マチカネフクキタルとの3年間 with ゴルシ 作:あぬびすびすこ
フクキタルの占いへの考え方を変えてあげられないかと考えていたら、意外にもそのチャンスはすぐに来た。
「ゲーセン行くぞ!」
ゴールドシップの号令により、フォーマルハウトのメンバーはゲームセンターに来ていた。
もちろんトレーニングの日ではなく、お休みだ。自宅でメンバーのメイクデビュー後の出走レースを考えていたら、ゴールドシップが突撃してきたわけで。
俺の前に連行されていた4人の中で、タイキだけが楽しそうにしていた。フクキタルに至ってはもう顔面蒼白だ。
「ドレーナーざぁ~んっ! 聞いてくださいよぉ~!」
フクキタルは今日外出する予定だったらしい。そこで運勢を占ってみたところ、なんと大凶!
ショックを受けながらも開運グッズをかき集めてなんとか外に出かけようと必死になっていたところ、ゴールドシップが突撃してきたらしい。
そしてその場に合った開運グッズとフクキタルを担いで走り出し、トレーナー室にグッズを全て封印されてしまったのだとか。
まずトレーナー室に封印というのもおかしな話だが、大凶なのに開運グッズを持っていけばなんとかなると思っているフクキタルも随分な力業だな。
「カレーが凶って出たのに、インドカレーはカレーじゃないです! って食べてたよね、フクちゃん」
「フクキタルはパワータイプデス! やりたいようにやってマス!」
「ちょ、ちょっと待ってください! 私は占いを信じているのですよっ!? 好き勝手にしてるわけでは……」
「でも、フクキタル。今日も運勢悪かったのに出かけるんでしょう? 開運すればいいわけじゃないと思うけど」
スズカのドストレートなツッコミにぎゃぼーん! と叫んでがっくりと肩を落とした。
仲いいな、この同期たち。
「ま、運がどうこうとか関係ねー! やりたかったらやるんだからな!」
行くぜ行くぜー! と歩き出すゴールドシップを見て、俺もついていく。
後ろでフクキタルを励ます声を聞きながら、どうしたものかと考えるのだった。
「行くぜッ! インド人を右に!」
「インド人!?」
車のレースゲームでハンドルを右に思いきり切っているゴールドシップと、セリフにツッコミながらも華麗なドリフトを見せるソーラーレイ。
2人とも白熱した1位2位争いをしていて、周りのギャラリーは大盛り上がりだ。
「ゴールドシップ! そのままぶっちぎれ!」
「そっちのウマ娘のねーちゃん頑張れ! もっとインだよ!」
若い世代の子たちがこぶしを握りながら応援している。
しばらくこの熱狂は続くだろう。
チラッと後ろを振り向くと、スズカとタイキがガンシューティングゲームで遊んでいた。
スズカは多分、誘われてやり始めたのだろう。少し困った様子で銃をふらつかせている。
「BANG! BANG!」
タイキは驚くべきスピードで画面にいる敵に弾丸を当てていた。
銃の使い方に慣れているというべきか、スズカと比べるのがかわいそうなぐらいの上手さだ。
「スズカ! ワタシだけで終わらせちゃいマスヨ?」
「む……」
タイキの声で負けず嫌いが刺激されたのか、スズカの動きがよくなった。
なんというか、スズカは色々と素直な娘だなと改めて思う。
そして俺が気にしている肝心のフクキタルだが。
1人でポツンとクレーンゲームのぬいぐるみを眺めていた。
「………」
ぽやんとした気の抜けた表情だ。
欲しいのか? そう声をかけてみると、ぴぃ~! と耳と尻尾を上にピンと張り、勢いよくこちらを見た。
「トレーナーさんじゃないですか! おどかさないでください~!」
怒られてしまった。
熱心に見ていたから、欲しいのかと思って。
そう言うと、すこししょぼくれた顔でもじもじし始めた。
「可愛いな~とは思うのですが、クレーンゲームで景品が取れそうにないんです」
何度かやれば取れると思うけど。
そう言うが、フクキタルは未だ浮かない顔つきだ。
「ゴールドシップさんにいきなり連れてこられたから、開運グッズを持ってないんです! だって、大凶なんですよ!? 動いてくれないかもしれないじゃないですか~!」
