愛さんと出会って広がった世界―――人との“繋がり”
私ひとりじゃ知らなかった、見れなかった景色が更新されていく毎日。
それが楽しくって、嬉しくって。
だからこそもっと多くの人とも“繋がり”たいと思って。
だけど今の私じゃ愛さんのように人と“繋がる”ことはハードルが高くて。
どうすればいいか分からなくて、けれど思いは強くなっていって。
そんな悶々とした思いを空に投げかけていた、あの日―――。
「スペシャルライブだってさ、行ってみようよりなりー!」
愛さんに誘われて参加したスクールアイドルのライブ。
「えっ?!うっそ!あれってしもみー?!」
隣の愛さんがステージを見て、凄く驚いた表情をしている。
視線の先に映るのは、赤と黒を基調とした衣装を身にまとう少女と、男子の制服を身にまといギターを肩から掛けた少年―――スクールアイドル同好会に所属する黒一点、
最近、愛さん経由で名前を知った先輩の一人であり、私が“スクールアイドル”という言葉に聞き覚えのあった理由の一つ。
そのままステージ上でアイコンタクトをする二人―――少女は手を天に掲げ、少年はギターを構える。
そして、次の瞬間―――
響き渡る歌声とギターの音色―――先ほどまでバラバラだった筈の観客は皆一様にその歌声と音色に盛り上がりを見せており、隣に立つ愛さんも何かを感じ取ったかのように楽しそうな表情を浮かべていた。
どこまでも天へと突き抜けるような歌声と、歌声を彩るように駆け抜けるギターの音色。
見慣れた筈の講堂のステージが、まるで別世界のようで。
―――スゴイ。
今までの常識を塗り替えるような光景。
そんなステージに私は目を離せずにいた。
歌声で、演奏で、自分たちの世界を描き、見ている人たちを熱狂させている。
そう。こんなにも大勢の人たちと
「―――あっ」
脳裏を過ぎった一つの答え。
悶々としてた気持ちが、漠然としてた思いがその答えを経て形を作る。
これなら―――もっと多くの人と“繋がる”ことが出来るんじゃないか。
これなら―――自分の思いを伝えることが出来るんじゃないか。
これなら―――私も、
燃え盛る炎と広がる青空に煌めく無数の輝き。
そんな煌めいたステージの上でギターの音色を奏でる少年へと視線が向かう。
「―――下海、虹……先輩」
それが―――私が初めてコウ先輩と出会った日のこと。
◇
「えええええ~!ライブ~!?」
驚いた表情で声を上げるかすみちゃん。
こういう時、かすみちゃんの表情は凄く分かり易くて羨ましい。
そしてそんな表情の豊かなかすみちゃんが驚いている理由と言うのも。
話は昨日の放課後にさかのぼる。
愛さん、侑さん、歩夢さんの三人で東京ジョイポリスに遊びに行った私は、その中で偶然にもクラスメイトの子たちと出会い、話しかけられた。
どうやら彼女たちも遊びに来ていたらしいのだが、会話の中でジョイポリスのステージがスクールアイドルのライブにも使われているという話を聞き、話しかけてくれたクラスメイトの子たちと友達になりたいと思った私は、その場で彼女たちへ向けジョイポリスでのライブをやるという宣言をしてしまった―――というわけなのだ。
「それは急な話ですね……」
頷いた私にせつ菜さんも少し驚いた反応を見せている―――だけど。
「色々足りないのは分かっている。でも皆に見て欲しくなって……」
昨日、私たちの活動を応援してくれているクラスの子たちに会って、直接応援の言葉を聞いたからこそ、私のステージを見て欲しい、彼女たちと友達になりたいと思って。
正直、気持ちがはやってしまったのかも知れない、だけど今を逃しちゃいけないとも思うから。
