虹を繋いで   作:うめ茶漬け

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13 伝えたい思いはいつだって

『―――普通科二年中川菜々さん、優木せつ菜さん、至急西棟屋上まで来てください』

 

 軽快な呼び出しチャイムの後、スピーカーから聞こえる歩夢の声。

 その声に気を引き締めるように大きく溜め息を吐き出し、呼吸を整える。

 

 あれから翌日の放課後―――時間的に生徒会の会議が終わる頃か。

 

 校内放送で二人を呼び出した場所である西棟の屋上、そこに俺たちはいた。

 

「侑先輩と歩夢先輩、大丈夫だったみたいですね」

「当然だよ!なんたって二人にはかすみん特製コッペパンを渡してあるんだから!」

 

 しずくがそう言いかすみが答える。

 西棟の屋上には俺とこの二人の他に、エマ先輩と彼方先輩が先に集まっていた。

 

「コウくんはあの二人と幼馴染なんだよね」

「ええ、こんな俺には勿体ないぐらい頼りになる二人ですよ」

 

 こっちの都合で勝手に腐って意図的に距離を取っていたのに、今でも二人は俺なんかの為に力を貸してくれる、本当に俺は幼馴染に恵まれた。

 そんなことを考えていると、ぬっと近寄ってきた彼方先輩がおもむろに両手で俺の顔を挟み込み、眉をひそめた。

 

こんな(・・・)禁止っ、コウくんだって彼方ちゃんの自慢の後輩なんだからね」

「そうだよ、次に自分を貶めるようなこといったら怒るからね」

 

 そう話す彼方先輩の後に続くように、口を尖らせぷんぷんと怒った表情を見せるエマ先輩。

 俺を思って伝えてくれた言葉。どうやら俺は先輩にも恵まれているみたいだ。

 

「コウ先輩はこんなに可愛いかすみんお墨付きの先輩なんですよ!だからもっと自分に自信を持ってくださいっ!」

「虹先輩はいつも私たちに優しくて本当に頼りになる素敵な先輩なんですから、自分を信じることがまだ難しくても私たちの言葉に嘘はないので!」

 

 そう励ましてくれるかすみとしずく。後輩も俺のことを思ってくれている。

 ここ最近の癖で思わず口から出てしまったけど、彼女たちを不安にさせてしまったのなら、これからは少し言葉に気を付けよう。

 

「それに頼りなかったのは私たちの方だよ。いつもコウくんに頼ってばかりだったって分かってた筈なのに、こうやってまたコウくんに頼ってる」

 

 影を落としそう口にするエマ先輩。

 

「あれから皆が頑張ってくれたから俺は今ここにいて。皆が思いを伝えてくれたからもう一度せつ菜―――菜々と話そうと思えたんです」

 

 同好会の部員でもなくなった俺との関係を大切に思ってくれる子がいて。

 廃部のことで自分を貶めていた俺を怒ってくれた子がいて、泣いてくれた子がいて、叱ってくれた子がいて、教えてくれた子がいて、信じてくれた子がいたから。

 

 だから俺は自分のやってきたこと、そして自分自身を信じられたんだ。

 彼女ともう一度向き合おうとも思えたんだ、これが頼りになると言わず何という。

 

「エマ先輩も彼方先輩も、かすみもしずくも俺の最高に可愛い自慢の先輩と後輩ですよ。だからもっと胸張って下さい」

 

 俺がそう言うと呆気を取られたように驚いた四人。あ、あれ俺何か間違ったことを言ったかな?

 四人は互いに目を合わせ小さく笑い、少し赤みがかった頬のまま嬉しそうな表情を見せてくれた。

 

「コウくんの自慢の先輩かあ、嬉しいな」

「うんうん、今の台詞後で録音させてくれないかなあ、毎日聞きたいな」

「も、もうっコウ先輩ったら、かすみんのこと好き過ぎじゃないですか~♡」

「で、でもこう面と向かって言われると嬉し恥ずかしいですね……」

 

 な、なんか変な空気になってる?……まあ皆可愛いからいいか(思考停止)

 

