「ご馳走様ですっ」
「あっ……え、えーっとお、お粗末さまです」
空になったお弁当箱に手を合わせてそう言うと、食べ終えたことに気付いたエマ先輩は少しぎこちない様子でそう応える。
そんな俺たちを二人―――彼方先輩と朝香先輩は微笑ましいといった様子で見ていたようで。
「コウくん、それでどうだった~?エマちゃんお手製のお弁当のお味は~」
「―――っ」
いつものようにのんびりとした口調で問いかけてきた彼方先輩。
その言葉に水筒カップにお茶を注いでいたエマ先輩の手が止まり、恐る恐るといった様子で俺を見た。
「勿論美味しかったです。味付けも俺好みの味付けでしたし、何よりエマ先輩が丹精込めて作ってくれたお弁当ですから」
まるで作ってくれた彼女自身を写し出しているような、優しく温かな味。
こちらに寄り添ってくれるような温かみを感じさせる、そんなお弁当だった。
言葉にすると大げさだけど嘘は言っていない。
彼方先輩の問いにそう答えると、エマ先輩は頬を赤く染め嬉しそうに笑った。
「―――えへへ。あ、ありがとねコウくん」
―――はいっ。こりゃもう言うまでもなく可愛いですね。
クシャっと笑ったエマ先輩に俺も思わず嬉しくなる。
「良かったわね、エマ」
「うんっ。ありがとう果林ちゃん」
言うまでもなく可愛かったエマ先輩にそう言い、嬉しそうに笑う朝香先輩。
それが俺の目の前で繰り広げられている光景なわけだが―――。
「……」
―――冷静に考えてみると、俺って今
雑誌で読者モデルを務め。その美貌とスタイルでこの学園の男女問わずに大人気の彼女―――勿論俺も入学当初から彼女の存在は知っていたわけだが、そもそも雲の上の存在としてしか考えてこなかったわけで。
それが今となっては俺の日常にも溶け込んでいて……本当人生って何が起きるか分かんねえもんだよなあ。
「?なぁにコウくん。そんな熱心に私のこと見つめて」
しみじみとそんなことを考えながら水筒コップに入ったお茶を飲んでいると、朝香先輩もこちらの視線に気付いたように俺を見て、悪戯っぽく笑ってみせた。
「―――っ!い、いえ別に何でも……」
「あらそう?何か気になることでもあったら相談してくれていいのよ?そうね、例えば曲作りの為に私のスリーサイズが必要なんてことも―――」
「―――そ、それはいりませんから!!」
そんなどスケベ破廉恥な曲作りがあるなら是非ともお願いした―――っておバカ!
いつものように妖艶に、これ見よがしの身体のシルエットを見せつける朝香先輩。
咄嗟に断ってしまったものの、健全な一男子高校生として彼女の誘惑に自然と視線が吸い寄せられてしまうのも―――。
「も、もぉ~果林ちゃん!こ、コウくんに悪戯しちゃダメだよ~!」
そんな純粋無垢な男子高校生を誘惑しようとする朝香先輩を見かねて、エマ先輩も助けに入ってくれたのだが―――。
「?」
何故だかその行動に違和感を感じてしまい、思わず首を傾げる。
いや、止めてくれたことに何一つおかしなことはないんだけど。以前に比べて何だろうこの違和感……まあ単なる気のせいだろうか。
「あら、エマに怒られちゃったわ」
そう言いつつも余裕のありそうな表情で不意に立ち上がった朝香先輩。
「それじゃあ私はこのぐらいで退散するわね」
「果林ちゃん?」
突然のことに不安そうに問いかけるエマ先輩。
「誘ってくれたのにごめんなさいねエマ。今日はお昼時間の間に学科の先生に聞いておきたいことがあってね」
しかしそんな不安は何のその、そう答えた朝香先輩にホッとした様子を見せたエマ先輩。
「それじゃあエマに彼方、それにコウくんもまた放課後にね―――っとついでに彼方、エマのお膝で休むのもいいけど、ちょっとはエマの気持ちも汲んで上げなさいね」
「か、果林ちゃ?!」
ん?―――エマ先輩の気持ちってなんの話だろうか。
彼女たちの中で俺を他所に何やら話が進んでいることでもあるのだろうか?
