虹を繋いで   作:うめ茶漬け

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35 私と愛さんとコウ先輩

「―――はいっ、しもみー。あ~ん」

「あ、愛。璃奈ちゃんも見てる前でさすがにそれは……」

 

 頬を赤くしながら、私のことをチラッと見たコウ先輩。

 それでも変わらない様子で、ぬか漬けを食べさせようと箸を向ける愛さん。

 

「えー。それじゃありなりーが見てないところでならいいってこと?」

「……私、席外そうか?」

「あっ……いやごめんね璃奈ちゃん大丈夫だよ。……愛、一回だけだからな」

 

 恥ずかしそうにそう言ったコウ先輩。

 その返答に嬉しそうに笑顔を浮かべた愛さん。そのまま口を開いたコウ先輩にぬか漬けを食べさせて満足そうな顔をした。

 

「どう?どうかなしもみー。このぬか漬け、おばあちゃんと一緒に愛さんが漬けたやつなんだけど」

「璃奈ちゃんの前で辱められて、あまりの恥ずかしさで味が分からなくなったのでノーコメントで」

「ええ~!!そんな~~!!()さん()情込めて漬けたんだよ~!!」

 

()だけに!」というお決まりのダジャレを決めた愛さんだけど、コウ先輩はツンとした態度で言葉通りのノーコメントを貫いており、さすがに愛さんもやり過ぎたと思ったのか先ほどの満足そうな顔から一転、しょんぼりと肩を落とした。

 

 しかしコウ先輩もすぐにそんな愛さんの様子に気付いたのか、愛さんとチラッと見やった後、小さく溜め息を吐き出した。

 

「―――ちゃんと美味しかったよ」

「!!―――本当?!しもみー!」

 

 その言葉にぱあっと笑顔に変わった愛さん。

 そんな愛さんの笑顔にコウ先輩は少し恥ずかしそうに、頬を掻きながら応える。

 

「でも今みたいに食べさせられると本当に味が分からなくなるから、普通に食べさせてくれ……」

「あははは、ごめんごめん―――でも、良かった」

 

 小さな声で呟いた言葉―――コウ先輩の耳には聞こえなかったのか「何か言ったか?」と首を傾げてたけれど、私にはその言葉はハッキリと聞こえていた。

 

 ―――いつもは愛さんと一緒にお弁当を食べることが多いお昼休み。日当たりの良い校舎の中庭にレジャーシートを引いて、色々なお話をしながら過ごす二人の時間。

 

 だけど今日はスクールアイドル同好会の先輩で、愛さんとも同級生の―――下海(しもうみ)(こう)先輩が一緒にお弁当を囲んでいた。

 

 その理由は先週にさかのぼるのだが。

 何やらコウ先輩の日頃の食生活が心配になったエマさんがお弁当を作ってあげたいと申し出たのが始まりらしく。その申し出に乗るようにかすみちゃん、歩夢さん、せつ菜さん、愛さんもお弁当作りに立候補し、その翌週一週間に渡って立候補者がお弁当を作ってくるという話になったらしい。

 

 その日、私は先にしずくちゃんと一緒に帰ってたから後から聞いた話だけど。

 

「璃奈ちゃんもいきなりごめんね。俺、お邪魔じゃなかったかな?」

 

 愛さんからお弁当とお箸を受け取ったコウ先輩は、不意にそう声をかけてくれる―――もしかして私に気を使ってくれたのかな?

