川神のブラウニー   作:minmin

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今回のあらすじ:弁慶、餌付けされる


大まかなプロットは考えてますが、基本ノリと勢いで書き始めたので細かい設定の齟齬が気になってしまう方はブラウザバック推奨でお願いします。


武蔵坊弁慶から見た川神のブラウニー

 

 

 直江大和のおかげで与一もなんとか出席し、無事に始まった私たち源氏クローンの歓迎会。かなり大掛かりに開催してくれて、相応に盛り上がっていた。主も与一も楽しそうだ。

 

 私たちの歓迎会なんだから、固まって行動するのはよくない、ということで皆ばらけてパーティーを楽しんでいる。主はずっと人の輪と会話の中心にいるし、不安だった与一もそれなりに上手く馴染めているみたいだった。私は……川神水と、美味しいツマミまで用意してくれてるなら文句なんてあろうはずもない。また唐揚げをお1つパクリといただく。そこに川神水をグイッと。

 

 

「ん……美味し。下味がしっかり馴染んでるね」

 

 

 一流の、とか。極上の、とか。そういう感じじゃない。家庭的な味なんだけれど、丁寧で美味しい味。ホッとするような味だ。なんだか、島の母さんの作ってくれた料理を思い出してしまった。

 

 

「こっちの肉も旨いぜー!食ってみろよ弁慶!」

 

 

 風間翔一が勧めてくれた肉、ローストビーフを食べてみる。うわー、これも美味しい。わさびを横に付けてくれてるのがまた嬉しい。川神水に合う!!

 

 ほかの料理は何があるかな、っと見渡してみる。レタスで一口サイズに包まれたサラダ。卵焼きに、ウインナー。あっちは魚介と、チーズと、野菜と。3種類の……カナッペっていうんだっけ。栄養バランスも、食べやすさも。冷めても美味しいところまでキチンと考えられてる。凄いな。

 

 

「んー!!どれもこれも全部美味しいねえ」

 

 

「そうだろそうだろ!!なんてったって今日は料理部に、クマちゃんとまゆっちと士郎まで手伝ってくれてるからな!」

 

 

 クマちゃん、とまゆっち、っていうのはあだ名だろうけど。士郎、っていう名前には聞き覚えがあった。

 

 

「その『士郎』って、衛宮士郎のこと?弓矢使ってた、東西交流戦のMVPの」

 

 

「そーそー。アイツ、昔から料理も得意なんだよ」

 

 

 あっさりと肯定されてしまった。

 

 我ながら理不尽だとわかってはいるけれど。正直、衛宮士郎という男にはあまり良い感情は抱けていない。主の見せ場は取られちゃうし。与一の影は薄くなるし。いやでも、何か私にツマミでも作ってくれたら許しちゃうかも。これだけ美味しいんだし。

 

 

 なんてことを考えてると、しっかしうめーなー、オーブンか?オーブンなのか?なんて風間翔一がぶつぶつ言っている背後から、なんと件の本人が何かを抱えて現れた。

 

 

「使ったのはフライパンだけだよ。弱火、余熱でじっくりと火を通すこと。肉をしっかり休ませること。この2つさえ気を付ければ、家庭でも同じように作れるさ。っと悪い、場所を空けてくれ」

 

 

 そう言うと、私の目の前のテーブルにカセットコンロと鍋を置く。うん、鍋だ。1人用の水の中に昆布が浸ってる。一旦引っ込んで、追加で持ってきたのは……貝の刺身?

 

 

「……よし。弁慶、これは俺からの個人的な贈り物だ。義経や与一にはまた別の物を用意したんだが、お前はこっちの方が喜ぶと思ってさ」

 

 

 衛宮がカセットコンロの火を点けると、嗅ぎなれた香りがふわりと立ち上がった。これ、もしかして……私の表情に気づいたのか、衛宮が言う。

 

 

「そう、お前が飲んでいるのと同じ銘柄の川神水をたっぷりいれてある。これでこの貝をしゃぶしゃぶにして食べてくれ。ホタテと、牡蠣と、みる貝とつぶ貝。ポン酢醤油と、ネギともみじおろしを用意した。〆は下茹でしたそうめんを一口ずつ、貝の出汁が出た後に潜らせるといい。ポン酢もいいし、塩とすだちもお勧めだ」

 

 

 え、なに。ここ天国?私、いつの間にか天国に来ちゃった?思わずがばっと抱き着いてしまった。

 

 

「犬とお呼びください士郎様~♪」

 

 

 我ながら単純だと思うけど、うん。これは仕方ない。仕方ないったら仕方ない。

 

 

「お、おい弁慶」

 

 

 あら、モテそうな感じだったけど、意外と慣れてない?

