川神のブラウニー   作:minmin

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一子ルートでずっとやってみたかった描写というかストーリー。これが一子にどういう影響をもたらすのか……


クッキーから見た衛宮士郎

 

 

 

 ――初めてその人間の話を聞いた時、本当にそんな人間がいるのかな、と思った。

 

 

 ――初めてその人間に会った時、なんだか無性に腹がたった。

 

 

 何をしていても、殆ど動かない表情。何を考えているのかわからないぼんやりとした空気と、光を感じない瞳。僕は、元々一子のお世話をするために送られたご奉仕ロボだ。だからファミリーの皆のお世話をするのは楽しいし、ファミリーの皆が嬉しいと僕も嬉しい。

 

 そんな感情を。人間が皆持っている大切な感情を、開発者の人たちが必死で頑張って僕に芽生えさせてくれた大切な感情を、自ら放り出して。まるで、アイツの方がご奉仕ロボットみたいだな、なんて言われてるその生き方に、なんだか無性に腹が立ったんだ。

 

 

 

 

 ――ある日、川神院。

 

 

「すいません、鉄心さん。無理を聞いてもらって」

 

 

 士郎が丁寧に頭を下げる。こういうところは昔から、大和と同じくらい律儀だ。

 

 

「フォッフォッフォ。気にせんでえーよ。クッキーも元気にしとるか?」

 

 

「うん、元気だよ!……フッ、ここに来ると血が騒いでしまうな。フンッ!フンッ!」

 

 

 第二形態に変形して素振りを開始する。フハハ、今日も絶好調!

 

 

「いや、クッキーは血はないだろ……まあいいけど。それじゃあ、今日は宜しくおねがいします」

 

 

「はいよ。士郎君も、もっと気軽に遊びに来てくれてえーんじゃよ?」

 

 

 そう言われたけれど、士郎は苦笑いしてる。

 

 

「俺は、一子と違って川神流じゃないですから。……ただ、パートナーとしてやれるだけのことはやります」

 

 

「一子、合格できるといいねえ」

 

 

「そうじゃの。儂等かて贔屓は一切できんが、一子に夢を叶えてほしい気持ちは皆同じじゃて。弟子たちを含めての」

 

 

 一子がこれから本格的に川神院の師範代を目指すことができるかどうかの試験。それは、川神武闘会――今年は、若獅子タッグトーナメントで優勝すること。タッグパートナーは自由。それを知らされた上で、一子は士郎をパートナーに選んだ。まずはお互いできることをやっていこうってことで、一子はルー師範代と特別修行。士郎は、川神院にあれこれ見学にしに来ている。

 

 

「義経や弁慶もおる。正直に言うて、優勝できる可能性は低いじゃろう。しかし、それでも優勝できるくらいじゃなければ師範代は務まらんし、周りも納得せんじゃろうしの」

 

 

「そう、ですね……」

 

 

 なんだかしんみりした雰囲気になる。こういう時こそ出番だ!第一形態に変形!

 

 

「ほら、早く行こう!僕楽しみにしてたんだ!」

 

 

 僕がわざと明るくそう言うと、2人は優しく笑ってくれた。

 

 

「それじゃあ、行こうかの」

 

 

 

 

 基礎修行。素手での修行。武器毎に別れてやる時間は、薙刀の修行。士郎は真剣に、ただでさえ鋭い目を更に鋭くして、鷹みたいな目で見つめていた。士郎の弓は私より凄い、って京がよく言うけれど、薙刀を使うって話は聞いたことがない。見学しているのは100%一子のためなんだろう。……変わったなあ、士郎。

 

 薙刀の稽古の時間が終わると、次は百代のところへ。家族や師範代だけが入れるエリアに行くと、中庭で百代が道着姿で型の稽古をしているところだった。

 

 

「セイッ!……おー、シロ坊。本当に来たんだな。あれ、クッキーも一緒なのか。珍しいなその組み合わせ」

 

 

「そりゃ来るさ。態々一子や大和に頼んでもらって、特別な許可も貰ったんだから」

 

 

「こんにちは、百代。僕はどっちかっていうとここじゃなくて士郎の見学だけどね」

 

 

 んー?と百代が首を傾げる。流石美少女、かわいいね!

