マチカネフクキタルとの3年間 with ゴルシ 作:あぬびすびすこ
主人公なのです……(目そらし)
しばらく車を走らせてついた先は、自然の多い町。景色も良く、静かなところだ。
そこにあるのはトレセン学園のようなトラックではないが、ぐるりと回れるランニングコースのような道。1周2,000mあるかないかぐらいだろうか。
彼女もここはお気に入りのようで、ただランニングするという時はここに来たいと言われることも多い。
「トレーナーさん、ここは……?」
「空気が澄んでていい場所ですね! ちょっと占ってみましょう! エコエコマンボウ……エコエコクリオネ……」
フクキタルが謎の呪文を唱えながら、ポケットから取り出したサイコロを地面に転がした。
出たのは……大吉? 数字ではなく吉凶が書いてあるようだ。
「おお! 大吉ですよ、スズカさん! ここはとってもいい場所みたいです!」
「そう……」
機嫌よさそうにウキウキ腰を振るフクキタルだが、スズカは全く興味なさそうに周りを眺めている。
……今まで感じていなかったが、スズカも中々クセがすごいのではないだろうか。
「うっし、とりあえず走るぞ!」
「え? あ、ええ、わかったわ」
「あ、ちょっと待ってください~!」
走り出すゴールドシップとスズカを追いかけるフクキタル。
急に連れてこられた2人は困惑しながら、ゆっくりコースを走って行く。
ここは近所の方々と話をして、ゴールドシップと2人で道を整備したのだ。ゴールドシップ曰く、暇だったから。
おかげでランニングで脚に負担がかかりにくい道ができあがっている。ついでにここを使う高齢の方々に歩きやすいと感謝された。
近くに住む方でゴールドシップが焼きそばを作るのに使う野菜をトレセン学園に納品しているのは、多分偶然じゃないだろうな。
ペースを考えずに好き放題走るゴールドシップに、スズカとフクキタルが続く。
1周回ってきたゴールドシップは、楽しそうに俺を見る。グッと親指を立ててやると、へへっと笑い、そのままもう1周と走り出す。
続いてスズカとフクキタルが走ってくる。2人ともまだ不思議そうにしているが、好きに走れータイムは気にするなーと声をかけると、ゴールドシップと同じように走っていく。
さて、これで少しは気分転換になるといいけど。
◆ ◆ ◆
「大丈夫ですか、スズカさん」
「ええ、問題ないわ」
隣で走るスズカさんに声をかけて、様子を窺う。
最近調子が悪そうだったので、ずっと心配していましたから。
トレーナーさんが占ってみてと言ってくれたので、大吉とでたトレーニング場に行ってもらったのに、なんでトレセン学園の外にいるのでしょうか。
怒涛の展開に首を傾げてしまいますが、このチームでのトレーニングはこういうものなのでしょう。ゴールドシップさんに振り回されるのも慣れてきました!
「スズカ! フク! このゴルシちゃんを抜かしてみな!」
前で舌をペロペロしながら楽しそうに走るゴールドシップさん。
むむむ、相変わらずすごいスタミナですね……。
「む……」
隣を見ると、ちょっとだけむっとしているスズカさん。
ゴールドシップさんの挑発がきいてしまったのですね、ちょっとペースが上がりました。
かくいう私もペースをあげているのですけどね! 負けませんよ~!
そのあとゴールドシップさんを抜かせずに2周して、一旦休憩ということでトレーナーさんのところで立ち止まりました。
ドリンクをもらって、1口飲みます。火照った体に冷たい飲み物が染みわたりますね~。
「んく、んく……」
スズカさんも汗を拭きながらドリンクを飲んでいます。
ちょっとだけスッキリした顔です。
もっと走る? トレーナーさんにそう聞かれて、もっと走ります! とすぐに答えました!
走っていて景色もいいですし、空気もいいです! 何より大吉ですからね!
「はい、もう少しいいですか?」
スズカさんも走りたいみたいです。
ドリンクを置いてコースに戻ろうとしたら、ゴールドシップさんが先に走っていきました。
「ふぉふぉふぉ! ワシがゴルゴル星のウマ娘、セントウハシルじゃよ!」
「むぅ……!」
スズカさんがむくれたと思ったら、凄い速さでコースに走っていきました!
前から思っていましたけど、負けず嫌いですね~スズカさんは。
「でも、私も負けませんよ! 開運ダ~~~~ッシュ!!!」
2人を追いかけるようにコースに入って、景色と空気を楽しみながら走ります。
タイムを気にしないで、好きなだけ好きなように走るなんていつぶりでしょうか。
小さい頃はいつだってそうだったのに、逆に新鮮ですね!