「最後にもう一度確認するんですけど、俺は菜々にスクールアイドル同好会に戻ってきて欲しい。だからこの後説得してみようと思うんですが、皆もそれでいいですか?」

 

 菜々を呼び出す放送から数分が経ち、彼女と向き合う時間は刻一刻と近づいてきている、呑気に話してばかりもいられない。だからこそ今ここで改めて全員の総意を聞く。

 

「……最初、この話をした時ね。果林ちゃん言ってたの、部員も5人以上いて同好会もすぐに発足できる状態なら問題ないでしょって、せつ菜ちゃん本人もやめるって言ってるんだから、無理に引き留める必要ないんじゃないかって」

 

 エマ先輩は悲し気な表情でそう口を開く。

 

 確かにスクールアイドル活動を行う為に優木せつ菜の存在は必要不可欠ではない。ただ部員を集めて同好会を再発足させればいい。

 本人のことだって結局、彼女のやる気次第なのだ。至極当然で当たり前のことを言っている。

 

 だけど―――エマ先輩はそう言うと、その真っ直ぐでグリーンサファイアの宝石のような綺麗な瞳でこちらを見つめ、自らの思いを紡ぐ。

 

「せつ菜ちゃんすっごく素敵なスクールアイドルだし、私はまた皆で一緒にスクールアイドルがやりたいよ!」

 

 強く熱く、自分の思いを叫ぶエマ先輩。

 そんな彼女の思いに繋げるようにアメジストの瞳とブルーサファイアの瞳に煌めく炎が揺らいだ。

 

「彼方ちゃんもエマちゃんと同じ気持ち、虹ヶ咲のスクールアイドル同好会にせつ菜ちゃんは必要だよ!」

「お披露目ライブは流れてしまいましたけど、皆でステージに立ちたいと思って練習してきたんです!せつ菜さん抜きなんてありえません!」

 

 彼方先輩としずく。それぞれがそれぞれの言葉でせつ菜は必要なのだと自分たちの思いを真っ直ぐに叫んだ。

 

「―――かすみんもそう思います」

 

 そして最後の一人、かすみはそのガーネットの瞳に眩い輝きを宿し、前を向く。

 

「せつ菜先輩は絶対に必要です!確かに厳しすぎたところもありましたけど、今はちょっとだけ気持ちが分かる気がするんです」

 

 かすみが歩夢の一番最初の自己紹介動画でやってしまったこと。

 

 自分の中の“可愛い”を他人に当てはめ、歩夢にその理想像を押し付けてしまったこと。

 それは自分の“大好き”を他人に求めすれ違ったせつ菜と同じことだったのだ。

 

「前の繰り返しになるのは嫌ですけど―――きっと、そうじゃないやり方もある筈で。それを見つけるにはかすみんと全然違うせつ菜先輩がいてくれないとダメなんだと思うんです!」

 

 彼女はそれを悔やみ悩んでいた。

 今でもどうしたら良いのか、その答えは誰も分からず仕舞いだ。

 

 だけど今、彼女はその“可愛い”も“大好き”も一緒にいられる場所を探している。

 そしてそこにはせつ菜も必要なのだと叫んだ。

 

 彼女たちは自分の思いを言葉にして口にした―――だから俺がすることはその思いを叶えてあげること。彼女たち全員が一緒にいられる場所を取り戻すこと。

 

 何が出来るか分からねえ、だけどきっと何かは出来る。それだけ分かれば十分だ。

 

「―――皆、ありがとう」

 

 深く深く頭を下げる。

 

 なあ菜々、俺たちはこんなにも素敵で優しい先輩と後輩たちに必要とされているんだぞ。幸せもんだよ、恵まれてるよ本当に。

 

「ありがとうはこっちの方だよコウくんっ」

「先輩は本当に優しいんですから、それが先輩の素敵なところですけど」

「まあかすみんの先輩なんだから当然だけどね!」

 

 俺たちのわがままに巻き込んでしまった。彼女たちの居場所をグチャグチャにしてしまった。

 だからもう彼女たちと関わらない方がいいのだ、そう思っていた。

 

 だけど彼女たちはそれでも俺たちと一緒にいたいのだと、そう言ってくれている。だからこそどれだけ感謝してもしきれないのだ。

 