 

 

「なんだ、クッキーは人間観察か?まあそれはいいけど、稽古の見学くらいに別にいつでも来てもいいだろ。なんか特別な許可がいるようなことあったか?」

 

 

「稽古じゃなくて……川神院の倉庫や資料室を見せてもらうんだよ。倉庫っていうかあそこの蔵だけど」

 

 

 士郎が少し離れた場所にある蔵を指差すと、百代がゲ、という顔をした。

 

 

「お前、あんな場所見学すんの?物好きだなー、まあいいけど。……士郎、ちょっとこっち来い」

 

 

 百代がシロ坊、じゃなくて士郎と呼ぶ。士郎が素直に近づくと、がっしりヘッドロックして――

 

 

「一子のこと、頼むな。残酷なこと言っておいて勝手だけどさ。折れないように、お前が支えてやってくれ。今のお前なら、大丈夫だろ?」

 

 

 驚くくらい優しい声でそう言った。士郎も一瞬驚いて、真剣に答える。

 

 

「……ああ、大丈夫さ。そのために来たんだしな」

 

 

「士郎は、やっぱり変わったねえ。前よりずっと、感情豊かになったよ。僕は、今の士郎の方が好きだな」

 

 

「そうか、そうなら嬉しいな」

 

 

 そう言って笑う士郎の顔は、本当に嬉しそうで。僕も嬉しくなった。

 

 

 

 

 

「注意事項はこんなところかの。後は自由に見てもらってかまわんぞい。秘伝書とか文化財とか、そいうのは別の場所にきちんと保存してあるしの。そこらへんは気にせんでも大丈夫じゃ。ま、なるべく丁寧に扱ってくれい」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

「満足したらまた声かけとくれい。それじゃあまた後での」

 

 

 お辞儀をしてお爺ちゃんの背中を見送って、士郎がほっと息を吐いた。士郎でも、あの人の前は緊張するらしい。

 

 

「それで、何を探すの?一子が使えるような奥義とかが書かれた本、とかはないんでしょ?」

 

 

 士郎の方に向き直ると、士郎は稽古を見学していた時みたいな鋭い目で――壁にかけられた、古めかしい薙刀を見つめていた。

 

 

「目的のものは、あれだよ。川神流の初代が使っていた薙刀だ」

 

 

 つかつかと近寄って、手袋をはめてからそっと薙刀を手に取る士郎。

 

 

「いかにも、って感じだねえ。でも、持ち出せないんでしょ。見ただけでどうするのさ?」

 

 

 士郎は薙刀を暫く眺めて、頷いたあと元通りに壁に戻して――こうするのさ、と呟いた。

 

 

「――投影、開始(トレース、オン)

 

 

 言葉と同時に、士郎の手から突然青白い光が発生する。次の瞬間。士郎の手には、()()()()()()()()()()()()()()()() ()が握られていた。

 

 

「え、ええ?」

 

 

 ロボットの僕だからわかる。サイズから、細かい傷まで、何から何まで全く同じだ。まるで、コピーしたみたいに。でも、驚きはそれだけじゃ終わらなかった。

 

 

「――うん、試してみるか」

 

 

 周りに当たらないように気をつけつつ、士郎が何かを確認するようにゆっくり薙刀を振るう。速度は全然違うけれど、その動きは間違いなくさっき見学したばかりのものと同じ動き。それどころか、士郎の方が綺麗にすら感じる。ど、どういうこと?

 

 

「再現には程遠い真似事だけど――まあ、一子の参考くらいにはなるだろ。帰ろうか、クッキー」

 

 

「う、うん……」

 

 

 何がなんだかわけがわからない。感情豊かになって、士郎のことをこれからわかっていけたらいいな、なんて思っていたけれど……ますますわからなくなってしまった。どういうことなの……

 

 

 

 




クッキー、「人間のふりをしたロボットから人間になった男」を観察して色々学ぼうとしたら大混乱したでござるの巻。
川神院には薙刀ぐらい残ってていいでしょ、というご都合主義(

源氏進軍!目標は――

  • 総大将!義経に進軍する!
  • ベン・ケーに決まってる!
  • 変態なお姉さんは好きですか?

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