虹を繋いで   作:うめ茶漬け

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18 可愛い後輩

「かすみんの講義を始める前に……一つハッキリさせておきたいことがあるんです」

 

 次に俺たちが向かったのはスクールアイドル同好会の部室

 そこにはかすみとしずくが待っており、彼女たちからの歓迎もほどほどにかすみの「座学」が行われると思われていた。

 

 しかし俺と宮下をソファに座らせたかすみは、どこからともなく取り出した眼鏡―――恐らくあれは菜々の白縁の眼鏡をかけると、おもむろにクイッと眼鏡を上げ、そう言った

 

「お前それせつ菜の眼鏡だろ……」

「あれ、せっつーって眼鏡かけてたっけ?」

「……せっつー?」

 

 もう既にあだ名呼びとは、さすがコミュ力お化けの距離感の詰め方はさすがだ。

 俺とかあなたの呼び名まだ名字ですよ。いやあ同好会に入ったならとは思ったけど、指摘されないししばらくこのままでいいかなーって。

 

「この眼鏡はせつ菜先輩から借りました、……無断で」

 

 それを借りたとは言わないんだよ、この悪戯っ子は。

 

「ハッキリしておきたいこと、それは―――これですっ!!」

 

 そう言い、今日の講義内容である「スクールアイドル概論」と書かれたホワイトボードを回転させたかすみは、その反対側に書かれた文字を声高らかに読み上げた。

 

「―――コウ先輩の一番の後輩は誰か~~!!」

 

「お、おお……」

「おおー!なんかよく分からないけど楽しそう~」

 

 テレビ番組の司会のように読み上げたかすみに引き気味に眉をひそめるが、そんな俺とは正反対に隣に座る宮下は楽しそうに拍手をした。

 

「ここにいる一年生の三人、それぞれがコウ先輩に思うところがある筈……」

 

 思うところって何か嫌な言われ方だな……いや言ってる意味は分かるんだけど。

 

「しかしコウ先輩に思いを伝えられ可愛がってもらえる後輩はたった一人……!今日はこの中からそんなコウ先輩にとっての一番の後輩(・・・・・)を決めたいと思います!!」

 

 ホワイトボードに書かれた可愛らしい文字を指し棒でなぞりながらかすみはそう言い、未だそのテンションに乗り切れずポカーンとした様子の二人を見た。

 

 いやそもそも言いたいことあるなら言って欲しいし、かすみもしずくも璃奈ちゃんも俺にとっては大事な後輩だから可愛がってあげたいんだけど……。

 

「別に可愛がってもらえるのは一人じゃなくてもいいんじゃ……」

「虹先輩は、皆に優しい……」

 

 しずくも俺と同じ意見みたいだ。璃奈ちゃんは嬉しいことを言ってくれるねえ。

 そう反論する二人を一蹴するようにかすみはホワイトボードを手で叩き、二人に向けて一喝する。

 

「甘い!甘いよ二人とも!いつも私たちにも優しいコウ先輩だけど、それってつまりは他の子にも優しいということ!そんな先輩の魅力に気付いた他の子がコウ先輩を篭絡しようとするのも時間の問題!」

 

 大げさな身振り手振りと切羽詰まったような演技でかすみは叫ぶ。

 

「二人はいいの!?そんなどこの馬の骨かも分からない、ぽっと出の後輩にコウ先輩を盗られても!!」

 

 最初は半信半疑のような、もの言いたげな目で見ていたしずくと璃奈ちゃんも、その熱に当てられたのか、喉を鳴らし、みるみるとその表情を真剣なものへと変えていったと思いきや、互いに顔を見合わせ叫んだ。

 

「それはいや(ですっ)!」

 

 そんな二人の姿に口元に笑みを浮かべたかすみは、そのまま彼女のいう“一番の後輩を決める”その選定ルールについて、説明を始めた。

 と言うかしずくは演劇部なんだからかすみの演技なんかに騙されるんじゃないよ……。

 

「ルールは至って簡単、今から一人ずつここにいるコウ先輩と二人の思い出を発表し、全員の発表が終わった後自分以外への投票で一位を決める、というシンプルなもの」

 

 ギラギラとした目で説明をするかすみを見つめる二人。

 説明にも納得したように頷いているようだが。俺が覚えている限りではこの勝負はかすみが一番有利じゃないか……?

