新入部員が増えました。しかも―――4人も!
皆様こんにちは、
新入生歓迎会でのせつ菜のお披露目から早一週間。
俺たちの環境は大きく変わりました。
まず一つに先ほど話した通り部員が増えたこと。
2人で始めたスクールアイドル活動でしたが、4人の新入部員が増えて、6人に増えました。
それに伴って環境の変化の二つ目―――部室がもらえました。
虹ヶ咲学園、部室棟の一番奥。端にある教室
それが俺たち「虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」の部室です。
人数の関係もあり部ではなく、同好会からのスタートになりますが、学校から部活動として認められたのは大きな進歩だろう。
それもこれもあれから菜々が手続きやらを頑張ってくれたおかげだ。
俺も何か手伝おうとしたのだが、書類の提出とか細かな手続きはしたことがなく、力になれそうになかった為、断念したのだ。
菜々は「適材適所ですよ」と言ってくれていたのだが、生徒会の仕事も忙しい中で大変な思いをさせてしまったのは大変申し訳ないと感じている。
―――放課後
これから部活動の時間ということもあり、各々運動着やジャージに着替えて足早にすれ違う生徒たちの波をかき分けながら、俺は部室に向けて歩みを進めていた。
今日は菜々が生徒会の仕事で少し遅れると連絡が来ていたので、菜々が来るまでは各自自主練にでもしようか
そんなことを考えていると、いつの間にか見慣れた部室が目に入ってきた。
ノックを二回「どうぞー」という声に応えるように部室の扉を開き、部室内にいる新入部員たちに挨拶をする。
「あー!コウ先輩遅いですよ~!かすみん待ちくたびれました~!」
かすみ草の花のようにパアと明るい笑顔で俺を迎えてくれた彼女の名は一年生の
入部前からスクールアイドルに並々ならぬこだわりがあった彼女は自分のことを「かすみん」と呼び、入部後もその可愛らしさをこれでもかというほどに爆発させている。
「せーんぱいっ♡これかすみんが愛情込めて作ってきたコッペパンです、どうぞ♡」
「おう、ありがと。―――うわっうまっ」
正直、最初出会った時はとんだぶりっ子じゃんなんて愚かなことを思ったが、凄く健気で優しくて可愛らしくて、これはこれでめっちゃアリだなって思いました(小並感)
「本当ですかぁ♡―――しめしめ…これで先輩の胃袋を鷲掴みにして、かすみんに一番の曲を作ってもらえるように」
たまーに黒い顔を見せる時もあるが、そういう所も可愛く見えちゃうんだよなあ。
「こんにちは虹先輩っ」
次に声をかけてきた彼女の名は
「ほらっかすみさん、先輩も疲れてるんだし座ってもらおうよ」
彼女―――しずくもかすみと同じ一年生であり、中学は別々らしいのだが入部の際二人と一緒に来るほど仲が良いようだ。よく一緒に帰っている姿も見かけるし良い関係みたいだ。
「それで先輩、明日なんですけど演劇部の稽古が入ってまして、部活には……」
「ああ、分かったよ。わざわざありがとな」
そんな彼女はスクールアイドル同好会と兼部して演劇部にも加入しているようで、向こうとこちらをよく行き来している。それぞれの活動をそれぞれの活動のプラスしたいそうだ。かすみのように目に見えてアイドルしてる感じではない彼女だが、やる気は人一倍だ。
新しく入ってきた一年生はかすみとしずく、その二人だ。
じゃあ新入部員の残り二人は?―――と言われれば。
「コウくん、チャオ~」
「エマ先輩っ、こんにちは」
椅子に腰かけたこちらに温かな笑顔で手を振るのはエマ・ヴェルデ先輩
“先輩”と言うように彼女はこの春にこの学園に編入してきた三年生である。
そして彼女はなんとスイスから遠路はるばるこの虹ヶ咲学園に留学に来た留学生。
「?エマ先輩、何書いているんですか」
「えっとね、故郷の妹や弟たちに手紙を送ろうと書いてるんだ~」
スイス―――はさすがに教科書やテレビでしか見たことないけど、そんな絵に描いたような山と自然の溢れる
日本語もむちゃくちゃ流暢で本当に留学生なのと疑ってしまうぐらい。
