ちなみに私は無印からなら一子とまゆっちが。
Sからならマルギッテが。Aからなら弁慶義経李さんが好きです。
初めてその男を知った時は『野には我と同年代でそれなりの人材がいるものだな』と思った。
その男の自己評価を知った時は『難儀な男もいるものだ。民の上に立つ者として導いてやらねば』と思った。
その男を一子殿が慕っていると、それを男が自覚していると知った時は――ふざけるな、と思った。
「我が事ながら、酷い言われようだな。なんだか、九鬼英雄らしくない気もするが」
「ふん。撤回するつもりはないぞ」
決闘の翌日の昼休み。屋上でその男と会話をしていた。負けはしたが、心は自分でも驚くほどに凪いでいた。姉上の言う通り、時には愚直にぶつかってみることも必要だということか。
「貴様の事情は知らんし、我が踏み込むべきことではないのかしれん。が、これだけは言っておく。極端な自己否定は、貴様だけでなく貴様の周囲の人物もまた否定することだと心得ておけ」
「自己否定、か。否定するような自己が、そもそも俺にはあるのかね。だって『俺』は――『衛宮士郎』じゃないんだから」
「……なんだと?」
どういうことだ、と問おうとして、報告書にあったある記述を思い出した。
「確か貴様は、火災以前の記憶を失ったのだったか」
「ああ。まあ、そんなところだ」
我と視線を合わせようとしないまま、空を見つめたまま衛宮士郎が続ける。
「ぼんやりとした映像が浮かぶこともある。情報を参照することもできる。培った経験から得た技術を扱うことも。でもそれはあくまで『記録』であって、実感の伴う『記憶』じゃないんだよ」
こぼれ落ちたモノを悼むかのように。もうこれ以上失わないようにと。男が右手を強く握りしめた。
「『衛宮士郎』という他人が書いた日記を読んでるようなもんだ。弓も、剣も、何もかも。この体でさえ、頭の天辺から足の先まで『俺』のものは1つもない。『俺』はある日突然『衛宮士郎』の体に入ったニセモノで、マガイモノで――誇れるものなんか、何1つないんだよ」
――ああ、いかん。
「……mれ」
「――なんだって?」
敗者が勝者に声を荒げることほど無様なものはない。しかし、抑えきれん!
「黙れと言ったのだこの大馬鹿者!!!!」
突然の怒気に、衛宮士郎が面食らったように押し黙る。
「貴様の心情を理解できたとは言い難い。いや、真に共感できる者なぞ世界に1人もおらぬのかもしれぬ。だが敢えて言おう。貴様は、一子殿が人の能力だけを見ているなどと思うのか!?」
詰め寄って襟を掴む。九鬼としてあるまじき行いだが、我慢ができなかった。
「いや、そうじゃないが。人助けのことなら、あれは『衛宮士郎』ならそうするだろうってことをやってるだけだ。代償行為みたいなもんで――」
「だとしても!!そうすると決めたのは、貴様の意思であろうが!?その想いを、他ならぬ貴様が否定するのか!?」
「――――」
暫く、お互い黙ったまま立ち尽くす。一瞬とも、永遠とも思える静寂の後、衛宮士郎がポツリと呟いた。
「『決して、間違いなんかじゃないんだから――!』か。そんな簡単なことを、永い間忘れてたみたいだ。……ありがとう、英雄」
じっとその顔を見定める。今まで全く顔を合わせようとしなかったが、今度はしっかりと見つめ返してきた。
「一子殿を貶めるような発言は、今後許さんぞ」
「ああ、わかった。これから、真剣で生きてみるよ」
……ふん。どうやら、心配はなさそうだ。襟を掴んでいた手を放し、踵を返す。
「帰るぞ、あずみ!」
「はい!……あの、英雄様。よろしかったのですか?」
よろしかったかと問われれば、勿論良くはない。しかし――
「一子殿が見込んだ男が、あのままでよいわけがなかろうが」
――そして幾らかの時が過ぎ。
川神学園と天神館との学年別集団決闘において、義経たち源氏クローンが戦闘開始直後に登場した未来。
「オイオイオイ義経だってよ!テンション上がってきたぜヒャッホウ!」
「自分知ってるぞ。源平合戦の英雄だな!」
「つってもアレ女じゃなかったか?」
「うん、綺麗な髪してたね!」
「そだね。襲名制とかなのかな」
「シロ君?どうしたの?」
「ああ、いや。熟、英雄に縁があるもんだな、って思ってな。……大和」
「士郎?」
「予定変更だ。『アーチャー』として、俺も本気でやる」
英雄とは、過去の偉人のみを指す言葉ではない。刮目せよ。今、錬鉄の英雄が動き出す。
英雄はやっぱりかっこいいな!