服飾同好会での撮影会から翌日のこと。
いつものように目覚ましから少し遅れて目を覚ました俺は、現在の住まいである虹ヶ咲学園の男子寮から学校へ向け、通学路を歩いていた。
「―――昨日こんなに撮ってたんだなあ……」
そう言いながらスマホに表示された写真を一枚一枚スクロールして確認していく。
色んな衣装に着替えたエマ先輩や、俺と一緒に映る同好会メンバーの皆。
ツーショットや複数人での集合写真。
中には撮られていることに気付いてない俺を含めた同好会メンバーの写真など、その種類は様々―――って本当にいつの間にこんな写真を……。
画面に映るのはクマ衣装のエマ先輩―――クマ・ヴェルデ先輩からかすみん姫(設定上)を守る黒衣の騎士コウ(設定上)という写真を撮った後の写真。
取り出した模造剣が想像以上にカッコよく懐に仕舞えたことが嬉しくなって、一人でほくそ笑んでいる俺の姿。
数ある写真の中の一枚だが、普通に恥ずかしいな俺……。
本当こんな写真も撮っているなんて油断も隙もない。しかしよく見ると俺を撮った写真が多い気がするんだが……。
執事は女性人気が高いというのはともかく、「ユウキ」の衣装―――黒の騎士衣装を着ている時の写真も多いのはもしかして―――。
―――「ユウキ」も女性人気が高いのか……?
「―――あれっ?あの後ろ姿って」
そんなことを考えながら、送られてきた写真を保存していると前方に見えた人影。
少し背の高いその人影は、スクールバックを肩にかけ三つ編みをゆらゆらと揺らしながら歩いていたのだが―――。
「……エマ先輩だよな?」
そう言いながら思わず首を傾げる。
いつもならエマ先輩の後ろ姿を見間違えるわけはないのだが―――その後ろ姿はどこか悲し気で、寂しそうに見えてしまったので本当に本人か悩んでしまったというわけであった。
視線を落とした先。手元のスマホに映る彼女は晴れ渡る太陽のような明るい笑顔で、一枚一枚どの写真を見ても、楽しそうに嬉しそうに笑っていた。
―――どうかしたのだろうか?
しかし昨日の今日でここまで落ち込むと言うのは、デリケートな問題―――家族のことだって考えられる。
そこに俺みたいな部外者が突っかかって、優しい彼女の心労を増やしたりはしたくない。
だけど彼女の中に、何かしらの“不安”があるなら俺はそれを拭ってあげたいし、笑って欲しい。
あの日、俺を笑顔にしてくれた優しい彼女を、今度は俺が笑顔にしてあげたい。
スマホ画面に映る、楽しそうに笑うエマ先輩とつられるように笑う俺―――やっぱり俺は、こんな日常が“大好き”だから
ここで何も言わず後悔するより、ここで声をかけて間違ってたら沢山謝ろう。
今度は俺が
それじゃあ第一声はエマ先輩が好きで、喜びそうなこと―――あっ
あった、一つだけあった。
今の俺だからこそ出来ること、今の俺に打ってつけなこと。
正直恥ずかしいけど、こうなったらもう当たって砕けてやんZE☆
……でも、これで何ともなかったらめっちゃ恥ずかしいやつだな俺。
◇
―――それは、昨日の出来事。
「―――果林ちゃん!もしかして興味ある!?」
私の言葉にベットに腰かける彼女―――果林ちゃんは少し驚いた表情で私のことを見ており、そんな彼女の反応に思わず雑誌を掴んだ手に力が入る。
「だったら入ろう同好会!すっごく楽しいよ!皆、本気でスクールアイドルやってて!」
その日、同好会の活動でお世話になった服飾同好会を紹介してくれた果林ちゃんにお礼を言いに来た私は、果林ちゃんの部屋にあるデスクに雑誌―――それもスクールアイドルに関連する雑誌が置いてあることに気付き、そう問いかける。
―――果林ちゃんと一緒にスクールアイドルが出来るかも!