そう言い残し去っていった朝香先輩。当のエマ先輩は顔を赤くしており、様子を伺うように彼女を見ていたのだが、エマ先輩は何故だか恥ずかしそうにそっぽを向いてしまった。
「う、ううぅ……彼方ちゃん、エマちゃんには日頃からお世話になっているし、今日のお膝枕パーティは―――」
「だ、だだだだだ大丈夫だよ彼方ちゃん!私のお膝で良かったらいつでも使っていいから!ね?ぜ、全然遠慮とかいらないよ~!」
「お、おお……!神、女神、エマ
眠気を覚ますように目を擦っていた彼方先輩だったが、必死な形相で説得を試みたエマ先輩によって、吸い寄せられるようにエマ先輩の太ももの上に寝転がって寝息を立て始める。早っのび太くんかねキミ。
先ほどまで何気ない雑談もあり、お互いの声が飛び交っていたわけだが。朝香先輩が先に離れ、彼方先輩も眠ったとなれば、この場に残るのは俺とエマ先輩の二人。
自然と対面上に座るエマ先輩に視線が向かい―――。
「―――!」
視線が合う―――そんなことは日常茶飯事なのに、何故だかその時は視線の合ったエマ先輩はすぐさま俺から視線を外して、顔を逸らした。
微かに火照った頬の色。
不自然に焦った様子の姿。
先ほど微かに感じた違和感―――もしかしてエマ先輩。
「―――エマ先輩」
そんな一つの考えが過ぎったと同時に俺は彼女のことを呼んだ。
その声にビクッと肩を震わせたエマ先輩は、恐る恐る顔を上げる。
「……エマ先輩」
「ど、どうしたのコウくん?」
見つめる先。エマ先輩の瞳。
逸らさぬようにと釘を指すようにと瞬きもせず、ジッと彼女を見つめる。
「……もしかして」
微かに揺らいだエマ先輩の瞳―――やっぱり。
「―――また何か抱え込んでるんじゃないんですか?」
「―――え?」
俺の言葉に口をポカンとさせるエマ先輩―――しかし。
「さっきの朝香先輩が言っていたこととか。彼方先輩に対してもやけに焦ってたこととか。もしかして
あの時というのは、つい先日登校途中にしょんぼりとしたエマ先輩を見つけて声をかけた時のこと。あの時は結局朝香先輩との話だったわけだけど。
俺の言葉にも目の前のエマ先輩は変わらず呆気を取られた様子で―――もしかして俺に気を使ってくれているのだろうか。やっぱりエマ先輩は優しいな。
「……あの時、確かに俺は「エマ先輩の一番を叶えること」それが今の俺のやりたいことだって言いました。あの言葉に嘘や偽りなんてありませんけど」
目の前にいるエマ先輩を真っ直ぐと見つめ、拳をギュッと握り締める。
「それだけじゃなくって俺はエマ先輩の―――皆の力になりたいって思ってます!スクールアイドルのことじゃなくたっていい、どんな小さなことでも皆の力になりたいんです!」
スクールアイドル同好会の皆は優しいから、作曲する俺に気を使って何かあっても抱え込んでしまっているように感じる。それは、愛然りしずく然りエマ先輩然り。
けれど優しい彼女たちにそう思わせてしまっているのは、まだまだ俺が頼りないからで。自分なりに頑張ってはみてるものの、彼女たちを支えられる存在には程遠いというわけだ。
だからこそ今の俺に出来ること―――それは彼女たち一人一人と真っ直ぐに向き合うこと。
見つめる先、エマ先輩は変わらぬ様子で見つめ―――。
「―――ぷっ」
不意に―――笑った。
「―――え?」
