ただまあ二次創作でヒロインにすると、基本的に男性に尽くす大和撫子(M)なせいで話が広がりにくいんだけどネ!
——私にとって、衛宮士郎という人は、なんともちぐはぐなお人だった。
見た目にそぐわない、老成した――そう、老成したと例えたくなるほどの、落ち着いた空気と貫禄。明らかに経験を積んだ、それも歴戦の、と付けたくなるほどの戦士だとわかる眼光と佇まい。好意的か否かの違いはあっても、忍足さんやマルギッテさんが衛宮さんをついつい『同類』として扱ってしまう気持ちも、少しは理解できてしまう。
かといって、衛宮さんがモモ先輩や学園長、ルー先生のような方々。先日立ち会った武道四天王、橘さんのような強者かと問われると違う、はずだ。全力を以て、真剣に立ち会えば押し切れる。私の目と経験はそう判断しているのに――頭の片隅で、本能が絶対に踏み込むなと警告を発している。
見た目も、中身も、実力も。その全てがちぐはぐな、不思議な人。それが、私にとっての衛宮さんという人だった。
——そして今、そんな私をより一層混乱させる光景が目の前に広がっている。
行為自体には何もおかしなところはない。2人の人間がいて、一方は手本を示し、一方はそれを見て模倣する。どんな武術でも共通の、ごく当たり前の鍛錬風景。おかしいのは、薙刀の指導を受けているのが一子さんで――手本を見せているのが、衛宮さんだということ。
「あの……キャップさん。衛宮さんは、川神流の門弟だったんでしょうか?」
日曜日の午後、キャップさんのお誘いでガクトさんと一緒に一子さんの修行を見学しに行くことに。私の淹れたお茶を3人で飲みつつ見学していたけれど……あまりにもおかしな光景に、ついキャップさんに尋ねてしまった。
「いんやー?ちょくちょく遊びには行ってたみたいだけど、弟子になったとか修行したとかいう話は聞いてねーぜ。弓だって、学園長が言うには『初めて会った時から教えることなんてほぼなかったわい』ってことだったしな。川神流に弓があるのかどーかは知らねーけどよ」
「そ、そうなんですか……」
返ってきたのはある意味予想通りの、でも色々とおかしい答え。どういうことなんでしょうか。
「俺様にも士郎の方がワン子に薙刀教えてるっつーのがおかしいってのはわかるけどよ。士郎が薙刀も上手かった、ってことじゃねーのか?ほら、3年の松永先輩だって、モモ先輩とやってた時は色々武器使ってたろ。あんな感じでよ」
今度はガクトさんから私に。それは、その通りです。でも……
「普通に考えれば、そうなんです。でも、あの衛宮さんの動きは……川神流の動きなんです」
「え、じゃあなに?士郎は、実は薙刀使ったらルー先生くらい強かったってこと?」
「いえ。衛宮さんも、あの動きを実践でそのまま使えはしないはずです。実際、今もゆっくり、ご自身の体の動きを確認しながら薙刀を運んでいますから。ただ、なんと言いますか……物凄く川神流の薙刀が上手い人の動きを完璧に覚えて、できる範囲でゆっくり再現してる、というような。上手く説明できずにすみません」
私が謝ると、キャップさんもガクトさんも気にすんな、と笑ってくれた。
「理屈はよくわかんねえけど、ワン子にとったらいいことなんだろ?……まゆっちは、ワン子と士郎が優勝できると思うか?」
「ええ、間違いなく。『本物の動きを見る』ということは、とても貴重な経験です。細かい足の動き、手首の角度。それらを知るだけでも、技の精度は大幅に違ってきます。実際、一子さんの動きは今も一振りごとに良くなっていってます。ただ、それでも優勝できるかというと……」
「難しい、か」
言い切れなかった私の言葉を、ガクトさんがとても寂しそうな声で続けた。
「はい……。ルー先生のような方の強さを、よく『壁を越えた強さ』と言いますが、参加を決めている義経さんたちは間違いなくその壁を越えているか、壁の上にいるような実力の方たちです。先ほどお話にでた松永先輩も。それを考えると。勿論、組み合わせの運やタッグマッチであることを考えると、絶対にないとは言い切れません」
『そもそも、どんな勝負にも絶対はねーんだぜー』
「なるほどなあ……」
暫く皆さん無言で鍛錬を見守る。少しばかりの沈黙を破ったのは、今度もキャップさんだった。
「士郎はどうなんだ?まゆっちから見て、士郎はその、義経や弁慶たちと戦えるくらい強かったりするのか?」
これも、予想していた問。けれど……
「……わかりません」
「「わからない?」」
私の返事が意外だったのか、2人の声がピッタリ重なる。けれど、私には本当にわからない。
「はい。ある一定以上の強さに達するためには、任意での気の発動と、気の大きさが絶対に必要です。意識して肉体や武器を強化すること。そして気の大きさは、その強化の度合いに直結しますから」
「ああ、京がたまーに本気出すときやってるよな!矢に気を込めるってやつ!」
「確かに……ベンチプレス190の俺様より、モモ先輩の方がとんでもねーパワーしてるもんなあ」
お2人とも強者を間近で長年見られていたせいか納得するのが早い。
「はい、その通りです。衛宮さんは気の発動はできていても、その大きさはそれなりに見えます。少なくとも、強さの壁を越えているようには見えません。ですが……『手札が見えない』、『何をしてくるかわからない』という点で、衛宮さんほど読めない方は初めてです。松永先輩に似ていますね」
「ふーん、そんなもんかねー……じゃあさ、ここで戦ってみたらわかるんじゃね?」
え?……えぇ!?