そう考えるだけで嬉しくなって、胸が“ポカポカ”して。
そんな期待を膨らませるように、私は果林ちゃんに思いをぶつける。
今日のことや、せつ菜ちゃんとコウくんの時、出会った時のことだってそう。いつも私の力になってくれる優しい果林ちゃん―――。
そんな果林ちゃんと一緒にスクールアイドルが出来たなら―――。
「ないわよ―――興味なんて全然」
「え?」
そう考えていた私の期待を打ち砕くように聞こえてきたのは、そんな一言。
「その雑誌はエマの為になるかと思っただけ」
「で、でも……」
視線の先、果林ちゃんは私から目を逸らし、変わらぬ口調で淡々と言葉を続ける。
そんな果林ちゃんの思いがけない一言に、思わず言葉が詰まる。
「私、読者モデルの仕事もあるし、スクールアイドルなんてやっている暇ないの―――知ってるでしょ?」
果林ちゃんの言う通りだ―――出会った頃から果林ちゃんはモデルの仕事をしていて、虹ヶ咲学園にはファンもいて、果林ちゃんもモデルのお仕事に誇りを持っていて……。
そんなことは知っていた。
知っていたけど……どこかで期待していた自分がいたのも事実で。
「そっか……いつも手伝ってくれてたからもしかしたら一緒に出来るのかもって……。ほ、ほら!最近はコウくんとも仲良くしていたし―――」
今に思えば自分の身勝手な期待をぶつけるように、自分の言葉に言い訳をするかのように、尻すぼみな言葉を向けていた中で、不意に思い浮かんだ“彼”のこと―――。
少し前から果林ちゃんがスクールアイドル同好会の作曲担当であるコウくん―――下海虹くんと仲良くしている姿を見かけていたこともあり、少なからず“彼”と、そこから通ずるスクールアイドルの活動にも興味があるのかもと思っていたけど。
「頑張っているエマを応援したいと思っただけよ。彼は……そのついでよ」
―――果林ちゃんは私の言葉と共に、そんな“彼”との関係をも否定してみせた。
「それで、そんな風に思われるなら―――もうやめておくわ」
果林ちゃんはこちらを見向きもせず、吐き捨てるようにそう言う。
いつもの落ち着いた、優しい彼女からは想像も出来ないような冷たい雰囲気に、その時の私は何を言っていいかも分からず、ただ呆然と彼女を見つめていた。
「それ持って行っていいわよ、衣装の参考にでもして―――それと」
そして果林ちゃんは冷たく、突き放すようにそう言い―――。
「―――もう誘わないで」
その一言を私へと告げた。
―――その冷たく、寂しい姿はまるで別人のようで。
それは私の知らない果林ちゃんで。
ねえ、果林ちゃん。
私の知っている果林ちゃんと。今、目の前にいる果林ちゃん。
どっちが本当の果林ちゃんなの―――?
◇
「……」
そして―――その翌日。
いつも通りに目を覚まし寮を出た私だったが、その足取り重かった。
それは勿論、昨日の果林ちゃんとのことがあってなのだが。
私はただ果林ちゃんとスクールアイドルを一緒にやれればと思っていただけなのに、あんなにムキになって―――あれだけ楽しそうにしていた“彼”との関係も
―――そんなに嫌、だったのかな?