 

 先日の侑と歩夢と引き合わせた一件もあれば、菜々と揉めてた時に涙ながら叫んでくれたあの台詞が記憶に新しい。それに加え相手の一人が―――。

 

「……ねえしもみー、これりなりー不利じゃない?」

 

 隣の宮下も気付いたようにこちらに耳打ちをし、俺もそれに頷く。

 

 同好会の結成時からいるかすみとしずくに比べ、璃奈ちゃんは講堂ライブで俺のことを知ってくれていたが、それでも今日がほぼ初対面と言っても過言ではない。

 時間の長さは関係ないと言うが、お互い見知った直後の相手というなら、さすがに分が悪いのは火を見るより明らかだろう。

 

「……しもみー」

 

 聞こえてきた弱々しい声に隣に座る宮下の方を向く。

 その声と同じように不安そうな表情を見せている宮下は、明らかに分が悪い状態で二人と同じ土俵で戦おうとする璃奈ちゃんを心配してのことだろう。

 

 後輩が好いてくれるのは確かに嬉しいが、それを引き合いに出して自分の優位性を確かめたいだけのゲームと言うのはさすがに看過できないな。

 

 別に宮下の為じゃない、それだけは言っておく。

 俺はこれからもしずくと璃奈ちゃんのことを目一杯可愛がってあげたいのだ。

 

「―――かすみ」

 

 立ち上がり、未だ熱弁をするかすみに声をかける。

 一瞬肩を震わせたかすみは恐る恐るといった様子でこちらを見た。

 

「気持ちは嬉しいんだけど、こういうのはなしだ」

 

 そのまま彼女が書いた文字を消すようにホワイトボードを回転させ、本来の議題である「スクールアイドル概論」が書かれたボードの表面に戻す。

 

「ええー!!ど、どうしてですかコウ先輩~!!」

 

 駄々をこねるように叫んだかすみに、未だ状況が分かっていない様子のしずくと璃奈ちゃんに向けて口を開く。

 

「……どう見てもお前が有利な条件に見えるからだ」

 

 俺自身、二人とかすみで関係値に差があるとは思っていない。

 

 だけどここ最近の、特に菜々との一件でかすみに助けられた場面も多く。そのことを引き合いに出されれば璃奈ちゃんは兎も角、しずくとの思い出も弱いのが確かだ。

 と言うか、そもそもの大前提として俺は“大好き”な日常に優劣など付けたくはない。

 

「そ、そんなことないですよ~、皆それぞれコウ先輩との思い出は平等に……」

 

 それでも引かないかすみに、少々気が引けるが少しだけ声を荒くして言葉を返す。

 

「かすみはここで一番の思い出を決めて、それで俺が喜ぶと思ったのか?」

 

 荒くなった語尾にかすみもさすがに怒っていることを気が付いたのか、身を縮こめ視線を下げた。このままかすみを叱るのは簡単だけど、やり方はどうであれ俺を好いてくれた上での行動なのだ、少なくともその思いを無下にはしたくない。

 

「なあかすみ。かすみが俺のことを思ってくれているのは確かに嬉しいよ」

 

 しょんぼりと視線を落としたかすみと目を合わせるよう、ひざを付いてしゃがみ、彼女の顔を覗き込む。

 覗き込んだ先、かすみは悪戯がバレた子供のような表情をしており、全国の子育て世代のパパママの気持ちってこういうのなのかな~なんて年にそぐわないことを考えてしまった。

 

「だけど、ここでお互いに思い出を発表し合って一番の後輩を決めたとして、それは本当に全員が納得出来ることなのかな?」

「そ、それは多数決で決めたことですから……」

 

 出来るだけ語尾を優しく、落ち着いた声で話す。

 かすみの返す言葉も一つ一つを受け止めて、答える。

 

「でもかすみだって、多数決の結果が出たとして自分は一番の後輩じゃないなんて言われたら嫌じゃないか?」

「そ、それは……!!」

 

 かすみは悪戯気が他の人と比べて強いだけで、根は心の優しい良い子だということを俺は知っている。

 そうじゃないと泣きながら言ってくれた言葉も叫んでくれた思いも説明が付かない。

 

「それで俺がその子ばっかに付きっ切りになって、かすみのことを蔑ろにしちゃっても、それをかすみは納得できる?」

「な、納得出来ないです……それは嫌です……」

 

「一番って言うぐらいだから、かすみが勝ったらそりゃ嬉しいかも知れないけど、そんな悲しい気持ちを二人にさせて、それでかすみは本当に幸せになれるかな」

「なれないです……かすみん一人だけ楽しくても……そんなの全然幸せじゃないです」

 