 

 

「あー、ちょっと何してるのよ!?士郎の犬ポジションは私よ!!ガルルルル」

 

 

「僕だっているんだぞー。ウェイウェイウェーイ!」

 

 

 鍋がいい感じになるまで引っ付いて楽しんでると、川神一子と榊原小雪に引きはがされてしまった……ちょっと残念、かな?

 

 

 

 

 歓迎会が大成功に終わって、帰り道。主と与一に渡したいものがあるからと、後から追いかけてきた士郎と一緒に帰る。片づけを手伝って、少し待ってから出発したから、もうすっかり夜だ。紋白主催の歓迎会だし、今日くらいは九鬼の人も許してくれるだろうけど。

 

 海底トンネルに入る前。海沿いの開けた場所で、ここでいいかと士郎が背中に背負っていた大きな荷物を降ろす。武器だということだったから、広げても問題ない、あまり人に見られないここまで待っていたんだろう。

 

 

「まずは与一。俺が作った弓だ。気に入らなかったら、インテリアとして部屋にでも飾るか、死蔵してくれてもかまわない」

 

 

「弓か……ここで開けると片づけが面倒そうだな。部屋でじっくり見させてもらうか」

 

 

 弓兵同士通じるものがあるんだろうか。士郎は気にした様子もなく頷いていた。まあ、与一に弓や矢は予想通りといえば予想通り。じゃあ主には……?

 

 主に目をやると、期待に満ちた顔でソワソワと待っていた。そしてハッとして元に戻る。んでまたソワソワする。楽しみだなあ、あ、でもあからさまに期待しちゃ駄目だ!でも楽しみだなあ、とかそんな感じ。あー、今日も主が可愛くて川神水が旨い!

 

 

「義経には、勿論刀だ」

 

 

 あら、本当に刀?ただ、今度は気に入らなかったら、とかは言わなかった。

 

 

「ありがとう衛宮君!そ、その……開けてみてもいいだろうか」

 

 

「勿論。『義経の刀』だからな」

 

 

 士郎の言葉を受けて、全身からわくわくした空気を醸し出しながら主が包みを開けていく。やけに古めかしい装飾の鞘を取り出し、そこから主が抜いたのは――まさしく、主の刀だった。

 

 主が佩いている『薄緑』によく似ている。似ているが、どこか違う。それなのに――主にとても、とてもよく似合っていた。まるで、主の手にあることが当然だ、とでもいうように。

 

 

「わ、わああぁぁ……!!え、衛宮君!!少し、振るってみてもいいだろうか!?」

 

 

「ああ、義経の武、魅せてくれ」

 

 

「承知した!!」

 

 

 言うが早いが、主が跳び上がる。そして――本当に、美しいものを見た。

 

 

 刀を振う度に、主の手に馴染んでいく。体捌きが、技が、ただの一閃が。恐ろしいほどに深化し、進化していく。まるで長い間苦楽を共にした相棒のように、主は士郎が渡した刀と一心同体になっていた。

 

私も、与一も、声を失っていた。いや、声を出すことすら無粋に思えた。……そんな感動的な時間が終わる。主が残心を解くと、パチパチパチ、と拍手の音がした。

 

 

「凄いなあ。やっぱり英雄だよ、義経は。俺も、創った甲斐がある」

 

 

 ――ちょっと待て。今、コイツはなんて言った?

 

 

「衛宮君が、創った……?こんな、素晴らしい刀を……」

 

 

「はあ!?弓は兎も角、刀まで創ったってのか!?」

 

 

 与一が信じられないといった様子で叫ぶ。無理もない、私も同じ思いだ。

 

 

「そうだね。言っちゃ悪いけど、この現代で、士郎みたいな、ハッキリ言って若造があれだけの刀を創れるとは思えない」

 

 

 今まで黙して見ていた私が言うと、士郎はその通りだというように頷いた。

 

 

「まあ、そこは深く聞かないでくれると助かる。ただ……一から創り上げたわけじゃないんだ。俺は模倣しただけ。贋作なんだよ、その刀は」

 

 

「贋作……これが……?」

 

 

 主が心底怪訝そうに首を傾げる。つい先ほどまで、あれだけ夢中になっていた刀だからこそ、信じられないんだろう。

 

 

「ああ。源義経――いや、牛若丸の佩刀、薄緑。その贋作さ」

 

 

 ……ひょっとして、私たちはとんでもない男と関わってしまったんだろうか。でもまあ。主が嬉しそうだからいっか。それに。退屈もしなさそうだ。そんな風に半ば現実逃避しながら、川神水をぐびっとやることにした。

 

 

 




fate基準の薄緑(投影品)を渡したら義経強化されちゃったでござる。
あともうちっとだけ共通ルートやったら分岐アンケートでも取ってみましょうかね

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