マチカネフクキタルとの3年間 with ゴルシ 作:あぬびすびすこ
フクキタルが正式にチームメンバーになったところで、ある問題が発生している。
それは、かなりヤバい問題なのだ。
「えぇ~!? トレーナーさん、まだチーム登録してないんですか!?」
そう、チームの登録ができていないのだ!
何故かというと、結局スカウトした3人と正式なトレーナー契約を結べていないから。
結局未だに保留中なのだ。選抜レースにも参加したのにはしたのだが……。
「その、大丈夫ですか?」
「トレーナーさん、口からゴーストがでてマース!」
「おぉ! アレ捕まえれば魂ゲットできんじゃねーか! おいフクキタル、虫取り網!」
大型新人2人の内の1人、サイレンススズカにぶっちぎられたのだ。
トレーニングを見ていた時、トップスピードを維持して走りっぱなしだとは思っていたが、まさかレースの最初から最後まで誰にも先頭を譲らないとは思わなかった。
その後速攻で先輩にスカウトされていたようで、早速トレーニングをしている様子。フクキタルにとって手ごわいライバルになるになるだろう。
タイキシャトルは前半よかったのだが、コーナーに差し掛かったところでよそ見をして減速。そのまま結果を出せずに終わっていた。
理由は体調不良のウマ娘がいて、気になってしまったからだ。その後体調不良のウマ娘を保健室へ連れていくのを手伝ったからな、間違いない。
というかその体調不良のウマ娘が話をしていたソーラーレイだったわけだが。
2人とも残念ではあったけど、レース中にケガをしなくてよかった。
「でも、フクキタルとゴールドシップで2人よね。5人いないとレースに出れないんじゃ……」
スズカの言う通り、現状チーム所属は2人だ。
あと3人いないとチーム結成にまで至らない。
一応理事長やURAの方からは、専属システムを使って1年目からトゥインクル・シリーズに参加してもらったし、4年目でまだまだ新人だからそこまで気にしなくていいとは言われているが。
ただ、学園や後輩のことを考えると、特別扱いというのもあまりよろしくない。なんとか今年中にはチーム結成したいところだ。
「ふっふっふー。トレーナーさん、心配いりまセン!」
「タイキ……?」
タイキが自信ありげに笑っている。
スズカは不思議そうに、そして不安そうに見ている。かくいう俺もすごい不安だ。
「2人ではなく3人になりマース!」
「えっと……どういうことです? チームに誰か入るのが決まっているんですか?」
「そうデス! ワタシが入りマース!」
フクキタルとスズカがえっ、と声を漏らす。俺とゴールドシップは顔を見合わせ、タイキを見る。
やる気満々で両手を上げ、楽しみデス! と機嫌よさそうに体を揺らす彼女を見て、友人2人は尻尾と耳をピンと立て、後ろにのけぞった。
「「ええええぇぇ~~~っ!!!!」」
トレーナー室から驚きの叫びが響き渡るのだった。
◆ ◆ ◆
突然のことで驚いたが、タイキシャトルがチームに加わった。
そしてその次の日、選抜レースで体調を崩していたソーラーレイがチームに入りたいとトレーナー室まで来てくれるという嬉しいニュースもあった。
タイキと俺に恩を感じて、タイキが入るなら自分もということらしい。気にしなくてもいいと言ったのだが、誘われていたしここがいいと言ってくれた。
これであと1人いればチームを結成できる……!
しかし気合いを入れても中々他の娘たちがこないことが判明したので、とりあえず選抜レース出走者や新入生のトレーニングを見て声をかけることにした。
そんなこんなでチームが4人まで増えたことで、トレーニングの内容も少し変わってくる。
「と、トレーナーさ~ん! 次はどこですかぁ~!?」
「ヘイ、フクキタル! 体が落ちてきてマス!」
体幹と体の柔らかさを鍛えてもらおうとツイスターゲームをやってもらっているが、フクキタルがそろそろ限界を迎え始めた。
一緒にやっているタイキが下敷きになっているが、パワーが違うのかのしかかられても微動だにしていない。
やはりタイキはゴールドシップ同様に元々のフィジカルが違うな。体が大きいのもあってかパワーがかなり高い。
手に持っているルーレットを回す。
フクキタル、右手を青ね。
「青ですかぁ~!? うぎぎ……うぎゃああぁ~~!」
「オウ! 大丈夫デスカ?」
「フクキタルさーん!」
体を捻りながら手をつこうとしていたフクキタルだったが、体勢を崩してゴロゴロと転がっていった。
ソーラーレイが慌ててフクキタルの様子を見に行った。ぷるぷる震えているので大丈夫だろう。
「うっし、ゴルシちゃんのツイストスピンショットを見せてやるぜ!」
「スピン! 楽しそうデス! よろしくお願いしマース!」
余裕そうなタイキに対して、ゴールドシップが参戦した。
さっきも2人でやってもらったら10分以上お互いになんともなかったので、実質フクキタルとソーラーレイの休憩時間だ。