 目に涙を浮かべるかすみを真っ直ぐと見つめ、彼女の髪を優しく撫でてあげる。最初に少しだけ怖い思いをさせてしまったからそのお詫びも兼ねて。

 

「それに一番なんて決めなくたって、俺にとっては皆可愛くて大切な後輩だよ」

 

 そう言い、横を向く。

 その先、不安そうな表情でこちらを見つめているしずくと璃奈ちゃんに向けてゆっくりと口を開く。

 

「しずくはスクールアイドルと演劇を両立しようと頑張っているところが応援したくなるし、いつも一生懸命なところもめっちゃ可愛い」

 

「璃奈ちゃんだって、不慣れなことでも真っ直ぐと伝えようとしてくれるとことか、キュンキュンしちゃって本当、可愛い―――」

 

 そしてもう一度、目の前のかすみの方を向く。

 気付かぬ間に目を拭っていたのか少しだけ赤くなった瞳を見つめる。

 

「そして、かすみは―――」

 

 出会ってからいつも見てきたかすみの色々な表情。

 

 泣き顔も笑い顔も、たまに出る変な顔も。

 俺にとってはそれ(・・)を感じさせる愛しいもので。

 

 俺が彼女たちに見せてきた優しさというものが、かすみを少しでも不安にさせたと言うなら教えてあげたい、伝えてあげたい。

 かすみの言う優しさも、皆にだけの唯一無二のものなんだから。

 

「―――本気で(・・・)、可愛いからな」

 

 そもそもかすみは他の子にも優しいと言うけれど、俺だって誰にでも優しく出来るわけじゃない。

 真っ直ぐと目を見て、嘘偽りのない言葉を言ってくれる彼女たちだからこそ、それに応えたい、少しでも笑って欲しいと優しくしたいと思うのだ。

 

 自分では優しく出来てるか分からないけど、そう言ってくれてるなら、それは彼女たちが言ってくれた言葉が、伝えてくれた思いが、教えてくれたことが、そうさせてくれたものなのだと。

 

「ご、ごめんなさい……コウ先っ輩……」

 

 少し言葉を詰まりながら涙声でそう言うかすみ、けれど。

 

「俺より先に言うべき人がいるんじゃないか?」

 

「しず子……天王寺さん……ごめんなさい。かすみん調子に乗りました……」

 

 俺がそう言うとかすみはしずくと璃奈ちゃんの方へ向き直り、深く頭を下げる。

 

 自分がしちゃったことを間違えだと認めてすぐに謝ることが出来るところが、かすみの素直で優しい良いところだ。

 

 頭を下げたかすみに仕方ないといった様子でしずくは小さく息を吐き出し、璃奈ちゃんと共に口を開く。

 

「いいよっ。私も勢いに乗っちゃってたところもあるし、お互い様だね」

「私も少し驚いたけど大丈夫。何を言おうかちょっとだけワクワクしてた」

 

 あれぇ?璃奈ちゃん思ったより乗り気だったのね。邪魔しちゃってゴメンね。

 

 優しい言葉をかけてくれた二人に肩を震わせるかすみだったが、次の瞬間涙腺が決壊したかのように大粒の涙を流しながら二人の元へ駆け寄りギュッと二人を抱きしめた。

 

「うわぁ~~ん!ごめんね~~!しず子~~りな子(・・・)~~!!」

「―――りな子…?」

「璃奈さんのあだ名だよっ、一年生同士これからよろしくね」

「うんっ、愛さん以外からのあだ名……嬉しいっ」

 

 涙鼻水垂れ流しのかすみに、嬉しそうな様子の璃奈ちゃん、何だかんだで楽しそうなしずく。

 世界平和ってこういうことを言うんだなーなんて、微笑ましい光景に頬が緩んだ俺に近付く影がまた一つ―――っつても宮下しかいねえんだけどさ。

 

「ねえねえしもみーしもみー」

「……なんだ」

「愛さんは可愛い?」

 

 両頬に指を当て、首を傾げながらそう言う宮下。

 

「世間一般では可愛いって思われるんじゃないか、ほらアレだバズりそう」

「ちょっ、なんか愛さんにだけ適当じゃないー?!」

 

 正直可愛かったが、何か言うのは癪だったのでinskogram(インスコグラム)に投稿するならイイねぐらいは付けてやろう。

 

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