『7枠14番! マチカネフクキタル!』
「おっほ~~~! す、すごい……! 全く負ける気がしません! 幸運パワー全開じゃないですか!」
「ワオ! ラッキーガールデスネ!」
フクキタルの狙い通り、7枠を引き当てた。
一瞬体が淡く光った気もするぐらい幸運パワーがみなぎっている。
周りもその幸運に驚いてフクキタルを見てぽかんとしている……ゴールドシップは何やらしたり顔でニヤニヤしているが。
「ふぉふぉふぉ……ゴルゴル星の神からの思し召しじゃよ……」
シラオキ様はゴルゴル星の神だったのか……?
首を傾げながらはしゃいでいるフクキタルを見るのだった。
◆ ◆ ◆
URAファイナルズ決勝が数日後に迫ってきました。
フナボシでは最後のリフレッシュということで、ゴールドシップさんに連れられてマッサージを受けたり酸素カプセルでお昼寝したりと、体の疲れをとるツアーに来ています。
スズカさんやレイさんは強制的に連れてこられたことがあるからか、苦笑いしていましたけど。
「うっし! 次は銭湯に行くぜ! ウマ娘専用のとこがあんだよ」
「楽しみデス! セントー! ミルク! 腰に手を当てるんデスネ?」
「タイキ、おめーベテランだな?」
銭湯に行くからと事前に言われていたので着替えや石けんを持ってきました。
いや~、どんどんリフレッシュして体も心も軽いです!
ふんふん鼻唄を歌いながら歩いていると、スズカさんにクスクス笑われてしまいました。
「ご機嫌ね、フクキタル」
「はい! みなさんとお出かけするの楽しいですからね! トレーナーさんも来れればよかったんですけど」
「ゴルシちゃんが首絞めて誘っても無理だからーって言ってたもんね」
作戦がちゃんと通用するかのシミュレーションとか情報の精査とかを最後までやるからって断られてしまいました。
ゴールドシップさんの美しいスリーパーホールドでも拒絶してましたからね……ありがたいんですけど、ちょっと心配です。
「おめーら、あんまり気にしなくていいからな。どうせ後で合流するから」
「え? トレーナーさん来るんですか?」
「おう。銭湯出たら飯食うだろ? そん時に来るってよ」
ほら、と携帯のメッセージアプリの画面を見せられた。
何々……。
あれって胆汁なんじゃないの?
ノーベル賞とりにいこうぜ!
ノーベル何賞なんだろうね
破天荒な賞だなぁ
急だなぁ!
いいよ
明日楽しんでおいで
おやすみ
「急ですねぇ!」
「急だわ……」
「急だねぇ」
かなり唐突な話でびっくりしましたが、いつものとこでいいよってなるトレーナーさんもトレーナーさんですねぇ。
「つーわけだから銭湯入って飯行くぞー」
「オー!」
タイキさんはノリノリでゴールドシップさんについていきます。
よく分からなければスルーしていきますからね、タイキさんは。
流れがよく分からないけど楽しそうだからいいかって感じでしょう。
「トレーナーさんは変わりませんね……」
「そうね。会った時から、ずっと楽しそう」
「そうですね~」
どんな走りをしても、どれだけ弱音を吐いても、いつだって私たちのことを考えて、楽しそうにしてくれています。
今日だって忙しいはずなのに来てくれますし。
「……お返し、たくさんしないとですね」
「ええ。まずはURAファイナルズのトロフィーからかしら……?」
「あ、いいですね~! 第2回の中距離部門もトレーナーさんにあげましょう! もちろん私が!」
「フクキタル。私がトレーナーさんにあげるわ」
「いいえ、私ですよ~!」
むむむっとスズカさんと視線を合わせてバチバチと火花を散らします。
少しして、お互いにぷっと息を吐いて笑います。
「ふふ……ねえフクキタル。勝っても負けても、トレーナーさんにトロフィーをあげましょう」
「そうですね。負けるつもりはないですけど、トレーナーさんには絶対にトロフィーをあげますよ!」
「私もがんばってあげるよぉ!」
「ワタシもとりマス!」
「ゴルシちゃんはどーすっかなー。最近つめてーからなー」
みんながやる気を出す中、ゴールドシップさんが片目を閉じて、ニヤっとしながらこちらを見ました。
ふふっとみなさん笑ってゴールドシップさんを見ます。
「もちろん! ゴールドシップさんも勝ってくださいよ!」
「みんなでトロフィーをあげマショウ!」
「へへっ、しょうがねーな! ま、アタシがすげーってとこを見せてやるか!」
イエーイ! と盛り上がりながらみなさんで決意します。
決勝でトロフィーを勝ち取って、トレーナーさんにあげますよ! それが私たちの、トレーナーさんへのお返しです!
やる気と闘志に満ち満ちながら銭湯でしっかりと体を休めるのでした。
お昼に合流したトレーナーさんが、私たちがものすごいやる気になっているのを見て首を傾げていたのはまた別の話です。
フナボシ、勝利を願うの巻。
フクキタルに追い風が来ております。
京都レース場、果たして結果やいかに。