川神市、通常『変態の橋』の上にて、それは突然始まった。日中であるのに、不自然なほど人気がない。橋の中央で待つのは、中華風の服に身を包んだ黒髪の美女。それに向かっていくのは、川神学園の制服姿の赤髪の青年。字面だけ見ればロマンチックな光景だが、両者に甘い空気など一切なかった。あるのは、張り詰めた緊張感のみだ。
「――君が、衛宮士郎か。手合わせ願いたい」
「名乗りもせずにいきなりなご挨拶だな。それが中華風なのか?」
目的の青年は、年齢に似つかわしくない口調でそう返してきた。なるほど、評判通り胆力はあるらしい。
「すまない。私は林冲。梁山泊百八星が1人、豹子頭林冲だ」
「だろうな。大和経由で西から上がってきて武人狩りをしているとは聞いていたが……俺には狙う価値なんてないと思うぞ
?」
肩を竦める衛宮士郎。無防備なようでいて隙がない。正確には隙らしきものはあからさまにあるが、そこを突く気にはなれない。その年で、そういう手段をあっさりと取れるところが既に侮れない。内心での評価を一段上げておく。けれど、今日の目的はそうじゃない。
「謙遜はいい、歴戦の戦士のような風格だ。それに、今日は君を『狩る』ことじゃなくて『見定める』ことが目的なんだ」
「見定める?」
「そう――『M』なる人物の言う通り、衛宮士郎。汝に、地弧星湯隆の素質、有りや無しや!」
酷い怪我をさせるつもりはない。見極めたいのは鍛冶師としての素質だ。ただ、私は不器用だから――戦いで感じさせてもらう。なんの捻りもフェイントもない、正面からの真っ直ぐな突き。さあ、弓兵の彼はどうする?躱すか、あるいは無謀にも槍を取ろうとするか。だが、彼が採った行動はそのどちらでもなかった。
――ガキンッ!!
生身のそれとは明らかに異なる、金属同士がぶつかった鈍い衝撃音。黒と白で彩られ、対になった母国風の双剣が交差され、私の槍をしっかりと防いでいた。
「驚いた。君は弓兵じゃなかったのか?」
話しかけながら力を込める。こちらが若干押しつつも、なんとか拮抗している槍と双剣。膂力も中々のようだ。
「生憎と手癖が悪くてね。それに、弓兵とて時には剣を取ることもあろう。なに、そこらの剣士にひけはとらんさ」
……いつの間に口調が変わっていた。同時ににじみ出てくる、巌のような重圧感。傭兵としての経験と勘が告げている。彼は、相手にしたら厄介なタイプだ。タイプとはしては、あの女王蜂なんかが近いんだろう。
「なら――その言葉、確かめさせてもらおう」
――ギンッ!!ギャリギャリ、ガッ!!
晴天の下、金属と金属がぶつかり合う音が断続的に響く。初撃から既に5分。流石に槍兵と弓兵の周囲にはそれなりの数のギャラリーがいたが、皆遠巻きに見つめるだけで介入しようという者はいなかった。それどころか、警察等に通報する者もいない。
彼らとて川神市民だ、日常茶飯事の決闘騒ぎにはなれている。それでも尚動けなかったのは――2人の戦いが、今まで目撃したどれよりも、本物を感じさせるものだったからだ。命のやりとりという、本物を。
突く。突く突く突く。払ってまた突く。
幾度かの槍と剣の交差の後に、払った槍先が黒剣を弾き飛ばす。すかさずそこに追撃の突きを送るも、構え直された手には既に再び先程弾き飛ばしたはずの剣が収まっている。
「これで、28っ……いい加減しつこいっ!」
「しつこいのは君も同じだろう。いい加減諦めて帰ってくれないか?愛が重い女は嫌われるぞ」
「な、何が愛なんだっ!?」
思わず僅かに距離をとって乱れた呼吸を整える。落ち着け、落ち着くんだぞ林冲。
「それにしても……もしや、その剣は先程から弾き飛ばされるたびに作り直しているのか?」
私がそうこぼすと、衛宮士郎は感心したというように口笛を吹いた。
「ほう。初見の者は大体『剣を引き寄せている』と推測するものだがね。どうしてそう――いや、湯隆の素質がなどと言っていたな。何処の誰かは知らんが、Mとやらも余計なことをする」
頭の回転も速いらしい。本格的な見極めはまた次にするとしても、有能な人物なのは間違いなさそうだ。
「とりあえず、君を捕らえてMとやらの情報を喋ってもらうとするか」
い、意外と好戦的だ!?と、とりあえず、あんまり怪我はさせたくないけど武器より本体を狙って……あれ?構えが……手に現れたのは――私の槍!?
「言ったろう、手癖が悪いとな。そら、こんなのはどうだ?」
「っつ――!?」
正直、練度はそれほど高くない。槍も扱えるというだけで、使いこなせるというわけではないんだろう。それでも対処が遅れてしまったのは、迫ってくる槍が寸分違わず今私が持っているはずの槍で、その動きが私が積み上げてきた槍術にあまりにも似ていたからだ。
ぐちゃぐちゃに乱された思考を無理やり纏めつつ飛び退って大幅に距離を取る。よし、十分だ。このまま逃げ――
「――悪いが、私は『アーチャー』なんだ。そこは、私の距離だぞ?」
ぞわり、と肌が粟立つ。なんだあの、異様な『気』を放つ捻れた剣は。本能が全力で警告を発している。弓の腕がどうとか、気の大きさとかそういう問題じゃない。存在そのものの格が違うと見ただけでわかってしまう。
「悪いな、剣は飛ぶものだ!」
魔弾が放たれる。出し惜しみなんかしない、できない。全身の力と、目を総動員して衝撃に備える。
「――あ。ああああァァっぁああっ!!」
音速は超えていただろうか。腕の筋肉が壊れていくのを自覚しつつ、それでもなお全力で受け流す。なんとかしのいだ、と思ったところで。
「――
そんな響きを最後に耳にして、私の意識は途切れた。
勧誘の下準備&賞金首じゃないので全然本気出してない林冲を容赦なくぼこる回。
身体能力や肉体強度はそこそこ止まりなのに、音速を超える弾を撃ち出して『概念の強さ』という斜め上からの角度で容赦なくなぐっていく主人公……
源氏進軍!目標は――
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総大将!義経に進軍する!
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変態なお姉さんは好きですか?