 

「ううん。私も一緒に食べれて嬉しい」

「そっか。ありがとね」

 

 こちらを見るコウ先輩をジッと見つめそう答えると、嬉しそうに目を細めた先輩。

 

 あらためて三人で合掌をして、いつもと少し違った三人でのお昼休みが始まる。

 コウ先輩も愛さんも情報処理学科の先輩であり、スクールアイドル同好会に所属する仲間ということもあり、話すのは授業のことだったり活動のことだったり様々で。

 

 そんな私にとって大切で、楽しい時間が流れて―――。

 

「―――ごめん愛。何か飲み物ってあるか?」

「え?うん、水筒ならここに……あっ」

 

 不意にコウ先輩がそう言い、水筒の中身を確認する愛さん。

 しかし手に持った水筒はほとんど空に近かったらしく、水筒の少なさを見せるように軽く水筒を振って見せるのだった。

 

「それじゃありなりーは?」

「私の―――も全然ない」

 

 愛さんに言われて確認してみるが、気付けば今朝買った小さめのペットボトルももう底を付いていた。

 

「ごめーん。そういや今朝バスケ部の手伝いにいった時に少し飲んだの忘れてたよ……」

「いや俺は大丈夫―――って言うかお前放課後の練習はどうするんだよ」

「あはは……そ、それもそうだった……」

 

 困ったように後ろ頭に手を当て、空笑いを浮かべた愛さん。

 そんな愛さんをやれやれといった感じで見ていたコウ先輩は、おもむろにその場で立ち上がった。

 

「それじゃあ俺が二人の分も買ってくるよ」

「ええっ?!そ、それは悪いよ!なんなら愛さんがひとっ走りするし……」

「別にいいよ、美味しい弁当作ってもらったお返しってことで」

 

 私には「璃奈ちゃんにはお昼ご飯、付き合ってもらったからね」と付け加え。

 靴を履いたコウ先輩は「いってくる」と片手を軽く振りながら、飲み物を買いに出て行ってしまうのだった。

 

 少しずつ遠ざかっていく後ろ姿。私は不意に隣に座る愛さんを見た。

 

 少しずつ小さくなっていくコウ先輩の背中を見つめたまま、口を閉ざし、お弁当を食べる箸も止めて。

 

 そして―――私から見えるその横顔はほんのりと赤く染まっていて。

 

 ―――だから。

 

「……ねえ、愛さん」

「ん?どしたん、りなりー」

 

 私がそう声をかけると、ハッと気づいたように愛さんはこちらを向いてくれた。

 その様子は私の知っている大好きな愛さんの姿だったけど、頬はまだ微かに赤くて。

 

「愛さんはコウ先輩のこと、異性として好きなの?」

「―――ぶっ!!?り、りなりー!?」

 

 問いかけた直球な質問に明らかな動揺を見せた愛さん。

 先ほどまでは“微か”だった頬も真っ赤に染まっていて―――こんな愛さんは初めて見たかも。

 

「ちょ、ちょっとりり、りなりー。とっとこと突然なにをを……」

「どうなの?」

 

 何とか平穏を装うとする愛さんに詰め寄るようにもう一度問いかける。

 ジッと見つめる視線に観念したのか、少し考えているような様子を見せた後―――力なく笑った。

 

「……どうなんだろ。ハッキリ聞かれると分かんないや」

 

 そう言い笑ったその笑顔は、いつも隣で見てきたお日様のように明るい笑顔とは違って。

 

「でも―――今はしもみーともっと一緒にいたいって言うか。しもみーのこと知りたいって言うか。しもみーと色んな話をしたり、色んなことを一緒にしたいなーって考えちゃって……」

 

 その笑顔は微かに憂いを帯びた、何かを噛み締めるような―――私も知らない笑顔のカタチで。

 

「ほんとやばっー!って感じなんだけどさ……えへへ」

「―――何がやばーって感じなんだ?」

 

 そんな中、突然割り込むように聞こえた声に私と愛さんの肩と心臓が大きく跳ね上がった。

 

「しっ、しもももももももももみー!!??」

「おおっ。な、なんだお前動揺し過ぎだろ……」

 

 愛さんの驚きように面食らったような様子を見せているコウ先輩。

 さすがに今のはコウ先輩のタイミングが悪かったとしか言えないけど……。

 

 コウ先輩はそのままお水の入ったペットボトルを私と愛さんに手渡す。

 

「あっ、あのお金」

「いいよいいよ。可愛い後輩に先輩からのおごりだよ」

 

 財布を出した私を制するようにそう返したコウ先輩。

 