「うぅ……体中からおみくじが出てしまいます……」
「フクキタルさん、体からはおみくじなんて出ないよぉ」
芝の上で寝そべるフクキタルたちを見ていると、遠くで先輩が模擬レースをやっているのが見える。
ゴールドシップたちに指示を出しながら横目で見ていると、コースをぐるりと回り、こちらに向かってウマ娘たちが走ってきた。
「はっはっは……」
その中に最近よく見る顔がいた。サイレンススズカだ。
デビュー1ヶ月前と聞いていたし、デビュー前の調整だろうか。選抜レースのような大逃げではなく、先行で抑えて走っている。
その隣にはつい先日オークスを制覇したエアグルーヴがいる。いつもゴールドシップがお世話になっています。
エアグルーヴは最初に他のウマ娘がバランスを崩して斜行してしまい、不利を受ける場面もあった。
しかしそこから最終直線で抜け出すと、一気に駆け抜けていったのだ。他のウマ娘が渾身の末脚で追いすがったのに、距離を詰められずに走り切った。
そんな絶好調のエアグルーヴとは対照的に、スズカは調子が悪そうにしている。
体調不良というか、楽しくなさそうな表情だ。むっつりしている。
そんな彼女をエアグルーヴは心配そうに見ていたが、仕掛けどころに入るとそのまま抜け出していった。
「あっ……!」
スズカはエアグルーヴを追うようにスパートをかけようとしたが、脚が思うように動かないのかスピードが上がらない。
そのまま後ろから追い上げてきた集団に追い抜かれてずるずると順位を下げていった。
なんというか……トレーニングの時にむきになっていたスズカを見ていたから、少し心配だ。
しかし、先輩はウマ娘のことをしっかり見ているし、俺は彼女の担当なわけじゃないからな。あまり見すぎるのも良くない。
そんなことを考えながら、ルーレットを回して指示していくのだった。
新入生やまだスカウトされていない娘たちに声をかけていたある日。
フクキタルに占ってもらい、大吉と出たトレーニング場に寄ってみると、スズカがコースを走っていた。
先日の模擬レース後に話をしたフクキタルたちから色々聞いてみたら、デビュー戦を遅らせると言われたようだ。
まだスピードを抑えて最後に抜け出す走りが完成していないからとのこと。先輩らしい、慎重な姿勢だな。
メイクデビューが伸びたから自主練習かと思って見ていたが、なんというか、表情が暗くスピードも遅い。
しばらくするとゆっくり歩き出し、立ち止まってしまった。
近づいて声をかけると、沈んだ様子でこちらを見た。
「トレーナーさん……」
どうかしたのかと聞いてみると、脚が重いのだという。
「鎖がついて止められてるみたいに重いんです……走ってみても、何も見えなくて……」
きゅっと手首を握って耳と頭を垂れるスズカ。
フクキタルにめちゃくちゃ走らされても楽しそうにしていたのに、今は全然楽しくなさそうだ。
無理して走っているのではないかと話すと、首を振る。
「無理なんて……いつもは、もっともっと走っているんです」
「でも、今はもう、走りたくないって思ってしまって……」
「こんなこと初めてなんです。どうしよう……」
目に涙をためるスズカを見て、どうにかしてあげたい。そう思った。
本当は先輩に話してフォローしてもらうことが大事なんだろうけど、今にも泣き出しそうな娘を放ってはおけない。
よし、後で怒られよう!
走りたいのに走りたくないということは、走りたいと思わせてあげればいいのだろう。なら、話は速い。
手を上に伸ばし、パチンと指を鳴らす。
ゴールドシップ!
「おう!」
「え?」
近くの木からゴールドシップが飛び出し、スズカの前に着地する。
驚くスズカだが、それを無視してゴールドシップは彼女を担ぎ上げた。
そのまま2人で走り出すと、ええぇ~!? と叫び声を上げ始める。
「トレーナーさん! ゴールドシップ!? どこに連れていくの!?」
「そんなの決まってんだろ! おもしれーところだよ!」
困惑するスズカに答えながら、楽しそうに走って行く。
「あれ? トレーナーさんとゴールドシ……え、スズカさん!?」
「お、フクじゃねーか! おめーも来い!」
「ええぇぇ~~っ!? ぴゃああぁ~~!」
道中に出会ったフクキタルも誘拐し、目的の場所にたどり着く。
トレセン学園の駐車場、俺の車だ。
スズカとフクキタルを車に乗せ、俺とゴールドシップも乗りこむ。
「ど、どこにいくの?」
「そうですよ! というかトレーナーさん、トレーニング場に行ったのでは!?」
「細けぇことはいいんだよ! オラァ、行くぜトレーナー!」
混乱して頭を抱える後部座席の2人をよそに、ゴールドシップの合図で車を走らせるのだった。
というわけでタイキシャトルとモブウマ娘ちゃんが1人チーム入りしました。
なんと贅沢なことに、今作はフクキタルが主人公なので他のチームメンバーはそのサポートっぽい役回りになります。つまりタイキはサポカ。
スズカを誘拐したゴールドシップとトレーナー。
その先に待つものとは!