「ほら、ちょうど一旦休憩みたいだしよ。おーい士郎―!」
「そ、そそそそそそんなことを急に仰られましてもですね私にはまだハードルが高すぎるというかくぐるしかないのではというか兎に角ちょっと待ってくださいキャップさん」
「ダイジョブダイジョブ!まゆっちは後輩なんだし、士郎ももう同じファミリーの仲間なんだし、胸を貸してくださいって遠慮せずに言えばいいんだよ!」
いえ、ガクトさんそういうことではなくてですね!まだ衛宮さんとは知り合って間もないというか、島津寮の方でもないので接点も少ないと言いますか!
「まゆっちも士郎と稽古してみたいってさー!」
はうぁっ!?そんな言い方をしたら一子さんが……ああぁ一子さんのお顔がー!
……どうしてこうなったんでしょう。
「お、おーい黛。大丈夫か?顔が怖いぞ?」
私の正面、少し離れた場所に心配そうな顔で私を見ている衛宮さん。その横で、ちょっと不機嫌そうな顔の一子さん。すみません、お邪魔するつもりは……
『落ち着け―まゆっちー!KOOLになれー!』
「あー、色々テンパってるなこりゃ。それじゃあ……こんなのはどうだ?」
————え?
衛宮さんの言葉と同時にいつの間にかその手に現れたものに、一瞬思考が真っ白になる。だってそれは、その刀は。父上が、私に特別に誂えてくれた、私の刀だ。
どこからどう見ても、私が今握っている刀と同じもの。信じられないことに、一番手に馴染んで、一番この刀を理解している私でさえ、同じものだと思ってしまうほど、同じもの。それだけでも信じられないのに――
「その、構えは――」
付け焼刃じゃないことが見ただけでわかる。わかってしまう。衛宮さんの構え、あの佇まい。あれは、黛流だ。
表情が抜け落ちて、体が自然と構えを取っていく。同じ構え。そして、同時に動き出す。示し合わせたようにお互い一の型から。同じ軌道を、同じ刀が対称に描いていく。
……ああ、わかっていた。これは、間違いなく黛の剣だ。いや、黛の剣なんてものじゃない。これは、これは――私の剣だ。
剣戟の音が加速していく。演舞、型と呼ぶにはあまりに実践的な、実戦と呼ぶにはあまりに綺麗すぎる剣の軌跡が積み重なっていく。一太刀毎に、私の剣が研ぎ澄まされ、修正されていく。
基本の全ての型が終わった時、私は自然と頭を下げていた。
「——ありがとう、ございました」
「こちらこそ。役に立てたのなら嬉しい」
とても優しい声でそう言われて、思わず顔がほころんでしまって。
「も、勿論です!また是非————ア」
そこまで言ったところで、物凄く悲しい顔をしている一子さんが目に入ってしまった。
「さ、さささささ差し出がましいことを!し、失礼しましたあぁぁぁぁ!」
一子さんの顔を見ていられなくなって、お辞儀をして慌てて立ち去る。
「……なんでさ」
衛宮さんの呟きが、やたら大きく聞こえた。本当に、ごめんなさい!……ハッ!!お2人とも、金曜集会で集まるんでした。勢いで逃げてしまいましたけど、ど、どうしましょう……
黛流パクられるの巻。まあ素の身体能力の差でそのうち圧し負けたりするんですけどね。
衛宮士郎二次創作あるある「士郎と~が~」って打とうとすると「素人~が~」ってなっちゃう(
源氏進軍!目標は――
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総大将!義経に進軍する!
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ベン・ケーに決まってる!
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変態なお姉さんは好きですか?