「顔を上げて」「大丈夫ですよ」そんな優しい言葉に促され顔を上げる。

 

 もうそろそろ侑と歩夢も戻ってくる頃合いだろう。

 それを察してか俺を除いた四人は屋上にある建物の奥の方へと移動を始める。

 

 その背中を見送り、侑と歩夢の到着を待とうと思っていたのだが、不意にエマ先輩が振り返って、こちらへ向かってきた。

 

 どうしたのだろう?何か言い忘れたことでもあったのだろうか

 そんな呑気なことを考えた次の瞬間―――。

 

「エマ先ぱ―――」

 

 彼女はそのまま俺の身体を抱き締め、こちらの頭を抱え自分の胸元へと抱き寄せた。

 

「「ええええええええええええ―――!!!」」

「わあ、エマちゃん大胆~」

 

 柔らかい感触と暗くなる視界の中で聞こえてきたかすみとしずくの驚き声と、のんびりとした彼方先輩の声。

 俺にも一体何が起こっているのか分からなかったが、抱き寄せたエマ先輩が発した言葉だけはハッキリと聞こえてきた。

 

「―――Grazie(ありがとう)Ti voglio bene(大好きだよ)

 

 エマ先輩は一言そう言うと、すぐに身体を離して微笑む。

 

 彼女の故郷の言葉だろうか。どういう意味かまでは分からなかったが、その微笑みからするにきっと他の皆と同じように感謝の言葉とかだろう。

 

 そのまま何食わぬ顔で三人の元へ戻っていったエマ先輩。

 戻っていく後ろ姿にしずくとかすみと声をかけているみたいだが。何を話しているかまでは分からなかった。

 

 ……気持ちは嬉しいが、言葉だけで良かったのに。

 

 生まれてこの方、彼女が出来たことのない俺にとってはあの行動は毒だ。

 心臓はバクバク鳴ってて、身体は彼女の柔らかい感触と石鹸の良い匂いを覚えてしまっている。

 短時間で良かった……長時間なら生理現象で色々と危なかったかもしれん。

 

 身体に溜まった熱を吐き出すように大きく息を吸い、大きく息を吐き出す。

 

 こんなところ、あいつらに見られでもしたら―――。

 

「―――コウ、気合十分だね!」

 

「―――うわっちょちょちょーーーい!!!」

 

 横から突如として聞こえてきた声に思わず驚く。

 そしてそのまま横を向いた先、こちらを見つめる侑と歩夢の姿。

 

 そのリアクションに二人は一瞬ポカンとした表情を見せるのだが、次の瞬間遅れてきたように二人は笑い出した。

 

「あっはははははは!!ちょちょちょーいって、ちょちょ!!い、今時芸人さんでもそんなリアクションとらっ…あっはははははははは!!し、しかもどうしたの今のこ、声あっはははははははは!!!」

 

「ゆ、侑ちゃん……だ、ダメだよ…わ、笑っちゃ…ふふふ……脅かしたのは私た……っ」

 

 ゲラゲラと笑い出した侑と口元を抑え肩を震わせ笑う歩夢。

 どちらかと言うと歩夢さんの方が傷付きますね、はい。

 

「ぐ、ぐぬぬ……お、お前らぁ…!」

 

「ご、ご、ごめんコウちょちょちょい……あっはっははは!!!!」

「やめろ高咲ィ!!!!!」

 

 相変わらずゲラゲラと笑う侑に「ま、まさかあっちの方には聞こえてないよな?」なんてことを考えて振り返ってみると、向こうに隠れる四人は顔を背け肩を震わせていた。

 意図してない笑いなんだから公開処刑止めてけろ~。

 

「あっはは……ご、ごめんねコウ、ほ、放送終わったよ」

 

 ひとしきり笑い終わった後、涙を拭いながらそう言い息を整える侑。

 笑いの基準が赤ちゃんレベルなのは変わってねえんだなお前。

 

「お、おうありがとう」

「コウくんもせつ菜ちゃんと話すことは決まった?」

 