バタバタ手を動かしてダメなんです~と悲しむフクキタルを見て、ふと思いついた。
彼女の背を押して、目当てのクレーンゲームにまで近づく。
そして、お金を入れて彼女を見る。
はい。
「え、やるんですか、私が!?」
そうだよ。とりあえずやってみよう。
彼女の手をボタンに添えてあげると、嫌そうな、でもやりたそうな顔ですすす、と筐体に近づいた。
「ええい、南無三!」
意を決してボタンを押してクレーンが動く。
クレーンゲーム特有のピロピロした音楽が鳴り響く。
その後もう1度ボタンを押して、ぬいぐるみの頭の上にクレーンが動いた。
「あっ……」
うまいことアームが頭をがっしり掴んだまま、クレーンは上に戻っていく。
そしてそのまま排出口に……行く前にころっとぬいぐるみが落ちてしまった。
「あぁ~! やっぱり駄目でした……」
がっくりと肩を落とすフクキタルをよそに、もう1度お金を入れる。
はい。
「はいじゃないですよ~! 見たじゃないですか、落ちちゃったの!」
まあまあ。
なだめながらもう1度手を添えると、しぶしぶボタンを押した。
これを繰り返すこと数回。
――ガタッ。
「とれた……」
ぽかんとするフクキタルの背中を叩いて、取ろう、と声をかける。
ゆっくりしゃがんで取り出したフクキタルは、ぬいぐるみと俺を交互に見て、だんだん笑顔になってきた。
頬が赤く色づくと、嬉しそうに体を左右に揺らす。
「とれましたよ! 運勢が大凶だった私が!」
キラキラした目で見てくるフクキタル。
開運グッズが無くたって取れるだろ? そう話すと、嬉しそうにうんうんと頷く。
「純度100%の大凶ウマ娘でしたが、それでも幸運は起こせるのですね……」
穏やかな顔つきでぬいぐるみをだきしめ、くるくるとその場で回った。
相当嬉しいようだ、先ほどとは雰囲気が違う。
「いや~、とっても気持ちが楽になりました! 開運グッズをたくさん持たなくてもいいと思うと!」
グッと親指を立てて見せてくる。
そういえばトレーナー室に封印してあるんだったか。
ゴールドシップとフクキタルに後でどうにかしてもらおう。
「今日は大安吉日になりました! このぬいぐるみは縁起ものですね!」
「お、フク。ぬいぐるみとったのか?」
「フクちゃん、すごい! クレーンゲームできるんだね!」
ゲームが終わったらしいゴールドシップとソーラーレイがこちらに歩いてきた。
フクキタルは今一番の幸運グッズですよ! と楽し気にみせつけている。
「はっ! でもこれは運命の人、トレーナーさんが近くにいたからでは……」
「あん? トレーナーは手伝ったのか?」
何もしてないよ。
「じゃあフクが取ったんだろ。やるじゃねーか!」
「オウ! フクキタル、可愛いぬいぐるみデスネ!」
ゴールドシップがにやりと笑ってぬいぐるみの頭をぺしぺし叩いていると、ガンシューティングを終わらせたタイキたちも合流した。
「えへへ、開運グッズです!」
「よかったわ、フクキタル。いつも変なグッズを持っていたから」
「変じゃないですよ~スズカさん!」
後日トレーナー室で開運グッズを見たら、プリンのケースとかアイスのあたり棒とかそんなものがたくさんあったので、スズカの言っていることはとても正しかった。
「それじゃあ、記念にプリ撮ろうよ」
「プリ? レイ、プリってなんデスカ?」
「なんだ、急にブリ食いたくなったのか? 近くに港はねーぞ」
「プリクラだと思うけど……」
「プリクラって写真撮るやつじゃないですか!? 魂抜けちゃいませんか!? ねぇ、聞いてくださいよ~!」
やいのやいのと盛り上がりながら、プリクラを撮りに向かっていく5人。
フクキタルは慌てているが、出かける前のような沈んだ雰囲気はなくなっていた。
少しだけ、いい方向に考え方を変えてあげられたみたいだ。
楽し気に遊ぶ彼女たちを見て、メイクデビューで成功させてあげよう。そう思うのだった。
ちょっぴり気持ちが晴れやかになるフクキタルでした。
次回はメイクデビューになります。
果たしてトレーニングとメンタル面の成長の結果は出るのでしょうか。