突然エマ先輩は口元を抑えて笑い出し、その反応に呆気を取られた俺をよそに楽しそうな笑い声をあげていた。
「え、え?エマ先輩?い、一体どう……」
「あははっ。ご、ごめんね。突然コウくんが真剣な顔で聞いてくるからつ、つい」
そう言って口元を抑えたまま小さく笑い続けるエマ先輩
彼女の反応に俺も少しずつ落ち着きを取り戻し、我に返る。
冷静になって考えていると、先ほどまでの真剣さは途端手のひらを返したかのように羞恥心になって俺に襲い掛かってきた。
「ぐっ……うぅ……そ、その……これは違くて……いや言ったことは違わないんですけど、タイミングとか、正直カッコつけたとかもろもろ……」
ただの“早とちり”だったなんて―――自分でも分かるほどの弱々しい語気で弁解をするが、湧き上がってきた羞恥心は俺の頬を赤く熱く染めていく。
つい先ほどまで真っ直ぐと見つめていた視線は、気付けば敷かれたレジャーシートに向けられており、その気恥ずかしさを誤魔化すように膝に置いた拳を強く握りしめた。
「そ、その……え、えみゃ先輩……今のは一旦、その忘れて下さ―――」
「―――忘れないよ」
聞こえてきたその言葉に自然と視線が上がる。
その先、先ほどと立場を逆転したかのように真っ直ぐと俺を見つめるエマ先輩。
「―――忘れられない」
そんな彼女と同じように真っ直ぐと紡がれた力強い言葉。
エマ先輩の瞳―――見つめる
「―――ふふっ」
それはほんの一瞬の出来事。
しかし、まるで止まっていた時計が動き始めたかのように視線は自由を取り戻して、目の渇きを潤すように俺は瞬きをする。
瞬きの後、視線の先にはいつもと変わらない笑顔を浮かべるエマ先輩の姿があって。
「私のこと心配してくれたんだよね、ありがとねコウくん」
「あっ、い、いえ……その今のは単なる俺の早とちりだっただけで……」
誤魔化すように咄嗟にそう答えるが。
「それでもだよ。果林ちゃんとのことだって、あの日コウくんが私に声をかけてくれたから。コウくんがいてくれたから私は果林ちゃんと向き合えたんだよ」
エマ先輩は変わらぬ様子で、真っ直ぐと俺を見つめ、真っ直ぐと言葉を返した。
「あ、あれは、と言うかそもそも俺が声をかけなくてもエマ先輩なら……」
そもそもあの時だって朝会った時には既にエマ先輩の中でも答えは出ており、結論俺がやったことと言えば彼女の悩みを聞き出そうとしたと言う単なるお節介で。
エマ先輩が朝香先輩とちゃんと向き合えたのも、エマ先輩自身が朝香先輩のアンケート用紙を見つけたおかげで―――。
「―――違うよ。例えコウくんがどう思っていても。あの時、私はコウくんに救われた。それだけは変わらない」
言いかけた言葉を否定するように俺の言葉を遮ったエマ先輩。
視線の先。強い眼差しで俺を見つめるエマ先輩は、いつもの優しい彼女からは想像も出来ないほど真剣な表情で。
しかしそれはほんの数秒だけで。
気が付けばいつものように優しい笑顔で微笑んだエマ先輩。
「だから―――“ありがとう”なんだよ。コウくん」
―――優しい風が吹くような。心を包み込んでくれるエマ先輩の温かな笑顔。
「……エマ先輩がそこまで言ってくださるなら」
そんな彼女の笑顔に頬が熱くなるのを感じながら、誤魔化すように頬を掻いて答える。
「うん!ありがとコウくんっ」
頬の熱さに追い打ちをかけるようにパアっと晴れやかに咲いた笑顔。
並みの男子高校生なら勘違いして恋に落ちてしまいそうな破壊力。
