今回の話を投稿するに当たって「03 ”大好き”の始まり」の劇中歌を変更しております。以前ご覧いただいていた皆様には先にお詫び申し上げます。
「03 ”大好き”の始まり」変更点
劇中歌を「Love U my friends」から「LIKE IT!LOVE IT!」へ変更。
該当話の後書きにて同内容投稿済み。
「いやあスクールアイドルって奥が深いんだね~」
「すごく、勉強になった」
腕を組みしみじみとそう言う宮下と、楽しそうに話す璃奈ちゃん。
同好会の部室で行われたかすみのスクールアイドル座学を終え、次の教室へ向かう俺たち。
始める前に一悶着あったがかすみの講義自体は滞りなく終わり、二人も満足した様子を見せている。
かすみの講義内容は「スクールアイドルに必要なこと」を主として話が進められた。
それはこれからスクールアイドルを始める宮下と璃奈ちゃん、現部員のしずくにとってもとても大切なことだろう。
その中で彼女たち一人一人が出した答えは。
しずくが「自分の気持ちを表現すること」
璃奈ちゃんが「ファンの人と気持ちを繋げること」
そして宮下が「分からない」といった様子で三者三様の答えが出た。
最後の宮下に関しては答えですらなかったわけなのだが。
しかしかすみはその答えの全てに正解を与えた。
かすみ曰くスクールアイドルにハッキリとした答えはなく、ファンの皆に喜んで貰えることならどれも正解なのだと言う。
聞いていた三人も目から鱗のような様子だったが、かすみのスクールアイドルに対する情熱は本当に尊敬出来る。
しかもそれをスクールアイドルを始めて数か月のかすみが言うんだから、これまでのかすみの頑張りがその姿勢に表れていることが分かる。
そういう影ながら努力しているところも可愛くて、凄く魅力的だ。
そんなわけで次の教室―――録音スタジオについた俺たちはそこにいるメンバーたちの練習に合流することにした。
録音スタジオは録音した音源を確認するミキサーブースと、そこからガラス張りで中が見れるようになっている収録ブースの二つからなっている。
基本的には映像系の学科や音楽系の学科が授業などで使うことが多い場所だが、申請さえすればどの学科の生徒でも使えるようにはなっている。
せつ菜のデビュー曲である「CHASE!」のデモテープもここで収録を行った。
扉を開けた先のミキサーブースに人影はなかったが、そこから見える収録ブースには侑、歩夢、せつ菜の三人が身体を寄せ合い何かを話している様子だった。休憩中とかだろうか?
こちらには気付いてない様子だったので、念のため収録ブースの扉をノックをして返事を待ってみたが返事は返ってこず、ガラス窓から見える後ろ姿は相変わらず盛り上がりを続けていた。
「ったく、何をそんなに夢中に話してることやら……―――」
驚かせてしまうかも知れないが、この際仕方ない。
そう溜め息交じりに呟き収録ブースへの扉を開け―――。
「うわあああ!!侑さんこ、これって小学生の時のコウさんですか?!幼さの中にも今の凛々しさもあって、すっごく可愛いです!!」
「でしょでしょー!この時のコウは本当可愛くて今見てもときめいちゃうな~!!」
「ほらせつ菜ちゃんこれ中学一年生の時にお泊りした時の写真。コウくんって朝がすっごく弱いから言えば何でも言うこと聞いちゃうの、これはふざけた侑ちゃんがコウくんに甘えられてる時の写真」
「う、うわあああ!!あ、歩夢いつの間にこんな写真を!!恥ずかしいから消してってば~!!そ、それなら私だって歩夢が寝ぼけてコウの布団に入ってた写真あるからね~!!」
「う、うううう…!!二人ともズルいです!私もコウさんと写真を―――ってあっ」
不意に振り返ったせつ菜と目が合う。
滝の汗を流すせつ菜を尻目に、侑と歩夢はお互い思い思いの写真を見せあいながら語り合っている様子だが、これは―――怒っていいんだよな?
「もう~突然どうしたのせつ菜ちゃん~!コウたちが来るまでもう少し話を―――あっ」
「そうそうこの写真なんかってどうしたの二人とも誰か来た―――あっ」
三人の視線が一直線に俺に向けられる。
身を寄せ合っていた三人は更に身体を近く寄せ合い震えあがっているが、震えが止まらないのは同級生と可愛い後輩の前で恥ずかしいこと暴露された俺の方なんだが??
今俺はどんな顔をしているのだろうか―――般若か、鬼面か、妖怪、化け物か。
少なくとも今の俺ならアベンジャーズの
僕の秘密を教えようか?さすがに怒ってる。
机に置かれたマイクを勢いよく手に取り、縮こまる彼女たちに向け一言。
「―――消せぇええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!」
その雄たけびは、俺の叫びは、録音ブースのガラスを割り、ミキサーブースのパソコンを壊し、彼女らのスマートフォンを破壊し、部活動をしていた生徒たちの鼓膜を破いたとか何とか。全部嘘じゃねえか。
「え~~!!ちっちゃい時のしもみーの写真~!愛さんも見たい見たい~!!」
「私も気になる、小学生の虹先輩、見たい」
「やぁめろぉおおおおおおおおぉおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」
ロボットアニメとかで味方が倒される前の主人公の叫びみたいな声が出ちまった。え、ナニコレ今どういう状況なの?夢?あれどういうこと?