「PVはキャラに頼っちゃったから。クラスの子たちは良いって言ってくれたけど……あれは本当の私じゃないから」
私のスクールアイドル紹介PVは、他の皆と違ってキャラクターが動くアニメーション形式のPVにした為、声だけの出演で私が実際にPVに出たわけではない。
昨日話したクラスメイトの子たちは私のPVも褒めてくれていたが、自らが出演した愛さんや歩夢さんはクラスの子たちからファンになったと言われていて。
私も二人のようにスクールアイドルとして活動していくことを考えると、このままではいけないと言うのも事実だから。
「……だめ?かな」
皆の反応が少しだけ怖くて、不安を感じながら振り絞った勇気で問いかける。
「―――いいんじゃない!」
そんな不安を吹き飛ばすように明るい声で頷いてくれた愛さん。
「決めるのは璃奈ちゃんだよ」
「私は璃奈さんが決めたことを応援しますよ!」
「そうです!チャレンジしたいという気持ちは大事なことだと思います」
顔を上げた私にそれぞれの言葉で背中を押してくれるエマさん、しずくちゃん、せつ菜さん。
他の同好会の皆もその意見に賛成するように優しい表情で頷いてくれた。
「それで……ライブはいつやる予定なの?」
ホッとした私にそう問いかける果林さん。
「たまたま空きが出たから来週の土曜……」
「―――本当に急じゃん!」
私がそう答えると、かすみちゃんは本日二度目になる驚いた表情を見せた。
「まあまあ。璃奈ちゃん、私もライブ手伝うよ」
そんなかすみちゃんを宥め、ライブの手伝いに立候補してくれた侑さん。
侑さんに続いて、愛さん、歩夢さん、せつ菜さんと、同好会の皆が私のライブを手伝ってくれると自ら手を挙げてくれて。私の不安を吹き飛ばすだけではなく、皆が私の背中を押してくれて。
その気持ちに嬉しさを感じると同時に少しの気恥ずかしさを感じ、気付かれないように私は視線を下ろした。
「―――でもそうなると、コウにも相談しなきゃだね」
そんな中、ポツリと呟いた侑さんに私は顔を上げる。
本来であれば先ほどの話も全員が揃ってから話すべき内容だとは思っていたのだが、同好会の作曲担当であるコウ先輩は、何やら今日は用事があって参加が遅れるというメッセージが今朝来ており、いつ来るかも分からないので先に話していたというわけだが……。
「活動には参加すると言っていたので、もうそろそろ来てもおかしくないと思うのですが……」
時計を見てそう呟くせつ菜さん。
「単なるお寝坊さんとかなら私が起こしに行くんだけどなあ」
「むむっ!聞き捨てなりませんねエマ先輩、コウ先輩を起こしに行くのはコッペパン作りで早起きの実績もあるかすみんしか適任はいないと思いますが?!」
「え?で、でも私も果林ちゃもごもご―――」
「はーい、ストップよエマ」
「ちょっと待ったー。愛さんも家の手伝いとかで早起きには自信あるんだから、そういう決めつけはよくないぞかすかすー」
「かすかすじゃなくてかすみんです!!」
エマさんのふとした一言から伝播するように騒がしくなる部室。
本当に寝坊と言うことであれば練習前にメッセージも送れないと思うし、学園と男子寮の距離を考えれば既に到着していてもおかしくはない。
と言うことは本当に何らかの用事で遅れているわけで。
しかし活動に参加すると言うことであれば、せつ菜さんの言う通りもうそろそろ来てもおかしくないと思うのだが……。
―――コンコン
その時、まるでタイミングを見計らっていたかのように同好会の扉がノックされ、同好会の部室にいる全員が扉の方を向く。
「どうぞー」
顔を見合わせる私たち。代表して侑さんがノックに返答を返す。
同好会の共通認識として、コウ先輩が部室に入室する時はノックをしてからがほとんどの為、十中八九彼で間違えないと思うのだが―――。