「あ、ありがとう……」

 

 私も先ほどの驚きを落ち着かせるように、冷たいお水の入ったペットボトルを両手でギュッと握りしめた。

 

「愛のやつは……うん、まあよく分からないんだけどお詫びってことで……。というか普通にお弁当のお礼ってことでもらっておいてくれ」

「う、うん。そうするる……」

 

 未だに顔を赤くした愛さんは、受け取ったペットボトルを頬に当て熱を冷まそうとしており、コウ先輩も状況が分からないながらその様子に申し訳なさそうにそう答えるのだった。

 

「それで愛の話はともかく、何だか盛り上がってたみたいだけど何の話してたんだ?」

「べっ、べべ別に何もないよ!りなりーと練習の話を―――」

「―――コウ先輩の話してた」

「りなりー??!!」

 

 ギョッとした顔で私を見た愛さんだけど、さすがに私も人の恋路を踏み荒らす畜生ではない。それに人の恋路を邪魔する人は馬に蹴られることも知ってる。

 

「コウ先輩と愛さんが仲良しで羨ましいって話をしてた」

「へ―――?」

「俺と愛が?」

 

 惚けた顔をした愛さんと聞き返すようにそう応えたコウ先輩。

 

 愛さんはすぐに意図を察してくれたのか澄まし顔に戻り、コウ先輩はそんな愛さんに視線を向けた。

 

「まあ愛とは話すようになってもうすぐ一年……だっけ?」

「う、うん。大体それぐらいかな?最初の期末があった後からだし」

「へーそうだっけ、って言うかよく覚えてるな」

「へっ?!た、たまたま!たまたま期末と被ってたから覚えてただけ!」

 

 自ら墓穴を掘ってしまったのかコウ先輩の返答に顔を赤くして答えた愛さん。

 

 恥ずかしさを誤魔化すようにふんっとそっぽを向いた愛さんに「なにムキになってんだよ」と不思議そうな顔をするコウ先輩。

 

 私は愛さんとも皆とも出会ってからまだ少ししか経っていないから―――なんだか羨ましいな。

 

 自分から出した話題()だったけど、二人を見ていると不意にそういう気持ちが湧き上がってくる―――だけど決して妬んでるわけじゃない。

 

 今すぐは無理でも、私だって二人みたいな仲良しに―――。

 

「―――璃奈ちゃん」

 

 不意に名前を呼ばれ顔を上げる―――すると同時に頭に触れた少し大きな手のひら。

 

 目の前で私の頭を撫でるコウ先輩は私が顔を上げたことに気付くと。

 

「俺は、璃奈ちゃんとも愛と同じぐらい仲良くなりたいって思ってるから。そこんとこもよろしくね」

 

 優し気に笑った―――無邪気で純粋無垢な笑顔。

 最初に出会った時や初めてお話した時とはまた違ったその表情に思わず不意を突かれてしまう。

 

 しかし当の本人はそんなことを気にする様子もなく私の頭を撫でており、隣の愛さんもその様子をジッと見ていたようで。

 

「……しもみーって本当たらしだよね」

「……え?今ので貶される意味が分からないんだけど……」

「いやその、言葉選びとかタイミングとか……」

 

 もの言いたげな目でそう言った愛さんに「ええ……」と驚くコウ先輩。

 確かにさっきのは場所が場所なら口説いてると思われても仕方なかったかもしれない。

 

「無茶言うなあ。仲良くなりたいのを仲良くなりたい以外の言葉で伝える方法ってあるか?」

「……」

 

 でも私が“そう”思っていて。

 コウ先輩が“こう”言ってくれる―――だから。

 

 ジッと見つめる視線―――それに気付いたように私を見たコウ先輩。

 

 伝わるか分からない。

 受け止めてくれるか分からない。

 また笑ってくれるか分からない―――だけど。

 

 今はその言葉に応えたい―――もっと“繋がりたい”

 

「私も、二人と―――もっともっと仲良くなりたい!」

 

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