◇
「―――にしても酷い目にあった」
「あはは……ごめんごめんコウ」
腕を組みプンスカと怒る俺に申し訳なさそうに侑は謝る。
あれから時間が経ち、練習を開始した俺たちはせつ菜、璃奈ちゃん、宮下、歩夢の順番にそれぞれ歌を披露した。
と言ってもガチガチに歌うと言うわけではなく、収録ブースに備え付けられたカラオケ機能を使って各々の得意な歌を歌うという至ってシンプルなものだが。
何曲か歌ってもらい、その中で彼女たちの歌唱時の声質や音域などを確認し、今後曲作りの参考にすると言うものだが。全体的に歌声は綺麗で音域も全員そこそこあるようだ。
今はその合間にせつ菜が熱弁したアニメの話に宮下が乗っかって、アニソン縛りをしてるといった感じだ。
「と言うか言い出しっぺは誰だ、お前か歩夢か」
「え、えーと私です……」
申し訳なさそうに手を挙げた侑をジッと睨み、苦々しく笑った彼女は言葉を続けた。
「せつ菜ちゃんがね、愛ちゃんと仲良さそうにしてたコウの姿にやきもきしてたみたいでね。元気がなかったからこれなら喜ぶかなって……」
「……あ、そうだったのか。すまん、後でフォローはしとく」
今は楽しそうに歌っているせつ菜だが、思い返せば部室を出て行く時にもあまり良い顔はしていなかったような気がする。
彼女が俺を好いてくれてることは分かっているのに、新入部員にかまけてせつ菜をしょんぼりさせてしまったようだ。宮下とは同じ学科ってだけのただの同級生なんだがな……。
それに侑と歩夢にも要らぬ気苦労をかけさせてしまったみたいだ。先ほどは勢いに任せて怒ってしまったが歩夢にも後でちゃんと謝っておかないとな……。
いや待てそれはそうとしても子供の頃の恥ずかしい写真を暴露されたのは怒っていいよな。
そんなことを考えていると、隣の侑が俺を見て何やら笑っている様子を見せた。
「……なんだよ」
「私にもあとでフォローよろしくねっ」
「調子に、乗るなっ」
侑にチョップを加え、額を擦る侑を尻目に歌い終わったせつ菜を見る。
振り返ったせつ菜は本当に楽しそうな表情をしており、あらためて彼女から感じた“大好き”に心が温かくなる。
時刻はそろそろ下校時間かな―――スマホの時計を確認しそんなことを考えていると。
「て言うかさ、しもみーとゆうゆは歌わないの?」
逆隣りに座る宮下がそう言い、俺と侑に全員の視線が向けられる。
「え、ええー!?い、いいよ私たちは、今日は皆の練習だし!」
手をブンブンと振り断る侑。確かに練習とは言えど、今日はそれぞれ好きな歌を好きに歌い楽しんだだけのカラオケ大会のようなものだ。
当初の俺の目的であった声質と音域の確認も問題なく行えたし、ここで一曲歌っていくのもいいかも知れない。カラオケボックスに行くより安い、と言うかタダだし。
いい機会だ、部活動での使用目的であれば利用が許されるカラオケ機能を使わない手はない、学費も払ってるしそれを有効活用せねば。
「いいじゃん侑、一曲だけ歌ってこうぜ」
「う、うう……コウ、さっきの仕返しにしてはズルくない?」
「そうか?それじゃあトリは侑に任せるとして……」
「え、ええええ?!ひどいよコウー!!」
そうと決まれば選曲だと机に置かれたカラオケ端末を手に取り、操作を始める。
最近は流行りの曲を聞くよりも彼女たちの曲を考えていることが多く、あまりレパートリーがないのが現状だ。昔歌ったことある曲なら辛うじて……。
カラオケ端末には先ほど歌ったせつ菜の検索結果が出ており、そのタイトルに思わず懐かしさを覚える。
彼女が調べていたのは三作目の作品だったが、一作目が放映していた中学二年生の頃、始めたてのギターでやけくそに歌っていたのがとても懐かしい。今にして思えば演奏も歌声も残念で道行く人に笑われたり奇怪な目で見られたりしてたなあ。そんなこと言ったってしょうがないじゃないか、始めたてだもん。
そんな懐かしさに従うようにカラオケ端末を操作した俺は、一作目の曲一覧を表示させ、その中から一曲を選ぶ。
少なくとも三作目の曲が歌えるせつ菜なら、一作目も知っているだろうという安直な考え。
「―――これは……!」
ほら食いついた。
そのまま曲を転送し、目の前のモニターに表示された曲名を見てせつ菜が驚いた声を上げる。
