マチカネフクキタルとの3年間 with ゴルシ 作:あぬびすびすこ
3年共に過ごした愛ゆえに……。
「よくきたなおめーら! フナボシのヌシ、ゴールドシップ様が直々にぶつかり稽古してやるからな!」
チーム結成後初めてのトレーニングということで、全員で練習場に集まったわけだが。
珍しくゴールドシップが先に来ていたと思えば、タイヤ引きトレーニング用のデカいタイヤの上で仁王立ちして待っていた。タイヤのそばには一緒に用意させられたらしいソーラーレイが疲れた様子で座っている。
あのタイヤ、「古代エジプトじゃねーか! ピラミッド創成期かよ!」と言って絶対使わせてくれなかったのに。自分から用意するなんて。
「ぶつかり稽古って、タイヤを使うんですか?」
「あん? こんなの使うわけねーだろ」
使わないのに用意したのか……。ソーラーレイがギョッとした顔でゴールドシップを見ている。
ここまでやったのに使わないと言われればそうなる。
「ぶつかり稽古……知ってマース! リキシデスネ! スーモ!」
「相撲よ、タイキ」
タイキは今一単語や慣用句を覚えきれていないらしく、時々変な言い方をすることがある。
苦笑いしながら訂正するスズカに、オウ? と不思議そうにしていた。
まず先に説明したいことがある。そう話すと、全員がこちらを見る。
俺はゴールドシップの専属トレーナーだったから、みんなに適正なトレーニングをやってもらえるかわからない。
もしおかしいとかやる気が出ないとか楽しくないと思ったら、すぐに言ってほしい。
「わかりました! でも大丈夫です! 今日のトレーニングを占いましたが、身を任せるのが吉と出ましたから!」
「それは大丈夫とは言わないんじゃ……」
「ま、細けーことはいいだろ。今日は何すんだ?」
とりあえず最初だし、みんなの今の走りを見たいから併走トレーニングをしよう。
メイクデビューに向けて確認したいし、ゴールドシップもレースが待っているからな。
「レース? ゴールドシップ、何に出るの?」
「ん? わかんねー」
「オウ! ゼンダイミモンデスネ!」
本当に前代未聞だ……ま、いつも通りだけど。
凱旋門賞……の前に、宝塚記念だよ。そう言うと、おお! とフクキタルたちが声を出す。
「GⅠレースじゃないですか! しかもファン投票!」
「今のところぶっちぎりで1位だよ、ゴールドシップさん」
ソーラーレイが新聞を渡してきたので確認する。
投票の中間発表のようだが、既に1位と2位で1万票ぐらい差が出ているらしい。
連覇しているし、今年はURAファイナルズでも大活躍だった。期待も高まるはずだ。
実は投票前から1位は確定だろうから、是非出走をと言われていた。なので、とりあえず出走登録だけしておいたわけで。
走る? そう聞くと、おう! と元気よく答えた。
「ま、アタシを応援してるやつらが走ってくれっつーならよ。やるぜ、ゴルシちゃんは!」
グッとガッツポーズをして、既にやる気満々のようだ。
とんでもないことさえ起きなければ、今まで通り楽しく走れるだろう。そしたら3連覇も夢じゃない。
「すごいですねぇゴールドシップさん! そうと決まれば、早速トレーニングですよ~!」
「やる気じゃねーかフク! よっしゃ! アタシの爆運ダッシュを見せてやるぜ!」
スペース運勢ダ~ッシュ! と言いながら併走して去っていく2人。うん、個性が走っているようだ。
とりあえずゴールドシップ以外はメイクデビューに向けてトレーニングしていくから、まずはしっかり走ってみよう。
「はい、行ってきますね」
「レッツゴー!」
「あ、待って! 速いよ~!」
全員デビュー前とは思えない速さで走り去っていく。
これからの成長が楽しみだ!
