虹を繋いで   作:うめ茶漬け

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03 ”大好き”の始まり

 ―――中学二年生の頃、私はいわゆる優等生でした。

 

 朝は遅刻もせず学校に登校し、授業を受ける。

 昼休みと放課後は生徒会室で生徒会の仕事に明け暮れる毎日。

 勿論成績も上位をキープし、二年生ながら推薦の話が出るほどでした。

 

 そんな私に両親も喜んでくれたし、先生方も期待してくれてて。それが嬉しくて誇らしくて、期待されるのだって嫌いじゃなかった。

 

 だけどそんな毎日を過ごして、このまま大人になるのかななんて考えていた、あの日

 

 私は―――あなたと出会った。

 

 

 ◇

 

 

「―――えっと次の試験の範囲は」

 

 学校から配られた試験範囲のプリントを見つめながら帰る放課後

 生徒会の仕事も文化祭が終わった秋ごろからはつい数か月前までの忙しさは何だったのだろうと思うほどに鳴りを潜める。

 

「うーん、苦手なところはないけど飛び抜けて得意なところもなさそうですね……」

 

 クリアファイル越しにテストの範囲が書かれたプリントを見つめながら、そんなことを呟きながら自宅へと帰る途中。

 

 今日はシャープペンの芯が切れていたから文房具屋さんに寄ったこともいつもより遠回りをしている。

 夕焼けに遠くでカラスも鳴いている、お母さんが心配する前に帰らないとな……。

 

 いつも通りの日常、いつもの違う帰り道、ただそれだけだった。

 

「―――うおぉー!!ラッキット!!アイッラッキッ!!」

 

 いきなり遠くから聞こえた歌声に思わず立ち止まる。

 何だろう?そう思った時にはもう足はその方向へと歩き始めていました。

 

 歌声と重なるように描かれるギターの音色は上手とも下手―――寄りな感じで繋がれており、学校やテレビで見るような音とは似ても似つかない微妙な音。

 

「どんな人が歌っているんだろう―――?」

 

 そんな犬も食わないような音楽だったけれど、私の足はその音に誘われるように一直線に向かっていました。ただ一心不乱にかき鳴らす音の元へ。

 

 座っていたのは黒髪の少年―――私と同じか一つ違いの中学生でしょうか?

 

 彼は、道行く人たちがクスクスと笑いながら去っていくことに目も暮れずに、先ほどと変わらない声量と音で歌っていました。

 

「いろどぉり鮮やかな万華鏡ぉ!!この世界があまりにも眩しくて愛ぉしい~!!」

 

 正直その恰好は不格好で。

 

 所々声は掠れて、歌のキーが高いのか分かりませんが歌えていない箇所も沢山あり。ギターの音も止まっては鳴り止まっては鳴りを繰り返していました。

 

 だけどその姿に、私は目を奪われた。

 

 テレビで見るような歌手のような華やかさもなければ、歌や演奏だって上手くない、けれど彼は一心不乱に―――楽しそうに音を奏でていたのです。

 

 彼は歌が“大好き”なんだろうって

 

 彼のことを全く知らない私だけど、そのことだけは分かった。

 

 気が付けば夕日は落ち、街頭が明るい光を辺りに差し込んでいました。

 

 彼もそれに気づき、いそいそとギターをケースにしまうと、見ていたこちらに気付いたのかいざ知らず、駆け足でその場を離れてしまいました。

 

 私は一人取り残され、早く帰らなきゃと思いながら、どうしてか彼の歌が耳から離れなかったのです。

 

「この世界が、あまりにも眩しくて……美しい―――なんの歌だろう」

 

 歌番組でも聞いたことがない歌だったけど、誰かの歌だろうか。

 NMD630……シャイニーズ……どれも違う気がする。

 

「そうだ、お母さんのパソコンで調べてみようかな」

 

 一生懸命に自分の“大好き”を歌っていた彼のことが気になってしまった。

 彼の“大好き”を知りたいと感じてしまった。

 

 ―――それが私の全て、私の“大好き”の始まりでした。

 

 

 ◇

 

 

「―――せつ菜」

「はいっ!」

 

 舞台袖、衣装に包んだ私に彼は優しく声を掛けてくれました。

 大丈夫です聞こえてますよ!