「おりゃ~~~!」
「お、やるじゃねえかフク!」
夢中で走っていたら、ゴールドシップさんに追いつきました。
……あれ? スズカさんは?
「スズカならもう抜かしていったぜ。スペースシャトルかってぐれー一気に飛んでったな」
ゴールドシップさんの話を聞いて前を見ると、スズカさんがかなり前のほうで走っていました。
私よりも先に走ったとはいえ、凄い速さですね……! さすがはスズカさん! タイキさんと同じく、すぐにでもデビューできると言われているだけはありますね!
「私も頑張ります! ふににぃ~~~!」
「いい気合いだな! ゴルシちゃんもいくぜいくぜーッ!」
ゴールドシップさんと2人でスズカさんを追いかけます!
今日の私は吉でしたが、コースは大吉! 調子もいいですし、いけるとこまでいってみますよぉ~!
◆ ◆ ◆
物凄いものを見ている気がする。
本番のレースさながらの走りで先頭を走っていくスズカと、それを追いかけていくフクキタル。ゴールドシップはそんな2人を後ろで眺めながら
スズカは後ろのことを全く気にしていないらしく、自分のペースでどんどん走っていく。明らかに加速していってるな。
フクキタルもコーナーで息を整えて、直線で一気に差を詰めるという末脚一気の走り方でスズカを追いかけている。脚質で言うと差しの走りだろうか。
「おもしれーやつらだな、あいつら」
ゴールドシップがスピードを緩めて俺のところまで戻ってきた。
彼女から見ても、かなりいいウマ娘のようだ。
「いやー、暇つぶしにキツツキ探しに木に登っててよかったぜ! 久々にこっちこれたしよ!」
チーム結成のために色々やっていたからか、最近はゴールドシップの要望通りにはいかなくなってしまった。
後輩のために気を使ってサポートしてくれているのはわかっているので、本当に頭が上がらない。
ありがとうと言って背中を叩くと、ま、そんなもんだろと言われて尻尾で手を叩かれた。
ゴールドシップはゴールドシップで、後輩たちの走りを楽しんでくれているようだ。
思いっきり走ってスッキリしたのか、戻ってきたスズカは穏やかな顔で息を整える。
次いで戻ってきたフクキタルも、追いつけませんでしたー! と悔しそうにしながらも、晴れやかな顔つきだ。
タオルとドリンクを渡してあげると、笑いながら受け取ってくれた。
「ふぅーーー……ありがとうございます、トレーナーさん」
「いやぁ、速いですねぇスズカさん。追いつけませんでしたよ!」
「え? フクキタル、後ろにいたの?」
「気づいてすらもらえてなかったんですか!? よよよ~……」
さめざめと泣くふりをするフクキタルを見て、スズカは苦笑していた。
スッキリした? そう聞くと、はい、と楽しそうに頷く。
「頭が空っぽになるぐらい、全力で走りました……誰もいない、先頭で」
穏やかに話してくれるスズカ。
先頭を走る。それこそが、スズカが求めていた走りのようだ。
速く走るために脚を溜める練習は大切なものだが、スズカはそれが合っていなかった。でも、先輩の言葉を信じてがんばっていた。
ちょっとしたすれ違いだな。どちらが悪いというわけでもない。
「一番前にある静かな景色……そこだけは、誰にも譲りたくないんです」
なら、それをトレーナーに伝えないとな。
そう話すと、そうですね、と口にする。が、少し困ったようにもじもじし始めた。
「スズカさん? もしかして……」
「ええ、その……私って話すのが得意じゃないから……」
チラッと上目遣いでこちらを見てくる。
どうやらついてきてほしいみたいだ。うーん、まあどっちにしろ勝手に連れてきたことを報告しなきゃいけないからな。連絡自体は学園を出る前にしてあるんだけどな。勝手にトレーニングさせたわけだから、詳しい説明をしないと。
一緒にいこうか。そう言うと、ありがとうございます、と頭を下げられた。
「あと、その……」
言いづらそうにまた手指をすり合わせ、こちらを見た。
「もう少しだけ、走ってもいいですか?」
まだ走るの!? どれだけ走るのが好きなんだ。
スズカの提案に驚きつつも、空が暗くなる手前まで、好きなだけ走ってもらうのだった。
友人のスズカと全力で走って楽しむフクキタル。そしてそれを認知していないスズカでした。
ゴールドシップは後方先輩面。
この小説は今のところ、フクキタルをメインにしつつタイキシャトルとサイレンススズカの2人のキャラストーリーを組み合わせて書いています。
つまり、フクキタル世代の物語なのですッッッッ
ただ、あくまでもフクキタルが主役なので、他のウマ娘はそんなに書かないのでご了承くださいませ