そう考えてはみるが結局答えは出ないまま、前に進む足取りが軽くなることはなかった。
今日は服飾同好会から借りた衣装を着てPV撮影をする日なのに、こんな浮かない調子では皆に心配をさせるどころか、迷惑をかけてしまうかも知れない―――昨日、私のわがままに付き合ってくれた“彼”にも申し訳ない。
そんなモヤモヤを抱えながら、虹ヶ咲学園へと向かっていた私だったのだが―――次の瞬間。
「―――エマお嬢様」
―――不意に、優しい声が私の名前を呼んだ。
その声に、落ちていた視線を前に上げると。
「こ、コウくん……」
「―――はいっ、おはようございます。エマお嬢様」
左手を胸の前に構え、軽くお辞儀をした“彼”は顔を上げ優しく微笑む。
そこにいたのはスクールアイドル同好会の作曲担当であり、同好会の唯一の男の子。
昨日、私のわがままにも付き合ってくれた優しい“彼”―――下海虹くん。
その姿は制服を少し着崩した―――いつもと変わらない装いではあったが、その口調と立ち姿は妙に畏まった様子で、まるで日本の漫画やアニメに出てきそうな執事さんを彷彿とさせるような佇まいであった。
「え、えっと……おはようコウくん?ど、どうしたのその口調……」
「はいっ、こちらは―――ってえ?あ、あれ……」
いつもと様子の違うコウくんに首を傾げつつそう問いかけると、彼は先ほどのように畏まった様子を見せた後、我に返ったかのように戸惑いの声を上げ、頬を薄く赤らめた。
「え、えっと……これはその……」
「……?」
視線をあちらこちらに動かしながら、しどろもどろに呟くコウくん。
「あ、あれぇ……?エマ先輩って執事が好きなんじゃなかったのか……?もしかして衣装がないとダメなのか……?」
こちらに聞こえないほどの声で、何やら呟いている様子のコウくんに私も首を傾げる。
「―――お、おほん。そ、そのエマ先輩に後ろ姿を見つけたので、せ、折角なら一緒に行こうかなと……」
「う、うん、ありがとう!私で良ければ一緒に行こっか」
そんな場の雰囲気を仕切り直すように咳払いをし、薄く染まった頬を掻きながらそう話すコウくん。
そんな彼の好意に私もいつものように笑顔で答えるのだが、彼はそんな私をジッと見つめており、その宝石のような瞳と射貫くような視線に、不意を突かれ思わずたじろいてしまう。
「ど、どうしたのコウくん?」
「
―――ドキッとした。
視線の先、真っ直ぐと見つめる瞳から逃げることが出来ず、心配そうな表情を浮かべたコウくんに思わず問いかける。
「……ど、どうして?」
「ど、どうしてって言うか、いつもに比べてしょんぼりしてるなーって気がして」
その指摘に思わず息を呑む―――私、そんなに分かり易かったかなあ……?
果林ちゃんは彼にとっても馴染みのある先輩、話せばきっと力になってくれるかも知れない。
だけど、これはあくまで私たちの問題なのだ。そのことで彼に余計な心配をかけたくないし、負担も増やしたくない。
「そ、そうかな?全然そんなことないよ!大丈夫!」
「……」
そう言い笑顔を作った私を変わらずジッと見つめる彼の視線。
「そ、それじゃあ遅刻するといけないし、学校に―――」
ちゃんと笑えているかは分からないけど、これ以上詰め寄られてはボロが出そうだと、学校に向けて歩き出した私。
「こ、コウくん……?」
しかしそんな考えは、不意に掴まれた手に引き留められてしまう。
「言ってくれたら離します」
ギュッと強く握られる手のひら。
そんなコウくんの姿に驚いてしまうのだが、そんなことは気にも留めずといった様子で彼は私を真っ直ぐと見つめていた。
「……本当に言うのが嫌だったら言ってください、言わなきゃ絶対に離さないです」
「ど、どうして……そんなに……」
こんなの少しでも誤魔化せばいいのに、これじゃあ悩んでいることが丸分かりじゃないか。
私は真っ直ぐと見つめる彼の瞳に呑まれるように、そう問いかける。
「だって―――こういう時、一人にさせちゃいけないって
そんな私に彼が答えた言葉―――それは全部を一人で抱え込んでいた彼が、皆と向き合って、せつ菜ちゃんとぶつかり合って知った真っ直ぐとした言葉。
