虹を繋いで   作:うめ茶漬け

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38 俺と菜々(上)

 

『明日、急遽お昼休みに生徒会の仕事が入りましてお昼をご一緒できそうにありません。申し訳ありませんが、私の番はなしでお願いします』

 

 菜々から届いたメッセージを見つめ、顔を上げる。

 

 侑と歩夢とのランチから翌日のお昼休み―――俺は虹ヶ咲学園の生徒会室の前まで来ていた。

 

 と言うのも昨日のランチ前に侑から言われた―――エマ先輩と朝香先輩の一件に関すること。

 

 正直あの一件はあまり大っぴらにする内容でないとは言え、同好会への勧誘を―――作曲する人数を増やすということであれば、菜々に相談するべきではないのかという指摘。

 

 そもそも俺が今こうしてスクールアイドル同好会の作曲担当としていられているのは、同好会の皆がいてくれたからこそと言うのは勿論なんだけど、元を正せばそれも菜々が俺を誘ってくれたからこそで。

 

 そんな俺と菜々で始めた虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会のことを一人で決めてしまって。

 

 もしもそれが逆の立場だったら。もしも菜々が他の男子生徒を誘って同じように勧誘していたとしたら―――侑に言われ感じた胸のモヤモヤ。

 結果的に俺はそんなモヤモヤすることを、菜々にしてしまっていて……。

 

 いても立ってもいられずに今に至る―――のだが。

 

「ぐぬぬ……」

 

 元々お昼休みは生徒会の仕事あってお昼は一緒にできないって聞いていた、何なら何度もそのメッセージを見返していた筈なのに、ノコノコと生徒会室までやってきて―――本当何がしたいんだ俺は。

 

 そもそも生徒会の仕事があるってことは菜々以外の役員さんもいるわけで、そんな中で生徒会長である菜々と腰をすえて話が出来るわけもなく、何なら生徒会の仕事が本当に忙しくて会えない可能性だってある。

 

 しかしここまで来た手前、引き返すわけにもいかず……。

 

 傍から見ればまるで不審者のようにグルグルと生徒会室の前を歩き回る俺。しかしそんなことを続けてたとしても状況が変わるわけもなく、自然とため息がこぼれた―――そんな時。

 

「―――下海くん?」

 

「―――!!」

 

 不意に聞こえた俺の名前を呼ぶ声。

 その声に反射的に顔を上げ、生徒会室の扉の方を見る。

 

「ぁ……ふ、副会長」

「生徒会室の前でどうなされたんですか?何かご用でも」

 

 しかし、そこにいたのは菜々(生徒会長)ではなく生徒会の副会長である彼女。

 彼女は扉を開けた先で立ち呆けていた俺を見て、不思議そうな顔をしていた。

 

「あ、あぁ……えーっと菜―――か、がわ会長にあ、会いに」

 

 咄嗟に出かけた言葉を引っ込めるようにそう答える俺。

 彼女とは一時期、菜々に呼び出しを食らっていた“俺がスクールアイドル同好会を始めるまでの期間”の間に何度か顔を合わせたこともあり、多少顔見知りではあるものの、せつ菜のことも、菜々との関係性を知っているわけでもない。そんな彼女に菜々との関係性を勘繰られるわけには……。

 しかし菜々の名前を出した手前、ここは腹を括るしかなさそうだ。

 

「会長なら中にいらっしゃると思いますが、呼びましょうか?」

「い、いえ!お構いなく!そ、それより生徒会のお仕事って終わったんですか?」

「?あなたが何故それを……?」

「へ?!あ、そ、その。せ、生徒会室から出てきたのでそうかなーって思っただけで。お勤めご苦労様です姐さん!」

 

 副会長からの思わぬ質問に冷や汗が溢れるが、それを誤魔化すように手を後ろで組み深く頭を下げる。

 

「ふふっ、なんですかテレビの見過ぎですよ下海くん。会長ならまだ残りの仕事があるようで中にいらっしゃいますが、あまり時間を取らせないようにして下さいね」

「は、はいっ!かしこまりました!」

 

 こちらの咄嗟の言動を怪しむこともなく、笑顔でそう答えた副会長。

 背筋を伸ばし元気良く返事をした俺に軽く頭を下げた副会長は、そのままその場を後にしたのだった。

 

 そのまま副会長の姿が見えなくなるまで見送った俺は、再度周りに人がいないことを確認して額に流れる汗を拭う―――いや今のは運が良かった。と言うか顔見知りのある副会長だったから誤魔化せたものの。何だよ姐さんってどこの裏社会だよ。

 真面目な副会長が裏では極道の女親分とか、何それせつ菜が好きそうな作品じゃん。

 

 そんな呑気なことを考えながら、再度生徒会室の扉と向き合おうと振り返った―――その時。

 

「―――コウ、さん?」

「―――な?!!」

 

 微かに開けた扉から顔を出していた彼女と目が合い、思わず驚きの声がこぼれる。

 そこにいたのは綺麗な艶髪を左右とも三つ編みにして、白渕の眼鏡がとてもよく似合う彼女―――中川菜々。

 