「よし! 次はタイキさん! よろしくお願いします!」
「わかりマシタ! 行きまショウ!」
フクキタルがタイキに併走を頼んでいた。
トレーニングへのやる気は十分で、5人の中で1番精力的に走っている。
ただし……。
「あ、待ってください! ムムム……フォーチュン、テリング、ミィ~~!」
手をこすり合わせて何かを唱えたかと思うと、ポケットから鉛筆を取り出してコロコロと転がす。
止まったところに書いてある吉凶を見て、フクキタルは飛び上がった。
「なんと"大吉"ですっ!」
タイキが喜ぶフクキタルを見て笑顔でパチパチ拍手している。
そう、これなのだ。とにかく占いによってやる気というか、気持ちが左右されるのだ。
大吉や中吉ぐらいの時はいい。これが凶や大凶だった時どうなるか。
先ほどのソーラーレイとの併走を思い出す。
『うぎゃあぁ~~っ!? 大凶です~~~!』
『だ、大丈夫? フクちゃん』
『大丈夫じゃないですよ~! ああ~、走ってる最中に転んでウマ娘として終わってしまうんです~!』
『終わらないよぉ!?』
この調子だ。なんとかソーラーレイが励まして走り切ったが、タイムも走りもボロボロだ。
あまりにも他のメンバーのトレーニングにも影響が出そうな気がする。
……スズカもタイキもフクキタルの話を半分以上聞いていない様子だから、もし影響が出るならソーラーレイだけな気もするが。
「行きますよぉ~~!」
「レッツゴー!」
2人とも併走しながら走っていく。
後で全員と話をしよう。手元のメモにみんなの走りを書きこみながらそう考えた。
◆ ◆ ◆
トレーニングを早めに切り上げて、みんなと話す時間を作った。
1人1人話を聞きたいから、トレーナー室でお茶を飲みながらゆっくりと会話する。
他の4人は、チーム結成時にもらえた部室で待ってもらっている。今頃ゴールドシップのボードゲームで盛り上がっているんじゃないだろうか。
「トレーナーさん、お話とはなんでしょう」
最初に呼び出したフクキタルが、緊張した様子で座っている。
厳しいことを言うわけじゃないよと前置きをして、フクキタルを知りたいだけだと話す。
「私ですか? 聞いたってなんにもないですよ~」
頬に手を当ててまたまたーと手を振っている。
ずっと聞きたかったことを先に聞いておこう。
なんでそんなに運勢とか吉凶を気にしてるんだ?
「えっと……私って、トゥインクル・シリーズで幸せを掴めるほど、実力はないじゃないですか」
「私にはよくできたお姉ちゃんがいるんです。とっても優秀で、だから比べられることが多くて……」
「あっ! 決してお姉ちゃんが嫌いというわけではないですよ!」
楽しそうに姉のことを話すフクキタル。
続けて、と頷くと、もじもじしながらこちらを見た。
「……どうしても、自分とお姉ちゃんを比較しちゃうんです」
「本当はトレセン学園に入ろうか迷っていたんです。でも、そんなときにシラオキ様が夢の中にやってきて、こう告げたのです」
「『走りなさい、さすれば道は開かれる』と」
手を合わせながら神妙な面持ちで語る。
「シラオキ様を信じてここまで走ってきたのです」
「シラオキ様や占いに、不安なときに進むべき道を示してもらってきました」
「だからこそ、私には必要なのです!」
グッと拳を握り、目を光らせるフクキタル。
どうやら姉の存在がコンプレックスになっていて、それを払拭させてくれているのがシラオキ様や占いの結果ということらしい。
だからこそ、凶が出ると姉に劣る自分が……と自信を無くしてしまうようだ。
シラオキ様という神様や占いは、彼女にとっては走る理由になっているようだ。
俺が思っていたよりも、重要なものだったらしい。
無意識に軽んじてしまっていた。ごめん、と謝ると、そんな! と声を上げた。
「いいんですよ、トレーナーさん! だってあなたは私の運命の人!」
「占いの通り、私のトレーナーになってくれたのですから!」
ニコニコ笑って両手で親指を立てる。
そうか、フクキタルにとっては俺も運命で導かれた人ということなのか。
変な感じがするけど、信頼してくれているみたいだからよしとしよう。
ただ、あまりにも頼りすぎているとそれは依存だ。
楽しそうに占いの話をし始めたフクキタルを見ながら、少しだけ考え方を変えてあげられたらと思うのであった。
お話し的にはフクキタルのキャラストーリーの復習に近いです。
ここからいい方向に変わっていくフクちゃんにご期待ください。