「―――皆、おはよう」
スライドの扉を開けて顔を出したのは、同好会の作曲担当―――下海虹先輩。
皆それぞれの挨拶をコウ先輩に返し、扉を閉める先輩。
「コウ先輩っ、おはようございます♡」
「おはよう、かすみ」
その姿を見るなり、ぱあっと明るい表情になりコウ先輩に駆け寄るかすみちゃん。
いつもの見慣れた光景だが、まるで子犬のように尻尾を振り、駆け寄る姿は同性の私から見ても可愛いと思う。
「コウ先輩っ♡今日はかすみん、コウ先輩の為にお昼のコッペパン作ってきたんですが、もしよろしければ練習が終わってからお時間―――」
「おーい、コラコラかすかす。今日は先にりなりーの件相談しなきゃでしょー」
そんなかすみちゃんのリードを引っ張るように、二人の間に割り込む愛さん。
「あ……。わ、分かってますよぉ~!と言うか愛先輩!かすかすじゃなくてかすみんです!」
そんな愛さんに一瞬呆気の取られた顔をするが、すぐさま切り替え平静を装ったかすみちゃん。
「璃奈ちゃんの件?」
そして不思議そうに首を傾げたコウ先輩。
そのまま愛さんに向けられていた視線がゆっくりと私の方を向き、愛さんはかすみちゃんの肩を抱いてコウ先輩の視界の端に寄る。
―――自分の口で、言わなきゃ。
見つめる視線に答えるように席を立った私はコウ先輩のそばまで行き、向かい合うようにして立つ。
「璃奈ちゃん?愛が言ってた相談ってどういう……」
そう問いかけるコウ先輩に応えるよう、両手をギュッと握り締めた。
―――どこかで、思ってた。
「その、私。来週の土曜日にジョイポリスでライブをすることになって、その曲作りをコウ先輩にお願いしたくて」
―――私を含めた同好会の全員が、心のどこかで思っていたこと。
「急な話でごめんなさい。だけど私、頑張ってみたくて。皆に、私のステージを見て欲しくなって」
真っ直ぐな瞳で見つめるコウ先輩に、私の思いを伝える。
「―――来週の、土曜日?」
見つめる先、コウ先輩は私の言葉に目を見開き、そう聞き返す。
「う、うん。来週の土曜日、ジョイポリスのステージで……」
―――彼なら、下海虹なら、きっと私たちの力になってくれるって。
何かを考えるように顎に手を当て、押し黙ってしまうコウ先輩。
他の同好会の皆もその姿に話の雲行きが怪しくなっているのを感じていた。
―――だからこそ。
「―――
「―――え」
―――彼の口から出た言葉に驚きが隠せなかった。
その場にいる誰も予想だにしなかった回答。
その回答に焦った様子で席を立ち上がった侑さんと歩夢さん。
「こ、コウ!急なのは私たちも分かってるけど、何か手伝えることがあれば私たちも力になるからさ!」
「そ、そうだよコウくん!曲作り以外のことだって言ってくれれば私たち皆、力になるから!」
そう言った二人に大きく頷いてくれる同好会の皆。
その姿に何かを察したのか、焦った様子で両手を左右に振ったコウ先輩。
「そ、その違うんだ。ごめん璃奈ちゃん、俺の言い方が悪かった。璃奈ちゃんの曲が作れないとか。作曲が間に合わないとかじゃなくて……」
そう言い、先ほどの発言を訂正するコウ先輩。
しかし途中まで言いかけた言葉を引っ込め、再度何かを考えるよう押し黙った。
「……いや、結果的に、そういうことになるのか……」
そう小さく呟いたコウ先輩は、観念した様子で顔を上げ。
「その―――」
私たちに向け、気まずそうな、申し訳なさそうな表情で―――。
「―――パソコンが壊れて、作曲が出来なくなっちゃったんだ」
―――そう口にするのであった。
『え?』
『―――えええええええええ!?』
近々更新予定