だからこそそんな無邪気な笑顔を無警戒に出して欲しくないとは思うけど、それもエマ先輩の魅力の一つだろうか。
「……ねえねえコウくん」
そんなことを考えていると、おもむろに手招きをしてみせたエマ先輩。
そのまま彼女は自分の隣に座るようにと隣に空いたスペースをポンポンと叩いてみせる。
「?はい、分かりました」
突然のお誘いに首を傾げながらも、そのジェスチャーに応えるように彼女の隣に移動する。
隣に座ったものの、手招きしたエマ先輩本人は膝の上で気持ちよさそうに眠る彼方先輩の髪を優しく撫でており、隣に呼ばれた理由が分からずにいたのだが―――。
「―――っ!え、エマせんぱ……」
不意に肩に触れる感触―――エマ先輩が俺の肩に寄りかかったと気付くのに、そう時間はかからなかった。
至近距離の彼女から香る石鹸の良い匂いが鼻孔をくすぐり、思わず胸が高鳴る。
突然のことに思わず声をあげてしまった俺に、エマ先輩は彼方先輩を指差した後、口元に人差し指を当て「しーっ」と優しくジェスチャーをした。
そのことでハッとしてすぐに彼方先輩を見たが、先ほどと変らず気持ちよさそうに眠っていた彼方先輩の姿に俺もホッと胸を撫で下ろす。
「―――ねえ、コウくん」
そんな中、小さく囁くように呟かれたエマ先輩の言葉。
恐らく今のような状況でなければ聞き逃してしまうほどか細く弱々しい言葉で。
思わず反応が遅れてしまいそうになるが、その言葉に応えるように小さく相槌を打つ。
「……私ね。小さい頃に見た日本のアイドルに憧れて。見てくれた人の心を“ポカポカ”にさせるアイドルになりたくて日本まで来たんだ」
そう言い、エマ先輩は静かに語り始める―――確か入部初日にもせつ菜に聞かれてそんな話をしてたっけ。
「日本のことを沢山勉強して、日本の言葉も頑張って覚えて。家族も学校の先生もクラスメイトも私なら大丈夫だって、皆が私の夢を応援して、背中を押してくれたの」
例え俺がエマ先輩と同じ立場だったとしても、エマ先輩のようには出来なかったと思う。
言葉の通じない国に一人で来て。大好きな家族と離れ離れになって。友達も頼れる人もいない。そんな慣れない土地で、それでもひたむきに夢を追い続けるなんて。
「自分から言い出した夢だから覚悟は出来てたんだ。それで日本に長い時間をかけて着いて、ここで私の夢を叶えていくんだってドキドキしてた」
彼女自身の覚悟というものがどれだけ重いものだったのか推し量ることなんて出来ないけど、それでも生半可な覚悟でないこと、それだけは分かっていた。
「でも―――本当はちょっと怖いって気持ちもあったんだ」
少し落ち込んだ声をしたエマ先輩に、自然と視線が向かう。
それは当時齢十七になったばかりの彼女からすれば当たり前な気持ち。
大家族の長女、同い年の子より少しばかり大人びた彼女であっても。
言葉の通じない国で、大好きな家族もいない、頼れる友人もいない土地で。落ち込んだ気持ちになることだってあるだろう。そんなの当然だ。
「上手に話せるかなとか。仲良くなれるかなとか。留学生の私をスクールアイドルの仲間として受け入れてくれるかなとか―――本当に色々」
普段の彼女からは想像も出来ない。俺も知らない彼女の本当の気持ち。
だけど、どうして彼女は俺に話してくれたのだろうか?気持ちを吐露する相手として選んでくれたのだろうか?