「それと―――周りに心配をかけさせたくない人に限って、自信満々に大丈夫って言うので」
「―――っ」
こうも自分の気持ちを言い当てられると、どうしていいかが分からなくなってしまう。
だけど私は、一人で私たちの作曲を頑張ってくれているコウくんの負担になりたくない。その気持ちだけは分かって欲しいのだ。
「も、もう本当大丈夫だよ~。コウくんは心配性―――」
真っ直ぐとした言葉から逃げるように、抵抗するように腕に力を入れるが、動かそうとした手はビクともせず、そんな驚きに応えるように私は彼を見た。
「心配性でも何でも―――エマ先輩を笑顔に出来るなら何でも良いです」
見つめた先、真っ直ぐと見つめ返す彼から目を逸らすことが出来ず、小さな胸の高鳴りを感じた。
「……力、強いんだね」
「……まあ、鍛えてますから」
そう答える彼の腕、程よく筋肉のついた腕に思わず目が行く。
いつもは私たちの作曲の為にギターの優しい音色をかき鳴らすその腕は、こういう時にちゃんとした男の子なんだということを思い出させる。
―――愛ちゃんの時も
「……やっぱりコウくんはすごいなあ」
自分にしか聞こえないように呟いた声に、キョトンとした表情を浮かべるコウくん。
思い出されるのは少し前、偶然同じ同好会の宮下愛ちゃんの話を聞いた時、それよりも先にコウくんが愛ちゃんの異変に気付いて、相談に乗っていたという話。
「―――エマ先輩?」
「う、ううん!な、なんでもないよ!」
首を傾げるコウくんに腕の力を弱めた私。
向こうもこちらが観念したことを分かったのか、握りしめた手をゆっくりと離し向かい合う。
手のひらに残る温かさを抱きしめるように、私は両手をギュッと握りしめ口を開いた。
「私の―――『友達』と『その友達』の話なんだけどね」
少しだけ言葉を濁す。鋭いコウくんなら見透かしてしまうほど簡単なことだけど、私なりのせめてもの抵抗。
「―――それでも良かったら、聞いてくれる?」
その言葉に彼は真っ直ぐと私を見つめ、頷いた。
◇
その後、人も段々と増えてきた通学路を肩を並べて歩きながら、私は話を始める。
「相談してくれた『友達』と『その友達』は進級してから出会ったばかりの関係だったんだけどね。『その友達』の子は出会った時からいつも優しくしてくれて、『友達』が困ってた時はいつも助けてくれたりして、『友達』にとって『その友達』はかけがえのない存在だったの」
―――私と果林ちゃんの関係は侑ちゃんと歩夢ちゃんや、コウくんとせつ菜ちゃん、愛ちゃんのように長く付き合ってきた間柄と言うわけではない。
だけど私は皆と同じぐらい仲良しだと思っているし、私にとって果林ちゃんは大切でかけがえのない存在なのだ
「だけどね。『友達』が『その友達』をスク……同じ部活動に誘った時、いつも優しい『その友達』がまるで別人みたいにその誘いを断って、『友達』は『その友達』がなんでそこまでムキになって否定したのか、どうしたらいいかが分からなくなっちゃったらしいんだ」
だからこそ私は今そんな果林ちゃんのことが知りたくて、笑ってほしくて。
もしもあんなにムキになった理由が私のせいなら、本当に嫌だったのならちゃんと謝りたくて。
コウくんはそんな濁した私の言葉を、支離滅裂にも受け取れる私の言葉を一つ一つ真剣に聞いてくれて。
隣を歩くコウくんは私が話を終えると、少し考えるような素振りを見せた後、口を開いた。
「エマ先輩は優しいですね」
「―――え?」
思わぬその言葉に私は反射的に顔を上げ、彼の顔を見た。
コウくんは向けられた視線に応えるように、私に視線を合わせ言葉を続ける。
「いえ、『友達』と『その友達』でしたっけ。そんなにも二人のことを考えて悩めるなんて本当に優しいと思います」
「そ、そんなことないよ!わ、私はただ―――!」
隣を歩くコウくんはそう言ってくれるが―――本当に優しいのは私なんかじゃなくて……。
むしろ私はそんな優しい“彼女”にあんな顔をさせてしまって……。
「それでエマ先輩はどうしたらいいと思ったんですか?」
「―――えっ?私……?」
被さるように聞こえた言葉に思わず間の抜けた声がこぼれる。
