ちなみに私は無印からだとまゆっちとワン子が。(マルギッテもある意味こっち?)S以降からの追加だと弁慶義経どごーんちゃん辺りが好きです。
「大丈夫だとは思うけど、もしまた調子が悪くなったら言ってくれ。見に来るから」
「あ、ありがとうございます!」
朝、軍師としての仕込みとか諸々の用事があったので京と一緒に(当たり前のように付いてきた)早めに登校すると、見知った顔がおそらく1年生の女子に何度も頭を下げられているシーンに遭遇した。向こうも俺たちに気づいたのか、表情が若干和らいだ。
「大和か。椎名も。おはよう、相変わらず仲良いんだな」
普段あまり見せない貴重な笑顔に、隣にいる後輩女子の瞳が潤んでいた。後輩にはやたらとモテるんだよな、士郎って。
「だってさ大和。結婚しよ?」
「お友達で。おはよう、士郎。……もしかして、昨日頼んだやつ?もう終わったのか?」
士郎には昨日の放課後にだらけ部の部室のエアコンの修理を頼んでいた。
「ああ、朝一番で終わらせた。ただ、電池の予備は持ってないから、そのうちリモコンの交換しておけよ。それで、折角工具持ってきてるんだからと思ってな。議長から聞いてた修理要望の出てた所を回ってたんだ」
それで華道部の部室の前で話してたのか。ここもエアコンか何かが壊れてて、学園に申請が出されていたんだろう。
衛宮士郎。2-F所属の俺たちのクラスメイト。今は1人暮らしをしているけど、ゲンさんやワン子と同じ孤児院の出身で、その縁で風間ファミリーとも小さい頃から遊んでいた。……今にして思えば、面倒を見られていた、の方が正しいんだろう。なんせ、小学生の頃から今のゲンさんより大人びた言動をする子どもだったし、実際色々な分野で頼りになった。暴走しがちな姉さんを言葉でしっかり諭して止めた時には感動したくらいだ。
人物評は纏めると、自己評価が極端に低いお人好し。気がつけばいつも何処かで誰かの手助けをしているという有様で、川神学園入学当初に無償で人助けをしまくった結果、学園の依頼の運営からまったがかかったというのは有名な話だ。学園長に説教されてからは、(渋々)ささやかな報酬を受け取るようになった。だから、俺も報酬はきっちり渡す。
「後で教室で報酬渡すよ。手に入れてくれたのはクマちゃんだけどね」
「熊か、ってことは食材か何かか。楽しみだな」
一応他の備品も見て回るという士郎にまた後でと言って別れる。さて、俺も色々準備しないと……
「はい、北海道から取り寄せた利尻昆布だよ。い~い出汁が出るんだ」
「利尻昆布か。これから暑くなるし、冷やし出汁茶漬けの出汁にでもするか」
士郎とクマちゃんが昆布を何に使うかで盛り上がっている。寄せ鍋もいいよねえ、なんて言ってるけど、流石にこれから夏になるのに鍋は暑いんじゃないか?
「冷たいお茶漬けかー。サッパリしてて美味しそう!でも、食べる前に出汁を取るために火使うんじゃ、結局暑くない?」
「そうでもないぞ。俺は時間あるときに作り置きして冷蔵庫で冷やしてる」
「「「「「ぐふっ……!!」」」」」
小笠原さん羽黒を含めて女子数人が胸を抑えてうずくまる。だ、男子に女子力で負けた……って呟いてる子がいた。まあ、士郎だし仕方ない。
「あー……まあ、一番出汁とか、その辺りは覚えておいても損はないかもな。今度、やり方書いて渡すよ」
「シロ君だし仕方ないわよー。昔からとーっても美味しいし、栄養も考えてるんだから!」
ワン子が我が事のようにエッヘンとささやかな胸を張る。ついでに士郎に寄っていって、おやつちょーだい?と目で訴えていた。士郎が苦笑いしながらクッキーらしきものを渡している。……士郎も、ワン子やゲンさんの前だと自然に笑うんだよな。
「ちなみに今日は何作ってきたの?」
「オートミールで作ったクッキー。1つ食べてみるか?」
有り難くいただく。荒っぽい麦と穏やかなはちみつの風味がして美味しかった。ワン子用のおやつも、ちゃんと栄養バランスを考慮して全部手作りしてるんだよな。
「流石は」「川神のブラウニー」「「だね」」
京と綺麗に声が重なる。いえーい、とハイタッチ。士郎はしかめっ面だ。
「お前らまでやめてくれよ……それだけ仲良いんだから、さっさと結婚しちまえ」
「大和、やっぱり結婚しよう?」
「お友達で」
「むぅ、手強い……だが私は諦めない女なんだっ!!」
「なあ、『一番出し』ってなんかエロくね?」
「何言ってるのさヨンパチ……」
2-Fは今日もいつも通りだった。
――クリスとまゆっちが加わった金曜集会。皆、キャップのお土産を広げながらワイワイしている、幸せな時間。俺としては、ここにゲンさんと士郎も加わってほしいんだけど。
「こらー、弟。姉が話しかけてるのにぼんやりしてー。なんだ、何考えてたんだ?まゆまゆの尻でも見てエロい妄想でもしてたのか?」
「はうあっ!?」
『まゆっちの尻はー!俺が守るー!』
一瞬で真っ赤になるまゆっちと、目つきが鋭くなるクリスと京。違うから!
「士郎のことだよ。普段、何してるのかなってふと思ってね」
「シロ坊か。まー確かに1人暮らししだしてからそこらへん謎だよなー」
一応納得はしてくれたらしい。京は別の意味で目が輝いてる気がするけど、気のせいだということにしておく。
「シロウ、とはこの前言っていた衛宮殿のことだな?どのような御仁なのだ?」
「わ、私も気になります!お友達になっていただけるでしょうか……?」
クリスとまゆっちも興味津々だ。皆真面目に考えるけれど、多分、同じこと思ってるんだろう。
「友達にはすぐなれると思うよ。どんな人かって言われると……」
そこで、他の皆の視線が自然とワン子に集まる。
「人助けして、修行して、人助けして、料理して、人助けして、人助けしてるような人ね!」
「人助けばっかりじゃねーか!?」
すかさず入るガクトのツッコミ。俺もそう思うけど、でもなあ。
「実際、いつもそんな感じだかんなー。俺、出かけてる時見かけるといっつも何かしら人助けしてるもんなー」
「正直、自分のことはいいのかって思っちゃうレベルだよね。そこらへんはしっかりしてるんだけど、それでも心配しちゃうくらいにさ」
キャップとモロが口々に同意する。姉さんも、あいつは昔からそういうやつだよなー、なんて小声で呟いていた。
「義の人だな!素晴らしいじゃないか!」
『パネェ……スーパーマンか何かかよーオイー』
義の人。スーパーマン。傍から見たら確かにそうだろう。本人は、正義の味方と呼んでくれっていうかもしれないけれど。でも、普通のお人好しなだけなら、俺もこんなに気にかけたりしない。モロは言葉の通り気づいているだろうし、ひょっとしたら姉さんもか。士郎が助けたい、手伝いたいと思っている人々の中に、士郎自身はこれっぽっちもはいっていないのだ。勿論、その自己犠牲の極みのような行動のおかげで救われる人もいる。榊原小雪が良い例だ。それでも。
士郎自身(正義の味方)にも幸せになってほしいと思う自分は、傲慢なんだろうか?
風間ファミリーにはその精神の歪さに気づいている人もいるよ、というお話。