でもそれは彼女が幼少の頃からスクールアイドルに憧れて、スクールアイドルになりたいって勉強を頑張った彼女の努力の賜物だから心から尊敬する。
「でもこれ日本語じゃないですか、妹さんや弟さんたち読めるんですか?」
「あー!間違っちゃった!」
たまーに少し天然なのか抜けているところもあって、そういう所が可愛いんだよなあとしみじみと思う。
―――そして最後の一人。
故郷に送る手紙を書きなおすエマ先輩や、かすみ特製コッペパンに舌鼓しながら談笑するかすみとしずく――その席から少し離れたソファに寝転ぶ人影が一つ。
椅子から立ち上がった俺は小さな寝息を漏らす彼女に近づき、優しく肩を揺らしながら声をかける。
「彼方先輩、もう部活の時間ですよ。起きてください」
練習着に着替えたかすみ、しずく、エマ先輩と違って彼女―――三年生の
正直、ちょっと角度を変えれば見えてしまいそうな、ふともものラインに流れるスカートは思春期真っ只中の青春男子には目のやり場に困る光景だ。
それもあって早く彼女には起きて、練習着に着替えて欲しい。
「う……うーん……あれぇ、コウくんだ~おはよ~」
「おはようございます、彼方先輩。もう部活の時間ですよ」
ゆっくり、ゆったりと瞳を開けた彼女はウェーブのかかった長い髪を揺らしながら、おもむろに起き上がる。眠気眼であくびをする彼女を見ているとこちらも夢の世界に誘われてしまいそうな感覚に陥る。
お気に入りの枕を抱きしめた彼女はふにゃとした笑顔で「あ~もうそんな時間か~えへへ」と笑いかける。妖艶な彼女の雰囲気に当てられクラッと来てしまうが何とか踏みとどまり、ソファの目の前のテーブルに置かれた彼女の練習着を指さす。
「ほらっ彼方先輩、早く着替えて下さいね」
―――俺、部室出てるので。
そう言葉を続けようとしたのだが―――
「はぁい、よいしょ」
あろうことか彼方先輩は目の前に俺がいるのにも関わらず、自分の制服のボタンを外し着替え始めたのであった。
「ちょ、ちょっと彼方先パァ?!」
「「…!?彼方センパイ(さん)!?」」
大声を上げ思わず顔を背けた俺に気付いたのか、こちらを見て状況を察したかすみ、しずくは驚いた表情で立ち上がって彼方に駆け寄り、開いた制服の部分を隠す。
「い、いや見てないからギリギリ俺の反射神経のが勝ったから!!」
「だ、大丈夫ですよ先輩!で、ですから早く部室から!」
「あ、ありがとうしずく、かすみ!」
幸い他のメンバーが着替えていたこともあってカーテンは閉め切られていたが、部室の内部現行犯だと防ぎようがない。
未だにぽわっとした彼方先輩の胸元を抑えるしずくとかすみにお礼を言いつつ、部室の外へ急いで駆け出す。
彼方先輩は「痛いよ~しずくちゃんかすみちゃん~」と言ってるが、じょ、女性が簡単に肌を見せるもんじゃありません!い、いや見えてねえけど本当だよ本当。
エマ先輩はそんな俺たちのコント染みたやり取りを優しい眼差しで守ってくれていたが、この人もちょっと羞恥心がガバガバなところあるからな……。
部室の扉を開け、すぐに扉を閉めて、扉に背を向ける。
背を向けた扉の奥、部室内からはしずくとかすみの叱り声と彼方先輩のほんわか優しい謝罪とエマさんの温かな声が聞こえてくる。
―――いやっマジで焦る
嫌な汗を制服の袖で拭いながら、ふうっと息を整える。
寝起きとは言えまさか目の前でボタンを外しだすとは……。
―――紫と白の装飾
ごめん皆、俺の反射神経、実は負けてたんだ。
モワモワと浮かぶ先ほどの情景を思い出し、思わず熱が入りそうになる。
ダメだ、熱くなるところじゃない。れ、れれれ、冷静になれオレ。
後ろから聞こえる騒がしい声もこんなドタバタな日常も、今じゃそれが当たり前で。
「虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」の日常がこうして始まっていくんだ。
そんなことを考えながら、俺はゆっくりと部室棟を見上げた。
「何してるんですかコウさん」
「―――あ、な……せつ菜さんこんにちは」
「こ、こんにちは?」
なんか今の俺少し恥ずかしくない?
五人と一人の少年の物語が―――始まる、なーんてね。