自分の中では一番歌っている曲だけど原曲を知っているせつ菜に聞かれると思うと少し緊張するな。
曲名は―――「LIKE IT!LOVE IT!」
一作目の記念すべきOPで歌われたこの曲は、ことあるごとに作中に流れ、主人公の進化、覚醒、共闘といった様々なシーンで使われており、そのアチアチな場面展開に胸が熱く心が踊ったのが懐かしい。
収録ブース全員の視線を背に受け、彼女たちの期待を背負い、マイクの前に立つ。
スピーカーから流れる演奏に大きく息を吸った。
聞け―――これが俺のTHE FIRST TAKEだ。
別に一発撮りも何もしてねえけどその……気分だけ。
◇
「おおおおおー!!!」
歌い終え緊張を吐き出した俺に、全員が大きな拍手と称賛の声を送ってくれた。カラオケなんてもの久々にしたがこれはこれで楽しい。
「しもみー上手っ!初めて聞いたけど愛さんこの曲好きになっちゃったよ~!」
「元の曲と全然違った良さがあった……!」
「コウくんすっごい、昔より歌上手くなってるね!」
それぞれこれでかってくらい歌を褒めてくれる宮下、璃奈ちゃん、歩夢。そんな三人に少し恥ずかしさも感じるが、こう言ってくれるのは素直に嬉しい。
「ぐ、ぐぬぬ……これなら四の五の言わず先に歌うべきだった……!!」
そんな中で侑は頭を抱え唸っているようだが、こういう時は後になるにつれてハードルが上がる早いに越したことはないのだ。なんて彼女に鼻で笑ってみせる。
って言っても侑も歌上手い筈だけど。
「―――コウさんっ!!」
間の席から出てきたこともあって、元の席に戻るのは面倒臭いので、すぐそばのせつ菜の隣に座ろうとしたのだが。
突如席を立ち上がったせつ菜に止められ、彼女と向かい合う形になる。
せつ菜は真っ直ぐと俺の瞳を見つめており、彼女の瞳の宝石が煌めいた―――その瞬間。
「―――“大好き”です!!!」
俺の手をギュッと握り、そう叫んだせつ菜。
その姿に思わず面を食らってしまうが、ええっとこれはその―――。
「ええっと……曲のことか?それとも作品?俺もどっちも好きだぞ」
そんなせつ菜に冷静に言葉を返す。
思わず「もしかして―――俺のことか(イケボ)」なんて言いそうになったが、さすがにこの状況では恥ずかしい、というかそれは最早ただの痛いヤツ。
一瞬ポカンとした表情を見せるせつ菜だったが、その言葉にすぐさま手を離して席に座り、赤くなった頬を冷ますように顔を手で仰いでいた。
「と言うかせつ菜はともかく璃奈ちゃんもあの作品見てたんだな」
「うんっ、名作中の名作。私もたまに見返す」
「愛さんもその作品気になるなー!せっつーのおすすめと一緒に見てみようかなー!」
俺も久々に見返すかー、昔の作品ってうろ覚えなんだけど逆にその視点だと初見と違った楽しみがあるんだよなー。
そうシミジミと考えていると、侑の持つカラオケ端末から曲が転送された音が聞こえ、モニターを見た。
「―――雪の華、か」
そこに映し出されたのは日本レコード大賞金賞にも受賞したことのある楽曲。
今もなお多くのアーティストがカバーをしており、少し前にはこの楽曲をモチーフとした実写映画が公開され大ヒットを博した。とあるアニメ作品のEDにも起用されたことがあるという屈指の名曲だ。
流れ的に侑もアニソンかと思ったが、王道な恋愛バラードとは。
しかもこの楽曲を歌う侑の姿は俺にとって見慣れたものであり、久々に彼女の歌声が聞けることに嬉しさすら感じた。
侑とカラオケに行った時には彼女が必ず歌う曲で、彼女の綺麗な喉から出る伸びやかな声がバラードとマッチしていてとても良い。
彼女自身も情感たっぷりに歌うもので最初聞いた時は鳥肌が止まらなかった。
こちらに対抗するように侑ので勝負を仕掛けてきたというわけか。
ならば見せてもらおうか。高咲侑の
席を立ちマイクの前に向かう侑と目が合う。
彼女はこちらを見て微笑むような様子を見せるが、言葉のわりに余裕そうな表情を見せるじゃないか。
「侑ちゃん頑張れー!」
「ゆうゆファイトー!」
歩夢と宮下の応援を背にマイクの前に立ち、流れ始めた伴奏に呼吸を整えるように息を吐き出した侑は、モニターに表示された歌詞を歌うよう息を吸った―――。
これが高咲侑の―――THE FIRST TAKE。
って一発撮りも何も撮ってないんだって。