そんな疑問を持ちながら、エマ先輩の言葉に耳を傾けるように彼女を横顔を見ていると―――不意に視線が合う。
顔を上げた彼女は視線が合うと、先ほどとは打って変わって嬉しそうに目を細めて嬉々とした声で言葉を続ける。
「だから、だからね同好会の皆が―――せつ菜ちゃんにかすみちゃん、しずくちゃんに彼方ちゃん―――そしてコウくんが。留学生の私を仲間として受け入れてくれた時は本当に嬉しかったんだ」
その日のことを思い出すように、嬉しそうに目を細めたエマ先輩。
あとほんの少し近付けば肌と肌が触れ合ってしまいそうな筈の距離なのに、エマ先輩は恥ずかしがる様子もなく、ただ俺をジッと見つめる。
「それだけじゃなくてコウくんはバラバラになった私たちをもう一度繋げてくれて、皆のやりたいことを叶えようと新しい道を照らしてくれて……」
繋げてくれた―――なんて彼女はそう言ってくれるがあの時のことを美談にはしたくない。
バラバラになった原因は俺にもあって、だけどあの時の出来事があったから今があるのもまた事実。だからこそ難しい話ではあるけれど。
「本当、コウくんにはお世話になってばかりで、それでもう十分過ぎるぐらいなのに」
彼女たちには笑っていて欲しい―――なんて
「次は―――私の一番を叶えたい、なんて言ってくれて」
不意に手のひらに感じた温もり―――それがエマ先輩の重ねた手のひらだと言うことは見なくても分かった。
「コウくんには、私が出来ることなら何でもやってあげたいって思うぐらい。本当に感謝してる」
そのまま彼女は重ねた手のひらを優しくギュッと握り―――。
「だから―――
―――強く、優しく、真っ直ぐな思いを口にしてくれた。
「……はい。ありがとうございます」
じんわりと胸を広がる温かさ。
手のひらから感じる温もりを確かめるように握り返すと、エマ先輩もそれに気付いたように顔を上げ、二人見つめ合って―――。
「―――やっぱり彼方ちゃんお邪魔だったかなぁ~?」
「「!?」」
そんな中、不意に聞こえてきた声に胸が大きく高鳴る。
気が付けばエマ先輩の膝枕で眠っていた筈の彼方先輩は気まずそうにこちらを見上げており、視線の先には手を取り合っている二人―――。
「か、彼方ちゃん……いつから?」
「んー……ついさっきだよぉ。コウくんがエマちゃんにお礼を言ってたところ」
まだ少し眠たそうに目をクシクシと擦りながらそう答えた彼方先輩にホッとした様子を浮かべたエマ先輩―――しかし
「あ、あの……エマ先輩……」
「?どうしたのコウくん」
俺の呼びかけにいつもと変わらない様子で応えたエマ先輩。
そんな彼女に呼びかけた意図を伝えるように、視線をゆっくりと先ほどから繋がれた手のひらに向ける―――無論彼方先輩の視線も既にそこに移っていて。
「―――っ!!あ、ああ、あのごめんねコウくんずっと握っちゃってて!あ、あのあの違うの彼方ちゃんこれは違くて」
「もう~全然恥ずかしがることなんてないのに~」
向けられていた視線に気付いたようにバッと手を離したエマ先輩は、そのまま珍しく顔を真っ赤にさせ、わたわたと彼方先輩に説明をしているが、当の彼方先輩は微笑ましいといった様子でニコニコ笑顔を浮かべていた。
◇
「そ、それじゃあ私はそろそろお昼休みも終わっちゃう時間だから、さ、先に戻るね!」
彼方先輩への釈明という名の説明をひとしきり終えたエマ先輩は、顔を赤く染めたままそう言い、パタパタと校舎へ戻っていく。
俺たちが座っていたレジャーシートは彼方先輩が持ってきてくれたものだから、その片付けを手伝って俺も教室に戻ろうかな。
「彼方先輩、俺やりますよ」
「おお~。ありがと~コウくん」
いつものようなのんびりとした口調でそう答えた彼方先輩。
レジャーシートについた汚れを払い、綺麗に畳むように少しずつ形を揃えて―――。
「やっぱり―――罪な男だねえ、コウくんは」
「え?」
形を整えている中、不意に彼方先輩が口にした言葉を思わず聞き返す。彼方先輩は変わらぬ口調で「だってね~」と前付けをし。
「―――
「……か、彼方先輩。もしかして本当は起きて……」
「ん~?それはどうだろ。コウくんが
「っ!!―――や、やっぱり起きて」
「ん〜?それはエマちゃんに悪いからな~いしょ」
折り畳んだレジャーシートを受け取った彼方先輩は、のんびりとした様子でそう言うと、俺に背を向けながら―――こちらを振り返る。
「彼方ちゃんも―――もし困ったことがあったらコウくんに相談するね」
先ほどの会話を考えれば、それはもう確信犯とも言える台詞―――しかし。
「それ、俺が断れないのを分かってていってますよね」
「えへへ、バレたか~」
悪戯がバレた子供のように返した彼方先輩に「仕方ない」と小さくため息を吐き出し。
視線の先こちらを見つめる
「はいっ―――任せてください、彼方先輩」