 歩夢も笑いが収まったのか、いつもと変わらない優しい表情でそう問いかける。

 

 せつ菜と話すこと―――俺が彼女に伝えなくちゃいけないこと。

 

「皆の前ではカッコつけてたけど、結局菜々に何を話せばいいんだろうな……」

 

 改まって考えてみると結局俺は菜々に何を伝えればいいのか分かっていない。

 何かは出来ると言った。でも言葉は見つからず、答えは分からず仕舞い。まあ俗にいうアドリブ任せというやつだ。

 

 思わず弱音も出てきてしまうが、そんな俺に二人が見せたのは目を真ん丸くして驚いた表情。俺にはその表情の意図が分からず思わず首を傾げる。

 

「ねえコウくん、一つ聞いていい?」

 

 そんな中、歩夢が言葉を切り出した。

 その問いかけを断る理由もなかったのでそのまま頷くと、彼女は少し言葉をためらった後、胸の前で手を合わせ、思い切った様子で口にした。

 

「私に告白してくれた時、どういう気持ちだった?」

「―――はあ!?」

 

 歩夢の口から出てきた問いかけに思わず声を荒げる。

 

 俺のフラれた時の忌々しい記憶を呼び起こせというのか、しかもそれを言うのが告白された本人という。告白されたという優越感にでも浸りたいのだろうか。

 

 さすがにNOだ。いくらなんでも答えたくはないし、今この状況で答える必要があるとは思えない。

 

「いやさすがにそれは……」

「コウ、答えてあげて。きっと歩夢にも考えがあってのことだからさ」

 

 断ろうとした俺に侑が口を挟む。

 

 その言葉にもう一度歩夢を見ると、彼女は真っ直ぐな瞳で俺を見つめており、心なしかその表情には彼女なりの後ろめたさを感じた。

 そうだ、あの優しい歩夢がなんの考えもなしに自分がフッてしまった時のことなんか聞くわけがない。

 

 だけどそれを答えるには勇気がいる、そう簡単に割り切れるものでもない。

 けれど今、答える勇気を待てるほど時間があるわけではないと言うのもあるが、俺は今すぐにでも中川菜々と優木せつ菜を救いたいんだ。

 

 そして思い出す、目の前の少女に恋をしていたあの熱い青春の日々を。

 告白をしようと決めた熱い夏の日を。

 

「歩夢が好きで、ずっと一緒にいたくて、笑ってほしくて、手を握りたくて、抱きしめたくて、大切にしたくて。そ、その……このままけ、結婚とかするんだろうなあって」

 

 中学二年の頃に感じていた思いを、気持ちを思い出しながら少しずつ言葉にする。

 その度に顔から火が出てきそうなぐらいに恥ずかしくて、身体も熱くて体温も上がってきているのが分かる。

 

 視線もあちらこちらに動き回り、ようやく全てを言い終えた後に横目で歩夢を見る。

 

「あっ、あの……その……あ、ありがとうっ…」

 

 俺と同じ様子で真っ赤なリンゴのような顔をしてお礼を言う彼女は、あの頃と変わらない純真なままで。けれど中学二年の頃から成長して大人っぽくなったこともあり、とても魅力的に見え心臓がドクンと飛び跳ねた気がした。

 

 おいおい、中二の頃思い出したか俺よ。

 

「ごめんねコウ、こんな時に。それとありがとう」

 

 歩夢から視線を外し、冷めない頬を手で仰いでいた俺に侑は申し訳なさそうにそう言う。

 

「別にいいよ、好きだったことどうせお前も気付いてたんだろうし」

「うん、まあね……」

「それでこれが菜々と話すのに何の関係があるんだよ」

 

 俺の問いかけに侑は少しだけ何かを考えた後、口を開いた。

 

「―――歩夢に告白したコウはもうその答えを知ってる筈だよ」

「―――は?」

 

 俺が答えを知っている?

 

 侑の口から出た言葉に驚きが隠せなかった。

 伝えなくちゃいけない言葉を言えずに、何を言葉にすればいいかも分からなかった俺が知っているなんて、とんだ眉唾物(まゆつばもの)だ。

 

 フラれたことが答えとでも言うのだろうか。当たって砕けろ?それぐらいの勇気を持って話せということだろうか。結局根性論なのか?