 優木せつ菜、準備万端です!

 

 舞台上から拍手が巻き上がる、どうやら前の部活動の紹介が終わったみたいだ。

 そして―――次は私たちの番。

 

 私の初めての舞台。

 

 緊張がないわけではない、練習が足りたかどうか分からない、体調も良いか悪いか分からない、それぐらい緊張していて心臓がバクバクだ。

 

「ほら、水」

 

 彼が渡してくれたペットボトルを受け取り、喉の渇きを潤す

 

 この舞台は私、中川菜々の生徒会長権限で無理やりねじ込んだ架空の生徒の発表の場。

 

 部員人数二人の未だ部として認められていない、いわば同好会すらなれていないグループの発表会。今日失敗すれば次に場を設けられるかすら分からない崖っぷちの舞台。

 

 そんな場所で私は―――ちゃんと歌えるのだろうか。

 

 いや違う、私は歌を歌いに行くのではない。

 

 私は―――私の“大好き”を叫びに行くのだ。

 

 ペットボトルを彼に渡し、ステージを見つめる。

 

 新入生と一部の在校生たちで溢れる講堂。

 そこに立ち向かうは、活動履歴もステージ経験もなしのずぶの素人の私たち。

 

 振り返り彼を見る。

 

 彼の瞳は“あの時”から変わらず真っ直ぐで、思わず見惚れそうになってしまうけど、それはまた今度。時間が許す時に彼に気付かないようにやろう。

 

「コウさん、私緊張してます」

「知ってる、見れば分かるよ」

 

「練習足りましたかね」

「どうだろうな、でも頑張るせつ菜の姿は見てたよ」

 

「体調も良いか悪いか分からないです」

「もし何かあっても俺が何とかするよ」

 

「副会長に怪しまれませんかね」

「今日はいないし、大丈夫だろ」

 

「架空の生徒の発表なんて、失敗したら大変なことですよね」

「ああ、言わば崖っぷちにいるな俺たち」

 

「そうですね、崖っぷちです―――でも」

「ああ―――だからこそ」

 

「「―――燃える!」」

 

 まるでアニメのワンシーンのように、戦場へ向かうヒーローのように私と彼はそう言い笑い合う。ひとしきり笑った後、私は彼に拳を突き出し笑う。

 

「怖い時、不安な時こそ、笑っちまって臨むんだ!でしたよね」

「ああ、ナンバーワンヒーロー(オールマイト)の格言だな」

 

 彼は私の拳にその大きくてゴツゴツした拳をぶつけ、ニカッと笑ってみせた。

 

「緊張していて喉もカラカラ、練習も足りないかも知れないし」

 

 彼は私の弱音に口を挟むことなく、頷いてくれる。

 

「体調だって緊張で分からないし、怖いし、不安で、もう逃げてしまいたいです」

 

 不安そうな表情を見せた彼は、優しい彼は私に声をかけようとしてくれるが。

 ごめんなさい、コウさんを不安にさせてしまいましたね。怖がらせてしまいましたよね。

 

 大丈夫ですよコウさん

 

 あなたが教えてくれた“大好き”があれば私は何者にでもなれる。

 

「つまりは―――ベストコンディションってことですね!!」

 

 笑顔でステージへ駆け出す、驚いた顔でこちらを見つめる彼に向けて私は叫ぶ。

 

「コウさんっ!!私の―――“大好き”を見ていてくださいッ!!」

 

 さあ、私と彼で作り上げた、優木せつ菜のお披露目だ。

 今―――私たちのステージの幕が開ける。

 




※7月10日変更修正。
劇中の楽曲を「Love U my friends」から「LIKE IT!LOVE IT!」に変更しました。
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