「あ……な、菜々……」

 

 今一番会いたかった相手なのに突然のことで頭が追い付いていないのか、俺の口からは震え声しか出ず。不思議そうな顔をする菜々はせつ菜とはまた違った可愛さが―――じゃなくて。

 

「こんな所でどうかされたんですか?」

「あー……えっと……」

 

 現実逃避をしかけた頭を再起動させ、話したかったことやら伝えたかったことを言おうと考えるが、出るのは繋ぎ言葉ばかりで菜々の問いかけに対しても中々まとまった言葉が出ずにいた。

 

「ふふっ、何があったか分かりませんが、ひとまずお話であれば生徒会室の中でどうですか?」

 

 そんな俺を見かねてか助け舟を出してくれる菜々。

 顔を上げた先、菜々は優しく微笑んで俺を生徒会室へと招き入れてくれた。

 

 入室した先、生徒会室の中には俺たち以外の人影はなく、目に映ったのは生徒会長の席に置かれた山積みの書類―――もしかしてこれが副会長の言っていた残りの仕事だろうか。

 

「副会長が出られた後、何やら外から話し声が聞こえたので見て見れば先ほどの声はコウさんと副会長の話し声だったんですね」

「あ、ああ……ちょっとな」

 

 そう言いながら生徒会長席へと戻る菜々。

 その後ろを追いかけるように生徒会室のソファに腰かける俺。スクールアイドル同好会の部室が出来た今では座る機会の減ってしまったここでの俺の定位置。

 

「今日はお昼をご一緒出来ないとお伝えしましたが、何か急ぎの用でしたか?」

 

「そう……なんだけど―――」

 

 問いかける菜々の声に自然と視線もその方―――山積みの書類を手に取り目を通す菜々の方へ向かう。

 

 ―――そして気付く。

 

「―――ぁ」

 

 俺が目のいる彼女は優木せつ菜であり、中川菜々でもある。

 そんな彼女(中川菜々)は生徒会長であり、この学園を背負う代表だ。

 

 だからこそ一般生徒である俺のような人間が知らないような学園のことも知っていて、部活動の申請ことから各学年の提出物に至るまで、全てを円滑に進められるよう動いてくれている。

 

 スクールアイドル同好会の立ち上げ申請の時だって、俺は彼女に全て押し付けて任せっきりにしてしまった。あの時だって生徒会の仕事が忙しかった筈なのに文句一つ言わずにやってくれて……。

 

 そんな日頃からスゲー頑張ってくれている彼女のことを俺は応援したいと思っている。

 

 でもそれはただ任せっきりにするとか、ただ声をかけるとかじゃなくて

 頑張っている菜々の支えになりたいし、力になりたい。そんな俺の自己中心的でわがままな気持ち。

 

 そして―――その気持ちは決して

 

 “生徒会の仕事を残した菜々と話をすること”と共存する存在にはならない。

 

 だからこそ今、俺がやるべきことは―――。

 

「―――菜々」

 

「コウさん……?」

 

 不意に立ち上がった俺に首を傾げる菜々。

 俺はそのまま生徒会長席に座る菜々のそばまで行き、彼女と向かい合うように立つ。

 

「生徒会の仕事!俺に手伝えることはないか?」

「―――え?」

 

 驚いた顔を見せる菜々。そのまま机に置かれた山積みの書類に視線を向ける俺。

 

「それ、全部生徒会の書類だよな?菜々一人じゃ少し多くないか?」

「い、いえ!いつもと変わらない量ですし、そこまで大変というわけでも……」

「なら尚更手伝わせてくれよ。大変じゃないってことは俺にも出来るだろ?その分の余ったパワーは同好会の練習に取っておいてさ」

 

 少し困惑した様子の菜々に、身振り手振りをしながらそう話す。

 せつ菜の時もそうだけど―――菜々は根が真面目で、人一倍責任感が強いから、こういう時誰にも頼らず一人でやろうとする傾向があるように思える。

 

「確かに残った書類はコウさんにも出来る内容ではありますが……。コウさんに手伝っていただくほどのものでも―――」

「なら決まりだな。半分もらってくぞ」

 

 きっとさっき会った副会長も同じように声をかけたけど、気を使って断ったりでもしたのだろう。だからこそ彼女には少し強引に誘うぐらいが丁度良い。

 強引に受け取った書類を生徒会室の机に置き、再度ソファに腰かける俺。

 

「あっ……もう、強引なんですから……」

 

 呆気の取られた様子の菜々ではあったが、こちらの様子に観念したように残った半分の書類を手に取って作業を再開させた。

 

 俺も受け取った書類を一枚一枚目を通しながら、必要に応じて生徒会の判を押していく。

 

 そんな中、ふと横目で見た菜々の表情。

 

 いつも会う同好会での姿(せつ菜モード)とは違って、真面目で落ち着いたキリッとした凛々しい表情と、その中に微かに感じる年相応の幼さ(せつ菜っぽさ)。そんなギャップに見惚れてしまい思わず手が止まりそうになるけれど、そんな雑念を振り払うように書類作業を進めていくのであった。

 

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