「はい、エマ先輩はその『友達』にそう言われて、分からなくなっちゃったって言われて、どうしたらいいと思ったんですか?」
「私……は……」
いつもの―――私が知っている優しい果林ちゃんが見せた冷たい雰囲気。
私が知っている果林ちゃんと、私が知らない果林ちゃん。
どっちが本当の果林ちゃんか分からなくなった私がどうしたらいいか。
分からないことが沢山あって、知りたいことが沢山あって。
そんな私が何をしたらいいと思うか。
そんな自問自答をさせるその質問に、答えが分からないながらも浮かんだ気持ちを言葉にするように口を開いた。
「わ、私は……ちゃんともう一度面と向かって話はをした方がいいって思ったかな……」
途切れ途切れになりながらも、言葉を詰まらせながらも言葉を紡ぐ
「本当にかけがえのない相手なら、ちゃんと面と向かって話をするべきだって……」
自問自答をするように、分からないことばかりの中でもそう答えた私にコウくんは優しく微笑み、口を開く。
「……もう出てるじゃないですか、答え」
「え?」
「もう一度面と向かって話をするべきだって、俺もそう思います」
そう言い前を向いたコウくんは何かを懐かしむような様子で言葉を続けた。
「俺もせつ菜と色々あった時、お互いすれ違って、方々に迷惑かけまくって悩みまくって迷走して……まあ色々とありまくりましたけど、最後はお互い面と向かってぶつかりあったから、今もせつ菜の、菜々の隣にいられるんです」
ちょっと強引な方法でしたけど―――そう言いながらクシャっと笑うコウくん。
思い出されるのは、まるで子供の口喧嘩のように必死でせつ菜ちゃんと言い合っている彼の姿。
あの時、ちゃんと向き合ったから今がある―――向き合った彼だからこそ分かること。
「で、でも……本当に嫌で怒らせちゃってたら何を話せばいいんだろ……」
「その『友達』は無理に誘ったとかじゃないんですよね?」
「うん。『その友達』と一緒に出来たらって思ってて、その日ちょっとしたきっかけがあって誘ったらしいんだけど……」
「きっかけ……?」
「う、うん。その子の部屋にその部活動に関する雑誌が置いてあって」
「なるほど……。うーん、俺の時は菜々がスクールアイドルを“大好き”だってことを知ってましたからね……」
その友達が本当にどう思っているのかが分かればいいんですが……。
そう言い唸りながら真剣に考えているその横顔に、自然と目が行った。
「エマ先輩、どうかしました?」
私の視線気付いたのか、こちらを見て不思議そうに首を傾げたコウくんに我に返る。
「う、うん!な、なんでもないよ!そ、そのコウくんも優しいなーって!!」
「俺は優しくないですよ。さっきも言ったように俺はただ―――」
コウくんが何かを言いかけた時―――不意に聞こえたチャイムの音。
その音に遮られるようにコウくんは前を向き、遅れるように私も前を向いた。
その先にそびえたつ校舎は私たちの学び舎であり、同時に先ほどのチャイムが―――予鈴がそこから鳴っていたことに気付き、校舎に飾られた時計の時刻が目に入る。
「や、やばっ!もうこんな時間?!急ぎましょうエマ先輩」
「そ、そうだね!ごめんね私のせいで!」
気が付けば先ほどまで周りにいた筈の生徒は人っ子一人もおらず、焦った様子で二人校舎に向けて走り出す。
「い、いや今回のは俺が変に突っかかったせいですからごめんなさい!それより今日の練習はどうしますか?もし難しければ……」
「う、ううん!それは大丈夫!今日は皆が沢山手伝ってくれたPVの撮影日だから!」
そんな話をしながら、虹ヶ咲学園の校門正面にそびえる特別棟の下を通り、正面玄関を通り、昇降口で靴を履き替える私たち。
「そ、そうですか?それじゃあまた放課後に―――!」
「う、うん!―――聞いてくれてありがとねコウくん!」
別れの挨拶もほどほどに教室棟へ向かっていくコウくんへ声をかけると、遠ざかる背中は不意に足を止め振り返る。
「―――いえ」
振り返ったコウくんは畏まった様子で左胸に右手を置いたかと思うと―――。
「―――お嬢様の為であればお安い御用です」
―――そう言い、悪戯っぽく笑ってみせたのだった。