 

 そう頭を悩ましていると、未だ頬の赤みが冷めない歩夢がおもむろに顔を上げた。

 

「あの、その……気持ちには答えられなかったけど、告白してくれた時のコウくん、す、すっごくカッコ良かったよ」

 

 しどろもどろに伝える言葉。あの時は服装も髪型もバッチリ決めていったと思うのでカッコ良く見えてなきゃ困るのですよ……。

 と言うかそんな時のことも覚えててくれたんですね。少しは意識してもらえたってことだろうか。

 

「ああ、ありがとな上原」

 

 中二の頃の俺が聞けばめっちゃ喜びそうだなあ、なんて。

 

 そんなことを考えながら歩夢から視線を外し、侑を見る。

 

 彼女はしたり顔でこちらを見ており、先ほどの俺と歩夢の話がそんな面白かったのかなんて嫌味の一つや二つも出そうになるが、彼女なりのヒントなのだと今は飲み込むことにした。

 

「コウ、最後に一つだけ―――」

 

 目が合った侑はそう言うと、おもむろにこちらに近付き俺の胸元に人差し指を置いた。

 

「―――伝えたい思いはいつだってシンプルだよ」

 

 見据える視線は真っ直ぐでエメラルドの瞳は熱く深い輝きを灯していた。

 

「歩夢に告白出来たコウならきっと大丈夫、信じてるから」

 

 その言葉に嘘偽りはなく、たった一本の指先から感じる熱は思わず火傷をしたかと錯覚するほどに熱く燃え盛っていた。

 

 指を下ろすと侑は歩夢を連れて四人の元へと歩き出す。

 すれ違いざま、侑は何かを思い出しようにこちらを見上げ口を開く。

 

「そういえば、せつ菜ちゃんが来たら謝っておいて欲しいんだ。昨日会った時に何でスクールアイドル止めちゃったのかなって無神経なこと聞いちゃったから」

 

「あ、ああ、ちゃんと伝えておくよ」

 

 そう返すと侑は満面の笑顔で「ありがとう」と言い、未だ顔が赤い歩夢を引き連れ、同好会の四人が姿を隠している建物の影の方へと歩いて行った。

 

 そして周りには誰もいなくなり、俺はせつ菜―――菜々が来るのを待った。

 

「伝えたい思いはシンプル……」

 

 侑が言っていた言葉。

 

 歩夢に告白した時、色々と考えていることはあったけど、伝えたのはただ“好き”だという気持ち。結果は惨敗だったが、あの時の俺は確かにまどろっこしい言葉ではなく、簡潔に単純な言葉をぶつけていた。

 

 菜々にもそれをすればいいのか?スクールアイドル同好会にお前が必要なのだと、皆ともう一度ステージに立って欲しいのだと。

 それで彼女が考えを変えてくれるのだろうか、もう一度一緒にスクールアイドルをやってくれるだろうか。

 

 俺も彼女の前で活動を続けないといった手前、そんな言葉だけで彼女を説得出来るとは思わない。もっと“何か”、大事な“何か”を伝えなくちゃいけないんだ。

 

 俺はそれを―――

 

 ゆっくりと屋上の扉が開く。

 

 振り返った先、綺麗な黒の艶髪を二本の三つ編みにして白縁の眼鏡をかけたその姿は、いつもと変わらない生徒会長の姿で。

 

 ほんの数週間会わなかっただけなのに、その姿はえらく懐かしく感じられた。

 

「―――久しぶり、菜々」

 

 守れなかった彼女のことを―――助けたい。

 彼女が否定した彼女の“大好き”を―――肯定したい。

 終わりにしてしまった俺たちの関係を―――やり直したい。

 

 スクールアイドルを辞める決断をした彼女を。

 

 目の前の少女、中川菜々を。

 彼女の中に眠る―――優木せつ菜(スクールアイドルへの思い)を。

 

「―――コウ……さん」

 

 ―――救いたい。

 

 ただそれだけの為に、俺はもう一度彼女と向き合うのだ。

 

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