最上旭から見た川神のブラウニー
『最上旭先輩、ですよね。何か困ってるなら、手伝いましょうか?』
『――――え?』
最初に、ちょっとぶっきらぼうな声だな、と思ったのを覚えている。直後に、最上先輩、と呼ばれたことに気づいて色々吹き飛んでしまったけれど。
書店で本を1冊買う事に1回挑戦できる、栞やカバーなどが当たるくじ引き。レシートを見せるだけでいいのかと思っていたら、どうやら携帯でなんとかコードというものを読み取らなくてはいけなかったらしい。慣れない操作にもたついて、後ろのお客さんを苛つかせているところに声を掛けてくれたのが、彼だった。……学校の後輩、それも男の子に、官能小説を買っているところを見られるのは少し恥ずかしかったけれど。
もうすぐ日が暮れますし、家まで送りますよという彼に対し、車が迎えに来るからと答えると、じゃあそれまでお喋りでもしてましょう、ということになった。少し時間があったので、色々な話をする。彼の名前は衛宮士郎というらしい。彼が2-Fの生徒であること。(あんまりFらしくない普通の子だ、と思ってしまったのは失礼だったかもしれない)弓道部に所属していたけれど、今は退部していること。今日はアーサー王伝説に関する本を買いに来ていたこと――
口調は相変わらずぶっきらぼうなままだけど、それなりに紳士的だった。下心も見えない。そうなると、また気になってくるのは先程のこと。
『ねえ、どうして私だとわかったの?今まで、気づかれたことなんてなかったのだけれど』
そう問うと、彼は一瞬ちらりと私と視線を合わせて――
『最上先輩のそれ、多分スキルか何か使ってるんですよね。俺、心眼(真):B持ってるんで、多分そのせいだと思います』
なんて、よくわからない返事をしてくれた。
これが、彼と私のファーストコンタクト。全校生徒でたった1人だけ。彼だけが、私のことを知っているというのは、ちょっとくすぐったくて。けれどもなんだか心地良くて。秘密の友人となった私達の関係は、彼がちょっとした有名人だと知った今も続いていたりする。
「――み先輩。紅茶、どうぞ」
ふわり、と立った良い香りが鼻孔をくすぐる。半ば条件反射のようにカップを持ち上げて一口飲むと、じんわりと心と身体が暖かくなっていく。
「今日も美味しいわね。元々、紅茶を特別好んでいたわけではなかったのだけれど、最近はこの一杯がないと物足りなくなってしまったわ。責任、取ってくれないと困るわよ、衛宮君?」
くすくすと笑いながらそう言うと、評議会のメンバーはうんうん頷いている女子生徒と、嫉妬の視線を向ける男子生徒に分かれていた。いや、男子生徒の何人かも頷いている。これもある意味人徳かしら。当の本人はしかめっ面してるけれどもね。
「ねえ、今度九鬼の人に頼んで、従者の服を貸してもらわない?従者服で紅茶を淹れてくれないかしら」
私がそう言うと、女子生徒たちがきゃーっと歓声を上げて、衛宮君がますますしかめっ面になった。
「貸してくれないでしょうし、万が一貸してくれたとしてもやりません。そもそも俺、評議会メンバーじゃないですし」
「それはこうして紅茶を淹れてくれてる時点で今更じゃないかしら。なんなら、議長権限で臨時議長補佐に任命します。うん、それがいいわ」
「紅茶の為に職権乱用しないでください議長」
「少しくらいいいじゃない。〈川神のブラウニー〉の名が泣くわよ?」
「……紅茶、おかわり淹れてきます」
旗色が悪いと悟ったのか、そう言って一旦下がる衛宮君。従者服、お父様に頼めばどうにかならないだろうか。皆の前では無理でも、私の部屋で、と頼めば彼は着てくれるだろうか。そんな考えが浮かんでは消えていく。
――議長補佐にしたかったのは、貴方のことを個人的に欲しいと思っているからなのよ?
ふっと浮かんだその言葉は、今はまだ心の中に止めておくことにした。
最近まじ恋やD.CⅡ,Ⅲ辺りを(個人的に)超えるエロゲがなくてなーんかつまらない……こう、個人の好みにビビッと刺さるエロゲはないものか……